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  第十章

四月の最終土曜日。
 その晩、萌葱村立第三中学校に三々五々村の要人が集まりつつあった。高梁系企業の幹部社員、村役場の幹部職員、村議会の多数派議員などである。彼らは職員用玄関で高梁良太の確認を受けてから、彼の子分の案内で二階の教室に上がってゆく。
 校舎各所に配置されている子分は総勢二十余名。高梁建設の従業員が過半数だが、去年の一件で良太の手となり足となり動いた男たちの顔も散見できた。
 二階の教室では、風間、林、藤波の三人が来客をもてなしていた。主催者である風間たちの机は廊下側に並んでいるが、それ以外の配置は通常と変わらない。それぞれの机に折り詰め弁当と四合瓶が置かれているため、一風代わった夜間中学の風情を醸し出してい る。
 しばらくすると、受付をしていた良太が上がってきて、風間に招待者全員確認の旨を告げた。風間は満足げに頷き、教室の時計を見た。時刻は夜の八時。
「よし、はじめるぞ。良太、準備を頼む」
「はい」
 廊下に出た良太は東隣の空き教室に入った。教壇の上にダイとリョウが立っている。
「準備はいいか?」
「はい、兄貴」
 ダイとリョウに挟まれて、冬服のセーラー服を着た孝子とマリがしゃがんでいた。この若い恋人たちは、ほんの二時間前に八ヶ月ぶりの再会を果たしたばかりだった。
 そして、ダイたちに監視されながらもひっしと身を寄せ合い、互いの無事を分かち合っていたのだ。もっとも、孝子の変わり果てた姿にマリは一時取り乱したが、自分の左手薬指がなぜ切り落とされたかをすぐ悟り、心から受け入れることができたのだった。
 良太がダイに耳打ちした。
「こいつらに段取りは叩き込んでるな?」
「はい。もちろんです」
「よし、後は頼んだぞ」
 良太はダイの肩をポンと叩き、廊下に出た。来客が詰めいてる教室の前を通ると、なにやら口上を述べている風間の声が聞こえてきた。日頃のご愛顧がどうの、今後も引き続き、などと言っている。
 良太は「けっ」と小さく毒づき、今度は西隣にある空き教室に入った。
 そこでは瑞枝が控えていた。監視役は誠司だ。教室の隅に椅子をふたつ並べ、瑞枝はうつむき、誠司は腕組みをしてムスッとしている。立ち上がろうとした誠司を、良太が目線で制した。
「あと十五分てとこだな……。もうちょっと待っててくれや、瑞枝」
 瑞枝は毒々しいピンクのスーツをまとっていた。良太が知り合いのホステスから借りてきたものだ。
 瑞枝は青ざめた顔をわずかに上げて、すぐにうなだれた。
(これが終わりさえすれば、わたしたちは自由になれる……)
 去年の一件以来、瑞枝は三老人の玩弄物に成り下がっていたが、ついに不特定多数の前に引き出されてしまうのだ。十二人の荒くれ男にぶちのめされ、とことん犯されたあの夜の記憶が蘇ってくる。
 それは叫ばずにはいられないほどの恐怖だったが、未来永劫奴隷として生きることに比べれば、死を与えてくれる集団陵辱は安らぎでもある。
 問題は子供たちだ。一度も再会を果たせぬまま八ヶ月が過ぎてしまったが、もし、いまの自分と同じ、いやそれ以上の辛苦を味わっているのなら、死を選ぶことに迷わず賛同してくれるだろう。
(マリちゃん、孝次くん。もう苦しまなくてもいいのよ……。先生と一緒にいこう……)
 若いがゆえに地獄は長く続く。脱出が叶わないのならば、せめてその苦難を少しでも早く和らげてあげたい……。
 隣の教室から歓声が湧き上がった。瑞枝の肩がピクリと震える。同時に良太が小声で吐き捨てた。
「暇なやつらだぜ……」
 誠司が不思議そうに良太を見上げた。ここ最近、良太はどこか苛立っているのだ。
「ちょっと下の様子を見てきます」
 誠司は椅子を良太に譲り、時間を気にしながら教室を出て行った。校舎各所に配置されている子分の数は二十を超している。怠けていないか見回りするのもナンバー2としての大事な仕事だった。
