神話とかお伽話では「難題を課された主人公を、敵側の女が助けてくれる」というものとして表現されるパターンを扱います。『キン肉マン』や『キン肉マンII世』では、「苦戦する主人公を、敵側だった超人が助けてくれる」というパターンです。
主人公が試練を経て獲得する「支配者の娘」のパターンにも、色々あります。
死か結婚で扱った「神の娘」なら、本人が難題を出して、主人公が突破するというパターンです。
花嫁の父で扱った「天女の父」の場合は、妻の父が難題を出します。
今回扱う「悪魔の娘」なら、異国の王が難題を出して、娘が援助するというパターンです。
「悪魔の娘」のパターンの場合は、「娘」本人が本来の賞品ではありません。
主人公の目当ては王位とか、宝物だったりします。
ギリシャ神話の「魔女メディア(メーディア)」の初登場する場面のあらすじを紹介します。
勇者イアソンは、それを持ち帰れば、王位を継承できるという、金の羊毛を求めて異国を訪れました。
そこで異国の王に金の羊毛を下さいと頼むと、彼はイアソンに難題を課します。
その王の娘、メディア。イアソンに一目惚れした彼女は、イアソンに愛を告白します。イアソンは彼女を妻とするという約束をして、魔女である彼女から魔法の道具と助言をもらいます。
イアソンはメディアの助けにより、見事難題を解決しました。
しかし王は、金の羊毛を渡しませんでした。
約束を破った父親に、メディアは怒り、イアソンを手引きして、竜に守られた金の羊毛を奪います。
そして金の羊毛を手に入れたイアソンは、メディアを連れてその国から船で逃れます。
パターン化すると、こんな感じでしょう。
起 王位や宝物を求める主人公が、異国の王である男に、試練を与えられる。
承 異国の王の娘が主人公に一目惚れする。
転 主人公が試練を突破するのを、試練の与え手の娘が魔術的な力で援助してくれる。
結 主人公は宝物を奪い、その娘を連れて逃亡し、自分の国に帰ってくる。
これは口承のメルヒェンにも多いパターンで、フランスでは「緑の山」という話として記録されています。
母親のいない家庭の息子が、父親の留守に財産を遊んで食いつぶしました。自殺しようとした彼の前に悪魔が現れて、一年と一日後に悪魔の住んでいる緑の山に来れば、なくした財産を倍にして与えてやろうといいます。息子は承諾します。そして約束の日が来て、息子は緑の山に旅立ちます。そこで彼は悪魔に迎えられ、3つの難題を与えられます。彼が困っていると悪魔の三人の娘の内、末娘が魔術的な力で助けてくれます。彼は悪魔の娘の力で、難題を解きます。その褒美として、悪魔は彼に三人の娘の中から一人を選ばせます。再度の娘の助言により、主人公は末娘を花嫁としてもらいます。そして初夜の晩、悪魔は婿を殺そうとするのですが、二人はすでに逃げ出していました。
この話には、もう少し続きがあるのですが、省略します。参考『フランス民話集』
『キン肉マンII世』ではこれに似た話が、Vジャンプ版『キン肉マンII世 ~オール超人大進撃~ (1)』のチェックです。
世話係のミートが帰ってこないので、主人公の万太郎達がd.M.pの洞窟(地下の国)に行きます。サンシャイン達がミートを人質として、万太郎達に3名の超人と戦うという試練を与えます。主人公達は3つの試練を突破します。3つ目の試練がチェックに勝つことです。ところが、ミートは取り戻すのが難しい場所に置かれ、それがいわば4つ目の試練となります。この時、主人公達をチェックが援助してくれます。サンシャインは、チェックに万太郎達と一緒に行けといい、万太郎はチェックを連れて洞窟から逃げ出します。
万太郎が主人公で、ミートが宝物で、サンシャインが異国の王で、チェックが悪魔の娘で、キッドとガゼルが家来といったところでしょう。数百年前のフランスで、仕立屋さんが語っていそうなお伽話ですね。話の構造だけなら。
