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  第五章

一九四四年、初冬。
 小野寺士朗と高梁良太は朝早くから隣町の駅にきていた。
 この秋から全国で学童疎開が始まっており、萌葱村も東京の子供たち百五十余名を受け入れることになっている。それが今日なのだ。
 駅の手狭なホームには、婦人会の面々が街の子供たちを温かく出迎えようと持参したオハギを抱えて待っている。士朗たちもホームに上がりたかったが、天敵ともいえる校長や配属将校がふんぞり返っていてはどうしようもない。
 やがて、蒸気機関車が田んぼの彼方から姿を現し、煤煙をもうもうと上げながらホームに滑り込んできた。ブレーキが軋み、蒸気が立ちこめる。地面が揺れるこの瞬間は、士朗たちにとって胸弾む一瞬だ。
(街のやつらはどんな顔をして、どんな服を着ているんだろう?)
 つぎだらけのおさがりを着、素足に草履を履いている良太はそんなことを考えている。一方、医者の子らしくこざっぱりした身なりの士朗は、まったく違うことを思っていた。
(線路はどこまで続いてるんだろう? ああ、ぼくも遠くへ行きたいな)
 そんなふたりの目前に、疎開児童たちがぞろぞろと降りてきた。ランドセルを背負い、布団袋を抱えたその姿はどこか楽しそうでもある。婦人会の面々が振る歓迎の旗が、それに拍車をかけているのだろう。
 三年生から六年生まで、百五十余人の子供たちがホームにあふれ返っている様子は、この駅始まって以来の賑わいだった。
 じっと子供たちの群れを見つめていた良太が、ぼそりと言った。
「見ろよ、あいつらの目……。腹すかしてる目だぜ……」
 言われてみればそうだった。村の子供に比べれば身ぎれいな反面、顔色に生気がない。
「うん。おとうさんが言ってたよ。薬だけじゃなく、食べ物も足りてないんだって」
「こういうとき、食い物がある田舎は強いよな」
「うん、そうだね……」
 頷いたものの、士朗は上の空だ。その目はひとりの少女に向けられている。おっとりした顔立ちの、三つ編みが似合っている少女だ。周りの女の子より大柄なので引率の先生かと思ったが、ランドセルを背負っているから児童なのだろう。
 モンペを穿いた脚は長く、白いブラウスの胸元はふっくら膨らんでいた。士朗の背筋にぞくりとした電流が流れた。
(うわ! な、なんだ……)
 士朗は慌てたが、この一年間、自慰を繰り返している陰茎は微動だにしていない。性欲ではないのだ。別のなにかが背筋を走ったのである。士朗は少女の横顔に視線を戻した。その直後、また背筋が震えた。
(きれいだな……。かわいいんじゃなく、きれいなんだ……)
 背筋がざわめくのを半ば愉しみながら、士朗は少女を見つめている。
(顎がきれいだ……。うなじも……)
 妙に嬉しくなった士朗は、傍らの良太を肘で突っついた。
「ほら、あの子。背の大きい子……」
「ん? ああ、三つ編みの?」
「うん。ね、どう思う?」
「ああ、そうだな……。なんか、大人びてるよな……」
「うん、そうだよね。そうなんだよね」
 士朗は我が事のように喜んだ。


          *          *


 少女の名は佐沼蛍子。いまの容姿からは想像できないが、幼少の頃は病弱だったために、入学が一年遅れたのだそうだ。つまり、士朗よりひとつ年上の十二歳である。どうりで大人びているわけだ。
 蛍子の評判はすこぶるいいものばかりだった。年長ゆえの配慮がそうさせるのか、蛍子は小さい子供の面倒見がよく、また、下痢をしてまで雑草を食べる男の子らに、自分の食事を分けて上げたことも一度や二度ではないらしい。
 そういった話を耳にする度、士朗は誇りさえ感じていた。初恋の少女を誉められることは、まるで自分のお嫁さんを誉められているような気になったからだ。だが、そんな士朗の思い込みとは別に、なかなか蛍子と仲良くなれる機会がない。蛍子が寄宿するお寺に行くのも憚れるし、声をかけるなどもってのほかだ。
 ところが転機は突然訪れた。十二月も半ばを過ぎた頃、士朗の父が開く小野寺内科婦人科診療所に、軽い肺炎を患った蛍子が入院することになったのだ。
 病室は他の疎開児童で埋まっていたため、蛍子には母屋の一室があてがわれることになった。軍人をしている蛍子の父と、この村の学校に配属されている将校が知己ということで、気を遣った村の御偉方が手配したのだった。


