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 第六話:手合い

 少年課を出た紀代香と竜二は、署内にある道場へと場所を移した。
竜二は、ふてぶてしい態度で歩きながら少し遅れて彼女の後に付いて来ている。
だがそのふてぶてしい態度とは裏腹に、紀代香に逢うために自ら捕まった彼にとっては、今が最高のひとときであった。

キュッと引き締まっている白く細い足首。
程よい大きさの丸いヒップ。
運がよければ彼女の全てを自分のモノにできるチャンスが訪れようとしているのだ。

 紀代香に連れてこられた署内の道場は、バスケット・コートが2面ほど取れるほどの広さであった。
紀代香は、竜二をその場で待たせ女性用の更衣室に彼の着替えを取りに入った。

 「とりあえず、これに着替えて」

彼女が、竜二に差し出したのはまだ新しい柔道着であった。
しかし竜二は、紀代香が準備した着替えを嫌悪の表情で見た。

 「いいよ、このままの服装で」

竜二にとっては、着替えるのが面倒くさかった。
さらに柔道着を着るなんて、そんなダサイ格好は死んでも嫌であったのだ。

 「着替えないなら勝負は、ナシよ」

紀代香は、わざわざ準備した柔道着を手渡すのをやめて彼の足元に投げ捨てた。
彼女にとっては、竜二に着替えてもらわなければ困る訳がある。
なぜなら生意気なクソガキに対して、これから力による制裁をくわえるからだ。
現にその事を考えるだけで、体中がウズウズしている。
ただ力による制裁では、場合によって着ている洋服が破れてしまう恐れがある。
いや、確実にボロボロになってしまうのは、目に見えている。
そうなってしまった場合、後々ややこしい事になってしまうのだ。
その点、柔道着を着させていれば少々手荒な真似をしても大丈夫である。
問題は、竜二が簡単に着替えてくれない事であった。
だが、紀代香には考えがあった。
彼の持つ自分に対する下心と、高圧的な自分の態度による反抗心で言う事に必ず従ってくるであろうと予想していた。

 「チッ、分かったよ、着替えりゃ〜いいんだろ!」

竜二は、自分の足元に投げ捨てられた柔道着をチラリと見るとその場で着ていた派手なシャツを脱ぎ始めた。
とりあえず彼女の指示に従わなければ、せっかくのチャンスをモノにできなくなるからだ。

強がっていても所詮、女。
自分と一戦交えれば、かならず落としてみせる。

彼は、絶対の自信を持っていた。

 「そこの更衣室を使いなさい」

紀代香は、目の前で服を脱ぎ出し始めた竜二に向かい更衣室を指差しながら言った。

 「おう!」

竜二は、自分の足元に落ちている柔道着を渋々拾い上げた。
そして、シャツの前をはだけたままドスドスと畳を踏みつけながら更衣室へと向かい始める。

 「じゃ、私も着替えてくるから、着替え終わったらここで待っていなさい」
 「じゃあな!」

竜二は、振り向かずに片手を上げて答えた。
思った通りの展開に紀代香は、ニヤリと微笑み女性用の更衣室へと向かった。
すぐに着替えを終わらせた竜二ではあったが、道場に戻ってみると紀代香の姿は見当たらなかった。
多分、女の事だから着替えに手間取っているのであろうと思い軽い柔軟体操をしながら彼女の出番を待つ事にした。
すると5分程して柔道着をピシッと身にまとった紀代香が、目の前に現われた。

 「ほぅ・・・」

竜二は、彼女の姿を見て感嘆の声を漏らした。
生憎、無粋な柔道着の下にはしっかりと無地のシャツを着込んでいるのが彼女の胸元から見える。
なんの色気もない姿のはずが、彼女の柔道着姿には妙な色気が漂っている。
手荒くアップにまとめてある髪。
柔道着の裾から見え隠れする白い腕と脚。
竜二は、彼女の体の隅々まで目を運んだ。
するとさっきまで気が付かなかったが、彼女の右手には竹刀が握られている。

 「おいおい、いくら女だからって、汚いぞ!」
 「あら、ハンデよこれは・・・」

紀代香は、笑っていた。
そしてその竹刀の切先を竜二の顔面に向け鋭い眼差しで睨み付けた。

 「はい!」

彼女の掛け声とともにその竹刀は、竜二の方に向かって空中を舞った。
竜二は、反射的に慌てて受け止めた。
彼女の言うハンデとは、竜二に与えるためのハンデであったのだ。

 「私の体に一撃でも入れる事ができたら、あなたの勝ちよ、それでいい?」
 「たったそれだけ・・・それだけでいいのかよぉ?」
 「いいわよ」

紀代香の出した条件に、竜二は愕然とした。
なめられている。
完全に自分の事をバカにされている。
竜二は、込み上げてくる怒りを誤魔化すように紀代香から受け取った竹刀で自分の左右の肩を交互に叩きながら言った。

 「ふん、楽勝じゃねぇかよぉ〜、じゃ、行くぜ!」

その掛け声とともに彼女から与えてもらったハンデである竹刀を道場の隅めがけて投げ捨てる。
そして、軽く腰を落としたボクサーのようなスタイル。
自己流のファイティング・ポーズを取った。