V jump版d.M.p編は「主人公の妻がさらわれる話」と「姫の父親が娘に勝負で勝ったら、娘をやろうという難題を出す話」と「悪魔の娘に助けられる話」をあわせたような話です。「姫の父親が娘に勝負で勝ったら、娘をやろうという難題を出す話」の例としては『グリム童話集 2 』に収録されている「六人男、世界を股にかける」<KHM 71>があげられるでしょう。王女に徒競走で勝ったら、王女をやろうとこのメルヒェンの王様はいいます。これはどこの馬の骨ともしれない男である主人公に、姫の代わりに金が渡されるという話ではありますが、パターンとしては近いです。この話の詳しいあらすじは旅の仲間で紹介しています。
V jump版のd.M.p編は、骨組みを洗い出すとそのまんまメルヒェンです。ですが、伝統的なメルヒェンに父親あるいは母親にあたる存在が、自分を裏切った「娘」をかばって死ぬ(死にかける)話は、たぶん、ないでしょう。これは梶原先生の『あしたのジョー』の、丹下段平がジョーをかばう場面へのオマージュでしょう。
逃げる娘と相手の男の仲を父親が認めるという程度の話なら、日本神話にあります。『古事記』の根の国訪問が「悪魔の娘」のパターンです。
主人公の大穴牟遅神(おほなむちのかみ)は自分の遠縁である須佐之男(すさのお)を頼って、地下の国(死の国)に行きます。出迎えた須佐之男(すさのお)の娘である須勢理毘売命(すせりびめのみこと)は、主人公に一目惚れします。そして二人は夫婦の仲になります。須佐之男は、一日目は蛇のいる部屋に主人公を寝かせ、二日目はムカデと蜂の部屋に泊まらせました。両日とも、姫のくれたお守りのおかげで主人公は無事でした。また、野原に矢を探しに行かせて周囲から火を放ちました。姫が英雄が死んだと思って泣いていると、ネズミの案内で地下に逃れた主人公が矢を手にして無事な姿を現しました。その後、須佐之男は主人公を呼び寄せて、「頭のシラミをとってくれ」というのですが、頭にいたのはシラミではなく、ムカデでした。主人公はこれも姫の助けで切り抜けます。やがて須佐之男は眠り込み、主人公は武器を奪い姫を連れて逃げます。須佐之男は彼らを途中まで追いかけてきて、主人公を認め、姫はやろうといいます。
参考『古事記 (上)』 次田真幸 講談社学術文庫
日本神話には上記のように、「悪魔の娘」のパターンがありますが、日本昔話ではあまり聞きません。例えば「地蔵浄土」では地下の世界に行った主人公を助けるのは、お地蔵さんです。参考『日本昔話100選』
「千の顔をもつ英雄」に、この「悪魔の娘」のパターンについての言及があります。ケルトの英雄ク・ホリン(クーフーリン)が魔術師で女武芸者のスガサフ(スカアハ)に秘術を伝授してもらおうとする場面です。
怪物にしばしばみられるように、女武芸者スガサフには一人の娘がいた。外界から隔絶して暮らしていたこの若い娘は、宙空から母の砦めがけて降り立ったかの青年ほどに美しいものをこれまでみる機会がなかった。かれの意図をきいた娘は、超自然的剛勇の秘法を授けてもらえるよう母にとりいる最上の策を語って聞かせた。
『千の顔をもつ英雄 下』ジョゼフ・キャンベル
キャンベルが「しばしばみられるように」と書くということは、「怪物の娘」は神話の研究者から見ても多いパターンなのでしょう。ほんの数行だけ引用しましたが「異国の英雄に一目惚れして援助する怪物の娘」という話であることは、おわかりいただけるでしょう。
なぜこの文章で「チェックは悪魔の娘」という表現になるかというと、「悪魔の弟子」や「悪魔の息子」が宝物を求め、試練に苦戦する主人公を援助する、というパターンが伝統的に存在しないからです。
「主人公が敵に試される。困った主人公を助けてくれるのは、敵側の女である。」
このパターンは神話やメルヒェンの「おきまりの」パターンですが、援助者はほとんどが「女」です。
