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 第一部(8)<戦い>

麗佳は、下半身から這い登ってくる快感に必死に抵抗していた。
それでも甘い快感は、どうしようもないほど連続してやってくる。

「ああ、どうしたってんだよ...どうして感じるんだ...こんなときに...こんな奴等に...」

押さえようとしても「はっ!」「ううっ!」「くっ!」という強い吐息がどうしても漏れてしまう。
一生懸命、口を閉じて歯をくいしばるが、身体の奥の方から突き上げてくる吐息は閉じようとする口元から、どんどん漏れ出てくる。
吐息のなかには次第に声が混じっていく。
しかも聞くものが誰でも赤面しそうなほど、艶めかしい女の嬌声がだ。
そのことが麗佳は悔しくて恥ずかしくて、やりきれなかった。

「...ちきしょう...どうして...こんなときに...こんなやつらの...指で...」
「...だめだよ...口を...閉じるんだよ...口を...奥歯を...噛み締めるんだ...」
「...苦しい訓練の...時だって...そうした...じゃないか...」
「...いままでだって...あの熾烈な訓練に...耐えたんじゃないか...」
「...歯を...食いしばるん...だ...」

「...声なんか...声なんか...出す...なよ...バカ...」
「...バカよ...あたし...ったら...」
「...プライドは...どうした...の...」

「...ほら...また......声を...出す...なよ...」
「...ああ...でも...くそ...ちきしょう...」
「...どうしても...出ちゃう...よ...」
「...ああ...また...くそ...」

「...それにしても...ちきしょう...なんだよ...これ...」
「...すごく...い...いい...」
「...く...くやしい...ちきしょう...くやしいよ...」
「...くやしい...けど...きもち...いい...」
「...ああ...腰が...溶けて...いく...」
「...ちからが...ぬけ...ちゃう...」

麗佳のそんな必死の努力を嘲笑うように、男の指は自由奔放に動き出した。
押す、叩く、まわす、摘まむ、震える、こする、すくう、弾く、そして強く、あるいは弱く。
麗佳は男の指先一つの動きに翻弄されていた。
指がわずかに動く度に、全身を緊張させ、爪先を突っ張り、腹筋をこわばらせなければならなかった。
そうした必死の努力にも関わらず、突き上げてくる発声の衝動は、閉じようとする口をこじ開けて、強い吐息と単純な母音の発音となって吐き出され、麗佳の内面の状況を露わにしてしまうのであった。
もはや、唇を噛み、歯を食いしばったままでいることは、ままならなかった。
半開きになった口からは荒い呼吸とともに、甲高い女声が次々と発せられた。
男が指先を動かすたびに、麗佳はわざわざソプラノの合図で、そのことを周囲に知らしめているのだ。
そして麗佳自身にも、自分の発するその声は聞こえていた。
その声の艶めかしさは、いっそう麗佳の快感を誘うかのように響き渡り、麗佳には自分自身の声さへもが、誘惑する敵となりつつあったのだ。

指先一本だけで麗佳にさんざん大声を出させた後、男は指を離して周りに言った。

「おい、見ろよ、これを! こんなに濡らしてやがるぜ」
「ほんとだ、こりゃすげえや。びしょ濡れじゃねえか」
「ったく、淫乱な女だぜ! こんな状況でよ」
「おい、こいつのクリトリスを見ろよ!こんなに膨れ上がってるぜ!!」
「うわ!なんだよそれ!気持ち悪りい!!」
「派手なよがり声、出しやがってよ」
「おい!おめえ、そんなに感じてるのか? こんな場所でよっ!」
「ここを、どこだと思ってるんだ? ラブホテルじゃないぜ」
「そんなに指がいいのかよ!」

男達はヒヒヒッと陰険に笑った。
麗佳は悔しさで張り裂けそうだったが、息があがり、呼吸がすっかり乱れていたので、途切れ途切れの反論しかできなかった。

「...うる..せえ...」

「へえー、まーだ突っ張ってるよ、こいつ」
「姉ちゃん、いい根性してるねえ」
「あれ、そんなに大声出してよがってるくせに、うるせえ、はないでしょう」
「だけど、ここは正直だぜ。見てくれよ、これ」

麗佳のそこはもはや、しとどに溢れかえっており、お尻を伝って台上をひどく濡らしていた。

「おめえ、そんなに好きなのかよ、この淫乱女!」
「こんなところで、こんなに濡らすかよ? 普通!」
「こんなにグッショリとよ!」

麗佳は歯ぎしりしつつ、荒い息の下からやり返した。

「...うるせえ...誰の...誰の...せい...だよ...」

その言葉に男達はワッと湧いた。

「おっ、認めた認めた! 感じてるのを!」
「はっはっは、やっぱり感じてるじゃねえか!」
「俺達のせいじゃないもんね。かるーく触っただけだもんね!」
「ちょっと撫ぜただけで、こんなに濡らすかよ!」
「えらく色っぽい声、出しやがってよお!」
「感じてるなら、すなおにそう言えよ!」男達はますますはやしたてた。

麗佳は、さっきから、いままで経験したことがないほど感じてしまっている自分に気付いていた。
それを認めないわけにはいかなかった。
それに、これまた経験したことがないほどに濡らしてしまっていることにもだ。

「...何が...軽くだよ...くそ...」
「...さんざん...もてあそび...やがって...」
「...あたしの...クリを...あんなに...責めといて...」
「...感じてるのか...だと...ふざけ...やがって...」
「...ちきしょう...誰だって...あんなに...されたら...」
「...感じる...に...決まって...るだろ...」
「...声くらい...出すに...決まって...るだろ...女なら...」

「...だって...あんなに...くそっ...ちきしょう...」
「...いちばん...弱い...とこ...女の...」
「...声...出さない...女...なんて...いるかよ...」

「...あんなに...されたら...濡れ...たって...」
「...そうだよ...濡れたのは...しょうが...ないよ...だけど...」
「...だけど...絶対...我を忘れる...なんてこと...しないさ...」
「...絶対...本気で...なんて...感じる...もんか...」

「...そんなこと...しない...そうすりゃ...こいつらを...だしぬける.」
「...そうさ...感じてるふり...してれば...いいのさ...」
「...こいつらに...勝って...やる...」
「...これが...あたしの...戦い...なんだ...」
「...負ける...もんか...負ける...なんて...戦場じゃ...降参じゃ...ないか...」
「...降参...だなんて...白旗を...掲げる...なんて...」
「...そんな...こと...ぜったい...認める...もんか...」

麗佳は、男達から目をそむけつつ、快感に痺れるような頭の中で必死につぶやいた。
麗佳は戦っていた。


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