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  第九章

季節は巡り、萌葱村に春が訪れた。
 この日、良太の運転するセダンは隣町に向かっていた。助手席には士朗の父・小野寺が座っている。
 萌葱村から隣町まで車で三十分強。距離にして二十キロと離れていないが、景観はがらりと変わる。
 この町は近年ベッドタウン化が著しく、一戸建や集合住宅の着工が盛んなのだ。良太の実家が経営する高梁建設と高梁不動産もいくつかの物件を手掛けており、駅裏にある高層マンションもそのひとつだった。
 そのマンションの前で、良太は車を停めた。
「じゃあ、ちょっとパチンコでもしてます。お迎えは二時間後で?」
「ああ、お願いするよ」
「それじゃ」
 走り去る黒塗りのセダンを見送ってから、小野寺はマンションのロビーに入った。最上階の東端の角部屋が訪問先だ。
「あ、ごくろうさんです」
 玄関を開けたのはリョウだった。リョウは小野寺から診療鞄を奪い取ると、「先生がいらっしゃったぞ」と奥に声をかけた。リビングからダイも顔を出す。
「先生、ごくろうさまです。あ、良太兄貴は?」
「またパチンコだ」
「……そうですか。あ、どうぞ、お上がりください」
 広々としたリビングに、Aラインのミニワンピースを着た少女がいた。いや、少女ではない。瑞枝の教え子だった孝次だ。
「い、いらっしゃいませ」
 孝次は蚊の泣くような声で言い、深々とお辞儀した。その立ち居振る舞いは紛れもなく少女そのものだ。坊主頭だった髪は伸びて、ショートボブになっている。顔つきはどことなくはかなげで、薄化粧を施されているためか色気すらにじませていた。
 注目すべきは体つきの変化だった。小柄な身体からは野球部で鍛えた筋肉がすっかり削げ落ちており、代わりにしっとりした脂肪をまとっている。今年十七歳になるこの少年は並みの少女よりも格段に美しく、そしてかわいらしかった。
「元気そうだね」
 小野寺は短い言葉をかけて、年老いた身体をソファに沈み込ませた。
 ぺこりと一礼した孝次がキッチンに消えたのを見て、ダイが言った。
「先生、お時間は?」
「ああ、あるよ」
「それじゃ、注射を打つ前にひとつ?」
「ああ、そうさせてもらうかな」
 注射とは、孝次に投与する女性ホルモンのことである。投与は昨秋からはじめたのだが、その効果は医師である小野寺自身が驚くほどだった。
 元々孝次がかわいらしい少年だったということもあるが、おそらく日夜ダイとリョウに責め抜かれていることも影響しているのだろう。まず心が変容し、それが肉体的変化を加速させているのだ。
 孝次が運んできたお茶でひと息付くと、ダイがニヤニヤ笑いながら切り出した。
「孝子、先生をベッドルームにご案内しろ」
 いつの頃からか、孝次は《孝子》と呼ばれるようになっていた。
「はい……」
 孝子は悲しげに頷いて、立ち上がった。ミニワンピースから伸びた太腿はすべすべの乳白色だ。小野寺がじっと凝視している。
「……先生、どうそ」
「ああ……」


          *          *


 十畳ほどのベッドルームに、でんとクイーンベッドが置かれていた。
 孝子と男たちはここに川の字になって眠り、日夜爛れた淫行を繰り返しているのだろう。その淫靡な光景を頭から振り払い、小野寺はベッドに腰かけた。そこへ孝子がひざまずき、小野寺のベルトを解きに掛かる。
「失礼します……」
「ああ」
 孝子の口淫奉仕は十分ほど続いたが、マリの処女を奪った自慢の逸物はこの日もついに使い物にならなかった。またひとつ老いを再確認させられ、小野寺は苛立ちよりも虚しさを感じている。
 小野寺が孝子の肩を押した。
「……もういい。代わりにあれをやってくれないか? 今日は赤がいいな……」
「は、はい……」
 孝子は唾液で濡れた口元を拭うとクローゼットを開け、着替えをはじめた。小野寺は深くうなだれていて、その様子を見ようとしない。感動を少しでも先延ばしにして、それが勃起のきっかけになればと思っているのだ。
 着替えを終えた孝子が、おずおずと振り返った。
