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  第三章

(あっ、熱い……)
 水風呂になるまで湯を薄めても、瑞枝は湯船につかることができないでいる。
 赤い格子模様が刻まれた全身は、まるで神経が剥き出しになったようで、空気が動いただけでもジンジンと染みてしまうのだ。湯船につかれば、それこそ拷問になってしまうだろう。
(せめて行水だけでも……)
 瑞枝は全身の痛みと闘いながら髪を四度洗い、身体も丹念に洗浄して、やっと糞尿の臭いを荒い落とした。
 次に瑞枝は洗い場の鏡の前に立ち、恐る恐る片足を上げて見た。出血がなかったので大事はないとは思うが、籐細工の布団たたきで滅多打ちにされてしまったのだ。手探りだけでは心もとなく、目で見て確かめておきたかった。
(ちょっと腫れてるかな?)
 だが、普段からその部分を見慣れていないため、どう変化したのかが分からない。やや大きめの小陰唇が肉溝からはみ出している様は痛々しいが、元からそうだったのかもしれないのだ。
(大丈夫よね……?)
 たぶん、陰毛があるために、そうひどい傷は負わなかったのだと、瑞枝は納得することにした。瑞枝がそう思ったのは、ここしばらく陰毛の手入れを怠っていたからだ。
 恋人と別れてはや半年。矢継ぎ早の異動。初めて受け持つ担任。そして母の看病……。プールには入り損ねたし、海にいく予定もない。そういったことが重なり、腋毛の手入れは心掛けても、下の方はそのままにしていたのだった。
(どうしよう……。いま、剃っちゃおうかな……)
 瑞枝は鏡に映った陰部をそっと開いたり、濡れた陰毛を揃えたりしている。そして、そんな些細なことで迷っている自分に気づき、深い自己嫌悪に陥った。
(わたし、なんてことを……)
 瑞枝は、良太たちに犯される我が身を思い描いていたのである。罪もない教え子たちを生命の危険に晒しておきながら、その張本人は男に抱かれる際の身だしなみや、避妊を考えている……。
(わたし、最低だわ……)
 糞尿まみれの身体を洗っているときにはまだ無心でいられたが、徐々に落ち着くにつれ、自分がしたことの意味、これから起こることの意味が、重くのしかかってきたのだ。瑞枝は洗い場にへたり込み、途方に暮れた……。


          *          *


「おい、瑞枝。いつまで入ってんだ?」
「す、すみません……」
 良太に急かされて瑞枝は風呂場を出た。素肌の上に浴衣だけを着るように言われて、糞尿の後片付けと夕餉の支度を命じられる。それは瑞枝にとって幸いともいえた。とにかく身体を動かしているうちは余計なことを考えずにいられるからだ。
「おい、なんか、つまみを作ってくれや」
「あ、はい……」
 強姦は後回しなのだろうか、男たちはのんびりとナイター中継を愉しんでいた。来客用に買い置きしていた日本酒を誠司が見つけ、勝手に酒盛りをはじめていたのだ。
 瑞枝は自身がまき散らした糞尿の後始末を終えると、男たちのために冷や奴とモロキュウを用意し、それから夕餉の支度に取りかかった。時刻は夜の七時五十分。意外と時間が経っていないことに驚きつつ、冷蔵庫を開け、さてなにを作ろうかと思案をはじめる。
 と、そこで瑞枝は気がづいた。
(あ! いまなら逃げられる! お隣さんに駆け込めば助かる!)
 次の瞬間、瑞枝は脱兎のごとく駆け出した。足音を立てないように裸足のまま表に飛び出し、一目散に右隣の家に向かう。気のいい初老の夫婦が住んでいる家だ。
 もちろん、この村の住人にはなんらかの形で萌葱村四天王の息が掛かっている。だが、人死が出るとなれば話は別だろう。きっと、匿ってくれる。そう思ってのことだった。
 瑞枝は呼び鈴を押すのももどかしく、隣家の玄関に飛び込んだ。茶の間から漏れた明かりは救いの光だ。瑞枝は安堵で崩れ落ちそうになりながらも精一杯の小声で叫んだ。
「お、おじさん! おばさん! 助けてください! 瑞枝です! 隣の瑞枝です!」
 だが、中から現れたのは見知らぬふたりの若者だった。
(え? この家は夫婦だけの世帯だったはず? この人たちは……?)