敵である怪物の「母」や「妻」や「娘」や「女の召使い」が、主人公を助けます。主人公が女で、主人公の敵が魔女ということになっても、主人公を助けてくれるのは「魔女の娘」だったりします。しかもたいがい「美しい」とか形容されます。
怪物の「父」や「夫」や「息子」や「男の召使い」は、原則としてありません。なぜかは知りません。
それに一話完結のメルヒェンだったら、男をお持ち帰りしても困るでしょう。「結婚してハッピーエンド」にできません。連載漫画の『キン肉マンII世』の場合は、文字どおり手駒として使うから良いのですが。
『キン肉マン』の初期に「オカマラスがキン肉マンを助けてくれる」という話があることから察するに、「敵方の女が助けてくれる」という話は、ゆでたまご先生にとっても「よくある話」なのでしょう。女ではなく、オカマ怪獣になっているのは、それが紀元前からあるような古典だからこそ、そういう形でパロディにしているのでしょう。
Vジャンプ版『キン肉マンII世』でも、主人公(万太郎)が最強の敵(ドゥームマン)と闘う際に、助言してくれるのは女性(OKAN)でした。チェックと同じで、万太郎が闘って倒した相手でもあります。
もちろん、この「怪物の娘」に例外が存在しないと言うわけではありません。「宝物の手に入れ方を教えてくれる怪物の息子」という話は、読んだことがあります。
『中国民話集』から紹介しましょう。
笛の得意な主人公が、海辺で笛を吹いていると、竜宮に招かれます。彼は竜宮で笛を吹き、竜王と竜王の息子に気に入られます。竜王の息子は、父親が主人公の褒美として、望むものをやろうといった時、この自分の胸に下げている珠を望みなさい、と助言します。それは望む食べ物が出てくる珠でした。
この話は「竜王の息子の持っている珠」ではなく「竜王の娘」をもらってかえるという、「竜宮女房」パターンのバリエーションとして存在します。この「竜宮女房」は、よくあるパターンで日本神話にもあります。「浦島太郎」も古くは、助けた亀が乙姫で、主人公と結ばれるという話でした。
『エッダ』の「ヒュミルの歌」にも「宝物の手に入れ方」を教えてくれる「怪物の息子」が登場します。
ある時、神々の宴会のために大量の酒が必要になりました。巨人ヒュミルの息子であるチュールは、友人である雷神のトールに「父親が大量の酒を造れる巨大な鍋を持っている」といいます。トールはその鍋が欲しいと思い、巨人の若者チュールは、父親の所へトールを案内します。チュールの祖母は敵意を持って二人を迎えますが、チュールの母は、息子とその友人を気遣ってくれます。帰ってきた父親のヒュミルは敵意を露にして、トールに難題を課します。そのうちのひとつが「魔法のカップを割ること」でした。そのカップは力自慢のトールの手によっても、割れませんでした。トールが苦労していると、巨人の妻であり、チュールの母である女性が「巨人の頭にぶつけなさい」と教えてくれます。その助言によって、トールはカップを割ります。試練を突破したトールは、巨人の大鍋を手に入れ、チュールを連れて、神々の所に帰ろうとしました。ですが、巨人が仲間を連れてトール達を殺そうと追ってきたので、トールは巨人達を鎚(ミョルニル)で撃ち殺しました。
しかしここでも、いざという場面で主人公(トール)と怪物の息子(チュール)を助けてくれるのは、怪物の妻なのです。彼女は仲間にはなりません。「敵の弱点の助言」は、これまで読んだ西洋の神話や民話の中では女性の特権でした。この話が「助言してくれた怪物の娘を連れ帰る」でないのは、ここでの主人公であるトールという神にすでに妻がいるというのが、理由のひとつではないかと思います。
さてこれまで、神話や民話の例を引いてきましたが、ゆでたまご先生の子供時代に放映された特撮番組からも、「悪魔の娘」の例をひとつ挙げておきましょう。
