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   第5章

眠れぬ夜を過ごした美樹は、夜が明けるとすぐ美雪の家に電話をかけた。やはり美雪は昨夜は帰宅していなかった。美樹が金蛇教のことを話すと、美雪の両親はすぐ教団の建物に行ってみるという。美樹は不安な心を押さえて学校に行った。

一学期の終業式を終えた美樹は、さっそく美雪の両親に連絡をとった。
「ええっ!入信するですって?」美樹の声が思わず声が高くなる。美雪自身が教団の入り口まで出てきて、しばらく修行のため教団で生活すると言ったというのだ。
「先生!あの子、まるで別人のように無表情な顔で、私たちにそれだけ言うと中に入ってしまったんです!私にはもうどうしていいか・・・」美雪の母の悲痛な声が受話器に響いた。

美樹は学校から教団の建物へと出向いて、美雪に会わせてくれるよう懸命に交渉したが、出てきた若者は美雪は修行中だと繰り返すばかりで埒があかなかった。

おかしい、絶対おかしい、美雪がいきなり入信などするわけはない、美樹は唇をかみしめたが、とにかく美雪に会えなければどうしようもなかった。夜になり、疲れ果ててマンションに帰ってきた美樹の携帯電話が鳴った。

「せんせい・・・」
「美雪!美雪なの?」
「わたし・・・たくさん犯されてしまったの・・・たすけて・・・」
「美雪!どうしたの?何があったの?」
「夜は・・・建物の裏口が・・・開いているみたい・・・たすけて・・・」
ふいに電話がきれた。
「美雪!もしもし!美雪!」美樹は必死に叫んだ。

もう、夜の8時をまわっていたが、白いブラウスと紺の超ミニという学校での服装のまま、美樹はマンションを飛び出した。警察などに話してもダメだわ、美雪は私が救い出す!美樹はタクシーをつかまえて金蛇教団へ急いだ。

教団の建物の少し手前で車を降りた美樹は、建物の裏手にこっそりと回り込んだ。カーテンの引かれた教団建物の窓は暗く、あたりは静まりかえっている。
建物の周囲は高さが2mぐらいのコンクリート壁に囲われ、一見刑務所のような佇まいだった。街灯もない建物の裏手に足音を忍ばせて近づいていくと、コンクリート壁にぽつんと鉄製の扉が設置されている。あれだわ!美雪が扉のノブに手をかけようとした時、
「待つんだ」ふいに背後から男の声がした。
「はっ!」美樹は振り向きざまに鋭い回し蹴りをはなった。男が慌てて飛びのく。
「ふーっ。危ねぇな。お嬢さん、ちょっと話を聞くんだ。」
「あなたは誰!」美樹が低い声で叫んだ。
「そんなことはどうでもいい。あんたみたいな若い娘が入り込んだら、どんな目に合うかしらんぞ。」暗闇で静かに答える声は、かなり年配のものだった。
「私はいかなくてはならないのです!」
「罠だよ。とにかくやめるんだ。この中はただの宗教団体じゃ・・・あっ!」言葉の途中で男がさっと身を翻して闇の中に走り去っていく。

見ると壁にそって数人の男が歩いてくる。何か棒のようなものを手に、懐中電灯であたりを照らしながら美樹のほうに近づいてきそうだ。美樹はためらわず扉のノブを回した。施錠されていない鉄製の扉が少し軋みながら開いた。美樹はすばやく裏庭に入り、茂みの陰で息を殺した。間髪をおかず、数人の男たちも扉をあけて裏庭に入ってくる。
「おい、今人影が見えたようだったが。」
「気のせいだろう。む?おい香水のにおいがするぜ。」男のひとりが茂みのほうに懐中電灯を向けた。
「おい!おまえ誰だ!」
見つかった!こうなればやるしかない!美樹が立ち上がり、そのすらりとした肢体が懐中電灯に照らし出される。
「はっ!」美樹は茂みから踊り出ると、男たちに向かって突っ込んでいった。
「とう!」美樹の手刀が最初の男の木刀を叩き落す。そのまま鳩尾に拳を叩きこむ。動きを止めることなく振り向くと、ミニスカートの脚を跳ね上げ、別の男の顎を蹴り砕いた。残った男が必死に振り下ろしてきた木刀をかいくぐり、相手の腹に肘打ちを叩きこんで男を昏倒させる。

「ふぅーっ」美樹が構えを解いて、ゆっくりと息を吐き出した。監視の男たちは全員地面にころがったが、こうなったら急がねばならない。美樹は建物の裏口のドアノブに手をかけた。今度もくるっとノブが回り、ドアが開いた。美樹は息を整えて、建物にそっと侵入した。内部はところどころに非常灯の弱い明かりがみえるだけで、真っ暗だった。タイル張りの廊下を手探りで進んでいくと、非常灯の明かりに照らされてドアが見えてきた。美樹はそっとドアを開けた。

「うっ!」明るい照明に美樹の目が一瞬くらむ。
「美雪!」白い浴衣のような着物を着せられた島津美雪が、部屋の中央にぽつんと置かれたイスにすわってこちらを見ていた。美樹のほうを、知らない人間を見るような顔つきで見つめている。
「美雪!」駆け寄ろうとする美樹の背後に突然数名の男が現れた。
「おーっとそこまでだ。白鳥先生だねぇ。お待ちしてましたよ。」
美樹が振り向くと、数名の中年の男たちがにやにやと笑いながら立っていた。薄汚れたグレーの作業服のようなものを着て、いずれも卑しそうな顔をしている。
「あなたたちは・・・」美樹が油断無く身構える。
「この教団の使用人みたいな者だよ。女の子の調教もやっているがね。ふっ、ふっ、ふっ・・・」
「久しぶりにちゃんとした大人の、こんな美人でグラマーなねぇちゃんを調教できるなんて・・・うれしくて涙が出そうだぜ。」別の男が美樹の肢体に目を這わせながら言った。早くも興奮して少し声がかすれている。

「そう簡単にいくかしら?」美樹が腰を落とし、両手を軽く前にのばして中国拳法の構えに入った。
「用意!」男のひとりが突然叫んだ。突然、それまで目が見えない人間のようにじっと座っていた美雪の手があがり、カッターナイフを自分の喉にさっと突きつけた。
「あっ!危ない!美雪、何をするの?」美樹が叫んだ。
「あるキーワードを言えば、その娘は自分の喉を一突きにするってわけだ。動けるかい?白鳥先生・・・ふっ、ふっ、ふっ。お前は罠にはまったんだよ。じっくりといたぶりながら調教してやるぜ。ひっ、ひっ、ひっ・・・」
美樹は唇を噛み締めて、呆然と突っ立っていた。


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