 良太はドスンと椅子に座り、大仰に脚を組んだ。ちらりと瑞枝を顔を見て、ムチムチの太腿に目を落とす。瑞枝は素足だった。
(けっ、なんて脚をしてやがる。毎日オナニーしてると、こうも色っぽくなるなるもんかね……)
 生地は上物だが、それに反比例するようにスカートの丈が極端に短い。どぎついピンクの色合いと、髪をアップにしている白いうなじの対比がなんとも妙だった。
 ふたりが無言のまま時間は流れ、見回りを終えた誠司が教室のドアをノックした。
「ふう……」
 ため息とともに良太が立ち上がった。顎でしゃくって、瑞枝を促す。
「さ、いくぞ」
「はい……」
 瑞枝はうなだれたまま腰を上げ、太腿に貼りついたタイトミニを押さえながら良太の背中を追った。小幅で歩いてもタイトミニはすぐめくれ上がり、太腿のつけ根が覗けてしまうのだ。これではちょっと屈んだだけで、下着は丸見えだろう。


          *          *


 廊下に出た瑞枝は、良太と誠司に挟まれて問題の教室へ向かった。
「今日のお遊びは学校ごっこだ。おまえは新任の先生として振る舞え」
「は、はい……」
「いいか、役になりきってサービスするんだぞ」
「はい……」
 強ばった表情の瑞枝が頷くと、良太がドアを開けた。中からどっと歓声が湧き上がる。
「おーっ! 瑞枝先生がおいでになったぞ!」
「ピンクだ、ピンク! ピンクのミニだ!」
「スケベ女教師の登場だ!」
 浴びせかけられる言葉の迫力に、瑞枝の脚はすくんでいる。
「ほら、行ってこい」
 良太は瑞枝を中に押し込み、自分は入らずドアを閉めてしまった。
「うひゃーっ! しばらく見ねえ間に色っぽくなったな、先生!」
「一日百アクメって噂はだてじゃねえぞ!」
「見ろよ、あの腰! くーっ! たまんねえ!」
 村一番の美女の出現で、教室内のどよめきが一気に高まった。あまりのことに瑞枝は顔を上げられずにいる。すると廊下側の席に控えていた風間が低い声で叱咤した。
「おまえが主役なんだぞ。しゃんとせんか」
 その言葉にわずかばかり反発を覚え、瑞枝は歯を食いしばって顔を上げた。四十人近い男たちがやんややんやと騒いでいる。みな、見知った顔だ。こともあろうに村の教育委員会の面々や校長までいるではないか。瑞枝の膝がガクガク震えはじめた。
「ほれ、教壇に立って挨拶せんか。わしらに恥をかかせるんじゃない」
「あ、はい……」
 瑞枝は阿呆のように口を開き、ぎくしゃくと手足を振って教壇に向かった。壇上に上がる際、つまずきそうになって失笑を買っている。やっとのことで教卓に辿り着いた瑞枝だったが、次になにをしたらいいのか分からなくなっている。
 と、来客のひとりが野次を飛ばした。
「先生! 名前は?」
 瑞枝はビクッとしてその方向を見た。町役場の職員だった。
「も、森下瑞枝です。よ、よろしくお願いします……」
 これを機にあちこちから質問が飛び出した。いい年をしたオヤジ連中か嬉々としてはしゃいでいる。
「歳は! 先生?」
「あ、こ、今年二十六になりました……」
「けっこういい年だけど、彼氏とかいるの?」
「あ、いえ、いません……」
「じゃあ、おれ、立候補してもいいかな?」
「あ、あの……」
 瑞枝がたじろぐだけ、野卑た質問は矢継ぎ早に襲いかかる。
「初体験はいつ? まさか処女じゃないよね?」
「あ、あの、その……」
「先生! 嘘ついたらお仕置きだよ!」
「あ、あの、は、初体験は、その、だ、大学に入ってから……」
「へえ、真面目そうな顔して東京じゃ遊んでたんだ。どうりでスケベそうな身体してるわけだ」
「先生、質問! 色っぽい服着てるけど、スリーサイズは?」
「あ、えーっと、その、う、上から八十五、五十八、八十六です……」
「うっひゃあーっ! 完璧なスタイルだね、先生! Dカップ?」
「あ、いえ、Cカップです……」
「Cカップにしちゃ、デカパイだな! で、下着の色は何色? やっぱりピンク?」