1972年放映開始の『ウルトラマンA』の25話「ピラミッドは超獣の巣だ」は、こういう話です。
ある時、地下から巨大なピラミッドが現れました。それと共に謎の女、みちるが現れます。彼女を怪しむヒロインの夕子、彼女を助けるヒーローの北斗。実はみちるは敵のスパイで、主人公側の基地に爆弾をしかけようとします。彼女を追いかけて、夕子は敵の人質になってしまいます。夕子に阻まれて爆弾を仕掛けるのに失敗したみちるは、敵のボス(男)に、もう用済みだ、そしておまえは人間に心を引かれている、死ね、といわれます。
主人公は危険を冒して、人質のヒロインを救います。
やがて超獣(怪獣)が出現し、みちるは危機に陥ったウルトラマンAを助けるために、超獣を笛で操り、ボスに処刑され、星になりました。
悪魔的な王とその魔法使いの娘。主人公はその王の操る怪物と闘い、敵方の娘から魔術的な援助を受けて、勝利。
まさに、古典です。
王女メディアのように、「胸にエロスの矢が刺さった(一目惚れ)」とかいう設定がないので、この話では主人公が敵と知らずにみちるを助ける場面があります。
この時点ですでに「悪魔の娘」は「日本の子供に馴染み深いパターン」になってそうですね。人間が感動する物語のパターンは決まっていて、それは何千年も前から語り継がれ、この現代日本のテレビの脚本や漫画にも使われているのです。
週刊プレイボーイの方のノーリスペクト編では、チェックの役割は「試練を与えられた主人公に、敵の攻略法を助言する」です。あの展開には、なんで仲間になったのに闘わないんだ? という疑問がある方もいらっしゃったようです。しかし、これは「王女メディア」も「美しいヒュミルの妻」も、助言するだけで闘わなかったとか、そういうものではないかと思います。もっと直接的には『スターウォーズ』の「レイア姫」が要塞の攻略法を助言するのが主な役割で、ほとんど闘わないようなものじゃないか、ということでしょう。
男が男に敵の攻略法を教えてくれる話自体が、神話では珍しいです。『オデュッセイア』に男神であるヘルメスが、主人公に女神キルケの攻略法を教えてくれる話がありますが、これは「倒すべき怪物が女」であるが故の例外でしょう。男が男の怪物を倒す際に、男が援助してくれて、連れ帰る人質も男という神話は、色気がなさすぎます。『キン肉マンII世』はそんなノリですが。
「父を裏切って、主人公の従者になる怪物の息子」という人物は、神話やメルヒェンに存在しないのでしょうか?
ギリシア神話に、異国の王子が英雄である主人公を援助しようとする話が、あることはありますが、オチが違います。
(ヘラクレスは)結婚しようと思って、オイカリアーの支配者エウリュトスが、彼とその息子たちを弓術で負かした者に褒美として娘のイオレーを妻として提供しているのを知った。そこでオイカリアーに来て、弓術で彼らを負かしたが、結婚はできなかった。息子の中の年長のイーピトスはヘーラクレースにイオレーを与えようと言ったが、エウリュトスと他の息子たちは、子供を作って、また生まれた子供を殺しはしないかと心配だと言って、拒否したからである。暫く後にアウトリュコスによってエウボイアから牛が盗まれた時に、エウリュトスはヘーラクレースのしわざであると思ったが、イーピトスはそれを信ぜず、ヘーラクレースの所に来て、彼がアドメートスのために死んだアルケースティスを救って、ペライから来るのに出遇い、ともに牛を探すようにと誘った。ヘーラクレースはその約束をして、彼を歓待していたが、再び気が狂って、ティーリュンスの城壁から彼を投げた。
『ギリシア神話』アポロドーロス
これは姫(イオレー)の父親(エウリュトス)が自分と息子たちに勝負で勝ったら、娘をやろうという難題を出す話です。主人公(ヘーラクレース)は勝利しますが、父親は娘を渡さず、主人公に好意を持った息子のひとり(イーピトス)が援助しようとしてくれるが、援助が成立しません。その主人公に負けた息子は主人公との出会いによって、父親に反抗するのですが、後には主人公に殺されるという話です。