「あっ!」
 瑞枝は両手で口元を覆い、後ずさった。若者たちが着ている作業服の胸元に《高梁建設》と刺繍が入っている。なんと、良太の実家が経営する高梁グループの従業員だったのだ。
「あ、ああっ……」
 瑞枝は呻き、足をもつれらせながら玄関を飛び出した。むしゃらに走り、今度は向かいの家の戸を叩いた。
「す、すみません! 夜分すみません! 助けてください! お願いします!」
 だが、ここでも現れたのは高梁グループの社員二名だった。真っ黒に日焼けしたいかつい男ふたりが、むっつりした顔で瑞枝を睨んでいる。
「きゃああああっ!」
 瑞枝はついに叫び声を上げ、這いずるようにして表に飛び出した。夕暮れの路地を浴衣姿の瑞枝が駆ける。さながら狂女だったが、白っぽい浴衣は夕闇に映え、剥き出しの下肢と相まってしごく艶めかしい。
(な、なんで! どうして! どこに逃げたらいいの! ああっ、だれか助けて!)
 と、瑞枝が立ちすくんだ。六棟並んだ家屋から、それぞれふたりの男が現れたのだ。良太と誠司を含めると実に十二人!
(ああっ……。もう、だめ……)
 瑞枝は事の次第を悟った。家を空けさせられたのは瑞枝の母親だけではなかった。ここの住人すべてが良太の子分たちと入れ代わっていたのだ。高梁不動産が管理する六軒の貸し家は堤防に面した広大な畑に囲まれて建っている。まさに陸の孤島であり、どこにも逃げ場はない。
 立ち尽くす瑞枝を、十二人の男たちが取り囲み、じわりじわりとその輪を狭めてきた。瑞枝は両手をきつく握ってうなだれた。
(もう、だめなのね……)
 良太が瑞枝の前に立ち塞がり、彼女の顎を持ち上げた。
「瑞枝、やってくれるじゃねえか。あれほどいい子にしてろって言ったのによ。馬鹿な女だぜ……」
 良太は瑞枝の耳元に口を寄せ、ねぶるように囁きながら後ろに回った。同時に浴衣の帯を緩めにかかる。
「けっ、どうやら仕置きが足らんかったようだな。さてと、瑞枝先生はどんなお仕置きを所望かのかな?」
 帯が抜き取られた。
「あっ、だめっ!」
「なんべん言ったら分かる! おめえにノーはねえんだよ!」
 そう怒鳴るよりも早く、良太は諸手で瑞枝の浴衣の襟口を掴み、力任せに振り回した。
「ひっ!」
 一回転もしないうちに瑞枝の身体は浴衣からすり抜け、肩口から地面に落下してしまった。二転三転して、でんぐり返しの格好になってしまう。むろん全裸だ。
「……くっ、ううっ」
 苦痛に呻き、立ち上がろうとする瑞枝の背中を良太が踏みつけた。
「ぎゃっ!」
「おらっ!」
 すかさず良太は瑞枝を表側にひっくり返し、喘ぐ腹部を踏みつけた。
「今度は逃がさんぞ!」
「んぐっ! ひいいいっ!」
 瑞枝は哀れにも、生きながらピンで止められた蝶のように手足をばたつかせている。その淫靡な姿を、十人からなる男たちがかぶりつきで注視する。
 高梁建設、高梁不動産、高梁商事。良太の一声でかき集められた子分たちは、五十代から十代までと年齢層が幅広い。共通しているのは肉食獣を思わせる冷徹な目つきだ。食いものになりそうな弱者を絶えず探している、そんな目つきなのだ。
 男たちの目に、いまの瑞枝はどう映っているだろうか? ある者にとっては高嶺の花の美人教師……。またある者には鼻持ちならないインテリ女……。
 子供の頃の瑞枝を知る者は、やっぱり美人になりやがったなと頷き、密かに身体を狙っていた者は、こいつが村を出る前にコマしておけばよかったと悔やんでいることだろう。
 だが、誰の目にも明らかなのは、瑞枝は知的に美しく、しかも裸体はとろけるように淫らな村一番のべっぴんなのだ。どこへ連れ出しても自慢できるとびっきりの女だった。
