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 フェリア初陣  〜赤い天使の物語より〜 書いた人:北神的離

第二章
 はぁい!あたし、フェリア・D・ラティオ☆
 ラティス国史上最年少の特級騎士にして盗賊団『炎の隼』討伐隊の斥候やってまーす☆
 斥候、それは敵情や地形をひそかに探る兵隊さんのこと。
 地味だけど、結構重要な仕事なんですよねぇ・・・。
 さて皆さん、こんな薄暗い森の中、居るのは可愛らしい女の娘一人、
 これってとっても危険な状況だと思いませんか・・・?

    第二章  山中の作戦(マウントミッション)

 フェリアは木々に囲まれた道無き道を走る。
 この山の何処かに、盗賊団のアジトがあるはずなのだ。
 フェリアは半袖にミニスカート、その上にマントを羽織るという、典型的なシティーシ−フ(都会の盗賊)の格好をしている。
 山道を歩くには、あまりにも軽装だが、
「これが斥候のフォーマルスタイルなんですよ。」
 と彼女が言い放ったので、ミゼットは額を押さえながらも特別に許した。
 当初はその上に、大風呂敷を背負い、ほっかむりを着けていたのだが、ミゼットが攻撃呪文を詠唱し出したので、フェリアはそれをマッハのスピードで脱ぎ捨てた。
 腰には、サーベルとウエストポ−チが下げられていて、その中には財布や1日分の食料と飲物、おやつなどが入っている。
「結構広いわね、この山・・・。」
 斥候はフェリアの外に三人選ばれ、それぞれ東西南北の方向から山に入り、盗賊を発見次第報告に戻る。もし戻らない時も、正午と共に本体が山に入り、斥候と合流し、その報告を元に、盗賊の位置を割り出し、それを殲滅する。これが今回の作戦の概要である。
 ちなみにフェリアの担当は北側だった。

「これじゃあたしはともかく、ほかの連中なんて、正午までに戻れないんじゃないの?」
 フェリアは独り言を呟きながら、ウエストポーチからりんごジュースを取り出し、ちゅうちゅうと飲む。しかし、走るスピードは少しも落ちてはいない。
 鬱蒼と生い茂る木々・・・。所々木の根っこが地上に張り出している。
 しかしフェリアは、まるで無人の野を走るかのように駆け回る。
 この分ならば、正午を待たずして、持ち場の全てを廻り切ってしまうだろう。
 そう思ったフェリアは足を止め、近くの木に腰掛けた。
「ああ、疲れた。少し休みましょ。」
 言いながらウエストポーチから、クッキーを取り出す。しかし彼女の息は少しも乱れておらず、その顔には、汗一つ浮かんでいない。多分、おやつを食べる為のいい訳だろう。
 ぱくぱく・・・
「うーん、デリシャス!やっぱり働いた後のクッキーは美味しいぃ!この為に生きてるって感じね。」
 まだ仕事終わってないだろう、フェリア。
 クッキーを食べ終わると、のどが乾いてくる。フェリアはぶどうジュースを取り出すと、それを一気に飲み干した。
「ああ、おいしかった。」
 ぶどうジュースの空箱を、クッキーの包み紙とともに投げ捨てるフェリア。
 ここには、彼女の行動を注意する人物が居ないのでやりたい放題である。
「さて、まだまだ時間は有るし、食べたらお昼寝お昼寝。」
 本当にやりたい放題だな、お前。
 マントを地面に敷くと、その上にごろんと仰向けに寝転がるフェリア。
 青い空、新緑の木々の間に見え隠れする白い雲、心地よく差し込む日の光・・・。
「ああ、ずーっとこうしていたいわ・・・。」
 もはや当初の目的も忘れかけ、まどろみの中に沈み込みかけるフェリア。

