玄関先で孝次を見送った良太は、萌葱村四天王の首領・風間元村長に電話を入れた。
「もしもし、良太です。いまし方、ガキが写真を取りに戻りました。……ええ、大丈夫です。たっぷり脅しときましたから。……で、どうします? ハーフ娘と遊んでみますか?」
受話器の向こうで、狒々爺の高笑いが響いた。
「……分かりました。場所は左隣の家で? ……はい、それでは」
良太は受話器を置いてひとつため息を抜き、ネクタイを緩めた。隣室に目を転じると、相も変わらず瑞枝が嬲られている。
瑞枝はいま、目隠しの手拭いを随喜の涙で濡らし、五人目の男に尻を抱えられていた。大小二度ずつアクメを済ませてへばったのか、誠司の股間に顔を埋めていても、口淫奉仕がおろそかになっている。
その様子をマリが凝視していた。驚きのあまり瞬きを忘れているが、止めどなく流れる涙に瞳を保護されているのだ。
良太がマリの脇に腰を下ろした。マリは一心に正面を見据えるだけで、良太の存在に気づいていない。この調子では、孝次が席を外したこともまだ知らないのだろう。
「……おい、娘っこ。おれの話を聞け」
マリが反応しないので、押さえつけていた子分が顎を掴んで振り向かせた。良太ともろに目が合ってしまい、マリはかすかに顔を歪める。
「おまえの彼氏な、ちょっと別の場所に運んだぞ」
「……む?」
マリは猿轡をかまされた口からくぐもった声を漏らし、濡れた瞳を左右に動かした。孝次の姿が消えていることにやっと気づき、さらに不安げな顔になる。
「ちょっと仕置きが必要なもんでな……。詳しい話は後々してやるが、あのガキ、村の大事な宝物を盗みやがったんだ。まあ、それはもういい。まずおまえが考えることは彼氏の身の安全と、もちろん自分の安全だ」
「……?」
「あんな腐れガキは殺しちまえって、大層怒ってる爺さん連中がいてな。おれたちも困ってるんだ。ところが、おまえが相手をしてくれれば、なんとか考え直してくれるそうなんだ……。なあ、いい条件だろ?」
突然のことにマリは判断つきかねている。そこに良太は早口で畳みかけた。考える時間を与えまいとの作戦だ。
「おまえら、結婚の約束はしてんのか? まだそこまでいってねえか? でも、大事な彼氏様なんだろ? だったらやることはひとつだ。おまえが彼氏を救うんだよ。いい話じゃねえか。愛する男のために我が身を投げ出す乙女……。うん、いい話だ。ついでに先生も救えるかもしれんぞ。先生は監督不行き届きってことで、ちと懲らしめられてんだが、元はといえばあのガキ悪い。だから、おまえが彼氏に代わって詫びるんだよ。それしかねえだろう?」
良太はマリの返事を待たずに、瑞枝が責められている隣室を指差した。
「実はあそこにいる怖いお兄ちゃんたちはかなりの変態でな、女をいじめるのが大好きなんだよ。ほら、あんな風に女をボロボロにするのがな……。で、田舎じゃめずらしいハーフ女も目茶目茶にしてみたいって言ってるんだ。そんなの嫌だろ? 瑞枝先生は大人だから、あんな風にされても一応耐えてるが、おまえはまだ子供だからなあ……。それに身体をボロボロにされたら、彼氏がお嫁にもらってくれなくなるぞ。そんなの困るよな?」
マリは瑞枝の姿を見据えて、微動だにしていない。もう陥落は間違いなかった。まだ十五歳の少女なのだ。ここまで恐怖を植えつけられてしまっては、逆らうことなどできはしないだろう。
そしていま、瑞枝は六本目の男根を肛門で受け入れて、あられもない嬌声を放っている。全身赤むくれになるほど痛めつけられもなお、瑞枝は肉の悦楽に泣き、身体中から汗と愛液を垂れ流していた。
「さあ、行こうか」
良太が硬直したままのマリを抱き上げた。ミチミチと肛門をえぐられている瑞枝にはそれが見えない……。
* *
