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   第三章

冬の陽はあっという間に沈んでいく。空が暗くなり、うす寒い風が吹き始める頃、美樹は淫獄楼の前に立っていた。周りは林や薮が見えるばかりで、人家や街灯すら無い。
(これでは、何があっても誰にも分からないという訳ね・・・)
建物は、お堂のような丸い建物を、縦に4つ重ねたような奇妙な外観だった。木造なので、瓦や外壁などかなり傷んでいる感じだが、3階建てビル程度の高さの建物がどしっと建っている。

塀などはとっくに朽ち果てて、建物の周りは腰の高さまで雑草が茂っているだけだが、門だけは残っており、門から踏みならしたような小道が入り口まで続いていた。美樹は、どこから敵が襲いかかってきてもいいように、周囲に気を配りながら、慎重に歩いていった。建物の入り口は、頑丈そうな厚い木の扉がしまっていたが、美樹が扉を押すと、きしみながら開いた。
(さぁ、いよいよだわ。いくわよ!)
中は真っ暗だったが、少し暑いくらいに暖かい。石炭の燃えるような臭いがただよってくる。1階なのに窓がなく、かすかに天井近くに小さな小窓があるようだ。感覚的には旅館の大広間を少し大きくしたような広さの丸い部屋だった。

部屋の中央に向かって、美樹が2、3歩進んだとき、ふいに、ぱっとはだか電球がついた。美樹を取り囲むようにして、若い男たちが5人立っている。みんなニヤニヤと笑いながら、美樹の体を舐めるようにながめていた。
「へへーっ、なかなかイイ女じゃねぇか。」
「私は神光学園の白鳥という者です。ここに本校の女子生徒がいるはずです。すぐに返してください。」美樹が凛とした口調で言った。
「声もいいねぇ。早くひぃひぃ言わせてみてぇや。オイ、先生。オレたちは、おめぇを倒せたら、おめぇの体を好きなようにしていいって言われてるんだ。多少武道をやってるってきいたが、何をやってても5人がかりじゃ歯は立たねぇぜ。おとなしくすりゃぁ、おめぇの方も楽しませてやる。」

「言うことはそれだけなの?」美樹は静かに言うと、ゆっくりと赤いコートを脱ぎ捨てた。
「おおっ、巨乳だぜ!」「脚もいいぜぇ。」「たまんねぇ体だぜ。」取り囲んだ男たちは口々に言いながら、輪をせばめてくる。
美樹は、上半身を直立させたまま腰を少し落とし、両膝を軽く曲げて脚を前に出す中国拳法独特の構えに入った。掌を開いた両腕がゆっくりと前に伸びる。

いきなり美樹が動いた。最も近くにいた男にあっと言う間に近づくと、電光のように拳が繰り出されて男の腹に食い込んだ。そのまま動きを止めることなく、次の男が殴り掛かってくる腕を左腕で軽くはたいてそらし、わき腹に右の拳を叩き込む。さらに、次の男がつかみ掛かってくるところを、腕をたぐるように体を入れ替え、こめかみに拳を強打させた。計算されたように次々と美樹の拳や脚が男たちの急所に当たる。遠くで見た者は、舞いでも舞っているように見えたかもしれない。美樹が動きを止めた時、囲んだ男たちは例外なく床にころがって気絶していた。全員を倒すのに10秒もかかっていない。

「私を犯そうなんて10年早いわね。」床にころがっている男たちをちらっと見ながら、美樹が言った。
「あと、4時間ちょっとだわ。急がなければ。」美樹は部屋を横切って、反対側にある部屋の出口に向かった。

扉をあけると、四畳半くらいの小部屋があり、やはりはだか電球がついていた。
「ふっ、ふっ、ふっ・・・。少し腕をあげたようじゃなぁ。白鳥くん。」ふいに天井のほうから権田の声が聞こえた。
「権田教頭!」美樹が見上げると、取り付けられたテレビに権田が映っている。
「ワシは4階におる。君の若い恋人もな。2階と3階には、ワシの部下がおる。そいつらを倒さねばワシのところへは来れんぞ。」テレビの中の権田がにんまりと笑った。どうやらこちらの様子も見えるらしい。
「ばかなことをしていないで、私の生徒を返してください!」美樹が叫んだ。
「そうはいかん。ひっ、ひっ、ひっ・・・鋼鉄のペニスが、だいぶこの娘のワレメに向かって進んでおるぞ。急ぐがよい。じゃが、その前に、ちょっとしたプレゼントをしよう。」

とたんに、部屋の四方からガスが噴き出した。栗の腐ったような、胸の悪くなるような匂い・・・。
(はっ!こ、これは・・・例の催淫ガスだわ!)
美樹は慌てて部屋の入り口に戻って扉を開けようとしたが開かない。出口の扉に走ったがやはり鍵がかけられている。
「し・・・しまった・・・。」美樹はうめいた。
ガスはすでに部屋中に充満している。目の前がくるくると回りだした。体の力が抜けていき、美樹はがっくりと四つん這いになってしまった。
(ああ・・・美雪・・・)
「どうじゃ、思い知ったか、わっ、はっ、はっ、はっ・・・・」薄れゆく美樹の意識に権田の笑い声がこだました。


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