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 フェリア初陣  〜赤い天使の物語より〜 書いた人:北神的離

第三章
うぃーっす!あたし、フェリア。
 暗い部屋、灰色の石畳、そして身体をきつく縛る荒縄・・・。
 ああ、なんて素敵な場所なの!!
 ・・・ごめんなさい、嘘ついてました、とってもつらいです。
 さて、そんなこんなで盗賊団の方々に捕まっちゃったあたしですが、みんなが助けに来るまで、こんな所でむざむざ捕まっているつもりはさらさら有りません。
 だーいじょうぶ、もう逃げ出す方法は考えてありますから。
 さて、ここで質問です。
 あなたは大事な人を裏切ってしまった事は有りませんか・・・?

    第三章  F・F(ふん縛られた・フェリア)

「・・・・・・・うつ・・・。」
 フェリアは、目を覚ました。
辺りを見回すが、周りは闇に覆われていて何も見えない。
(ここはどこ・・・・?)
「もごがごご・・・・?」
 呟やくが、上手く喋れない。猿轡でも噛ませられているのだろう。
 腕も後ろに縛られている。
 腰に下げていた剣と、ウエストポーチが無い。盗賊に没収されたか。
 慌てて服を調べるフェリア。
 どうやら衣服には手をつけられた形跡は無いようだ。
 フェリアは安堵する。彼女はまだ12歳の少女、盗賊達も、こんな小さな少女に手を出すつもりは無いということか、彼女は思った。
 下着もちゃんと穿いている。
 下着には、わずかに冷たい感触があった。
(う、嘘・・・あたしったら・・・しちゃった?)
 フェリアは狼狽し、太腿を調べる。
 もし、あの場で倒れた後、してしまっていたとしたら、その醜態は全て盗賊達に見られてしまったということになる。
 数秒後、調べ終わったフェリアはほっとため息をついた。
幸い太腿に、流れ出した形跡は無かった。
 恐らく後頭部を強打した衝撃で、少し出てしまった程度だろう。
(良かった・・・。でもこの下着、早く脱いでお洗濯しないと、染みになっちゃう・・・。) 
そんな事心配している場合か、フェリア?
 ぶるっ
 フェリアの下腹部を激しい欲求が襲う。
 少し出てしまったとはいえ、まだ大部分は体の中にある。
 どのくらい気絶していたのか判らないが、その時間分、下腹部に再び充填されている筈である。早く排出しない事には、最悪の事態を招いてしまう。
(うーっ、早く誰か来てよ・・・早くしないと、もう・・・)
 フェリアがもじもじと太腿を擦り合わせていると、部屋の中に一筋の光が差し込んだ。
 慌てて足の動きを止めるフェリア。相手が誰であれ、恥ずかしい欲求を悟られたく無い。
「よう、お目覚めかな、お嬢様。」
 盗賊の一人が、部屋を覗きこんだ。