古代ギリシアでは、主人公に負けた異国の王子が「勇者様、あなたを信じます」とか言ってきて、友情が芽生えるというのは、ありえないのでしょうか。
ただ、日本の少年漫画だとしてもそれは珍しい話かもしれません。
主人公の危機に、かつて主人公に負けた相手が、援助者として現れるという話が『巨人の星』にあります。
「打撃テスト」の回です。この回では巨人軍の入団テストを受ける星飛雄馬の所へ、ライバルであり友である花形満が助言に来ます。星は、花形の助言によって試練を突破します。
美形で社長の息子の花形が「援助者の王女」でしょう。巨人軍を束ねる川上監督が「試練を与える異国の王」です。ただし花形は結果を見届けると、その場を立ち去り、その後は主人公と敵同士です。チェックのように、そのまま仲間になったりしません。敵が次々に仲間になるゆでたまご作品とは違い、梶原作品では仲間は増えません。むしろ去っていきます。
ギリシア神話から、もうひとつ面白い例を紹介しましょう。「援助」が成立せず、征服者の王と、その所有物となった王女が死ぬ物語です。
トロイアの王女カッサンドラ。美しかった彼女はアポロンに求愛され、予言の能力を贈られます。しかし彼女は、アポロンの求愛を断り、アポロンは彼女の予言をだれも信じないようにという呪いをかけます。
やがて彼女の国は、ギリシアと戦争します。戦争の理由はスパルタの王メネラオスの妻ヘレネーを、トロイアの王子パリスがさらったからです。
トロイアの城壁に苦戦した、ギリシア方は木馬の中に兵士を潜ませ、それを置いて一旦退却します。これが「トロイの木馬」の語源です。ギリシア軍が逃げたと思ったトロイア軍は、戦利品として木馬を城内に引き入れます。
カッサンドラは、その木馬の中に兵士が潜んでいると、敗戦を予言します。しかしトロイアの者は、その予言を信じませんでした。夜中、木馬の中から出てきた者達は、城の門を中から開きました。
トロイアはギリシア軍に敗北し、カッサンドラの父親である王は殺され、カッサンドラは捕らえられ、ギリシア軍の総大将であるミケーネ王アガメムノンの奴隷として、ギリシアに連れ帰られます。そして彼女は、アガメムノンと己の死を予言しますが、誰もその予言を信じず、アガメムノンとカッサンドラは殺されます。
参考『ギリシア悲劇
1 アイスキュロス』
これがメルヒェンならば、アガメムノンがカッサンドラの助言を聞いて、王位を狙う敵を返り討ちにするのがお約束パターンですね。征服者に援助者ではなく戦利品として扱われる異国の姫は、悲劇の予言者に過ぎない、ということでしょう。
「主人公(アガメムノン)の弟の妻がさらわれ、主人公が中心になって取り返しに行く」で「敵の城を落とし、敵の王を殺す」で「戦利品が敵方の王女」という話でもあります。妻役がミートで、敵の王がサンシャイン、王女役がチェックとするならば、V jump版のd.M.p編とかなり近いパターンです。
このカッサンドラ(カサンドラ)の名前は、現代でも比喩として使われます。「カッサンドラ」といえば「警告する者」。「カッサンドラの予言」といえば、「無視される警告」というように。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 カッサンドラ
プレイボーイ版のチェックが不吉な予言ばかりするようになったのは、ケビンの死の可能性を指摘した、悪魔の種子編辺りからでしょうか? 悪魔の種子編で、ケビンのセコンドにチェックが割り当てられていた理由は、元悪魔超人ってことで「助言する敵方の女性」の役割を、振る気だったんでしょう。タッグ戦になって、意味が無くなりましたが。