          *          *


 蛍子が小野寺家の奥座敷に伏して三日目の朝、士朗は思いきって訪問することにした。
 一晩掛かりで考えた口実は、算数を教えて欲しいというくだらないものだったが、それしか思いつかなかったのだから仕方がない。
 蛍子を看た父親と看護婦が廊下を戻ってきたのを確認してから、士朗は奥座敷の障子の前に立った。コホンと咳払をする。
「あ、あの、ちょ、ちょっといいかな?」
「だれ? もしかして士朗くん?」
 凛とよく通る鈴のような蛍子の声に、士朗の背筋がぞくりと震えた。
「あ、う、うん。あの、その……」
「どうぞ、入って」
「あ、うん……」
 士朗がうつむき加減にして障子を開けると、蛍子は布団の中で起き上がろうとしていたところだった。白い浴衣が眩しいまでに輝いている。蛍子は丹前を肩にかけ、にっこり笑って士朗を見上げた。三つ編みだった髪は解かれて、いまは後ろで軽く結われている。また一段と大人びたようだ。
「こんにちは。わたしがここにきて初めてね、士朗くんに会うのは」
「そ、そうだね……。あ、ぐ、具合の方はどう?」
「大分よくなったわ。士朗くんのお父様のおかげよ」
「そ、そう。よかったね」
「うん、ありがとう」
「あの、実はね……」
 そうして、士朗は至福の十数分を過ごし、明日にまた会う約束をして奥座敷を後にしたのだった。
 ところが、その約束は果たされることがなかった。蛍子が結核を患っていることが明らかになり、急遽、隔離されてしまったのだ。
(春になれば、蛍子ちゃんは元気になるよ)
 だが、士朗の願いはついぞ叶わなかったのである……。


          *          *


 一九四五年、早春。
 森下枝美の家に集った四人の男たちは、真っ昼間から酒を呷りつつ、人倫にもとる算段をあれやこれやと練っていた。
 集まった四人とは、萌葱村四天王の名も誉れ高い、町長の風間、村議会議長の林、国民学校長の藤波、そして、士朗の父・小野寺である。
 情婦の枝美を侍らせ、景気良くお猪口を空けていた風間が、ふと小野寺に顎を向けた。
「あー、あれか、四ヶ月を超すとやっぱり危ないのか?」
「ええ、母体にかなりの危険が及びます。六ヶ月を過ぎたら、まず堕胎はあきらめないと……」
「ふむ、なら、あと二ヶ月は様子見できるわけだな……」
 風間がお猪口を凝視して考え込むと、頃合いを見計らったように枝美が立ち上がった。女にとっては一大事の堕胎を気軽に語る男たちに辟易していたのだ。
「ちょっと熱燗を見てきます」
 今年三十路に入ったばかりの枝美は、着物に包まれた臀部をゆさゆさ揺すって台所の中に入ってゆく。
(まったく、ひどい男たちだね。女をなんだと思ってやがるんだ)
 そうは思っても、妾の身では意見などできはしない。枝美はふと寂しげな顔になり、やかんにかけた銚子を手なぐさみにいじりはじめた。
(……蛍子ちゃん、もうちょっとの辛抱だよ。戦争が終わりさえすりゃ、あいつらだって目が覚めるさ)
 しばらくして瑞枝が戻ると、男たちは結論を出したのか、妙に晴々とした顔をしていた。
 上機嫌の風間が、運ばれてきたばかりのお銚子を取って、仲間に注いで回る。
「ま、いろいろ大変だとは思うが、ひとつよろしく」
 すると、ひとり小野寺だけがその場に正座して、一同に向かって深々と頭を下げた。
「み、みなさん、ご迷惑をかけて申し訳ない。愚息の尻拭いでみなさんを煩わせてしまって……。なんとお詫びしたらよいか……」
「それはもういい。なにより、あんたの仕事が一番大事なんだ。くれぐれも粗相のないように頼むよ」
「は、はい。それは重々心得ております……」
 いま一度頭を下げて、小野寺は風間から杯を受け取った。すると一転、肩の荷が降りたように穏やかな顔になっている。それもそのはず、去年の冬から先延ばしになっていた蛍子の処遇を、この場で風間が決めてくれたのだ。
 実のところ、蛍子が結核というのは真っ赤な嘘で、この家に監禁するための方便だったのである。
 小野寺の長男が蛍子を手籠めにしたのが事の発端だ。慌てた小野寺が仲間たちに相談を持ちかけ、まずは蛍子の動揺を落ち着かせようと、当面ここに置くことにしたのだった。
 ところがである。あれやこれや体面を考えているうちに、男たちは人倫を踏み外してしまう。戦争末期ゆえの狂気か、明日をも知れぬ不安からか、蛍子の殺害を決めた途端、風間たちは次々に陵辱してしまったのだ。
 蛍子は父子家庭に育ち、身寄りが少ない。来訪者が皆無なことも、男たちの行動を大胆にさせていた。蛍子の父の戦死と、彼女を知る配属将校の転任が重なったことも、男たちの悪行に追い打ちをかけた。
 結果、勢いづいた男たちは蛍子の殺害を先送りにしてまで、日夜、幼い女体を貪り続けたのだ。
 そして、蛍子の妊娠が発覚する。またしても難題を抱えた男たちだったが、とりあえず書類上だけ蛍子を死亡扱いすることにして、この乾杯と相成ったのだった。すぐに殺さないのは、まだまだ嬲り尽くすつもりでいたからである……。


