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  ミズ・アメリカーナ:運命の逆転                             いぬかみ訳

第五章 邸宅からの追放


「ああ悔しい」ブレンダは唸った。
厳しい一晩を過ごした後、ブレンダとリディアは午前中から日暮れ近くまで寝ていた。目が覚めたのは午後5時前だった。 彼女が寝ている間にも白人奴隷商人達が犯行を行った事をテレビで知った。
彼らは高級ブティックから出て来たソフィー・ヨハンソンを何人もの目撃者が居る中で誘拐したのだ。
ソフィーは二十歳の美しい赤毛の社交界の花形で、デルタ・シティの人気者の一人だった。彼女は多くの慈善活動に参加していた。そしてブレンダやリディアとは家族ぐるみで交際していた。

「けだものめ」 ブレンダは眼を細め険しい顔で歯軋りしながら言った。
こんなに空しい気持に成った事はなかった。
ブレンダは起きて直ぐにパワー・ベルトが有効かどうかを確かめた。何も起きない。今はパワー・ベルトは働かない。ブレンダの少し後で目覚めたリディアもパワー・ベルトを確かめ同じ結果を得ていた。Ms.アメリカーナとフラッグ・ガールは数日間休業を余儀なくされる。

その晩は大きな社会行事が催される予定があった。ソフィーはその慈善晩餐会の開催委員会の主要メンバーだった。ソフィーが誘拐されたにも関わらず、晩餐会は予定どおり進められる運びになっていた。それがソフィーの希望でもあったのだ。彼女は自分が不運な目に遭ったからと言って、貧しい人や助けを必要としている人々が苦しむ事を望んでいなかったのだ。
少なくともニュースではその様に報道されていた。

「不運な目ですって。それは私のお尻の事よ」ブレンダが言った。
「あんな酷い軽薄な表現は聞いた事が無いわ」
「何があったの?」ブレンダの寝室に入って来たリディアが尋ねた。
「ソフィーが‘一日一お嬢様ギャング’に誘拐されたのをニュースでは彼女の‘不運’って表現したのよ」
リディアはテレビに向かってしかめ面をしてみせた。

ブレンダは美しい金髪の被後見人を見た。リディアの姿は衝撃的だった。燃える様な赤いコルセットにお揃いのミニスカートを着けていた。脚は剥き出しでスティレットのサンダルを履いていた。左手首には幅広のダイヤのブレスレットを着け、右手の中指には五カラットのダイヤの指輪をしていた。

「凄く素敵よ」ブレンダは眼を輝かせて誇らしげに言った。
「有り難う」 リディアは少し照れた様に言った。
「貴方のおかげだわ」

二人は慈善晩餐会に出かける所だった。どんなに体調が悪くても、二人はブレンダ・ウェイドとリディア・ウィルスとして出席しなければならない。Ms.アメリカーナとフラッグ・ガールが苦い体験をする度に、二人が公衆の面前に姿を現さないならば、報道機関はさておき犯罪者達は直に二人の秘密に思い当たるだろう。

「うわー、そのドレスはヴェルサーチェのデザイン?」リディアはブレンダの姿態を賞賛する様に見ながら言った。
「そうよ、気に入った?」
「それに、何れ程・・・」リディアは一気に言った。
「晩餐会殿方の眼を引くか女神様のみぞ知るね。それを考えるとゾクゾクするわ」
 ブレンダは声を上げて笑った。
 ブレンダは出来るだけ沢山の性的な緊張や挑発を期待していた。彼女は、パワー・ベルトが効力を発揮しスーパー・パワー獲得する為に、性エネルギーの再充電を必要としていたのだ。
 リディアの服装も同じ理由によるものだった。普通の生活において二人はセックスをしないのである。

 ブレンダのドレスは紐なしで黒く絹の様な光沢が会った。リディアの服装の様に、ブレンダのヴェルサーチェも体にピッタリしたコルセットで彼女の97Gsを悩ましくしていた。スカートの真中にはスリットが危険な程上の方まで切れ込んでいる。そして、黒いレースの付いたガーターベルトと黒いストッキングがより刺激を強めていた。歩く度にストッキングの上の部分がチラリと見える事も意識されていた。それを見た男達は我を忘れるだろう。

コン コン  ドアをノックする音がした。
「誰なの?」ブレンダが言った。
「ミミです」ホールの方から小さな声が聞こえた。
「入って」

 品物を乗せたお盆を持った可愛らしいフランス人の美女が入って来た。ブレンダはメイドを見ながら片方の眉をつり上げ不快な表情をした。それは一時間も前に頼んだもので、ブレンダは完全に忘れていた。
 ブレンダは使用人対し落ち度が無い様常に要求しており、普段は使用人達の反応も速く気配りも行き届いていた。
 この弁解の余地の無い怠慢はきつく叱らねばならないだろう。多分明日になるだろうが。