オリンピック編では、「敗戦の予言者」はむしろミートです。チェックはガゼルと共に、不吉な予感を覚えたミートを背負って駆けつける役割です。悲劇を予感する側ではあります。
タッグ編でのチェックは、棺桶から転がり落ちてきた状態で、吐く台詞が「気を付けて下さい」です。不吉な予兆を感じ、鋭い警告を発するが、悲劇を避けられない、チェックの現状はカッサンドラです。
ところで、『キン肉マン』や『キン肉マンII世』に、チェック・メイトの他に「悪魔の娘」に相当するパターンがあるかということですが、あります。
チェックと同じく、悪魔超人でありながら、主人公に負けた後、悪魔将軍を裏切って、主人公を援助する『キン肉マン』のバッファローマンが、まず当てはまります。『キン肉マンII世』の悪魔の種子編でも、バッファローマンは万太郎とミートの援助者でした。V jump版のチェックと『キン肉マン』のバッファローマンは、「ミートを助ける」という点で、共通します。
『キン肉マンII世』では、悪魔超人でありながら、万太郎に負けた後、悪魔将軍を裏切って、ミートを助けるアシュラマンがバッファローマンの類似パターンです。ザ・ニンジャも悪魔の胎内で、ミートの足を受けとめたりしていました。プレイボーイ版のチェックも時々ミートを助けようとしたりするので、悪魔超人が良心に目覚めると、ミートを助けるんじゃないでしょうか。
ザ・ニンジャは『キン肉マン』では、悪魔将軍の部下であり、王位編でアタルの部下でした。直接主人公の援助者として振る舞うような行動はありませんでした。『キン肉マンII世』では、火事場のクソ力チャレンジという難題の与え手である、アタルの部下であった人物として再登場します。そして主人公の援助者となります。ですが、この場合はザ・ニンジャが、アタルの部下から万太郎の部下になるわけではないので「悪魔の娘」のパターンとはいいがたいです。ノーリスペクト編では「援助してくれる試練の与え手の娘」の役割が、チェック、ニンジャ、ミートの三名に分割されているのでしょう。王位編で主人公を助けに来るネプチューンマンも、元完璧超人ながら「悪魔の娘」のパターンには違いありません。
再登場した時のバッファローマンとプレイボーイ版のチェックは「ミートを助ける」ではなく「主人公を助ける」で、こちらの方が古典的な「悪魔の娘」のパターンには沿います。「主人公を助ける」という点では、オカマラスがキン肉マンを助ける話も近いです。ビビンバは王位争奪編で、キン肉マンの両親を監禁されていた場所から救い出していました。これも「主人公を助ける」でしょう。
ビビンバは文字どおりの「娘」ですが、ビビンバの父親は「怪物」でも「悪魔」でもありません。ビビンバは「女戦士」や「動物花嫁」の色合いが強いからでしょう。チェックは「怪物」や「悪魔」と呼べるであろう、サンシャインの養子に近い弟子です。バッファローマンは、まさに「怪物」であり「悪魔」である悪魔将軍の部下です。ザ・ニンジャもそうです。オカマラスはキン骨マンの部下というか、一味です。
「悪魔の娘」のパターンを「敵の部下だった相手が、後に主人公を援助し、主人公の仲間となる」と解釈するならば、むしろ『キン肉マン』と『キン肉マンII世』の名場面とは、「敵だった相手が援助してくれる場面」である場合が多いのではないでしょうか。きっと数千年前のギリシア人も、メーディアが「お助けしましょう」という場面にロマンを感じ、数百年前のフランス人も悪魔の娘が、主人公を助けてくれる場面でメルヒェンを感じたのでしょう。
敵が改心して仲間になること自体は、日本の古典にもありますが、「誰かの部下」であることが強調されることは、あまりありません。一人で暴れているような男が、主人公に倒されて仲間になるのが「西遊記」や「力太郎」や「弁慶と牛若丸」のパターンです。息子の父親に対する反抗と依存の葛藤が、『キン肉マン』シリーズの男が演じる悪魔の娘のパターンには表現されているのでしょう。