耽美的失禁メインへ  北神さんへの感想はこちら!


 フェリア初陣  〜赤い天使の物語より〜 書いた人:北神的離

第一章
 洞窟の奥深くの一室を、天井から吊り下げられたランタンが弱々しく照らしている。
 その部屋は、明らかに人の手が加えられており、床は平らに削られた上に石畳が敷かれている。壁には幾つかの棚が設置されていて、そこには日用品や食料が置かれている。
 部屋のほぼ中心部には、人が数人食事できるくらいの大きさの机と椅子があり、その上には食べかけの食べ物や、ほとんど空になっている麦酒のビンが無造作に転がっている。 


 部屋の奥、ランタンの灯りが当たるか当たらないかという所に『彼女』は居た。

 年は12・3歳といったところだろうか。
 春の陽光を紡いだ様な綺麗な金色の長髪、新雪の様に白いが決して病弱そうな印象は与えない肌、博物館に展示されている宝石の様なふたつの藍色の瞳、鼻は少し低めではあるが、それがまた少女特有の可愛らしさを引き出している。 
 形の良い小さな口に塗られている炎のように真っ赤な口紅は、『彼女』の年齢には、少し似合わなそうな印象を受けるが、それは彼女の品を落としているわけではなく、その幼さにわずかばかりの妖しさを加え、『彼女』の美しさをより一層際立たせている。 
 これで豪華なドレスの一着でも身に纏えば、どこかの国の王女様と言われてもそれを疑う者は居ないだろう。
 彼女はこちらを見ると、にこりと微笑み、軽快に語り始めた。

「はぁい、私、フェリア・D・ラティオ!
 年齢12歳、身長136p、ちょっと小柄かな?
 体重、スリーサイズはまだひ・み・つ☆
 実はねぇ、あたし、この若さでラティス王国の騎士やってるの。
 ねぇねぇ、騎士のお仕事って何やってるか知ってる?
 え?騎士なんかそこら辺腰に剣ぶら下げて威張り散らしながら歩いてて、たまに戦起こしては村や町襲って食料や金銀財宝かっぱらってるだけだろうって?
 ちっちっち、そう考えるのは何にも知らない一般庶民の浅はかさ。
 よし、こうなったらこのフェリアおねーさんが判りやすく手取り足取り教えてあげるわ。 ・・・何想像してるのよ、えっち!
 騎士のお仕事、それは国家防衛!
 この世界と魔界との間にある『結界』の事は3歳のがきんちょでも知ってるわよね?
 時折この結界が緩んで、向こう側から魔物がやってきちゃう事があるの。
 そんな魔物とか魔族とか魔王とか邪神とかを退治したり、結界を解除して向こうから魔王を呼び出そうとする物好きなおばかさんを虐殺・・・粛清したりするのよ。
 それにあたし達だって好きで戦争やっている訳じゃないのよ。
 悪いのは、戦争を仕掛けてくる他の国。
 みんなも他の国が攻めて来てひどい目にあうのはやだよね?
 だから、みんなも戦争の時は私達に食料やお金を送って協力してね。
 えーっと、世間ではこう言うのを『ショバ代』って言うんだっけ?まあいいや。
 え?騎士のお仕事は分かったけど、平和な時は何やってる?どうせ暇で何もやる事が無いんだろ?ラティス国は平和な国だから、騎士なんか要らないじゃないかって?
 それは違うよお客さん、平和な時も、騎士というのは、特にこんな小さな国の騎士なんかは、色々と多忙な毎日を送っているわけよ。
 例えば、街中をパトロールして回って、犯罪を取り締まったり、未然に防いだり、盗賊や、山賊が国内にはびこり、悪の限りを尽くしている時なんかはそれを討伐して回ったり・・・はぁ、本来こういう仕事は、警備隊がやる事なんでしょうけど、こんな小さな国には、その警備隊が存在しないんだよねぇ。
 ていうか、存在は一応有るんだけど、地元住民が交代でやってるような警備隊だから、いざって時に全然役に立たない訳よ。
 そんな訳で、あたし達騎士が討伐に駆り出される事もしばしばなんだけど・・・。
 ところであたしは今、最近国内を荒らし廻ってる盗賊団の討伐のため、奴等のアジト最深部に来ております。
 え?他の騎士はどうしたって?
 お客さん、いい所に気付きましたね、実は私・・・」