「おい、こいつ、どうするよ・・・。」
 フェリアが連れられた先は、盗賊団のアジトの奥にある、作戦会議室兼食堂だった。
 その部屋の柱の一つに、フェリアは縛り付けられた。
(もう、あまりきつく縛らないでよ!)
 フェリアは顔を歪める。荒縄に腹部を圧迫される為だ。
 部屋の中には、20人程の盗賊達が酒を片手に、捕らえた少女の処遇で議論している。
「結構上玉じゃねぇか、どこかの娼館か、人買いにでも売れば、結構な金になるぜ。」
「でも、こいつまだ子供だよ。売れるかな?」
「お前、まだ世の中のこと知らないな。この位の頃から色々仕込めば、商品価値も出るし、世の中には、こんな小さなお子様が大好きな変態も結構いるもんだ。なぁ?」
「・・・何で俺に振る?」
「ま、綺麗な子だが、俺には守備範囲外だ。こんなのはさっさと売っぱらって・・・」
「馬鹿か?てめぇ等は。」
 話を聞いていた盗賊団のリーダーが、彼等に言い放った。
「ボス、どうしたんですか?」
 リーダーは、フェリアの下げていたサーベルを、テーブルの上に皆に見えるように放る。
「こいつの下げていた剣だ。柄には騎士の紋章が施されている。これがどういうことか判るか?」
「うへぇ、こいつ騎士だったんですかい。よく人は見かけによらないとは言うが・・・。」
「で、それがどうかしたんですか?」
「・・・あのなあ、騎士がこんなとこで剣下げて一人でほっつき歩いてるとでも思うか?こいつの仲間がいる。目的は恐らく・・・俺達の討伐!」
 静まりかえる一同。
 数瞬の沈黙の後、リーダーは続ける。
「まずは、こいつから色々聞き出す事があるだろ。」
「・・・拷問、ですか。」
「喋らない時はな。」
「ちょっとぉ、待ちなさいよ!」
 いきなりフェリアが話に割って入る。
「さっきから聞いてれば、売るだの犯すだの拷問するだの・・・もし、あたしに酷い事してみなさい、後で酷い目に会わせてやるんだから!」
 一斉に振り返る一同。
「犯すとは、誰も言ってないけど・・・。」
「お前みたいながきんちょに欲情する奴なんかこの中にゃいねぇよ。お前、自意識過剰なんじゃねえの?」
「うるさいわね!!」
「・・・・・おい・・・誰か、あいつの猿轡、解いたか・・・・・?」
「いや、まだ誰も何もしていないはずだが・・・。」
 リーダーが、フェリアを見る。
 手は後ろに縛られたままだ。
 腹の荒縄もそのままである。
 右足の靴と靴下が脱いである。
(なるほど・・・そういう事か・・・) 
彼が指示を出すと、傍らの男が壁に掛けてある荒縄を手に取り、フェリアの元に行き、
「器用だな。」
 と、言いながら両足も柱に括り付けてしまった。
「おい、念の為に腹の縄も縛り直しておけよ。縄抜けとかするかもしれないからきっつーくな。」
「出来ないわよ!忍者じゃあるまいし・・・きゃうっ!あ・・・あまり、きつく縛らないでよ・・・くうぅ・・・。」
 縛り直された腹の縄が、フェリアの下腹部を更に締めつける。
 たまらずうめき声を上げるフェリア。
「おい、こいつ縛られて妙なうめき声上げやがるぜ。」
「感じてんじゃねえの?腰も振ってるし。」
「んなわけないでしょ!!」
 顔を真っ赤にして怒鳴るフェリア。
「お前が感じてるか感じてないかなど、どうでもいい。さっさと尋問を始めるぞ。」
 言いながら、フェリアの目の前に椅子ごと寄ってくるリーダー。
 残りの部下も彼女を取り囲む。
「さて、お嬢様、お名前は?」
 椅子に座りながら尋ねるリーダーに、フェリアは毅然と言い放つ。
「知らないわ!たとえ知っていたとしても、あなた達なんかに絶対言うもんですか!」
 普通、名前を聞かれた時に、この様な返答は相応しく無いと思うが・・・。
「ふん、それならばお前の身体に聞くまでだ・・・おい!」
 リーダーは言うと、傍らに控えている部下に指示を出す。
 部下は、フェリアの目の前まで歩み寄る。
 その手には鞭が握られている。
 彼は、無言で手首を翻した。
 ぴしぃ
 フェリアの足元に鞭が振り下ろされ、派手な音が閉ざされた空間内に響き渡る。