「あ、あの、済みました……」
 顔を上げた小野寺は目を細めて、ゆっくり頷いた。だが、逸物はぴくりとも動かなかった。
「うん、今日もかわいいな」
 孝子は赤いガーターで赤い網タイツを吊るしていた。ブラもパンティも赤だ。そして、これも赤のハーフカップ・ブラがかわいらしい乳房をツンとすくい上げている。
「おや、あれを忘れとるぞ」
「あ、はい……」
 孝子がクローゼットからピンク色の張り型を取り出した。それは青筋までも精巧に再現された樹脂性の男根だったが、異様にサイズが大きく、どこか現実離れしている。
「さあ、こっちにおいで……」
「はい……」
 小野寺は膝の上で孝子を横抱きにし、まるで孫娘にするかのように頬擦りをした。真紅の下着がよく似合っている孝子は、少女でも大人の女でもなく、ましてや男でも女でもない。正体不明の何者かだ。
「……随分色っぽくなったな。毎日かわいがられてるのか?」
 小野寺は執拗に頬擦りしながら、諸手で孝子の太腿や脇腹を撫でさすった。しっとりしていて、かつプリプリよく弾む孝子の肌は、乾ききった老人の手に生気を与えてくれる。
「ん、どうなんだ? 昨日もヤられたのか?」
 目を閉じている孝子は、ぽっちゃりした紅い唇を開いて答えた。
「……はい」
「何回ヤられた?」
「よ、よく、覚えてません……」
「ほう、覚えてないほどヤられまくったのか?」
「……は、はい」
 ふふふ、と笑って小野寺は孝子の唇を奪った。歯をこじ開け、舌と舌を絡ませる。例え男根が立たなくとも、それだけで小野寺は甘美な悦楽を味わうことができた。
「む、むむっ……」
 小野寺の両手は絶えず動き回っている。二の腕や背中をたっぷり撫でてから、ブラの肩紐を外しにかかった。乳房を引っ張り出して、ゆっくりとこねくり回す。
「また一段と膨らんだな。きれいなオッパイだぞ、孝子」
「あ、ありがとうございます」
 女性ホルモンの力で丸みを帯びた孝子の乳房は、てのひらにピッタリ収まるきれいなお椀型だ。淡い色合いの乳首をキュッと摘まむと、孝子は熱い吐息を漏らした。
「ふふふ、乳首が硬くなってきたぞ。どれ、こっちはどうかな?」
 小野寺が右手を滑らせ、紅いパンティの上から孝子の股間の膨らみをそろりと撫で上げた。
「あ、あん!」
「おや? いま、ピクピク動いたぞ。ふふふ、でっかいクリトリスがもう勃起してるんだな?」
「……は、恥ずかしい」
「そうか、恥ずかしいか。じゃあ、ここはもっと恥ずかしいな……」
 小野寺の手が孝子の尻の下に入り、パンティの一番細い部分をクイッと脇に寄せた。露出した菫色の肛門に指先を当て、クニクニといじる。ぷっくり膨らんだ肛門はやけに熱く、湿り気を帯びていた。
「ん? もう濡れてるのか?」
 小野寺は指先をググッと押しつけた。
「あ、い、いけません。先生の指が汚れてしまいます……」
「おや、今日はまだ使ってなかったのかな?」
「い、いえ……」
「なら大丈夫だ。たっぷり浣腸されたんだろう? それから、あのふたりに思いっきりかき回してもらったんだろう?」
「は、はい……」
「ふふふ、道理でほぐれているわけだ……」
 小野寺は小さく笑うと、人差し指を第一関節まで埋め込んだ。ほぐれていると言ったものの、かなりのしめつけだ。孝子が息をする度に、キュキュッ、キュキュッと食らいついてくる。
「ほらほら、まだまだ入るぞ……」
「あ、ああっ……」
 小野寺は指をさらに奥へと進め、つけ根まで埋め込んでしまった。
「ほほう、中はとろとろだな……」
「あ、あん……」
 指を包み込む肉管のなんと心地好いことか。この感覚をもう男根で味わうことができないのだなと、小野寺は内心ため息を漏らしている。
「おや? クリトリスが顔を出したぞ? なんとまあ、パンティからはみ出すとは、たいしたクリトリスだ」
「ああん……。いや……」
 小野寺が埋め込んだ指を回したり、引いたりしたので、孝子の陰茎がさらに勃起を果たし、小さなパンティから亀頭の先を覗かせてしまったのだった。女性ホルモンの影響で徐々に萎縮しているものの、まだまだ勃起能力と射精能力は健在で、また一番の性感帯でもある。
