目録へ 妄想小説目次 


 序章その2:惨劇

まずザベロは王宮の警備を手薄にすることを考えた。
それには国防大臣という地位は非常に有効に機能した。
彼は、まず軍隊のほとんどを国境近くの演習場まで遠ざけたのだ。
名目上は訓練である。
そうしておいて、王宮の周りには腹心である野心家の部下達で固めたのであった。
もちろん最大の障害となるであろうレオナやエリスも演習に同行させるのを忘れなかった。

「何か変だと思わない?」
エリスはレオナに問い掛けた。
「ただの定期演習で、わざわざ歩いて半月はかかる国境演習場まで部隊を進めるのはねえ。どうも腑に落ちないのよ。」
「確かにそうね。その程度ならもっと近いいつもの演習場でも充分間に合うはずだわ。部隊が王宮の近くにいたら、まるでまずいみたい。それに近頃の大臣の様子。これはきっと何かあるわね。」
不穏な匂いを敏感に嗅ぎ取ったレオナは、エリスと目を合わせて合図する。
2人は隠密裏に王宮へと戻ることにした。


漆黒の闇の中、大粒の雨がポツポツ垂れ始める。
やがて、雷交じりの豪雨になった。
王宮の屋根にも雨が打ち付けられる。

「いよいよだな。」
今ならまだ中止することもできるとザベロは思う。
しかしランシングを得るためには、これしか彼には無かった。
そう考えると迷いは消えた。
「進め!!」
ザベロの放つ号令と共に、物陰から這い出た一団が王宮を目指して駆け始めた。

「いったい何の騒ぎだ?」
既に床に就いていたオスカー37世は、ただならぬ気配を感じて目を覚ました。どこか遠くの方で、ドンドン打ち付けるような派手な音がしている。
異変に気づいたランシングも心配そうに、王に身を寄せる。
「ええ、何かしら?」
そこへ挨拶もそこそこに配下の侍女が掛け込んで来る。
「国王様、大変でございます。国防大臣のザベロが乱心いたし、謀反とのよしにございます。」
息も絶え絶えに、そう告げる。

「何!!本当か、それは!!」
国王はあわてて、ベッドから跳ね起きて、傍らに置いてあった剣を手にする。
「今の状況を報告してくれないか。」
急いで身支度を整える国王に付き添い、かいがいしくその世話をするランシング。

状況は極めてよくないな。
オスカー王は心の中でそう考える。
城の警備を任せていたザベロらが仮に謀反したとしたら、対抗して守備できる部隊はほとんどいないはず。せいぜい召使や侍女の類だけだ。
それだけでは、とても持ちこたえられないな...

果たして侍女の報告も、その通りであった。
城内でわずかに抵抗する兵も、ザベロ率いる手練の兵にはかなうべくもなく、各所で無残な屍の山を築くのみである。勢いに乗った軍団は、刻々と王の間に近づいてきているという。


混乱の中においても、とりみだすこともなく、平素の凛とした態度を崩さないランシング。心配させまいとする王妃の気持ちが痛いほどよく分かる。
「ランシング、お前はここに居てくれ。」
思わぬ王の言葉に、ランシングの身体がピクンと反応する。

これから王は、ザベロ達との戦闘におもむくのだろう。その場に女である私がいても足手まといになるだけだ。
王に余計な気を遣わすだけ。ならばいくまい。
それは計算でもなんでもない。
ランシングとはそういう女なのだ。

「御武運を。」
静かに一言。しかし憂いを帯びた眼が雄弁に語っている。
オスカーもジッとその眼を見て、部屋を出ようとする。

すると、その時。
勢いよく扉が開け放たれたと思いきや、無骨な連中がなだれ込んできた。
ザベロの手の者か!!
それを見るやいなや、オスカーは長剣を手に切りかかっていく。
手前にいた2,3人の兵士が、たちどころに両断される。
声を出す間もない。
すぐ新手の兵士が現われる。
「御覚悟!!」
その兵士達に向かおうとした時だった。

ボスッ
何かの発射音がしたと思ったら、王の身体が不自然に揺らぐ。
見ると扉の向こうから、ボウガンを片手にザベロ大臣がゆっくりと現われた。
片膝をついた形でなおも立ち向かおうとする王に、新たに番えられた矢が容赦なく打ちこまれる。
そこに切りかかる兵士達。たちまち床は血の海と化した。目に付くのは王の残骸だけだ。

「オスカー様ー!!」
ランシングの悲痛な叫びが部屋中をこだまする。
「うくくく、ランシング様。私はどれほどこのときを、待ったことか...」
狂気に染まったザベロの双眼。まるで血の色そのものだ。
「気でも狂ったのですか、ザベロ。自分のしたことを理解しているのですか?」
「ふふ、ランシング様が私を狂わせたのです。でもこれで邪魔ものはいなくなった。この国も私のもの。もちろんあなたも。さあ、王妃。私とひとつになりましょうぞ!」
ザベロはにじり寄っていく。
じわじわ後退していくランシング。
それを回りでニヤニヤしながら見物している腹心の兵士達。
「近寄らないで!けだもの!!」
鏡台に隠してあった短剣を握り締めると、ランシングはザベロをにらみつけた。その気高さには、周囲も圧倒される。
「ぐふふふぅ...」
もはやザベロにはなにも見えていない。目の前の麗しき王妃以外は...
スキをみて、飛びかかると腕をねじり上げた。