 首をすくめるフェリア。
 男は、鞭を自分の掌に軽く叩きながら、喋り始める。
「この鞭は特別製でな、通常の30倍の強度を誇っている。お前みたいな子供の肌など、一振りで血が滲み、肉が裂けるぞ。さあ、痛い目に会いたく無か」
「フェリア・D・ラティオ、12歳。身長136p、体重とスリーサイズについては黙秘権を行使するわ。ラティス国騎士団の特級騎士やっててぇ、今は斥候のお仕事でこの辺りを探っていたの。趣味はお昼寝と謀略でぇ、好きな食べ物はステーキとクッキー。今日のラッキーカラーはピ・ン・ク☆・・・他に何か聞きたい?」
「ったら・・・。」
 男が話し終わる前に、別に聞いちゃいない事までぺらぺら喋りまくるフェリア。
 ただただ呆然とする一同。
「・・・・・根性の無い奴。」
「・・・なによぉ。」
「お前、もう少し世の中を知ろうよ。数十回鞭を打たれ続け、身体には無数の蚯蚓腫れ。服は破れ、その下から白い柔肌がのぞき、うっすらと血が滲んでいる。目に涙を浮かべつつもその目は輝きを失ってはおらず、きっ、と盗賊達をにらみつける少女。業を煮やした盗賊達は更なる責めを無力な少女に加えていく・・・ってのが、こういった場合のお約束だろうが・・・。」
「だってあたし、痛いの嫌いだもん。」
「こいつは・・・。」
「しかしこいつ、ラティス家のご子息かよ。道理でこんなガキなのに騎士なんかやってる訳だ。その権力と財力を使えば、出来ない事なんか無いと言う事か・・・。しかし、実戦に出てきたのが運の尽きだったな、お嬢様。お家の外じゃ、そんなもの役に立たない事を覚えておいた方がいいぜ。おっと、もう遅いか。ひゃひゃひゃ・・・。」
 盗賊達が嘲る。
 しかし、一度彼女と剣を交えたリーダーだけは、どうしても笑う気にはなれなかった。
彼らの笑い声を遮るようにリーダーは話しかける。
「・・・次の質問だ。お前の仲間の人数と構成を教えろ。」
「えーっと、ひのふのみの・・・ごっめーん、あたし、3以上の数字は『いっぱい』って、数えてるから、よくわかんなーい☆」
 ちゃっ
 部下が、鞭を構える。
「総司令官、宮廷魔導師ミゼット・ファラク。重装騎士5名、軽装騎士4名、重装歩兵12名、軽装歩兵16名、傭兵8名、斥候あたしを含め4名の計50名です。」
「・・・ちゃんと言えるじゃねぇか。って、ちょっと待て、50人だと?」
「そうよ。あたしもこの人数は、ちょっと大げさなんじゃないかと思うんだけど、まぁ、うちの騎士団も暇だからねぇ・・・。」
 騒然となる盗賊達。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!どうしよう、50人なんか相手に、勝てないよ!」
「捕まったら、一生牢獄暮らしだぞ!」
「違うな、盗賊は捕まったら、拷問された後公開処刑って話だ。」
「いやだー!俺は拷問するのは好きだがされるのは大嫌いなんだー!!」
「静かにしやがれ!!」
 リーダーが一喝する。
「まだ捕まると決まったわけじゃねえ。・・・どうやらここで稼ぐのも潮時のようだ。皆、荷物をまとめろ!新しい土地に逃げるぞ!!」
「・・・このガキはどうしましょう?」
「一緒に連れて行く。大きな町には人買いの施設もあるだろう。そこに売ればいい。」
 フェリアは、自分のその後を想像し、大粒の涙をぽろぽろとこぼす。
(ああ・・・あたし、売られちゃうんだ。薄暗い娼館で下働きをさせられるあたし・・・お嬢様育ちのあたしには、慣れない事ばかりで失敗続き、この類まれなる美貌の所為もあって先輩の娼婦達から苛められる毎日・・・。しかし、16歳になったある日、身体もグラマーに成長し、立派な娼婦になるあたし。生まれて初めての客は、身分を偽りやってきた、どこかの国の王子様。いつしか二人は愛し合い、ついに二人は結ばれる・・・・。うふふ、それ、いいかも・・・・・)
 非常に自分勝手な妄想で、いつのまにか泣き顔が薄ら笑いに変わる。
「さっさと荷物をまとめろよ!他の国に逃げるまで不眠不休だからな、いいな!!」
 ぴく
 フェリアの表情が凍りつく。

