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  第十二章

良太はひとり、校舎前のコンクリート階段で煙草を吸っていた。
 頭上の教室から、男たちの乱痴気騒ぎが漏れ聞こえてくる。
(ん?)
 校庭を横切ってくる人影がひとつ……。小野寺だ。良太は火がついたままの煙草を放り投げ、立ち上がった。
「途中参加ですか、小野寺先生?」
 千鳥足の小野寺はスプリングコートのポケットに両手を突っ込み、階段をふらふら上がってきた。
「やあ、今晩は冷えるね。ちょっと様子見にね……」
 小野寺が良太の脇に座り込んだ。息が酒臭い。かなり酔っているようだ。
「……医者が必要じゃないかと思ってね」
「まあ、そこまで無茶はしないでしょう」
 そう応えて良太も腰を下ろしたが、頭上の騒ぎようをみると、そうも言ってられない恐れがあった。
 もう一度ため息を漏らして、小野寺がチラリと良太を見た。
「きみは見張りかね? ごくろうなことだ」
「はあ、まあ……。あの、先生、ここは冷えますから上に……」
 腰を浮かせかけた良太の袖を、小野寺が引っ張った。妙に力が入っている。
「実はね、きみに話しておきたいことがあったんだ……」
「は、なんでしょうか?」
「明日、わしは沖縄に発つ」
「沖縄……ですか?」
「ああ、沖縄だ」
「で、でも、いま沖縄は……」
「身元確認だ、士朗のな……」
「!」
 良太の背筋に電流が走った。次の瞬間、身体中が総毛立ち、こめかみの辺りがキーンと鳴った。
「ま、まさか……」
「武器を調達しようとして、地元暴力団の抗争に巻き込まれたらしい……」
「ぶ、武器……?」
「ああ、米軍横流しのな。馬鹿なやつめ……。慣れんことをするからだ……」
 良太は手足が震え出すのを止められずにいた。
(し、士朗が……)
 あの朝、士朗は家を捨て、村を出て行った。鎮静剤の眠りから覚めた後は一言も口を聞かず、部屋の隅でうずくまっていた士朗……。
(士朗が死んだ……)
 言葉を失った良太の肩を、小野寺がポンと叩き、骨身を軋ませるように立ち上がった。
「……戻るときに電話する。すまんが、駅まで迎えにきてくれんか? 士朗も喜ぶだろう」


          *          *


 机を六つ集めた演台の上で、孝子とマリはがっちり四つに組んでいた。
 押し合っているのではなく、崩れ落ちないように支え合っているのだ。
 いま、狭い演台の上にはジャンケンで勝ち残った六人の男が上がり込み、それぞれが持ち場を決めて孝子とマリの股間をいじり回している。
 マリはクリトリス、膣、直腸を、孝子は陰茎、陰嚢、直腸を徹底的に嬲られていた。
「こらっ! まだか! いい加減、手が疲れてきたぞっ!」
「そらそら、さっさと出しちまえっ! たっぷり出したら、おれのチンポにまぶして、ケツを掘ってやっからよ!」
 マリと孝次に外野の声は届いていない。ひっしと抱き合い、互いの体温だけを感じ取ろうとしている。だが、アクメの坂はとうに半ばを越えており、頂上はすぐそこまで迫っていた。
「へへっ! ここがいいんだな? そうなんだな?」
「んっ、んっ、んっ……」
 膣の天井部分を探られて、マリが呻いた。
 孝次は陰茎の裏筋を重点的に責められている。
「おら、ここはどうだ! ほれほれ!」
「あん、あん、あん……」
 アクメの坂をまた一段駆け登り、ふたりは喜悦を隠せないところまできてしまった。
「んああっ! あああんっ!」
「ああっ! ああああっ!」
 それぞれに六本の手、三十本の指で股間をまさぐられてはどうしようもない。マリの直腸には二本指が入っている。膣は三本だ。クリトリスは親指で潰され、その他無数の指が股間を隙間なく埋め尽くしているのだ。
 一方、孝子の直腸は三本指で塞がれていた。睾丸は左右別々の手で転がされ、ピンク色も鮮やかにそそり立った陰茎は寄ってたかってしごかれている。
 八ヶ月間の荒淫で極限まで開発されたふたりの肉体は、それらの指技に過敏に反応してしまうのだ。
「あ、あんっ! ああんっ! あっ、あ、あ、あ……っ!」
 マリの喘ぎ声が変化した。太腿を寄り合わせ、尻が下がり気味になる。絶頂がついにやってきたのだ。と、ついにマリの膝が崩れ、孝子にぶら下がる格好になった。
「よーしっ! イッちまえっ! それっ! それっ!」
 マリの股間をえぐるふた組の二本指に力が入った。
「ああーっ! ああーっ! ああああーっ!」
 マリが達するかと思われたそのとき、三本指を受け入れていた孝子の尻がキュキュンとすぼまった。
「なんだ、なんだ! こっちが先か!」
「ああっ! ああああっ! マ、マリ! マリ!」
 白濁液を一直線にほとばしらせながら、孝子が恋人の名を呼んだ。飛び散った精液はマリの下腹部にかかっている。
「こ、孝次くん! 孝次くん!」
 マリも裏返った声で応える。下腹に受けた精液が焼けるように熱く、それがマリのアクメをぐんぐん引っ張り上げている。際限のないアクメを迎えながら、マリは恋人の名を呼び続けた。
「孝次くん! 孝次くん! 孝次くん!」
「マリ! マリ! マリ!」
 ふたりはしばし互いの名を叫んでいたが、やがて身体中を突き抜けて行った絶頂に腰を砕かれて、ズルズルと崩れ落ちた。
「マ、マリ……」
「孝次くん……」
 ふたりが崩れてもなお、男たちは責めの手を緩めようとはしない。
「へへっ、同時にイキやがったぜ、こいつら」
「よーし。それじゃあ、クジ引き通りおっぱじめるか」