 その瑞枝が仕置きの跡も痛々しい太腿や乳房を揺すって、真っ裸で地べたに這いずっている。いつも颯爽と自転車をこいで丘の上の中学校に通っている瑞枝が、恥ずかしい部分を丸出しにして、屈辱に身悶えしているのだ。夢幻じみた光景に、男たちは男根を膨らませている。
 そんな子分たちの心情を察したのか、良太は瑞枝の腹を踏みしだきながら言った。
「瑞枝。おめえにはもう一芝居打ってもらいたかったんだが、いまいち信用できねえからなあ。いっそ、芝居は止めにするか……。うん、それがいいな」
 良太はひとりで納得して、子分たちを見渡した。ニヤニヤ、ニタニタ笑って瑞枝の裸体を見ていた男たちが、一瞬でしゃんとする。
「よーし、予定を変更するぞ! ガキどもがくる明日の朝まで、瑞枝とヤッてヤッてヤリまくってくれ! いいか、いっときも瑞枝を休ませるんじゃねえぞ! とことんまでヤリまくって、ボロきれにしちまえ!」
「うおーっ!」
「よっしゃーっ!」
 男たちの雄叫びが上がった。瑞枝の裸体を見れただけで御の字と思っていただけに、男たちの狂喜乱舞は夕闇を揺るがすほどだ。
「いやあーっ! やめてえーっ! ゆるしてえーっ!」
 途端に瑞枝が泣き叫けんだ。良太は暴れ出した瑞枝を強く踏みつけて黙らせると、おもむろに蹴り転がした。
「そりゃあ! てめえら、持ってけ!」
「うひゃあーっ!」
「いやっほーっ!」
 転がった瑞枝の身体に、良太と誠司を除く十人の子分たちが一斉に群がった。
「げへっ! げへへへっ!」
「おらっ! おらおらーっ!」
 男たちは奇声を発し、必死に逃れようとする瑞枝を二十本の手でがんじがらめにしてしまう。
「だめえーっ! だめええええっ!」
「うっひょー! 瑞枝先生とヤれるなんてよ!」
「見ろよ、この乳! この太腿! くーっ! たまんねえ!」
「よーし、オマンコがぶっ壊れるまでヤッたるぞ!」
「いやあああっ! ゆるしてえええっ!」
 赤く腫れた全身を鷲掴みにされる痛みも忘れ、瑞枝は涙を流して懇願している。だが、押し寄せる男たちに聞く耳はない。瑞枝は神輿のように担ぎ上げられ、家の中へと連れ込まれてしまった。
 路地に残った良太と誠司が、顔を見合わせて苦笑している。ふと、誠司が腕時計に目を落とした。
「……始発列車とバスを乗り継いでも、ガキどもの到着は八時ってとこですね。たっぷり半日ありますが、大丈夫ですか?」
「ふむ、十二人がかりで十二時間か……。大体五十発コースってとこだな。きついことはきついが、ま、大丈夫だろう。輪姦で死んじまった女の話なんぞ、聞いたことがないしな」
「それもそうですね」
 家の方から、男たちの荒れ狂った怒号に交じって、瑞枝の慈悲を乞う悲鳴がかすかに聞こえてきた。母娘ふたりの団欒の場であったその家は、逢魔が刻を経て修羅場に変わりつつある。
 夜風に乗った瑞枝の悲鳴に、しばし耳を傾けていた良太が歩き出した。
「じゃあ、おれらも愉しむとするか」
「はい」
 十二匹の淫獣が村一番の美女を貪り、喰い散らかす夜はこうして始まったのだった……。


          *          *


 結局、孝次は一睡もできなかった。
 マリもそうだったのだろう。駅売店の横に立っているマリの姿は、傍目にも焦燥していると分かる。
「や、やあ」
「あ、おはよう、孝次くん。あれから電話あった?」
「いや、なかったよ」
「……そう。先生、大丈夫かな?」
 マリは、瑞枝が自殺するのではないかと考えていたのだ。情報が少ないだけに、悪い方、悪い方へと物事を考えてしまう。それは孝次も同じだ。直接、瑞枝の声を聞いた分、マリよりもその懸念は強い。