 小野寺はしばし孝子の直腸壁を愛撫した後、おもむろに指を引き抜いた。
「……あっ! や、やめないで。お、お願い」
「続きは自分でやりなさい。おじさんはほら、こうしてかわいいオッパイをいじっててやるから……」
 小野寺は、横抱きにしていた孝子を幼児がおしっこをする姿勢に抱え直した。両腕で孝子の下肢を開いたまま、紅いブラからこぼれた乳房を鷲掴みにする。
「せ、先生……」
 孝子がキスを求めてきた。応じた小野寺は唾液をたっぷり送り込み、両の手に握った乳房をグニャリ、グニャリとこねくり回した。
「むっ……。むむっ……」
 顔を紅潮させた孝子は仔犬のようにチピャピチャと舌を鳴らして、右手に持っていた張り型を股間に運んだ。
 パンティの布地を片側に寄せ、とてつもなく大きい擬似男根を肛門に押し当てる。そして張り型を両手でしっかり握ると、「むふーっ、むふーっ」と深呼吸しながら、直腸に埋め込みはじめた。
「さあ辛抱だ。がんばれ、がんばれ」
 小野寺は孝子の口を舐め回し、乳房をむしり取らんばかりに揉み込んで、張り型が楽に入るように応援している。
「ん、んふーっ。んんーっ」
 なにかの拍子でピリッと裂けそうなほど、孝子の肛門は限界まで広がっている。それでも孝子は少しずつ試すように張り型を進め、ついには握りの部分だけを残して埋め込んでしまった。
「んふう……」
 孝子は半開きにした瞳をうっとりさせ、上目遣いに小野寺を見ている。ある種の達成感に酔っているのだ。小野寺は「よし、よし」と呟きながら、そんな孝子の口をたっぷり吸ってやった。
「さあ、それじゃあ、孝子のかわいい声を聞かせておくれ」
「は、はい……」
 孝子は愛らしくはにかむと、入れたばかりの特大張り型を引き出しにかかった。
「……ん、んんっ」
 直腸の粘膜が張り型に絡みつき、一センチほどはみ出している。やがて、カリの出っ張り部分が肛門括約筋に引っ掛かった。抜き出た張り型がヌラヌラ光っているのは、朝一で注がれた男たちの精液が潤滑剤代わりになっているからだ。
「ふーっ、ふーっ……」
 孝子は息を整えてから、今度は張り型を押し戻しにかかった。さっきとは逆に、肛門周辺の皮膚が痛々しいほど中に巻き込まれている。
「ん、ん、ん……」
「ほらほら、がんばれ。アクメはもうすぐだぞ」
「ん、んんっ……」
 小野寺に口を吸われ、乳房を揉まれながら、孝子は苦行のような抜き差しを繰り返した。回数が十回を過ぎた辺りから、張り型の動きが幾分滑らかになり、二十回を超えるとグボグボ、グチグチと音が漏れるほどの速い動きになった。
「んっ、んっ、んっ、んっ……」
 孝子は上体を小野寺に預け、肛門オナニーに没頭している。直腸の周辺の筋肉がすっかり温まり、快楽を愉しめる余裕が出てきたのだ。口唇、乳房、肛門の刺激だけでは飽き足らないのか、孝子は左手を陰茎へ伸ばそうとしている。それをいちはやく見つけた小野寺が小さな声で叱責した。
「だめだ。クリトリスを触っちゃいかん」
 孝子は潤んだ瞳で小野寺を見上げた。
「だ、だって……」
「だってじゃない。いいか、お尻だけでイケるようにならなきゃだめだ。クリトリスは二の次でいい。分かるね?」
「は、はい……」
 孝子は素直に頷くと、再度張り型を両手で支えて、前にも増して激しく突き動かした。小野寺はそんな孝子が妙に愛おしくなり、小さな赤いパンティをちょっとだけめくって、ぷっくり膨れた陰茎に指を絡めた。
「あふっ! んっ!」
「ふふふ、今日だけだぞ。次からはなしだからな……」
 小野寺はそう孝子の耳元で囁いて、半分皮を被ったままの陰茎を丁寧にしごいた。
「あ、ありがとうございます、先生……。あんっ! あああんっ!」
 薄皮を剥き、ピンク色の鈴口を責めると、先走り液が粘りついてきた。
「おやおや、クリトリスがびしょ濡れだ」
「ああんっ! クリがいい……。クリがいいですう……」
「ほらほら、お尻が手薄になってるぞ」
「は、はい……」
 孝子は下唇をキュッと噛んで、張型をミチミチと動かした。
「ああっ! も、もう……っ! せ、先生……っ!」
「いくのか? もういくのか?」