 「あらあら、せっかくのハンデ・・・いらないの?」
 「んなモノいらねえよ、使ったらそれこそ俺様の恥だぜ」
 「それじゃ、私も本気でいくから覚悟しなさい!」

口火を切ったのは紀代香の鋭い手刀であった。
はたから見る限りでは、彼女の右肩が軽く上下に動いただけである。
たったそれだけの動きだけで、彼女は一瞬にして竜二との間合いをつめ、指先を揃えた右手で彼の喉笛を鋭く狙ってきた。
やった...はずである。
本来なら一撃で相手の呼吸を止めてしまうほどの攻撃である。
しかし、竜二は紀代香の攻撃をしっかりと見極め軽く頭を振っただけでよけてしまった。

 「遅いよ・・・紀代香ちゃん、不意打ちを狙うならこうしなくちゃ!」

竜二の姿が、紀代香の視界から一瞬消えた。
気が付けば自分の背後に回り込まれ後ろからやさしく抱きしめられている格好となっている。
さらに竜二の喉笛を貫いているはずの右の手首までしっかりと掴まれていた。

 「ホント・・・遅いね、紀代香ちゃんは・・・」

竜二は、紀代香の耳元で囁くと左手でスポーツ・ブラに固く守れている紀代香の美乳をまさぐった。
弾力のある豊満なバストの感触が心地よく手のひら全体に伝わる。
竜二は、指先で紀代香の胸を中心、すなわち乳首を擦り始めた。

 「くそっ!」

紀代香は、無駄とは分かっていながらも背後の少年に向けて左肘を振り下ろした。
彼女の予想通り、その反撃はむなしく空を切る。

 「甘い、甘い・・・そんな攻撃なんて、見え、見えだよ、紀代香ちゃん」

竜二は、弾力のある紀代香の胸をまさぐっている指先に固い突起物を感じ取った。

へへ...感じ始めたか...体は正直だぜ...。
その一瞬の隙を紀代香は見逃さなかった。

竜二に掴まれている右腕を高く自分の頭の上に上げ、左手で彼の腕をしっかりと掴み込む。
そして弓のように背中をしならせ右腰を彼の下腹部に突き入れる。

 「な、何!」

竜二が、紀代香のその動きに気が付いたときにはすでに遅かった。
彼の目には、警察署内の道場の天井と床が上下逆さまに映っていた。

バシーン!

基本型を無視した紀代香の一本背負いが、竜二の体を畳に叩きつける音とともに決まった。

 「うぐっ・・・」

咄嗟的に受け身こそ取ったものの、体に受けた衝撃は強かった。
竜二が、顔をしかめている間に紀代香は奇麗にペディ・キュアを施している足先で彼の脇腹めがけて蹴りを入れ込む。
息が出来ないほどの苦しみの中、紀代香の攻撃を気配だけで察知したのか竜二は体を横に転がして何とか切りぬけた。

 「ちっ・・・」

紀代香は、俊敏な竜二の反応に思わず舌打ちをしてしまう。
自分の爪先が彼の腹部にめり込み、その場で苦しみ悶える姿を楽しみにしていただけに、その攻撃を外してしまった悔しさが堪らなく感じる。
竜二は苦しみの中、息を止めたまま筋肉のバネだけで起き上がった。
そして起き上がると同時に目を閉じたままの、紀代香の気配だけを頼りに回し蹴りをすかさず叩き込む。
これ以上彼女からの攻撃を受けないための防衛策である。
紀代香は、竜二の攻撃をすかさず後ろに飛び跳ねよけた。

 「ぷふぁ〜・・・やってくれるじゃん・・・はぁ・・・はぁ・・・」

紀代香に強く投げつけられた時の苦しみがようやく収まり、竜二は荒い息をつきながら応えた。
いくら一瞬自分が油断したとは言え、これほどまでのダメージを受けたのは初めてであった。
ただ恥ずかしい事に、その初めて自分にダメージを与えた相手は女である。
竜二は、気を引き締めて相手をしないと勝てないかもしれないと感じた。
しかし目の前の美しい紀代香の姿を見てしまうと、どうしてもその意志が鈍ってしまい、つい雄の本性が表に出てしまう。

 「あんたもガキの割には結構やるわね、じゃあ、そろそろ本気でいくわよ!」

今までの男ならこの程度の攻撃で十分倒せた。
それなのに目の前には、ほとんど無傷の男、しかもまだ17歳の少年が立っている。
紀代香は、始めて出会う手応えあつ男に、ニヤリと微笑むと再び攻撃に躍り出た。
タンッ!
軽く畳の床を踏み込み一気に竜二の前に突き進む。
そして両手両足を使って相手に息をつかせる暇を与えないほどの連続した攻撃を浴びせ掛ける。
だが竜二は、紀代香のその攻撃を巧みに腕や脚でブロックしながら、隙を見ての反撃を試みていた。
しかし彼の攻撃も同じようにブロックされていく。

 「紀代香ちゃん、やるじゃない・・・やっぱ、俺と同じ目をしているだけのことはあるね!」
 「おだまり!」

さすがにこうも攻撃が決まらなくては話にならない。
怒鳴りつける紀代香の声には、苛立ちの色が浮かんでいた。
竜二の攻撃は、全くと言っていいほど紀代香には当たらなかった。
だがそれは紀代香にとっても同じ事である。
コレと言った致命傷を与えるだけの攻撃が決まらないのである。
よく当たっても彼の体の一部をかするぐらいである。
ただ驚く事に両者ともかなり激しい運動をしている割には、息一つ切らせていなかったのだ。
お互いに攻撃が決まらないまま30分ほどの時間が過ぎた頃である。
紀代香は、あえてわずかな隙を竜二に見せ彼を自分の背後に回り込ませた。

 「はうっ!」

竜二は、案の定自分の胸を狙ってきた。
紀代香は、彼に胸を強く掴まれワザと切ない声を上げた。


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