「あ、いえ、し、下着は、く、黒です……」
「ひゃーっ! 先生のくせに黒かよ! もしかして、先生ってド淫乱なの?」
「あ、いえ、その……」
 直前まで青ざめていた瑞枝の頬は、いまは羞恥で紅色に染まっていた。それがうなじの辺りまでさーっと広がり、なんとも初々しい。理知的な美貌に似合わぬピンクのスーツと相まって、屈折した色香をプンプン振りまいているのだ。
「じゃあさあ、先生! その黒い下着見せてよ!」
「え! あ、でも……」
「せっかくだから、机の上がりなよ! 後ろからじゃ、よく見えないんだよ!」
「あ、あの、その……」
 いよいよ始まった羞恥責めに瑞枝はうろたえるのみだ。この八ヶ月、風間たち三人の前ではありとあらゆる淫技をこなしてきたが、さすがに四十人もの見知った顔を前にすると身体が強ばってしまう。
 どこからともなく、「ストリップ! ストリップ!」とかけ声が上がり、それはやがて教室全体を轟かすシュプレヒコールとなって渦巻いた。
「……あ、あの」
「ストリップ! ストリップ! ストリップ!」
 頭蓋にまでビリビリ響く一斉唱和はどんどん勢いを増し、瑞枝の身体を操りはじめている。
「ストリップ! ストリップ! ストリップ!」
「あ、あ……」
 もう、なにがなんだか分からなくなった瑞枝は、言われるままにフラフラと片膝を上げ、机によじ登ろうとした。タイトミニはすっかりまくれて、白い股間に食い込む黒パンティが丸見えだ。
「ハイヒールは脱いでいいよ! 落ちると危ないからね!」
 瑞枝は片膝を机に載せたまま「あ、ああ……」と頼りなく頷いて、赤いハイヒールを外した。ハードルを越えるように載せた片膝を前に進めてから、もう一方の膝をピョンと上げ、一旦、正座の姿勢になる。
「ストリップ! ストリップ! ストリップ!」
 シュプレヒコールが高まった。瑞枝はその声に持ち上げられて、教卓の上に直立した。大きくめくれ上がったタイトミニもそのままに、ポカンと口を開けて教室中を見渡している。
「ストリップ! ストリップ! ストリップ!」
 天井がすぐそこまで迫っていた。そして俯瞰する教室のなんと異様なことか……。普段は真面目面している村の要人らが、ロックコンサートにやってきた若者顔負けに拳を振り上げているのだ。
「ストリップ! ストリップ! ストリップ!」
 シュプレヒコールに急かされて、瑞枝はスーツのボタンに手を運んだ。ピンクのスーツは三つボタンだ。それをひとつひとつゆっくり外してゆく。
「ストリップ! ストリップ! ストリップ!」
 最後のボタンが外れたとき、スーツの前がわずかに開き、ほの白い胸の谷間と黒いブラのフロント部分が垣間見えた。ブラウスは着ていない。
「いよーっ! Cカップのボインちゃん! ばっといってちょうだい!」
 シュプレヒコールに交じって野次が飛ぶ。だが、瑞枝は羞恥でうつむくこともなく、まるで夢遊病者のようにスーツに手をかけて、前面を左右に開いた。
「うひゃーっ! すげえオッパイだぜ!」
 瑞枝を下から見上げている男たちは、予想以上の乳房の盛り上がりにどよめいた。それは連日連夜の自慰が作り上げた肉の芸術品なのだ。
「すげえでかいぞ! あれでCカップかよ、おい!」
「ほっそりしてるから、でかく見えるんじゃねえのか?」
 男たちの賛美の中、瑞枝は肩を剥き出してスーツの上着を背後に落とした。その姿勢のまましばし立ち尽くし、次にタイトミニのホックへ手をかける。すでに半分露出していた黒パンティだったが、瑞枝はじらすようにホック外し、豊満な腰をよじってタイトミニを落とした。
「うおーっ! すけべなパンティーが丸見えだあ!」
「くうーっ! 太腿が真っ白だぜ! 早くしゃぶりてえ!」
 瑞枝は身を屈めて、足元に落ちたタイトスカートを机の下に投げ下ろした。一連の動作が間延びしているため、こぼれ落ちそうな双乳をあえて見せつけているかのようだ。
 瑞枝は再び直立すると、ひとつ瞬きをして、今度は両手を背中に回した。ブラのホックを外す手際はもどかしいが、それがまた絶妙な間になり、男たちの気勢は上がる一方だ。