「だ、大丈夫だよ。先生、おれたちに会いたいって言ったんだから……。それよりマリちゃん。このことはだれにも話さなかったよね?」
「う、うん。大丈夫」
「よし。それじゃ、いこうか」


          *          *


 始発列車とローカルバスを乗り継ぎ、田舎道を移動すること約二時間。
 その間、孝次とマリはほとんど口をきかなかった。いや、きけなかったのだ。瑞枝先生のことを語る行為それ自体が、彼女への侮辱になるような気がしたからだ。
 それほど瑞枝にまつわる醜聞は多い。だが、大概は誹謗中傷を根とする噂話だ。曰、奇麗だからと自惚れて二股をかけている云々……。曰、派手な格好を好むのは妾の血だからだろう云々……。
 だが真実は違う。二股云々の話は、ただ単に瑞枝をめぐって男性教師ふたりが喧嘩しただけだし、格好が派手なのではなく、瑞枝の容姿が派手なだけなのだ。また、瑞枝は生徒にも慕われているため、どうしても妬み、嫉みの対象になってしまうのだろう。
 そして、マリもまったく同様の境遇で苦しんでいた。学業ができ、スポーツも万能、その上、碧眼の美少女となれば陰険な上級生が見逃すはずがない。そんなこともあり、高校に入ったマリがバレーボールを辞めたのは当然のことだった。
 そういった事情を知っているふたりだったが、ひとつだけ、これは本当ではないかという噂話があった。瑞枝が田舎に引っ込んだのは、結婚の約束までした恋人に捨てられたためで、妾の子という出自が災いして破談になったらしい……という噂だ。
 瑞枝が自殺に至る理由が思い当たるだけに、孝次とマリはそのことに触れるのが怖かったのだ。


          *          *


 到着した萌葱村は曇り空に覆われ、昨日とはがらりと違った印象だった。
 空気が淀み、空がのしかかってくるような息苦しさがある。まるで、どこか見知らぬ里に迷い込んだかのようだ。
 昨日、瑞枝の家で一休みしていたふたりは、迷わずに再訪することができた。全裸の瑞枝が足蹴にされた場所とも知らず、ふたりは路地を進んでゆく。
 その様子を、それぞれの家に潜んだふたり一組の男たちがカーテンの隙間越しに窺っていた。淫獣たちのぎらつく視線はむろんマリに集中している。栗色の髪、青い瞳、そして少女から大人へと変貌しつつある伸びやかな身体……。貪り食うに値する極上の仔羊だ。
 孝次に合わせたのだろうか、ジーンズ、Tシャツ姿のマリはボーイッシュに見えなくもない。だが、よくよく観察すれば乳房や尻が瑞々しく発達していることが分かる。着ているものが質素な分だけ、スタイルが強調されてしまっているのだ。
 玄関前に立ったふたりは、いま一度頷き合い、孝次が呼び鈴を押した。応対に出てきたのは予想に反し、見知らぬ男だった。良太である。
「あ、も、森下先生はいらっしゃいますか?」
「山本くんと田川さん?」
「は、はい。そうですが……」
「お待ちしてましたよ。さあ、どうぞ」
 良太は愛想よく笑ってふたりを招き入れた。孝次たちの目には、きちんと背広を着ている良太は瑞枝の同僚か親戚と映っている。
「お、おじゃまします」
 ことがことだけに、余計な詮索をすることもなく、ふたりは無防備にも家の中へ上がってしまった。
「さあ、そこにかけて。いま、森下先生を呼びますから」
「は、はい、お願いします」
 茶の間に通されたふたりが座布団に座るのを待って、良太は隣室に続く襖に手をかけた。
「森下先生、お客様ですよ」
 孝次とマリの目が点になった。隣室に四つん這いになった全裸の瑞枝がいたのだ。裸の男もいる。誠司だ。なんと、瑞枝は誠司の股間に顔を埋めているではないか。
(え? 先生? なに? あっ!)