 ぶるっ

 突如、フェリアの背筋に悪寒が走った。
 彼女は慌てて飛び起きる。
 顔をわずかに赤く染め、きょろきょろと辺りを見回すフェリア。
 慌ててマントを身に着けると、茂みの中へといそいそと駆け出していく。 
 別に誰も見ていないのだから、その場で「して」も構わないように思えるが、フェリアも一応女の子、羞恥心がそれを許さないのだろう。
「・・・少し、飲みすぎたかしら?」
 フェリアが最後に「済ませた」のは、日が昇る少し前だった。
 性格はどうあれ、やはりフェリアもラティオ家のお嬢様である。
 男性の兵士達と鉢会うかもしれない時間帯にするのは、少々気が退けたのだ。
「ここら辺でいいかな・・・っと。」
 一番暗そうな茂みの奥深くに来るとフェリアはきょろきょろと辺りを見回しながらしゃがみ込み、パンツに手を掛ける。
 するり
 パンツを下ろし、その下から、フェリアのまだ毛も生えていないスリットが露になる。
 フェリアは、そのまま体の緊張を緩めていく・・・。
 がさり
 突如、フェリアの後ろで音がした。
「誰!?」
 慌ててパンツを引き上げ、立ち上がり、振り返る。
 茂みから顔を出したのは、小さなねずみだった。
 フェリアは、ふう、とため息をつくと、にこりと微笑み、
「もう、えっちさん☆」
 と、人差し指で、ねずみの額を突つこうとしたが、ねずみは驚いて逃げてしまった。
「・・・ふう。」
 フェリアはため息をつく。思わぬ邪魔が入り、しそこなってしまった。
 かさ、かさ、かさ・・・
 再びパンツに手を掛けようとして、フェリアはその手を止める。
 遠くから、数人の足音が聞こえてきたのだ。
「・・・何なのよ、こんな時に・・・。」
 討伐隊は、正午から行動を開始する手筈だ。
 となると、この足音は、恐らく盗賊達のものだろう。
 鉢合わせになるのはまずい、フェリアは思った。
 勝てない訳ではない。ただ、かなり切羽詰ってる為、あまり派手に動き回ると「出て」しまう恐れがあった。女の子として、それだけは避けたい。
 そーっと、その場を離れようとするフェリア。
 ぱきぃ
 落ちていた木の枝を踏んでしまい、それが思いの他大きな音を立てた。
 足音が止まり、彼らの注意がこちらに向く。
(のひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・)
 フェリアは、間抜けな叫び声を上げそうになり、慌てて口を押さえた。
「おい、何か音がしなかったか?」
 男の声が聞こえる。
「ねずみか何かだろ、ほっとけほっとけ。」
「でもよぉ・・・。」
 男の一人は、なおもこちらをじっと見ているようだ。
(しかたないわねぇ・・・)
 男達が動かないので、業を煮やしたフェリアはある作戦を実行に移す事にした。
「ちゅうちゅう・・・。」
 秘儀、動物の鳴き真似をして、どっか行ってもらおう作戦。
「ほら、ねずみだろ、さ、行こうぜ。」
 ありきたりな上、情けない作戦だが、効果はあったようだ。
 ところが・・・
「待て、今の音の大きさからして、猫かもしれんぞ。」
(なんですってぇ、こっちは非常事態なのに、早くどっか行ってよぉ・・・)
「・・・にゃー・・・。」
 仕方無く、猫の鳴き声を演じるフェリア。
「いや、牛だろう。」
「ぅもー・・・。」
「いやいや、馬だろう。
「ひひーん!!」
「おっと、ケルベロスかもしれん。」
「わんわんわんわんわんわん!!(三重奏)」
「待て待て、スライムだろう、これは。」
「ちょっと、あんたばかぁ?スライムが鳴くわけないでしょ。大体あんな粘液生物、声帯が無いじゃないの。あんた、脳味噌に虫でもわいてんじゃないの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
 ざっざっざっざっざ・・・
 男達はしばらく沈黙した後、フェリアの居る茂みへと歩み寄ってくる。