「ずいぶん遅かったわね」ブレンダが言った。
「遅かったですか?」ミミが言った。
「ちっとも遅くなんかありませんよ。食事はここに置いておきます。それじゃ・・・」
 ミミは、二人を見ようともせず一瞬だけ笑みを浮かべると、ブレンダの指示も待たず振り返り部屋を出て行った。
 ブレンダとリディアはあっけ取られてメイドが去って行ったドアを見詰めた。
「なに、あの態度?」リディアは呆れた様に言った。
「礼儀が成ってないわ」
「これ以上ここに置いておく事は出来ないわね」ブレンダが言った。

 ミミの家は元々裕福だったが父親がギャンブルに凝り、それで身代を潰してしまったのだ。誰も彼女の素性も経緯もしらないパリから遠く離れたこの地で職を得る事が出来た当初ミミはとても喜んでいた。
「残念だけどミミには暇を出さなきゃいけないかもね。彼女の態度は悪く成る一方でしょうから」
「だけど急に悪く成ったみたい」リディアが言った。
「昨日の朝まではとても良かったわよ」

 二人は軽食を楽しんだ。その間ブレンダは着替えを終えていた。
 ブレンダはシャンデリアの様なイアリングそれに合わせたダイヤのネックレスを着けていた。そして仕上げに高価な香水をつけた。
「リムジンを用意する様に言ってくれない?」ブレンダが言った。

 リディアはリムジンの手配をした。その間ブレンダは等身大の鏡の前で容姿を色々な角度から眺め服装をチェックした。
 一点だけ気に成った。ブレンダはもう少し‘覗かせ’ようと胸を引き上げた。出来るだけ性的緊張を高めたかったのだ。

「変ねえ」リディアは受話器を置き眉をしかめながら言った。
「どうしたの?」
「クライヴと話ししたんだけど。彼、無愛想なのよ。私、邪魔者扱いされた様な気がしたわ。“てめえの事はてめえでしやがれ”って言いたそうだったわ」
「リディア!言葉には気をつけなさい。貴方はレディなのよ」ブレンダが注意した。
「ご免なさい」リディアが謝った。
「でも車の用意は出来てるって言ったわ」

 ブレンダとリディアは、いつもは忠実な二人の奇妙な振る舞いに首を傾げた。ブレンダはその理由が自分に有ると考えた。余りにも‘一日一お嬢様ギャング’に関わり過ぎた為、気付かない内に使用人を軽視して来た事は確かだった。
 明日一番に問題を明らかにし、出来るだけ速く正常に戻す事にした。

「心配しないで、明日全てうまく処理するから」ブレンダが言った。
 ブレンダは明るく振舞う様務め始めた。少なくとも外見的には。
 世間は、彼女がMs.アメリカーナとして受けた地獄の苦しみを知らない。しかし社交家ブレンダ・ウェイドとしては明るく振舞わねばならないのだ。
 しかし、彼女はどんな問題を抱え得るのだろうか? 彼女は若く、美しくそして極めつけの大金持ちなのだ。千二百ドルのブランド品の靴を履けるなら、誰だって幸せだろう。

「準備出来た?それじゃ、恵まれない人の為のパーティに行きましょうか」
 リディアの顔が輝いた。彼女はパーティが、特にダンスパーティが大好きだった。
 ブレンダは、リディアにある種の‘憐れみ’を感じた。リディアは非常にボーイフレンドを欲しがっていたがそれに耽る事は許されないのだ。勿論、欲しがる事自体は彼女を苦しめるだろうが、一方彼女に力も与えるのだ。それはパワー・ベルトにエネルギーを与える燃料なのである。もし、二人が完全に性に興味を失えばスーパー・ヒロインではいられなく成るのである。

 ブレンダはリディアの手を取って部屋の外へ連れ出した。
 ウェイド大邸宅は宏大で、正面玄関前のホールに着くまで数分かかった。
 豪勢な衣装を纏った二人は大階段を降り、樫の正面ドアに向かってホールを横切りる途中、
「ブレンダ!」背後からフェリシティに呼び止められた。

「あーあ、今日は彼女に会わないで済むと思ったのに」リディアは溜め息をつきながら呟いた。
「リディア、行儀よくしなさい。フェリシティは今までの中で最高の個人的アシスタントなのよ。彼女の頭の良さには驚かされるばかりよ」ブレンダは立ち止まり、リディアにそう言うと、
「何の用、フェリシティ? サインが必要な書類が未だ有るの?」ブレンダは言いながら振り返った。
 フェリシティの姿を見たブレンダはドキッとした。