          *          *


「さてと、それじゃあ、今晩も蛍子をかわいがってやるとするか」
 お猪口をキュッと空けて、太鼓腹の風間が立ち上がった。それを合図に林と藤波が納戸に向かう。
 風間が隣室に続く襖を空け、あらかじめ敷かれていた夜具の上にどっかと腰を下ろした。傍らでは小野寺が愛用のカメラを取り出し、絞りやシャッター速度を調整しはじめている。
「ほれ、とっとと歩け!」
 ほどなくして、納戸へ行っていた林と藤波が戻ってきた。緋色の肌襦袢姿の蛍子を引きずっている。もうじき十三歳を迎える蛍子は、受胎の影響があるのか、乳や腰の膨らみが一層まろやかになっていた。
 枝美が後片付けの手を止め、不安げに蛍子を見ている。
(蛍子ちゃん、辛抱するんだよ……)
 だが、隣室の陵辱部屋は幼い女囚を飲み込み、固く襖を閉ざしてしまうのだった。
 風間が着衣を脱ぎながら、蛍子を睨め上げた。
「さて、今日は藤波さんの番だったな。どんな趣向を考えたのかな?」
「いやあ、お恥ずかしいんですが、ちょっと雑誌で見知った遊びがありまして……」
 藤波はもったいぶりつつ、蛍子の帯びを緩めた。林と調子を合わせて肌襦袢の前を開き、腰巻を着けていない瑞々しい裸体を剥く。戦時中にも関らず、蛍子は生乳や生卵を常食しているので成長が著しい。白く伸びやかな太腿は、十五、六の女学生に負けていないだろう。
「……ピアッシングなんですが、いかがでしょうか?」
 藤波はそう言うと、林と目くばせして肌襦袢をはらりと後ろに落とした。蛍子は目を伏せ、口を結び、直立の姿勢を保っている。
「なんだ、そのピア……なんとかというやつは?」
 藤波は蛍子の片側の乳房をすくい上げながら、ヒヒッと笑った。
「まあ、その、平たくいえば牛の鼻輪のようなもんです」
「鼻輪だと? 蛍子に鼻輪をつけるのか?」
 うつむいていた蛍子がぴくっと反応した。
「いえいえ、小さな輪っかです。で、つけるのは乳首や花びらなんですよ」
「ほう、面白そうだな……。つまり、奴隷の印ってわけか?」
「ええ、そうです。所有物としての印ですね」
 耳元で交わされる残酷な会話に、蛍子はおののいて目を見開いたが、またすぐ閉じて沈黙を守った。驚いたり、脅えたりすればするだけ、男たちを愉しませることを身をもって知っているからだ。
(朝になれば……。明日になれば……)
 お椀型に実った乳房をやわやわと揉みしだかれるおぞましさに、蛍子が細い肩を震わせていると、カメラの調整をしていた小野寺がおずおずと口を挟んだ。
「あの、花びらといいますと、やっぱり小さい方ですか?」
「えっとですね、わたしが読んだ雑誌ではどちらでも好きな方でとありました。あ、そうそう、おさねにつける場合もあるそうですよ」
「お、おさねにですか……」
 これには一同びっくりしている。ぞくぞくする話だったが、医者である小野寺は一抹の懸念を抱かざるを得ない。
「あの、今後の事を考えると、性器に手を加えるというのはちょっと……」
 小野寺が蛍子の母胎を心配しているとみえて、男たちはいささか興醒めしたようだ。風間に至っては、どうせ殺す女の出産を気にかけてどうする、といった顔をしていたが、さすがにそれは口に出さずにいた。
 場の雰囲気を覚って、小野寺が慌ててつけ足した。
「……あ、あの、場所を吟味すれば大丈夫だと思います」
「そうか。よし、それじゃあ、最初からおさねもなんだから、まずは乳首につけてみるか。藤波さん、その輪っかとやらは持ってきてるのか?」
「はい。ふたつしか用意できなかったんですが、乳首につけるならちょうどいいですね」
 藤波は背広の内ポケットから白木の小箱を取り出し、中を開けて見せた。指輪より一回り大きな金のリングがふたつ収まっている。ただし、環は一ヶ所で切れており、丸ネジで止めるようになっていた。
「出入りの宝石商に造らせてみたんです。せっかくなんで、二十四金を奮発しました」