          *          *


 離れた場所では、瑞枝が前後左右から群がった男たちにもみくちゃにされていた。
 喉と膣を男根で串刺しにされ、直腸には空になった四合瓶をねじり込まれている。
 瑞枝の喉をえぐっていた男が、男根をずるりと引き抜いた。
「先生、ほら。教え子たちは先にイッちまったぞ。先生はまだか?」
「あ、ああっ……。イクわ……。わたしも……。あああっ……」
「へへっ、なんつう色っぺえ顔をしてやがる……。たまらねえな、こいつは。ほれ、噛むんじゃねえぞ」
 男が再度男根をねじ込んだ。瑞枝の口唇からどろりと唾液があふれる。
「むっ! むむっ!」
「よーし! こいこい! でっかい気をかましてくれよ、先生!」
「むうううううっ!」
 直後、群がった男たちの輪の中で瑞枝が昇天を迎えた。この日、三度目のアクメだった……。


          *          *


 教室に三枚の体育マットが運び込まれた。
 男たちは机や椅子をどけて、マットを教室の中央に敷こうとしている。三匹の生贄を嬲り尽くすための準備だ。
 アクメを終えたばかりの瑞枝はなにが起こっているか知る術もなかったが、演台から下ろされた孝子とマリは恐怖で身をすくませてその様子を眺めていた。
 孝子とマリがなにやら囁き合っている。さめざめと泣いているようでもあり、互いに励まし合っているようでもある。
 やがて、三枚のマットがきっちり並べられ、いよいよ輪姦地獄の舞台が整った。四十本からなる男根が暴れ回り、精液をまき散らす特設リングだ。ここの生徒たちの汗と脂を吸って黒ずんでいるマットは、今宵生贄たちの涙と愛液をたっぷり吸うことだろう。
「よーし、それじゃはじめるか!」
 だれかが叫んだのを合図に、男たちのぎらつく目が一斉に孝子たちに注がれた。と、その時、ふたりは手を取り合い、一目散に駆け出した。
「あっ! や、やめろっ!」
「だれかとめろっ! はやくっ!」
 その騒ぎで、瑞枝を四度目のアクメに追い込んでいた男たちもピタリと動きを止めている。
「な、なんだ、なんだ?」
「わっ! やばっ!」
 乱れ飛ぶ怒号に交じって、か細いふたつの声が瑞枝の耳に届いた。
「……先生、ごめんなさい……」
「……さよなら、先生……」
(え? なに?)
 瑞枝は教え子の声を追おうとしたが、群がった男たちに穴という穴をすべて塞がれているめまったく身動きが取れない。
(こ、孝次くん! マリちゃん!)
 そう心の中で応えた刹那、ガラスが砕ける音が響いた。続いてドスンという鈍い音……。
 そして、教室は静寂に包まれた……。


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