半分空けた車窓から風が入り、孝次の頬を叩いている。
孝次は心の底から悔やんでいた。ほんの些細な好奇心がこの大過を招いてしまったのだ。あの写真を持ち帰った理由はただひとつ、オナニーに使うためだった。
たったそれだけの、実にくだらない理由で、森下先生をセックスの玩具にしてしまい、ガールフレンドを危険に晒してしまった……。
停車を告げるアナウンスが流れ、列車の減速が始まった。孝次はビクッと反応している。「見張りをつけたからな。分かってるな?」と、良太に吹き込まれた一言を思い出したのだ。
だが、だれが見張り役なのか分からない。だから一層怖い。車掌すらもやつらの仲間に見えてしまうのだ。スポーツ少年の孝次も、このときばかりはシュンとしなびて、まるで少女のようだった。
* *
いまや日常な世界から隔離された畑の中の六つの借家……。
その中の一棟では、この村に似つかわしくない碧眼の少女が、まさに生贄たらんとして座敷の中に転がっていた。
マリはきつい猿轡はそのままに手足の縛めを結び直され、裏返したちゃぶ台の上に固定されている。Tシャツとジーンズは身につけていたが、四肢を大の字に伸ばし、肘や膝の部分をちゃぶ台の脚にロープで括られているのだ。まるでひっくり返った亀だった。
「よし、こんなもんだな」
マリの束縛を終えた良太が立ち上がった。
「そろそろ爺さん連中がくる。いろいろスケベなことをされると思うが、別に逆らってもいいんだぞ。まあ、後のことは保証できんがな……」
婉曲な表現で少女の抵抗を封じ、良太は薄笑いを浮かべて部屋を出て行った。残されたマリは惚けた顔で天井を見上げている。
(わたし、なんでここに……。なんでこんなことに……)
そればかりを考えているのだ。自殺をほのめかす瑞枝先生、それを止めようとした孝次……。ふたりの行動と、いまの自分の処遇がどうしても一致しない。
少し考えれば、おびき寄せられたのだと気づくのだが、そこへ至るだけの心的余裕などあるはずがなかった。ただ、現状に脅え、瑞枝先生と孝次の身の安全を願うばかりである。
やがて、玄関先から複数の話し声が聞こえてきた。この段になって、やっとマリは現実を直視した。良太の囁き声が耳元にこびりついている。
(爺さん連中の相手をする……。いろいろスケベなことをされる……。ああ、わたしは犯されるんだ……。老人に犯されるのね……)
話し声はすぐそこまで迫っている。自分の未来を垣間見た瞬間、拘束されたマリの身体に生々しい恐怖が走った。
(ひとりふたりじゃない! もっといる! 助けて、先生! 助けて、孝次くん!)
マリは逃げ出そうとしたが、ちゃぶ台に拘束された身体はびくとも動かない。暴れれば暴れるだけロープがきつく食い込むだけだ。
老人たちが姿を現した。萌葱村四天王の狒々爺どもだ。
「むーっ! むむーっ!」
マリが目を剥いて唸った。老人たちも目を剥く。昨日、マリたちに会っている小野寺は別として、予想以上に美しく、大人びているハーフ少女の姿に感嘆したのだ。
喜びの第一声は、首領の風間が発した。
「おう、これはまた……。なかなかのべっぴんだな。小便臭い小娘かと思っとったが、瑞枝顔負けのグラマーじゃないか」
「へえ、まるで外国の映画女優ですな。うん、大したもんだ」
「なんとまあ、すごい身体だ。本当にこれで高一ですか? いやはや、肉食人種は侮れませんな」
「ええ、まったくです。日本の女子が子供に見えてしまいますよ。これじゃ、日本が負けるわけですな」
他の三老人も口々にマリを賞賛し、罠に掛かった獲物の周りに座り込んでゆく。マリの頭があるところを上座とすれば、元町長の風間がそこに座り、右に元村議会長の林、左に元国民学校長の藤波、そして末席の股間には小野寺が陣取った。
(あっ! 小野寺さん!)