「ほう、どれどれ……」
 風間はさっそくリングを手に取ると電球にかざし、妖しく光る純金の輝きに目を細めた。二十四金ゆえに手触りが柔らかい。
「ふふふ、アラブの奴隷女ってところだな……。よし、さっそくつけてみよう。藤波さん、ひとりでやれるか? 小野寺さんは写真があるからな」
「なに、簡単ですからひとりでやれますよ。手術ってほどのものでもないですしね。金串と氷と赤チンがあれば、ほんの十分ほどで……」
 医者である小野寺の助言を待たずに、藤波は蛍子の乳房を揉んだままニタリと笑った。その反対側では、林が「へえ、ここにねえ……」と感心しながら、可憐な乳首をいじくっている。
「それじゃあ、はじめるとするか」
「はい。ちょっと道具を揃えてきますので少々お待ちを……」
 藤波が台所に向かった。その間、風間たちは手術台の準備に取り掛かる。手術台とはむろん風間のあぐらの上だ。一糸まとわぬ全裸に剥かれた蛍子は、林と藤波に肩を押されて、狒々爺の股間に尻を沈めてゆく。
「ふふふ、蛍子が暴れんように、しっかり杭を入れとかんとな……」
 風間は降りてくる蛍子の尻溝に左手を差し込んで、蒼い女陰を探った。そこはすでにしっとりと濡れている。男たちが来訪したときはいつでも受け入れられるようにと、あらかじめ手淫しておかなければならないのだ。
「……いいつけは守ってるようだな。結構、結構」
 風間は右手に勃起した逸物を握っている。リングピアスの話を聞いただけで、少年のように股間を膨らませてしまったのだ。その亀頭の先がピタリと蛍子の膣口にあてがわれた。林と藤波が手を離したので、そこから先は蛍子自身で腰を沈ませなければならない。
 蛍子は目をつぶり、脚の力を抜いた。
「んっ……」
「ほれほれ、早く咥えんか」
「あっ……」
 亀頭部分がクニュッと膣口を押し広げ、ズブズブとめり込んでくる。受胎で敏感になっている膣粘膜を、大きく張り出したカリや裏筋で隙間なく擦られて、蛍子の下腹がヒクヒク波打った。
「あっ、んあっ……」
 やがて、幼い膣は奥までみっちり塞がれてしまった。蛍子の白い尻と毛むくじゃらな風間の下腹部が密着する。蛍子は「んふう……」と小さな吐息を漏らして、風間にもたれかかった。
「ふふふ、あれだけヤリまくられても、相変わらずきついな……。いいオマンコだ」
 逸物全体で蛍子の体温と脈動を感じ取りながら、風間が独り言のように呟いた。両脚で蛍子の下肢をがっちり絡め取り、お椀型の乳房を下からすくい上げる。風間の背後に回った林は、蛍子の細腕を後ろに引っ張る係だ。
 腕を引かれた蛍子の胸乳がグッと反り返った。太腿と乳房、そして膣までも拘束されては、蛍子はもう男たちに身を任せるしかない。
 道具を抱えた藤波が台所から戻ってきた。
「お、準備万端ですな」
「ふふふ、杭を打ってやったんだよ。蛍子が暴れんようにな」
「ははは。それじゃあ、はじめましょうか」
 藤波が砕氷を入れたドンブリと手拭い、そして金串を手にして、蛍子の右横に陣取った。カメラを構えた小野寺は左側からかぶりつき、震えおののく蛍子にヨーロッパ製のレンズを向けている。
 と、藤波が氷のかけらを摘まみ上げて、蛍子の右の乳首に押し当てた。
「ひっ!」
 蛍子の裸体がビクッと跳ねたが、結果、男ふたりの束縛が余計に強くなるだけだ。
「こら、じっとしとれ。まあ、オマンコがしまって具合がいいがな……」
「あ、なんなら麻酔はなしにしますか? その方が愉しめるんじゃあ?」
「いや、今日のところは麻酔をかけてやれ。リングはふたつだけじゃないんだろう? なら愉しみは後日に取っておこう」
「ふふふ、それもそうですね」
 押し当てられた氷が溶け出し、蛍子のなめらかな腹部に筋を描いた。そこを狙って、小野寺が最初のシャッターを切る。電灯の光だけでは心許ないが、ライカV型に備わったスローシャッターのおかげで、動きがなければ十分に鮮明な写真が撮れるのだ。


