リレー小説


 

3-2
 蠱惑的に揺れていた女の太股がいきなり止まった。

 思わず視線をあげると、まともに女の視線とぶつかった。
 夜目にもわかる、いや、暗い夜道だからこそ映える肌理の細かな白い肌は、まるで光を放っているかのように俺には見える。スーツからやさしい形の顎へとのびた首筋の肌の美しさは、もはや顔の作りがどうのこうのといったレベルを遙かに超えていた。思わず舌を這わせたくなるというのだろうか、しっとりとした、どこか濡れたように輝く女の肌に、思わず生唾が湧いてくる。

 だが、そんな肌の素晴らしさを遙かに上回って、女の顔は素晴らしかった。視線がまともにぶつかった目は、アーモンド型のすっきりとした形をしていて、それを彩る睫毛はほのかにカールし、僅かな風の流れにもふるふると揺れている。そして、微かな月明かりを何倍増しにもさせて照り返らせているような黒目がちの夢見るような瞳。一瞬で、俺はその瞳の虜になっていた。人間としての格の違いとでも言うのだろうか?他人を疑うこともなく、妬むこともなく、憎むこともない。そんな純粋な光が満ちあふれている。その瞳の前に自分が存在することがひどく女にとって迷惑なことだとでもいうように、俺は女の瞳に自分の姿が映し出されているのを何故か恥じた。だが、同時にいつまでもその瞳の中に映っていたいとも強く思う。

 気づけば、俺は、思わずその女の前に膝を屈していた。そうしなければならない気がしてならなかった。自分はこの女性とまともに視線を合わせてよい存在ではないのだという、想いが心の中を満たしていく。

 ……一体、この女は何者なのだ?
 そんな疑問とは裏腹に、俺は視線を地面に落としたまま、女の言葉を待ち続ける自分に気づいていた。



Written by 登呂鳳

 


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