事の次第を飲み込んでいないマリは、知った顔を見つけた安堵ですがりつくような視線を送った。だが、当の小野寺はヘラヘラと笑うのみだ。
(ま、まさか! お、小野寺さんもなの! そ、そんな……)
老人たちは暫時、俎上の若鮎がさかんに飛び跳ねるのを眺めて過ごし、マリの動きが緩慢になったと見るや、風間が切り出した。
「かわいいお嬢ちゃんがオッパイやオマンコを触らせてくれると聞いたから、わざわざやってきたんだが、こう暴れられてはなあ……。しょうがない。戻って仕事の続きをするか……。そろそろ、あのガキに止めを差さんといかんし……。なあ、みんな?」
「それも、そうですね」
問いかけを受けた三人も各々相槌を打って、一斉に席を立ちはじめた。一瞬、きょとんとしたマリだったが、老人たちが孝次を殺そうとしているのだと理解し、慌てて呻き声を上げた。
「むーっ! んむーっ!」
「ん、なにかな?」
風間がわざとらしく振り返った。マリは懸命に目線で訴える。
「どれどれ、ちょっと待ちなさい」
老人たちは再び元の位置に着席し、風間がマリの猿轡を解きにかかった。
「こっ、殺さないでっ! 孝次くんを殺さないでっ!」
「ほほう……。じゃあ、オッパイやオマンコを触らせてくれるのかい?」
マリはぐっと息を飲んだものの、すぐに頷いた。そこへ、左右から林と藤波が追い打ちをかける。
「舐めてもいいのか?」
「摘まんでも?」
「……は、はい」
マリはひたすら頷いた。大事なところを嬲られるくらい、孝次の命と比べたら他愛のないことだ。
(わたしがちょっとだけ我慢すれば……。そうよ、命より大事なものなんてないんだもの……)
哀れな少女は自分にそう言い聞かせている。そこに付け入るように、末席の小野寺が調子に乗ってこんなことを言いはじめた。
「ときに、マリちゃんは未通女かい?」
「え? あの……」
マリはその言葉を知らない。
「処女かってことだよ。まさか、あのガキとヤッちゃってはいないよね?」
それまで蒼白だったマリの顔が、一瞬で朱に染まった。もちろん、マリはまだ処女である。だが、この夏にもふたりは結ばれる気配があっただけに、ひどく狼狽してしまったのだ。
鬼の首を取ったかのように、小野寺はさも嬉しそうに質した。
「その様子じゃ、まだのようだな。図星だろう?」
マリはわずかにためらった後、小さく頷いた。その可憐な仕草に、老人たちは年甲斐もなく色めき立った。そこから先は風間が引き継いだ。小野寺に増して、残酷極まりない言葉を口にする。
「よし。それじゃあ、お嬢ちゃんのお初をいただくとするか。今風に言えば、初体験ってやつだ」
無情な宣告にマリの表情が固まってしまった。すると、風間が大仰に眉をひそめた。
「おや? だめなのか? それは困ったな……」
マリの頭の中は真っ白になっている。その光の中に、孝次の笑顔がかすかに浮かび上がった。同時に甘く切ない想い出が蘇ってくる。初めてのデート、初めて手を握ったこと、そして初めてのキス……。
だが、最後に辿り着くのは、やはり孝次の笑顔だった。そして、マリは意を決したように頷いたのだった……。
* *
瑞枝はひとり、座敷に伏していた。
膣と直腸から多量の精液があふれているが、それを拭う気力さえも残っていない。六人の男に責め抜かれた結果、腕も脚も筋肉がパンパンに張っている。昨夜来の鞭打ちの痛みさえ感じなくなるという有り様だった。
隣の茶の間では、良太と誠司がなにやらヒソヒソ話をしていた。瑞枝は泣き濡れた頬を畳につけ、じっとその様子を見ている。
(子供たちは……? お母さんは……?)