「あんっ! ああんっ! ああああっ!」
「よしいけ! そらいけ!」
 小野寺が白い陰茎の裏側をつーっと撫で上げた。
「あっ! ひあっ! あひいいいいっ!」
 孝子は瞬時にアクメの坂を駆け上がった。純白の精液が弧を描いて飛び散っている……。


          *          *


 マンションを後にした小野寺は、迎えにきた良太の黒セダンで萌葱村に引き返した。
 実は予定外の行動なのだが、孝子を弄んでいるうちにふと気になったことがあったのだ。マリのその後である。
 マリの体調に余程の変化がなければ、良太に経口避妊薬を渡すだけにしてあるのだが、考えても見れば前回会ったときから既に二月が経っている。様子見をする頃合いだろう。
 村の町場を抜け、かつて瑞枝が勤めていた中学校へ続く坂道を上がり、途中で右折する。棚田の奥が高梁建設の資材置き場だ。足場用鉄パイプに囲まれて、プレハブ倉庫が建っている。
 車が停まると、倉庫の中から誠司が出てきた。
「おつかれさまです」
「おう、いまマリの身体は空いてるか?」
「あ、実は、二十人ばかり集まってるんですが……」
 今日は四月に入って最初の日曜日である。年度末のあわただしさも一段落し、従業員たちはのんびりした休日を過ごしているのだろう。
「あの、先生の検診ですか? あ、いま中を片付けさせます……」
 踵を返した誠司を、良太が呼び止めた。
「あ、別にいいぞ。先生はちょっと様子を見にいらっしゃっただけだから」
「そ、そうですか。それじゃ、酒の用意をさせますので、さ、どうぞ」
 誠司が恐縮しているのには訳がある。限度知らずの荒くれ男たちがあまりにマリを酷使するため、一時かなり危険な状態に陥ったことがあったのだ。それ以後、誠司がマリの健康管理を担当することになっていた。
 プレハブ倉庫の片隅に小さな事務所がある。そこに置かれたロッカーのひとつが、地下空間に続く秘密の扉だ。廃品を再利用した螺旋階段を降りると、薄暗いコンクリート部屋が出現する。学校の教室ほどの広さがあるだろうか。
 そこは紛れもない酒場だった。こもった煙草の煙が濃霧のように漂っている。おそらくこれらも廃品だろう、テーブルやソファが持ち込まれており、そこに二十人からなる男たちが好き勝手に手酌で酒を呷っていた。
「おい、マリ! 小野寺先生がいらっしゃったぞ! 酌をしないか!」
 誠司に呼応されて、衝立の陰から黒いランジェリーをまとったマリが飛び出してきた。暗い照明にもマリの白い肌は映えており、はや九ヶ月目に入った娼婦生活の影響か、少女らしからぬ妖艶さをにじませている。
「あ、小野寺先生、ごくろうさまです」
「やあ、ちょっと気になったものでね。その後、身体の調子はどうかね?」
「はい。お陰さまでもう平気です。その節はご迷惑をおかけしました」
「そうか。それはなによりだ」
 マリは小野寺と話しながら、乱れたランジェリーを整えている。とはいっても、着ているものは丈の短いキャミソールとバタフライ・パンティだけだった。
「あの、どうぞ、おかけになってください」
 マリは比較的ましなソファセットに小野寺を案内した。
「あの、水割りでいいですか?」
「ああ、シングルで」
「はい、少々お待ちください」
 マリは小気味よくハイヒールを鳴らして、即席のバーカウンターに入った。その様子を小野寺は驚きをもって見つめている。どうもマリが陽気すぎるのだ。
(ふむ……。あまりいい傾向ではないな)
 そう懸念したのも束の間、うっすら汗ばんだマリの白い肌を眺めているだけで小野寺は目を細めてしまう。黒下着とのコントラストが絶妙なのだ。やはり白人の血を引くだけあって、ランジェリーがよく似合っている。
「お待たせしました」
 マリが場馴れしたホステスのように小野寺に寄り添った。
「小野寺先生、本当にお久し振りですね。二ヶ月振りでしょうか?」
「あ、ああ、そうだな……」
 精液の臭いに鼻を突かれ、小野寺はマリの太腿に目を落とした。所々に拭いきれなかった精液がこびりついている。いまし方まで奥で嬲られていたのだろう。じっとり濡れた黒パンティが、恥丘に貼りついているのがキャミソール越しに見えた。