「あぐぐ...」
ランシングも抵抗しようとするが、所詮は女の力。手にした短剣を叩き落される。
ザベロは、そのまま王妃を手折れんばかりに抱きしめると唇を奪いにいった。
生臭い息を間近に感じ、必死に顔をそむけるランシング。
夫の敵となる男の口付けだけは頑強に拒む。

誰が、こんな奴の思い通りになど...!!
ランシングが身悶えるうちに、2人は勢い余って床に倒れこむ。
ザベロが覆い被さるような形で。

顔を激しく打ち振って抵抗されたため、大臣は舌を、滑らかな首筋に這わせ始める。

これが、私が求めていた女の肌か。
その味わいに興奮した彼は、まるで蜜でも舐めとるかのようにむしゃぶりつく。
「け、汚らわしい!!その舌を、舌をどけなさい!!」
まるで聞いたそぶりもなく、今度はドレスの上から量感あふれる乳房をわしづかみにする。
「く、な、何をするのですか、無礼な、やめなさい!!」
これまで味わったこともない夢のような感触だ。柔らかくてトロけてしまう。
ザベロは夢中になって揉みしだく。
薄いドレスごしなので、乳首の転がる様子も手に取るようにわかった。

くそー、たまらん揉み心地だ。まるで手に吸い付いてくるようだ。
感極まったザベロは、薄手のドレスを引きちぎるようにして、胸を露出させる。
その途端に弾力ある双乳がプルンと零れ落ちる。
透き通るような美乳は、上を向いたまま形を崩すこともない。
見事に自己主張をしている。

もはや抑制のきかないザベロは、その片方にむしゃぶりついた。
わざと唾液をまぶしこむような執拗な愛撫で、気高い肉丘はべとべとに濡れている。
芸術品とも呼べるような、この乳房を己の唾液で汚しぬく快感。
それだけで、股間がはちきれそうに膨らんでくる。
先走りがこぼれでる。そしてヒクヒク波打つ。
もちろん、ザベロの下で辱めを必死にかわそうとして身体をくねらすランシングのやわらかい肉体の感触も、心地よい刺激となって作用していた。
「無礼な振る舞いは許しません!!自分のしていることに恥を知りなさい!」

女の乳房を愛撫しただけで、この私がイキそうになるなんて...

ザベロは色事にかけては百戦錬磨を自負していたが、自分の肉体の変化が全く信じられなかった。
これほどまでの女とは...
王妃のすばらしさに身震いすら感じるのであった。

そして、ザベロのもう一本の手が、吸い寄せられるように秘められた花園に伸びようとしたとき...

戸口を固めていたはずの数人の部下が、次々倒れていく。
鮮血を噴出す者。なにやら熱で焼き焦げたようになって転がる者。

「王、王妃、ご無事ですか!?」

掛けつけてきたのは、レオナとエリスだった。
虫の知らせで戻った二人だが、城に戻るや変事を悟り、襲いかかるザベロの手の者をなぎ倒しながらここまできたのだ。
王国最強の使い手である二人には、屈強の兵士といえども雑魚でしかない。

額にうっすらと汗をかき、にらみ付けるように見つめる聖騎士・レオナ。
それとは対照的に涼しげな顔つきで、横目で見るエリス。
すでに2人は床に転がる王の無残な遺体と、王妃にのしかかるザベロを見て、全てを悟ったようだ。

「ザベロ、きさま----------!」
聖剣を手に駆け寄るレオナ。
紫電一閃。見事な剣技で振り下ろされる。
ひっ!!と動物のような声をあげ、飛び退るザベロ。しかし刃は彼の額を切り裂き、鮮血が噴出す。

「うぐっ...」
うめき声を挙げ、悪鬼の形相でレオナをにらみ付ける。
彼も一通りの剣の使い手とは言え、レオナとエリス相手では、到底勝ち目は無い。
そばに転がっていたボウガンを投げつけると、ひるんだ隙に窓を蹴破って、身体を宙に投げ出した。
ザベロはそのまま落下し、堀の中に飛び込む。
派手に水柱があがった。

「しまった!」
あわてて窓から身を乗り出して覗き込むが、暗闇に包まれた堀の水の中に裏切り者の姿はなかった。
「くそっ!」
悔しさにレオナはホゾをかむ。

その後、すぐさまザベロの行方を追ったが、主力の軍隊が離れたところにいた悪条件も重なって、その行方は、ようとして知れなかった。

「ザベロ、お前は絶対に許さない。」
王の葬儀の席上、レオナは復讐の決意を新たにしたのだった。
それはもちろん、棺の前でうなだれている王妃も同じだろう。
しかし、表情からは、それを読み取ることはできなかった。

ランシング様.....

レオナは熱いものがこみ上げてくるのを感じた。


妄想小説目次へ 第一話へ戻る 第三話へ進む