そんな考えがふつふつと浮かんでくるが、思考はまとまることもなく途切れてしまう。連続十数時間に及ぶ拷問と輪姦は、心身共に瑞枝を粉砕してしまったのだ。
ここに十人いた子分たちの姿はない。ひとりは孝次の尾行につき、残る九人はそれぞれ元の見張り場所に戻ったためだ。お昼過ぎには、写真を手に孝次が舞い戻ってくるだろう。
それで全ては終わる手筈だった。だが、勝利を確信したそのとき、男たちの頭にどす黒い欲望が渦巻はじめていたのだ。
そしていま、良太と誠司はそのことについて段取りを練っている。自分たちの欲望を効率良く達成するにはどうすればいいのかを、掌中にした三匹の生贄をどう料理するのかを……。
* *
元医者というわけでもないが、布ばさみを持つ小野寺の手はなめらかに動いていた。
包帯を裁断するかのように、サクサク、シャクシャクとマリのTシャツとジーンズを切り開いてゆくのだ。
一方のマリも診療台に横たわる患者のように、目をきつくつむり、歯を食いしばっていた。患部が剥き出される恐怖に耐えているのだ。この場合、患部とは乳房と生殖器に他ならない。まだ恋人にも見せてもいない秘密の場所だ。
四人の老人は、次第に露になってゆくマリの身体を四方から取り囲んでいる。磔になったマリは発作的に四肢を動かす以外はおとなしくしているが、なにもかも諦めているわけではない。恐怖と羞恥の重圧で身動きひとつできないだけだ。
「ふふふ、残すところあと二枚……」
Tシャツとジーンズが剥ぎ取られ、マリは下着だけの姿にされてしまった。十五歳とは思えぬ伸びやかな身体は木綿の下着よりも白く、肌の滑らかさはまさに白磁か白亜を思わせる。それだけではない。その美肌は満々と水をたたえ、瑞々しく張りがあった。
胴がそれほどくびれていないのが、アンバランスな幼さを感じさせている。そう、マリはまだ十五歳なのだ。これから女の悦びを知るにつれ、くびれるところはくびれ、まるで粗削りの塑像から優美な裸像が現れるように生まれ変わるだろう。まさに今日こそがその初日だった。
風間は八十五歳。一番若い小野寺ですら七十五歳。マリの若い肌は、老醜を晒す彼らにはもったいないほどの輝きだ。残り少ない老人たちの余生では、二度と拝められなかったはずの輝きである。それがいま眼前にある。産毛を逆立てて、脅えて震えている。
はさみを手にしたまま、小野寺が言った。
「マリちゃん、オッパイを見てもいいかな?」
マリがぴくりと反応した。
「いいんだね? それじゃあ、連慮なく……」
はさみの刃先がマリの胸元に滑り込んだ。老人たちが身を乗り出した刹那、プツリとブラのフロント部分が切断され、真っ白な双乳がまろび出た。その肉球はブラを左右に跳ね飛ばすほどの膨らみだったが、頂にある突起は痛々しいほどの紅色をしていた。
「ああっ……」
マリが呻いて、かすかに身をよじった。ふっくら盛り上がった乳房はタプタプと揺れ、肉の充実を自ら誇示しているかのようだ。
「ほう、立派なもんだな……」
「さすがは合いの子……」
「どれどれ……」
老人たちが口々にため息を漏らし、薄汚れた手を差し伸べてきた。最初に触れたのは首領の風間だ。まだら模様に染みの浮き出た手で、七十も歳の離れた乙女の乳房を鷲掴みにする。
「ひっ……」
「お、おおっ……」
感激のあまり、風間が唸った。
「うむ……。見事な手応えだ……」
風間は二度三度、乳房の芯に届くほど強くこね回すと、乳首をひと摘まみして、あっさりと次の者にその場所を譲った。焦る必要はないのだ。これからはいつなんどきでも、この美乳を味わえるのだから。
二番手は林、三番手は藤波、そしてしんがりを小野寺が務め、いよいよ次なる目標へ老人たちの目が注がれた。薄布をこんもりと盛り上げている乙女の丘だ。