 まず、孝次がそのことの意味を認識した。小野寺診療所から盗み出した写真の中に、これと同じ構図のものがあったからだ。(女は口でもセックスができる!) 孝次があの写真から学んだことのひとつだ。
 やや遅れて、マリも事態を覚ったようだ。高校生ともなればだれだって知っているし、みな知りたがっている。それがいま眼前で繰り広げられている。
「やっ、いやあっ!」
「せ、先生!」
 マリが顔を覆ったすぐ横で、孝次が勢いよく立ち上がった。見れば瑞枝の目は手拭いで塞がれ、耳にはヘッドホンがはめられている。瑞枝は視覚と聴覚を奪われ、一方的に犯されているのだ。これは強姦だ。
「先生! 森下先生!」
 孝次が呼んでも、瑞枝は黙々と口唇奉仕を続けている。まるで教え子のことなど眼中になく、肉の快楽に没頭しているかのようだ。
「森下先生っ! 先生ってば!」
 憧れの先生が手の届かないところにいってしまうような気がして、孝次は悲痛なまでに叫んだ。しかし、その声は瑞枝の耳に微塵も届いていない。ヘッドホンが大音響をがなり立てているからだ。
「ち、ちくしょう! 先生から離れろ!」
 そう叫ぶや、孝次はちゃぶ台を飛び越えようとした。だが、良太にジーパンの裾を掴まれて、もんどり打って倒れてしまった。そこへ密かに侵入していた子分たちが飛びかかり、押え込んでしまう。
「わっ! は、離せ!」
「きゃっ! こ、孝次くん!」
 子分たちの手際は見事だった。瞬時に孝次とマリに猿轡をはめ、手足を束縛してしまったのだ。一切の抵抗を封じられた少年少女が元の位置に並んで座らされるまで、わずか三十秒という早業だった。
 まるでお雛様のように並ばされた孝次とマリに、それぞれふたりの男が貼りついた。鈍く光る匕首をちらつかせて恐怖を煽る。
「へへっ、おとなしくしてろよ」
 良太は舞台が整ったと判断し、瑞枝に男根を与えている誠司に声をかけた。
「おい。はじめるぞ」
「あ、はい」
 誠司が瑞枝の頭からヘッドホンを外した。手拭いの目隠しはそのままだ。次に、六人の子分たちが瑞枝の元にわらわらと群がり、我先にと素っ裸になった。みな筋骨隆々の男たちで、股間の逸物もたくましく起立している。
 裸になった男たちが、瑞枝の背後に列を作って並んだ。先頭の男が怒鳴る。
「瑞枝先生! マンコとケツ、どっちがいい!」
 すると、瑞枝は咥えていた男根から口を離し、弱々しい声で応えた。
「……あ、あの、オ、オマンコでお願いします」
「ん、ケツはいいのか? 瑞枝先生はアナル責めが大好きなんだろう?」
「あ、はい……。で、でも、お尻は次の方に……」
「そうか、まあいい。どれ、先公の腐れマンコをほじってやるか!」
「お、お願いします。み、瑞枝の腐れオマンコをほじってください……」
 よもや隣室に教え子がいるとは知らず、瑞枝は淫らな言葉を連発している。むろん、強制された上でのことだったが、瑞枝の口からこぼれる淫靡なやりとりは、孝次とマリに相当の衝撃を与えて止まない。
 誠司に両肩を支えられて、瑞枝が尻を持ち上げた。ピンと伸ばした下肢を上体の方に寄せ、白く丸い尻を高々と掲げる。
 見れば、その尻は太腿同様幾多もの鞭跡で彩られている。いや、鞭打たれたのは尻と太腿だけではない。背中から脇腹、そして乳房に至るまで、顔面以外のすべてに鞭跡が刻まれていたのだ。
 あまりのむごたらしさに、孝次とマリの瞳が歪んだ。この世の地獄を見た思いだった。
「もっとだ! もっとケツを上げろ! マンコがよく見えねえぞ!」
「す、すみません……」
 瑞枝の従順さには秘密があった。実は昨夜、瑞枝は十二人の男たちに寄ってたかってぶちのめされ、血の涙を流しながら服従と忠誠を誓わされていたのだ。そればかりではない。精をみなぎらせた十二本もの男根に囲まれ、延々朝まで口と膣と直腸を嬲れ続けたのだ。
「よーし、いま入れてやるぞ! 腹一杯食わしてやる!」
「あ、ありがとうございます……」
 一番手の男が、上を向いている瑞枝の尻を手繰り寄せ、女陰を指でまさぐった。一晩中撹拌されてドロドロにとろけたそこは、軽々と三本指を受け入れてしまう。
「あ、あん……」