          *          *


 静寂のまま三分あまりが過ぎた。
「そろそろかな……」
 藤波は小さくなった氷をどけると、かじかんで埋没した乳首を爪の先で引っ掻いた。蛍子の反応はない。
「どうだ、蛍子。感覚はあるか?」
「あ……?」
 目をつむっている蛍子はなんのことか分かっていないようだ。
「もう一度やるから、目を開けてろ」
 藤波は乳房の麓から乳首の頂きまでゆっくり指先を滑らせた。蛍子は無感覚になった乳首に驚いている。
「どうだ? 感覚はあったか?」
 蛍子はぎくしゃくと首を横に振った。ついに運命の刻がきたことを悟ったのだ。
 後ろから蛍子の胸元を覗き込んでいた風間がニタリと笑った。藤波も歪んだ笑みを返し、手拭いで濡れた乳房を拭うと一本の金串を手に取った。鈍く光る金串を鼻先に突きつけられて、蛍子が慌てて目をつむる。
「じゃあ、風間さん。やりますよ」
「よ、よし」
 風間が蛍子の右の乳房をクイッと持ち上げ、それを受けた藤波は左手の三本指で乳輪を摘まんだ。引っ込んでいる乳首を引き出すと、右手に持った金串の先を乳首の根元にあてがい、グイッと力を込める。
 プッ、と音がしたかどうか……。だが、金串の先が皮膚を突き破った瞬間、その場に居合わせた四人の男たちはそう聞こえた気がしたのだった。
「ふうーっ……。どうだ、蛍子は?」
 藤波が大きく息を抜いて蛍子の顔を見た。蛍子はただ脅えているだけで、痛みは感じていないようだ。安心した藤波はさらに力を込め、金串を乳首のつけ根にグリグリねじり込んでゆく。
「お、おい、大丈夫か?」
 風間に問われ、藤波が頷く。
「ええ、もうちょっとで……」
 淡い桜色の乳首が大きくひしゃげている。このままでは乳首が千切れてしまうのではないかと思われた刹那、金串は見事貫通し、反対側に銀色の先端を覗かせた。
「で、出たな?」
「ああ、出ました……」
 四人の男たちがほぼ同時にため息を漏らした。藤波はさらに一寸ほど突き出るまで金串を進めてから、小野寺に目配せした。小野寺がハッと我に返ってシャッターを切る。桜色の乳首を真横に貫通する金串の画は、男たちの貴重なコレクションになるのは必定だろう。
「さて、いよいよ完成です……」
 藤波は金串をクルクル回しながら引き戻しはじめた。左手に持った金のリングの一端を金串の先端に合わせ、開いた穴が塞がらないうちに通してしまう。金串が抜かれ、金のリングだけが残った。藤波は開いていたリングの両端を合わせ、ネジをしっかりしめる。
「さあ、どうです? これがピアッシングです」
「ほう……」
「見事なもんですなあ……」
 男たちが再度ため息を漏らした。蛍子の愛らしい乳房の頂きで、金のリングかキラキラ光っている。装身具と呼ぶにはあまりに痛々しいが、指輪やネックレスでは到底演出できない、壮絶な美がそこにはあった。シャッターを押す小野寺の指も、あまりの感激に震える始末だ。
「……ほれ、蛍子。見てみろ。オッパイがいやらしくなったぞ」
 きつく目をつむっていた蛍子の耳元で、風間が囁いた。蛍子がおずおずと目を開けた。よほど驚いたのか、ヒュッと息を飲み込む。