「お前、さっきから誰と話してるんだ?」
 部屋の中にいる盗賊の一人が、フェリアに話しかける。
 フェリアの腕は後ろに縛られ、腹と、脹脛の二ヶ所を荒縄で柱にくくりつけられている。 ちなみにフェリアの視線の先には誰も居ない。
「暇だったから、ちょっとひ・と・り・ご・と☆」
 フェリアは、盗賊達に顔を向けると、てへっと可愛らしく笑った。



    第一章  ロマンティック・サーガ

 大陸の最西端に位置するラティス国。
 三方を海に、残りを山脈に阻まれたこの小国は、その戦略的価値の無さから、開国以来150年、ただの一度たりとも他国との小競り合いすら無く、平和を維持して来た。
 しかし、国家にとっての災いの種というものは、何も他国にだけ存在する訳では無い。 数年前から国内を荒らし回っている盗賊団『炎の隼』、その討伐命令が度重なる国民の苦情によりやっと重い腰を上げた貴族院から発せられた。
 ラティス城前広場。
 そこに、今回の作戦の為集結した兵士や騎士がたむろしている。
彼等はまだ落ち着いたもので、賑やかに談話している。
その焦点は、この作戦に加わる一人の騎士に集中していた。
「おい、聞いたか?今回の作戦に加わる新入りの騎士の話。」
「ああ、何でも仕官学校の成績がオールSだとか・・・。」
「仕官学校始まって以来の天才だろ?」
「ここの騎士団に入隊した時点ですでに『特級騎士』の称号を手にしたらしいぜ。」
「そんな人が、俺のとこの小隊長になってくれれば、もっと楽できるのになぁ。」
 兵士達は、口々にその騎士について、自分達が知っている情報を語り合い、期待に胸躍らせている。
 それとは対照的に、その場にいる騎士たちは互いに顔を向き合わせ、はぁ、とため息をつくだけである。
 まだ何も知らない兵士達は、その反応を強力なライバルの出現による絶望のため息と受け取っていた。
「はーい、みんな静かに!」
 手をパン、パンと叩きながら、ひとりの少女が城からやってきた。
 年は17・8歳、金色の髪を後ろに結び、魔術師用の豪華なローブを身に纏っている。 彼女はラティス国宮廷魔導師にして騎士団参謀ミゼット・ファラク。
 この作戦の総指揮者である。
 美しい風貌の裏に潜む、学者並みの知性と、絶大な魔力。
 18歳という若さにして、宮廷魔導師の職に就いている彼女の実力を知らない者は、この中には誰もいない。
 一同は、会話を止め、一瞬のうちに規則正しく整列する。
「よし、みんな揃ってるわね。」
ミゼットの問いかけに兵士の一人が答える。
「いえ、レヴィンがまだです。」
「・・・誰か、彼が何処にいるか知らない?」 
「ああ、あいつ昨日『俺、明日腹痛いから・・・』とか、言っていましたけど・・・。」
「野郎・・・。」
 ミゼットは、しばらく拳をプルプル震わせてると、気を取り直し、
「・・・まぁ、いいわ。皆さん、これから盗賊団『炎の隼』の討伐にあたって、一人の騎士を紹介しようと思います。・・・さ、こちらにいらっしゃい。」
 ミゼットの呼びかけと共に、城門が開き、一人の騎士が歩いてくる。
 その姿にその場にいる者全員が驚愕した。
綺麗な金髪をきらきらとなびかせ、精一杯の笑顔を振り撒きながら、彼女は言った。
「はぁい、始めまして。あたしフェリア・D・ラティオ、12歳。この度盗賊団の討伐に 参加する事になりました。みんな、あたしの事は気軽にフェリアって呼んでね☆」
「・・・フェリア、一つ聞いていいかしら?」
 額を人差し指と中指で押さえながら、ミゼットは搾り出すような声で尋ねる。
「はい、何でしょう。」
「その顔の派手な化粧は何・・・?」
「はい!戦場は、常に死と隣り合わせの場所。この私でも必ず生きて帰れる保証は有りません。万が一敵に首を取られた時、その首が土気色に変色しては申し訳が立ちません。そこで死してなお桜色の心意気で・・・」
「そう・・・それじゃ、その無意味に豪華なやたら動きづらそうなドレスは何!!」
「はい!私の趣味です。」
「さっさと着替えてこーい!!」
 ミゼットの怒りの蹴りがフェリアに直撃し、彼女は逃げるように城へと戻っていく。
ただただ呆然とする一同。
「あ・・・あれが・・・特級騎士なんですか?」
 兵士の一人が尋ねる。
 その問いに、ミゼットはうなだれるように頷いた。