「はい、小野寺先生」
 マリがグラスを差し出した。
「あ、ありがとう……。ん?」
 グラスを受け取ろうとした小野寺が、ふと眉間をしかめた。マリの左手の薬指が妙に短いのだ。
「ちょ、ちょっと見せなさい」
「あ、な、なんでもないんです」
「いいから、見せなさい!」
「あっ!」
 マリの手からグラスが落ち、砕け散った。男たちの視線を集めてしまったが、小野寺は怯むことなく、握ったマリの左手を開かせた。
「む、これは……」
 やはり、指は切断されていた。第一関節から先がなくなっているのだ。切断面が盛り上がり、皮膚が再生しているので、切られて一ヶ月は経っているだろう。
 小野寺が良太を睨みつけた。
「なぜ、わしに話さなかった?」
「あ、いや、大したことなかったもので……」
「化膿したら大事になるところだった!」
「そ、それは謝ります。こ、今後は先生にご相談しますので……」
「あ、あたり前だ!」
 小野寺は怒りに震えている。そして、いまさらながらに自分たちがしていることの恐ろしさを噛みしめていた。
 あの日以来、孝子とマリは一度も対面を許されていない。逆らえば恋人を切り刻むぞと脅されて、監禁の揚げ句、昼夜を問わず男たちの慰み物になっているのだ。それは図らずも二十五年前の再現だった。
「あの、お代わりを作ります……」
 マリがカウンターへ入っていった。ハイヒールを履いているため、丸々した尻がツンと上を向いている。
(あの尻にこれまで何本の男根がねじ込まれたことか……。スラリと伸びた白い太腿に幾多の精液がまぶされたことか……)
 だが、小野寺が思うほどマリは絶望していない。なぜなら、指の切断が一度で済んだからだ。それは、孝次がマリのためを想って苦難に耐えていることを意味する。
 だからこそ性欲処理人形に堕ちてもなお、マリは自害せずにいられるのだった。


          *          *


 その頃、瑞枝は風間の山荘に幽閉されていた。
 元町長の風間、元村議会議長の林、元国民学校長の藤波は、もしや自分の娘かもしれない瑞枝を半ば保護する形でこの山荘に隠していたのだ。
 だが、それも最初のうちだけだった。鬼畜の前歴をもつ老人たちは徐々に歪んだ性癖を露呈しはじめ、監禁三日目にして瑞枝に自慰を強要していたのである。
 そして今日、瑞枝は、藤波が八番目に編み出した《お馬さんオナニー》を昼過ぎから延々何時間もやらされていた。
 お馬さんとは、藤波の孫が去年まで使っていた玩具の木馬のことである。木馬の背に大小二本のバイブを固定し、瑞枝に跨がらせるのだ。
 全裸に剥かれた瑞枝は両腕を後ろ手に括られた上、両脚は膝を折るようにロープで縛られているので、足で身体を支えることができない。バランスを取るには身体全体をくねらせるしか方法はなく、結果、自ら膣と直腸をえぐることになる。
「おい、瑞枝。五回目はまだなのか? 待ちくたびれたぞ。もたもたしとらんで、さっさとイッちまえ」
 林と碁を指していた風間があくび交じりに言った。一方の林は次の一手に没頭しており、じっと碁盤を凝視している。《お馬さんオナニー》考案者である藤波は、ひとり離れた場所に座ってぼんやり煙草を吸っていた。まるで惰眠を貪っているかのようだ。
「すみません……、すみません……」
 瑞枝ひとりだけが全身汗まみれだ。なめらかな背中、こんもり盛り上がった臀部、そこに続く白亜の太腿を大量の汗で濡らし、身をくねらせている。ロープに絞り出された双乳はロケットのように尖り、その先端から汗がとめどもなく滴っていた。
 だが、最も濡れているのは二本のバイブを咥えた股間だろう。ミチミチ、グチグチと淫らな音を奏で、あふれ出した汗と愛液を木馬の背に擦り込んでいるのだ。
「あっ……」
 瑞枝は右に傾いた上体を立て直そうとして、勢い余って木馬から落下してしまった。深々と刺さっていた二本のバイブが爛れた膣壁と直腸壁を容赦なくえぐる。
「ぐっ! きぃいいいいーっ!」
 床に倒れ込んだ瑞枝が金切り声を放った。激痛にのたうとうにも、緊縛された身体では思うようにいかない。