「ふふふ……。これはな、おまえが奴隷だという証しなんだぞ。これで蛍子は立派な奴隷女だな」
「あ、あ……」
 蛍子は歯を食いしばり、裸体を強ばらせた。知らぬ間に乳首に改造が施されてしまったのだ。その驚愕たるや計り知れないだろう。
「ふふふ。かわいいぞ、蛍子……」
 風間はリングを摘まみ、クイッと引っ張ってみせた。するとどうだろう。乳首に穿たれた傷に小さな血の球がにじみ、白い乳房にツーッと短い線を描いて流れ落ちていった。乳首が温まり、血の巡りが戻ってきたのだ。
「ちょっと失礼。ネジを潰しますので……」
 藤波は蛍子の乳房に食らいつくようにして、奥歯でリングのネジを潰してしまった。
 おののくだけの蛍子の顔に、サッと諦念の色が広がってゆく。
(ああ……。もう、この輪は外れないのね……)
 しばしの間、満足げに蛍子の右の乳首を見ていた男たちが、またぞろ動き出した。
「よ、よし。それじゃあ、左をいこうか」
「は、はい」
 男たちの目が蛍子の左の乳首に注がれた。その四対の目には、これまでとは違った光が宿りはじめている。白い肌に伝う鮮血の赤……。薄皮を突き破る瞬間の恍惚感……。乙女の柔肌を傷つける、新しい悦楽を発見してしまったのだ。
「ふふふ。蛍子や、もっともっとスケベな身体にしてやるぞ……」
 風間が蛍子の左の乳房をグイッと握った。藤波は新しい氷を手にし、小野寺がカメラを構える……。
 その夜は深々と更けてゆき、深夜未明、蛍子は自身が懐妊していることを告げられた。それは左右の乳首に穿たれたリングを責められつつ、上下の口で男根を受け入れている最中のことだった……。


          *          *


 明くる朝。洗濯物を干そうと庭に出た枝美は、土手の上に立つふたつの人影に気がついた。士朗と良太だ。農業奉仕に行く途中なのだろうか、ふたりは肩に鍬を担いでいる。
 枝美が士朗に向けて会釈すると、当人ではなく、良太の方が駆け降りてきた。
「あの、すみません。お聞きしたいことがあるんですが……」
「あ、なにかしら?」
「えーっと、おばさんのところで養生している女の子、その、具合の方は良くなってますか?」
「え!」
 予想だにしていなかった質問に、枝美の片頬が引きつった。小野寺が息子に話していなかったのだと察したが、狼狽は隠しようがない。
「あの、森下蛍子って、女の子なんですけど?」
「あ、あのね……。じ、実はね……」
 良太にじっと見つめられ、洗濯籠を持つ枝美の手が小刻みに震えている。
「け、蛍子ちゃんね……。さ、昨晩、容体が急に悪くなってね……。小野寺先生に駆けつけていただいたんだけど、その、間に合わなかったの……」
「え! し、死んじゃったんですか!」
 枝美が頷くと、良太はガクリと頭を垂れた。
「そうか……。死んじゃったんだ……」
 良太は顔を上げずに一礼し、一目散に土手を駆け上がっていった。士朗が何かを言い、良太がそれに答えている。そのやり取りは二度三度繰り返されただろうか。ふと士朗が天を仰ぎ、その場に崩れ落ちた……。


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