(ひぃぃ、作戦失敗ーいっ!!こうなったら、作戦其の2っ!!)
 フェリアは、落ちている石ころを数個拾うと、近くから遠くへ順に投げていく。
 とす、とす、とす、とす・・・
「あっちだ、追え!!」
 石の落ちた音が足跡に聞こえ、男達は石の投げられた方に走っていく。
「よっしゃ、作戦其の2、偽の足音作成作戦大成功!」
 フェリアは小声で呟きながら、彼等とは反対側へと駆け出す。
 直後、急ブレーキをかけた。
「おい、待ちな・・・お前、こんなとこで何してる?」
 30歳程の、2m位の巨漢が行く手をさえぎった。
 肌は赤銅色に焼け、身体中には無数の古傷がある。背負った長剣は、かなりの年季が入っているようだ。フェリアの作戦を瞬時に見破った事からも、おそらく彼が盗賊団のリーダーだろう。
「あ、あたしはただの通りすがりの美少女です。ちょ、ちょっとお花を詰みに・・・。」
 彼女としては別に嘘はついていないつもりだ。
「ほう、そうかい・・・じゃ、その腰に下げている剣は何だい?」
「いえ、これは、習い事で、お花とお琴と剣術を少々嗜んでいるもので、をほほほほ。」
 口に手を当て、精一杯微笑むフェリア。しかし身体をはしる緊張と限界が近い為、どうしても声が裏返ってしまう。
「ふぅん・・・で、これは一番重要な事なんだが、その剣の柄にこの国の騎士団の紋章が刻まれてるのは何故なんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
 ちゃき
 フェリアは無言で剣を抜いた。
「ほう、俺とやる気か、面白ぇ。」
 男も剣を構える。
(チャンスは一度、恐らくそれ以上戦ってたら、こいつの仲間が戻ってきちゃう。もし、 しくじったら・・・・・漏れる!!!)
 フェリアは目を閉じ全神経を辺りに張り巡らせ、出てしまわないように下腹部に力を込める。
 暗闇の世界の中、彼女自身と男だけが見える。
 男の息遣い、心臓の鼓動、じりじりと踏み出す足、それらが全て、今のフェリアには感じる事が出来た。
(何だ、この気迫は・・・ガキだと思って油断してると痛い目を見そうだ・・・)
 男は隙を見つけ、何とか攻撃を繰り出そうとするが、目の前に居る少女は、目を閉じているにもかかわらず、一分の隙も無い。
 お互い少しも動けない膠着状態が続く・・・。
 しかしそれは今のフェリアには耐えがたいものだった。
(もう、早くかかって来てよ!このままじゃ、あたし、あたし・・・)
 その時、天の助けか、樹の上で休んでいた鳥が一斉に羽ばたいた。
「うおぉぉぉぉ!!」
 それが合図のように、男が踏み込み、剣を振り下ろす。
「見えたっ!」
 フェリアはかっと目を見開くと、後ろに跳躍する。
 攻撃を受け止めては、その衝撃で出てしまう恐れがあった為、かわすしかなかった。
 フェリアの頭のあった位置を男の剣が通過する。
(勝った!)
 フェリアは思った。後は一歩踏み込んで剣を軽く一閃させれば、男が長剣を立て直すより先に、その首筋を切り裂く事が出来る筈だ。
 しかし、次の瞬間、
 ごきぃ 
フェリアの後頭部に衝撃と鈍痛がはしり、次の瞬間、フェリアは気を失った。
 対する男は、しばらく何が起こったのか理解できないでいた。

 しばらくして、盗賊団の部下達がやってきた。
 倒れているフェリアを見つけ、部下達は男に尋ねる。
「これ、ボスがやったんですかい?」
 男は首を振ると、無言でフェリアの後を指差す。
 フェリアの後ろには、巨木が一本立っているだけ・・・。
 無用だと思うが、一応解説しておく。
 フェリアは目を閉じ、男の次の行動を読む事だけに集中していた。
 つまり、側面や後方は、彼女の知覚範囲外であった。
 そんな状態で後ろに跳んだものだから・・・もう、お判りだろう。
「アホだ、こいつ・・・。」
 盗賊の一人が呟いた。




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