「いいいーっ! いいいーっ!」
 ロープをギチギチ鳴らして身をくねらせ、股間の激痛をやり過ごすこと十数秒。やっとのことで苦痛の峠が過ぎ去った。
「……まったく。もっと色気のある声を出せんのか」
 いつの間にか藤波が側に立っていた。
「す、すみません……」
「ちょっと股を見せてみろ」
 藤波はまるで荷物を扱うように、瑞枝の身体をひっくり返し、うつぶせの姿勢を取らせた。
「ほれ、ケツを上げんか」
「は、はい……」
 濡れた臀部をペチッと打たれ、瑞枝は両膝を踏ん張って尻を掲げた。
 しゃがんだ藤波がぽっかり開いた肛門と膣口を覗き込む。そこは真っ赤に腫れ上がっていたが、出血は認められなかった。しかし、この場に小野寺がいれば即ドクターストップが掛かるほどの惨状だ。
「……よし、大丈夫だな。さあ、続行だ」
 藤波の目配せを受け、風間と林が(やれやれ……)といった顔をして瑞枝の元にやってきた。そして三人掛かりで瑞枝を抱え上げると、よたよたよろめきながら木馬へと運んだ。
 と、風間がなにやら仲間たちに耳打ちしている。
「おい。いちにのさんで離すぞ」
「そ、そんなことして大丈夫ですか?」
「なーに、大丈夫ですよ。ねえ、風間さん」
「そうだとも。鍛えに鍛えたオマンコと肛門だ。そう簡単に壊れるものか」
「わはは、瑞枝はセックスマシーンですからな」
 三人のやり取りに気づいた瑞枝が、突然下肢を振って暴れ出した。
「やだっ! やめてっ! やめてくださいっ!」
 だが、既に二本のバイブは瑞枝のふたつ穴に合わされている。
「よし、はじめるぞ。いち、にの、さん……」
「やああああっ!」
「それっ!」
 ドスッ! 量感ある瑞枝の尻が木馬と激突し、鈍い音を発した。衝突の振動は太腿や乳房にも伝わり、柔肉がブルンブルンと震え、汗が飛び散った。瑞枝はカッと目を見開いて、しばし天井を見上げている。
「ぎぃええええーっ!」
 が、突如奇声を発すると、木馬から転げ落ちてしまった。
「ぐあっ! ぐうううううっ! があああああっ!」
 瑞枝は縛られた身体をガクガク波打たせ、床の上を転げ回った。さすがの風間たちもこれには驚き、呆然と立ち尽くしている。
「だ、大丈夫ですかな……?」
「だ、大丈夫だろう……」
 やがて瑞枝の動きは収まり、絶叫は呻き声を経てすすり泣きに変化したが、どうも様子がおかしい。すすり泣きがいつしか笑い声に変わっている。
「み、瑞枝、どうした?」
 しゃがみ込んだ風間に、瑞枝が鬼気迫る顔を向けた。瑞枝は笑いながら、憤怒で顔を歪めていたのだ。
「み、瑞枝……?」
「こ、この人でなしっ! あんたたちは人間のクズよっ!」
 瑞枝の口から出た言葉に、風間たちはたじろいだ。ここ八ヶ月、従順な性奴隷だった瑞枝が初めて口にした怒気だったのだ。
「もう、あんたたちの言うことは聞かないわよ! 殺すなら、殺しなさい! どんなむごい殺され方をしたって、絶対命令を聞かないから!」
 たじろぎながらも、風間が怒鳴り返した。
「ガ、ガキどもがどうなってもいいのか! 若衆に命じて切り刻むぞ!」
「す、好きにしたらいいわ! マリちゃんたちもきっと同じよ! こんな扱いを受けるくらいだったら、切り刻まれて殺される方がましよ!」
「そ、それでも教師か!」
「ええ、そうよ! わたしは教師よ! だから、子供たちの本当の幸せを考えているんじゃないの! 子供たちにとって一番の幸せは、あんたら人間のクズから逃れて天国に行くことよ!」
 瑞枝は明らかに冷静さを失っている。だが、口から出た言葉はここしばらく考えていたことだ。これ以上、尊厳を犯されたくなかったのだ。そして、死は祝福だと……。
 風間がブルブル震えている。人の上に立つのが当たり前と思っていたこの男には、飼犬に手を噛まれたことが余程の衝撃なのだろう。
「き、貴様っ! すんなり天国に行けると思うな! その前に地獄を見せてやる! たっぷりとこの世の地獄を味わらせてやる!」
 そして翌日、風間の公言通り、瑞枝は地獄を見ることになる……。


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