「乳首も黒かったら怒るよーっ!」
 ホックが外れた。両肩を絞り、上体を折って、ストラップを滑り落とす。瑞枝は外れたブラをてのひらに載せたまま、上体を元に戻した。
「おーっ! でっけえ! さすがはCカップ!」
 もうそこにはブラはない。しっとりした重量感に満ち満ちた、二つの乳房がてのひらに乗っている。淡い色合いの乳首は肌寒さでかすかに陥没しており、それがまたかわいらしい。
「乳首、黒くなくてよかったな、先生!」
「おーい! そのブラ、おれにくれ!」
「こっちだ、こっち! こっちに投げろ!」
「あ、あ……」
 瑞枝は自動人形のように動き、男たちに向かってブラを投げ与えた。瑞枝の上体がしなり、豊かな乳房がたわわに揺れる。
 ブラを取り損ねた男たちが、血走った目で瑞枝を睨みつけた。
「おらーっ! パンティ寄越せ!」
「こっちだ、こっち! 染みつき黒パンティだ!」
 男たちの怒号を一身に浴び、瑞枝が茫洋と立ち尽くしている。その姿は蛍光燈の青白い光を受けてどこか塑像じみており、さながらビーナスだった。
 重たげに垂れた乳房から下腹に連なるライン……。ふっくら膨らんだ恥丘に貼りついた黒いパンティ……。そこから再び太腿の量感たっぷりの線が続き、伸びやかな爪先へと続く。
 低い位置から見上げる豊潤な女体は、神々しくも艶やかだ。大理石の清楚な輝きを放っていながら、甘酸っぱい女臭をプンプン振りまいている。
「とっとと脱げ! オマンコ見せろ!」
「瑞枝のマンコだ! 瑞枝のマンコ!」
 男たちの声に操られ、瑞枝が両手をパンティにかけた。
「ドドメ色してたら、ただじゃおかねえぞ!」
「いよーっ! オマンコのご開帳だーっ!」
 瑞枝はパンティを下ろしながら、上体を折ってゆく。量感ある乳房がこれでもかというくらい強調され、男たちは目のやり場に迷った。
 だが、股間の翳りが現れると、四十のぎらつく視線はその一点に集中し、瑞枝が下肢をくねらせてパンティを抜き取るまでの間、焼き焦がさんばかりに凝視するのだった。
「おらーっ! とっとと脱げーっ!」
「マンコを見せろーっ!」
 瑞枝が全裸になった。右手に脱ぎたての黒パンティを持って再度直立する。
 ここに完全なる裸婦像が完成し、男たちの怒号がピタリと止んだ。パンティを求める声すらない。だれもが憧れ、だれもが股間を疼かせた村一番の美女がついに素っ裸となり、その女体を晒しているのだ。
 度を過ぎた熱狂はひとつの頂点を極め、時間が静止している。聞こえるのは蛍光燈のラージ音だけだ。と、だれかがゴクリと喉を鳴らし、「すげえ……」と呟いた。続いて、あちこちからため息が漏れはじめ、さざ波のように広がっていった。
「あ……。わ、わたし……?」
 持ち上げられるだけ持ち上げられ、突然すとんと落とされた瑞枝がはたと我に返った。右手にパンティを握り、全裸でいる自分の姿をはっきり認識することができる。
「あ……。わ、わたし、なにを……?」
 瑞枝が大きく顔を歪め、教卓の上に崩れ落ちた。仔猫のように身を丸めて、丸まったパンティで懸命に股間を隠そうとしている。
「あ、いや、だめ……」
 優美な塑像が瓦解したことで、息を飲んでいた男たちも我に返った。
「おらーっ! 立てーっ! 立ってマンコみせろーっ!」
「おれたちゃ、てめえのマンコを見にきたんだぞーっ!」
「立てないんなら、脚を広げてマンコを剥けーっ!」
「あ、あ……。だめ、いや……」
 男たちの怒号は、もはや瑞枝に恐怖しか与えていない。縮こまった瑞枝は哀れにも震えはじめている。そこへ、見かねた風間が駆け寄ってきて、瑞枝の顎を持ち上げた。
「瑞枝! おまえの教え子もきとるんだぞ! しっかりせんか!」
「……あ、え?」
「おい! 孝子! マリ! 瑞枝に顔を見せてやれ!」


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