 心地よい風が吹く。
 日の光が、西の山々にさしかかる頃、一行は盗賊団のアジトが有ると言われる山のふもとへとやってきた。
「今日はここで野営、翌朝より盗賊団の探索を行う事にします。さ、みんな、野営の準備をして頂戴。」
 ミゼットの指示の元、一同は、テントを建てていく。
 そんな中、フェリアは少し離れた場所で道端の石に腰掛けて、オレンジジュースをストローでちゅうちゅうと吸っている。
「だってあたしお嬢様育ちだから、バスタードソードより重いもの持った事無いもん。」
 それが、彼女の言い分だった。
 野営の準備がほぼ終わった頃、フェリアの元に三人の兵士がやってきた。
「よう、『お嬢様』、ちょっと顔貸してもらえねぇか?」
(来たか・・・)
 フェリアは、内心呟く。これからの彼らの行動は、大隊想像がついていた。
 しかし、何も気付いて無いそぶりで答える。
「何かご用?連れションだったらお断りよ。」
「いいから来いってんだよ!」
 兵士の一人が、フェリアの肩を掴むと、遠くへと引っ張っていった。

「よし、ここら辺でいいか。」
 テントが小さな豆粒ほどに見える頃、ようやくフェリアを掴んでいた手が離された。
「ちょっと、乱暴にしないでよ!」
 フェリアは男達に向き直る。左手には、ジュースが握られたままである。
「それで、何か用?」
 フェリアの問いに彼らのリーダー格と思われるひげ面の男が答える。
「俺達は、あんたの元で戦う事になったんだが、俺達にはどうしてもあんたが特級騎士には見えない。」
 やっぱりそう来たか、フェリアは心の中でため息をついた。
 フェリアは、幼い頃からその才能を存分に見せつけ、周囲を驚かせ、羨望の眼差しを浴びつづけていたのだが、誰もがそれを喜んだ訳ではない。
 彼女に対する妬み、嫉み、嫌悪、反感・・・。
 それらが時として、いじめや妨害工作となって彼女を襲った事もある。
 彼女はそんな相手に対し、『然るべき礼』をもって対処して来た。
 無論、今回もそうする予定であった。
「こんな、盗賊団の討伐に『特級騎士』様が加わるなんていうから、変だと思ったぜ。」
 ちゅうちゅう・・・・・
「フェリア・D・ラティオ・・・ラティオ家のお嬢様・・・別に騎士の称号を手にする事 もその権力と金を使えばわけないって事か。」
 ちゅっ、ちゅー・・・・・
「あんたみたいな名前だけの騎士は、邪魔なだけなんだよ。判ったらさっさと・・・」
 づっ、づづづづづづづ・・・・・
「てめえ、人の話を聞きやがれ!!」
「もう、人がジュースを飲んでる時に勝手にぺちゃくちゃ喋る方が悪いんでしょ。大体、人が貴族ってだけでその力を疑うだなんて、金と権力に乏しい一般庶民のひがみでも入ってんじゃないの?」
「てめぇ、人がおとなしくしてればつけあがりやがって!」
 ひげ面の男は憤り、腰の剣を荒々しく引き抜いた。
「へぇ、やるっての、このあたしと。」
 フェリアが目を僅かに細める。口元が妖しく微笑む。空になったジュースのパックが左手からぽとりと落ちる。空いた左手が鞘にそえられ、右手がゆっくりと柄を掴む。
フェリアはゆっくりと、迎撃の構えを取った。
「おらぁ!!」
 ひげ面の男は剣を振り下ろす。もともとフェリアを脅す為だけの攻撃、剣はフェリアの右肩すれすれをかすめ、地面へと突き刺さる。
 フェリアは微動だにしない。
「へっ、どうしたお嬢様、びびって動けねえのかい?」
「これでも?」
 言うと、フェリアは剣を一閃させる。
 剣は、電光の様な速さでひげ面の男の顔をかすめ、鞘へと戻る。
「どうした、当たらねえぞ。」  
「何言ってるの、もう切ったわよ。」
「何だと?」
「おい、顔、顔!」
 傍らの男が驚きの声を発する。
「ん?どうした・・・・・!!!」
 ひげ面の男が、自分の顔に手を当て、次の瞬間驚愕の表情になる。
 男の髭は、右側がきれいさっぱりと切り落とされていた。
「野郎、よくも!!」
 残り二人の男が、フェリアに襲い掛かる。その目は、殺気で血走っていた。
 どかっ
 男達の剣が振り下ろされるよりも早く、フェリアは攻撃に移っていた。
 剣の柄が、片方の男の顎にめり込み、蹴り出した左足が、もう一人の男の鳩尾にヒットした。
 その場に崩れ落ち、ぴくぴくしている男達を尻目に、フェリアは勝利に酔いしれている。
「ほっほっほ、その程度でこのあたしに戦いを挑もうなんて、10万とんで3ヶ月早いわ。敗北者たちの末路は知ってるわね、さぁ、私を崇めなさい、私の足をお舐め、なーんてね。おーっほっほっほっほ・・・」
 ちゅどーん
 高笑いをしているフェリアに、次の瞬間火の玉が降り注いだ。