 以下、フェリア・D・ラティオの思考
 
盗賊達、逃げる(あたし含む)→あたし、縛られたまま→盗賊達、不眠不休(当然あたしも)→あたし、トイレに行けない→堤防決壊及び水害 

 思考終わり

「いやぁぁぁぁっ、水害は嫌ぁぁぁぁぁ!!!」
「どうしたんだ?」
「放っとけ!急ぐぞ!!」
(ああっ、女王の座は欲しいけど、水害は嫌。水害は嫌、水害は嫌、水害は嫌、水害は嫌、水害は嫌、水害は嫌、水害は嫌、水害は嫌、水害は嫌、水害は嫌、水害は嫌、水害は嫌、水害は嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!・・・ああ、どうしてあたしだけがこんな目に会うの?ミゼット様があたしを斥候なんかに任命したから?そうよ、みんなミゼット様が悪いのよ。おにょれミゼット許すまじ!このうらみはらさでおくべきか・・・はっ、そうだ)
「みんな、聞いて!」
 フェリアは顔を上げ、叫んだ。
 荷物をまとめる手を止め、振り返る一同。
「何だ、この忙しい時に。」
「あたしを逃がしてくれない?そうしたら、あいつらを撃退する方法を教えてあげるわ。」
フェリアの言葉に、盗賊の一人が答える。
「何言ってるんだ、こいつは。お前みたいなお嬢様にそんな考えが浮かぶわけ無いだろう。俺達はもう逃げると決めたんだ。たとえ倒せるとしても、騎士共なんか倒したって、別にめぼしい物が手に入るわけじゃないし、危険な賭けはしたくないね。」
「宮廷魔導師ミゼット・ファラク・・・彼女を捕らえる事が出来たとしても?」
 再び荷物をまとめようとした手が止まる。
 ミゼットの美しさは、盗賊たちの間にも知れ渡っていた。
 もし、あの気高く可憐な美少女を自分たちの手で汚す事が出来たら・・・盗賊達は常日頃、心の片隅でそう思っていた。
「・・・話してみな。」
 リーダーは、フェリアの元に寄り、尋ねる。
「その前に、現在の正確な時間と、ここの位置、それとこのあたりの地形を教えて。」
「今は、正午を少し過ぎた頃だ。現在位置は、おい、誰か地図を持ってきな・・・おう、ここだ。」
「そう・・・それじゃ、ミゼットの性格からして、もう行軍を開始してるはずだから、迎え撃つ場所は・・・ここら辺ね。」
 フェリアは縛られているので、右足の親指で地図を指差す。
「そして、ミゼットの事だから、だいたいあの陣形を使ってくるけど、部隊を上手く配置すれば、勝てない事は無いわね。そして・・・」
 フェリアは、ミゼットを捕らえるための作戦と、それにあたっての注意点を事細かに指示する。名軍師のようなフェリアの指示に、ただただ感心する盗賊達。
「・・・とまぁ、こうすればミゼットは手に入れたも同然ね。後は何処かに売り払うなり、穴という穴が使いものにならなくなるまで犯すなり、ご自由に。」
そっけなくも残虐な言葉で締めくくるフェリア。盗賊の一人が呟く。
「こいつ、絶対前世は悪魔だ・・・。」
リーダーは、盗賊達に向き直ると、号令を発する。
「よし、これなら勝てるぞ。野郎共、出撃だ!!」
涼しい顔でそれを眺めるフェリア。頃合を見て切り出す。
「さ、約束よ。あたしの縄を解いて、さっさと自由にして。」
「約束?何の事だ?」
とぼけるリーダー。
「ミゼットを捕らえる方法を教えたら、自由にしてくれるって・・・。」
「俺は『話してみな』とは言ったが、『話したら自由にしてやる』とは言ってないぜ。」
フェリアの顔がみるみると青ざめる。
「そんな・・・。」
「ミゼットを捕まえたら、真っ先にお前の事を話してやるぜ。どんな顔するか楽しみだ。」
「お願いやめてそれだけは!そんな事したらあたし、確実に殺されちゃう!!」
「さ、出撃だ・・・・・ディンク、お前はここに残ってこいつを見張ってろ。」
 盗賊達は、次々と部屋から出て行く。
フェリアは、がっくりとうなだれ、そして・・・
「終わった・・・。」
 死を覚悟した。

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