小さいちゃぶ台ゆえ、マリの下肢は直角を超えて割り広げられている。ショーツの中心部分は二枚重ねになっているが、この状況ではなんの頼りにもなりはしない。
老人たちの黄色く濁った目がその部分に注がれている。目をつぶっていても、マリにはそれがはっきり分かった。乳房を剥かれ、揉まれてしまったことよりも、さらに何倍も大きな衝撃がその部分に襲いかかろうとしている。
(ああ、孝次くん……。ごめんなさい、ごめんなさい……)
マリは失神寸前だった。いや、いっそのこと、失神できたらどれほど楽だったか……。
ごくりと喉を鳴らし、小野寺がはさみを掲げた。心持ち手が震えているようだ。身を乗り出した他の老人たちも小刻みに震えている。
「それじゃ、いよいよ……」
はさみが下ろされ、ショーツの脇へ差し込まれた。プチッとゴムが飛び、薄布が縮こまる。さらにもう片方を切断され、白いショーツは驚くほど小さくなってしまった。だが、辛うじてマリの秘所に貼りついている。
小野寺がかすれた声を出した。
「お、お嬢ちゃん、オマンコを見てもいいかな?」
マリは硬直していて、返事どころではない。小野寺はそんなマリの顔を一瞥すると、少女の股間に息を吹きかけた。
「ひっ!」
驚いたマリが息を吸い込むのと同時に、辛うじて股間に貼りついていた薄布がひらりと剥がれ落ちた。
「おおっ……」
「出ましたな……」
「桃色とは……」
ついにマリの股間が白日の元に晒された。白い肉丘に刻まれた深々とした亀裂……。そこに幾重にも折り畳まれ、わずかにはみ出している桃色の花びら……。股間の陰りは頼りないほど薄く、剥き出しになってしまった女陰を覆うものはなにもない。
マリの呼吸が止まった。老人たちの呼吸も止まっている。ふと、誰かが呟いた。
「きれいな観音様だ。いや、マリア様かな……」
* *
(こりゃ、一雨くるかな?)
往診帰りの士朗は低く垂れ込めた雨雲を見上げ、自転車をこぐ足を速めた。午前中から往診に出掛けており、後は戻ってカルテをまとめるだけだった。
だが、ハンドルはあらぬ方向を向いている。昨夜、緊急入院した瑞枝の母親のことが気になっているのだ。父親の説明が曖昧だったことに加え、自分の頭ごなしに話がついたことも、その思いを一層強くしている。
(確かにおれは出来の悪い次男坊だよ。でも、一言相談してくれてもいいじゃないか……)
士朗が怒りに任せてペダルをこいでいると、路傍をせかせか歩く少年に出くわした。昨日の男子高校生だ。
(はて、アルバムを返すのは来月のはずだが? さては、森下先生に会いにきたのかな?)
瑞枝の名前が浮かんだ途端、士朗は反射的に少年を呼び止めていた。
「よお! えーっと、孝次くんだったかな?」
「あ……」
振り向いた孝次の顔はまるで死人だった。
「や、やあ……。森下先生に用事か?」
孝次が後ずさった。手にした鞄をぎゅっと胸に抱える姿は、さながら銀行強盗を済ませたばかりの犯人だ。不審を感じた士朗は自転車から下り、少年の目を覗き込みながらゆっくり尋ねた。
「今日は女の子が一緒じゃないのか? 確かマリちゃんだっけ?」
恋人の名を呼ばれ、孝次の顔が大きく歪んだ。
「お、おい……。な、なにかあったのか?」
士朗がにじり寄ると、孝次は駄々っこのように首を振りながら後ずさった。
「お、おい、ちょっと待てよ……。あ、もしかして森下先生になにかあったのか?」
士朗が孝次の腕を掴んだ。逃げようとする孝次をそれ以上の力で押さえ込む。
「おい! なにがあった! 森下先生になにがあったんだ!」
士朗は必死の形相だ。それを受けて孝次の表情も変化している。士朗を見る目に生気が戻ったのだ。そして孝次が叫んだ。
「た、助けて! み、瑞枝先生が!」
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