「もう、酷いじゃないですか、いきなり火炎弾ぶちかますなんて・・・。」
 ぷぅ、と可愛らしく頬を膨らませるフェリア。その服は焦げてボロボロになっている。
 火炎弾・・・直径10p程の火球を生み出し対象物にぶつける、炎の魔法の基本技。
 反対側に立っているのはミゼット。フェリア達が居ないので、不安になり探しに来たのだ。その不安は、予想とはまるで逆の結果で的中したわけだが。
「『酷いじゃないですか』じゃ無いでしょ!この前言ったわよね、私闘は禁じるって。」
「だって、先にかかってきたのはあいつ等ですよ。怒るなら、あいつ等の方を怒って下さいよ。」
フェリアの抗議にミゼットは聞く耳持たない。
「・・・あなたを、第二部隊小隊長の任から外します。あなたには、斥候を任せるのでそのつもりで。」
「・・・はい。」
 フェリアは、とぼとぼと自分専用に建てられたテントへと戻っていった。
「ふぅ。」
 ミゼットはため息をつく。
 フェリアのような、未だ若い少女が騎士になる事に対して、反感や嫉妬を抱き、彼女に害をなす者が現れる事は予想していた。自分も、かつてそうだったように・・・。
 そして、これからもそういった者が現れないとも限らない。そこで、彼女が騎士たるに相応しい武功を挙げるまでは、目立つ職から外そう、そうミゼットは考えたのだ。
しかし、その決断が後に大変な事態を引き起こす事になるとは、ミゼットには想像する事すらできなかった。

 フェリアは、テントの中で一人、愚痴をこぼしまくっていた。
「あーっ、もう、むかつくわねぇ!悪いのはあいつ等じゃないの。あたしは悪くないわよ。あいつ等、もし今度会ったら、ふんづかまえてぎたぎたのボロボロにしてやるんだから!大体ミゼット様もミゼット様よ。このあたしを斥候なんかにするなんて・・・。」
「入るぜ。」
 言いながら、ひげ面の男が入ってきた。もっとも、先ほどフェリアに片髭を切り落とされた為、反対側もきれいに剃っているので、もうひげ面の男とは呼べないが。
「何よ・・・あたしを笑いに来たの?」
 フェリアは、そっぽを向いたままぶっきらぼうに答える。
「いや・・・その・・・すまなかったな。」
「・・・え?」
 元ひげ面の男の方を向くフェリア。
 元ひげ面の男は、頭を掻きながら続けた。
「これまで俺が見てきた貴族の騎士の奴らは、たいした腕も持ってないくせに、人の上に立って威張り散らしてやがったから、あんたも同じだと思って、なんか腹が立ったんだ。でもあんたは違った。俺が戦ったどんな奴よりも強かった。その年でほんとすげえよ、あんた。・・・今回は俺の所為で斥候なんかになっちまったが、もし、今度俺の上官になる事が会ったら、どんな命令でもしてくれ、何でも聞いてやる。俺が言いたいのはそれだけだ。・・・じゃあな。」
 そう言うと、男は踵を返し、テントから出て行こうとする。
「・・・待って。」
それをフェリアが呼びとめる。
「何だい?」
「名前を、教えて。・・・命令するにも、名前知らなきゃ、出来ないでしょ・・・。」
「ドヴァスってんだ。」
「そう、判ったわ、ドヴァス。今度あたしの部下になったら、死ぬほどこきつかってやるから、覚えてなさいよ。」
「はいはい、お手柔らかに。」
 ドヴァスは、片手を上げると、テントから出ていった。
 ぼふ
 フェリアは、ベッドにうつ伏せに倒れこむと、呟く。
「今更謝ったって、遅いんだから・・・。」 
 しかし、その表情は、穏やかだった。


耽美的失禁メインへ  次へ