 だが、荒淫三昧で一時的に緩んでいても、キュッキュッと確かな手応えが返ってくる。鞭打たれて泣く泣く身につけた、哀しい淫技だった。
「へへっ、一晩中ヤられまくったってのに、まだ食いついてきやがるぜ。この腐れマンコは底無しのドスケベマンコだな、ええ、おい?」
「は、はい……。み、瑞枝のオマンコは底無しのドスケベオマンコです……。ど、どうか、瑞枝のドスケベオマンコを目茶目茶にしてください」
「よーし、それほど言うんなら、目茶目茶にしてやるか!」
 男は膣内に溜まった大量の精液を掻き出してから、黒々とそそり立つ男根を水平に掲げ、一気に瑞枝を貫いた。
「あふっ!」
 瑞枝の下肢がブルッと震え、尻の肉がキュッとすぼまった。こればかりは演技ではない。昨夜から途切れることなく女肉は昂ぶりっぱなしなのだ。鞭打たれ、足蹴にされないためにも自らを鼓舞しなければならなかったのである。
「そりゃ! うりゃ! どうだっ! おらっ!」
「あ、あんっ! ああんっ! ああっ、いいですう!」
 日々の労働で鍛え抜かれた男は疲れを知らない。男は串刺しにした瑞枝の尻を持ち上げんばかりに、男根を繰り出し続けた。
 怒濤の突き上げを食らう度に、赤く腫れ上がった瑞枝の下肢はまっすぐ伸びて、形の良さを見せつけているかのようだ。内腿に伝い流れた精液がキラキラ輝き、凄惨な中にも淫靡さをにじませている。
 ふたりの教え子たちは喉元に匕首を当てられ、顔を伏せることも目をつぶることも許されずにその様子を見せつけられていた。ほんの一日前、笑顔で再会した瑞枝先生が、いまは汗と精液にまみれた肉地獄に落ちている……。そのギャップがあまりに大きすぎるため、孝次もマリも半ば惚けていた。
 少年少女を観客にした輪姦は飽くことなく続き、いつしか三人目の男が瑞枝を尻を抱えていた。
 と、そのとき、孝次の耳元で良太が囁いた。
「……どうだ、坊主。瑞枝先生、いい顔してるだろ?」
 孝次は眼球だけを動かして良太を見た。瞳孔がポッカリ開いて、その目はまるで空洞だ。
 良太はククッと笑って、さも嬉しそうに言った。
「ペットになっちまったからだよ。お前たちの先生は人間を止めちまったんだ。痛いのより気持ちいい方を選んだんだ。分かるか?」
「……?」
「おまえらの先生はもう元に戻れない。心も身体もペットに作り替えられてしまったんだ。マゾペットだ」
「……?」
「つまり、あれだ。セックス人形になっちまったんだよ。平たく言えばオマンコ奴隷だな。これなら分かるだろ?」
 孝次は目を瞬いた。良太の言っている意味がおぼろげに分かったのだ。森下先生は全身痣だらけになりながらも、嬉々として男たちの玩具になっている。心と身体は別物なのだ。人間は暴力から逃れられない……。
「で、ここで相談なんだが……。おまえが持ち帰った写真、あれ、だれにも見せてないよな?」
(ま、まさか!)
 孝次の目がカッと見開かれた。瞬間身体が小刻みに震えはじめ、孝次は一段高い恐怖へ駆け上がった。
(そ、そんな! ぼ、ぼくのせいで!)
「まあまあ、そう固くなるなよ。で、だれにも見せてないんだな?」
 良太に肩を揉まれ、孝次はやっとのことで頷いた。
「そうか。写真はおまえの家にあるのか? 親に見つからないよう、エロ本と一緒に隠してるのか?」
 孝次が再度頷いた。良太はにっこり笑ったが、目の奥に冷たい炎をたたえている。
「よし、いまから戻って取ってこい。大至急だ。ただし、気をつけてくれよ。おまえがへまするとガールフレンドの安全が保証できんからな……。分かるな?」
 良太は凄味をきかせてそう言うと、チラリとマリの方を見た。マリはふたりの男に左右を固められ、喉元に匕首を当てられている。そうやって、否応なしに恩師の痴態を見せつけられているのだ。
「いいか、写真さえ戻ってくれば、おまえたちは無事解放してやる。もちろん、先生も一緒だ。だが、ちょっとでもふざけた真似をしたら……」
 良太はあえて語尾を濁し、孝次の猿轡に手をかけた。ちょうど、瑞枝の尻が四人目の男に渡ったところだった……。


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