 フェリシティは豪華な衣装に身に包み満面に笑みを湛えていた。この様な服装をしたフェリシティも、その様な笑みを浮かべたフェリシティも見た事がなかった。
 緑色の眼を引き立たせる緑色のドレスを纏い、極めて高価なダイヤのネックレスとブレスレットを着けたフェリシティは衝撃的だった。 しかし、そのドレスも宝飾品も何処かで見た事が有るのに気付いた。

「ちょっと!それ私のドレスよ」リディアが大声を上げた。
「それにそのアクセサリーも私の物だわ」
「フェリシティ、リディアの言う通りよ」 ブレンダは、ほんの一瞬スーパー・ヒロイン・ポーズを取りったが、フェリシティを刺激しない様より女性的態度で言った。
「どう言う事か説明してくれる?」
「ああこの一寸した飾り物の事? それにこのドレスの事かしら?」フェリシティが言った。そして険の有る眼突きに変わり、
「これは私のものよ。少なくとも今はね。全て私のものよ」

 ブレンダの顔に不快の色が浮かんだ。フェリシティは馬鹿げた事を口走っている。そして彼女の個人的アシスタントがシャンペンの入ったグラスを持っているのに気付いた。
 ブレンダの不快の色が濃く成った。ブレンダは酒気帯び勤務を嫌っていた。特に飲みながら仕事をするなぞもってのほかだった。酒飲みの従業員は後に解雇され後悔する様なおろかな事を言うものだ。

「フェリシティ、直に自分の服に着替え、そして家に帰る様強く勧めます、後で後悔する様な事を何か言い出す前にね」
 ブレンダ毅然として言った。
「それからドレスは洗濯屋に出しといて」リディアは高圧的態度で言った。
「もう汚れてるから」

 執事のクライヴがやって来てフェリシティに後ろに立った。そしてミミともう一人のメイドのタミ・ジョーが横のドアから入って来た。ミミは、クリッとした灰色の眼と長い薄茶色の髪の23歳になる愛らしい美女だった。タミ・ジョーは近所に住む娘で、身長170センチ程のほっそりとした体型で人並み以上の胸をしていた。オリーブ・グリーン色の眼が白い肌と明るい赤毛を背景に際立っていた。
 使用人達全員がそこに佇みブレンダとリディアを見詰めた。異様な光景だった。ブレンダは一瞬、乱暴されるのではないかと思った。これは戯れ事としか思えなかった。

 その時正面のドアが開き四人の制服を着た警備員が入って来た。
「リムジンはどこ?」その警備員を通り越して外へ出たブレンダが言った。そして長年務めて来た執事の方を向き、
「クライヴ、車の用意は出来ているって言ったでしょう? 車は何処にも見えないけど、説明して頂戴」
「私には貴方の様な方々に説明する理由は見当たりませんが、Missウェイド」クライヴの言葉にはブレンダを見下す様な雰囲気があった。
 ブレンダは言葉を失った。“貴方の様な方々”とはどう言う意味か? それに苗字に“Miss”を付けると言う信じ難い誤りを犯すとは。ブレンダが“Ms”を付ける様強く要求している事は誰でも知っている。クライヴはこんな誤りを犯す様な執事ではない。彼はプロ中のプロなのだ。デルタ・シティ最高の執事なのだ。

※訳者注:既婚女性には“Mrs”(ミセス)、未婚女性には“Miss”(ミス)を付けるのが一般的である。従って未婚女性であるブレンダの姓に“Miss”を付けるのは間違いとは言えない。しかしフェミニストは女性だけ未婚と既婚を別ける習慣を性差別と見なし、男性のMr(ミスター)と同様、既婚未婚を問わずMs(ミズ)をつける事を要求する。既婚未婚を問わず老若男女、誰にでも使える日本語の“さん”の様な言葉が有ればもっと良いでしょうけど。ブレンダの考えを熟知しているクライヴが、意図的に“Miss”を付けたのなら彼女を侮辱する意思があった事になる。タイトルの付け方は、この話しの後にも出て来るので註釈しておきます)

 警備員はブレンダとリディアの腕を掴んだ。各々の両腕を二人の警備員が両側から抱え込む様に取った。
 ブレンダは頭の中が混乱した。何故忠実だった使用人や個人的アシスタントが心変わりし、自分を見知らぬ者の様に扱うのか説明がつかなかった。

「私を・・・放しなさい」
 ブレンダは警備員から逃れようと空しく足掻きながら命令する様に言った。
 全員が長い事ウェイド大邸宅の警備員をしていた者達だった。彼らは最高の仕事をして来たし、それに見合った給料も支払って来た。
「貴方達、気でも狂ったの? 説明しなさい。今直によ!」

「喜んで私が説明してあげるわ、ブレンダ」フェリシティがブレンダの前に歩み寄って言った。
「名前を呼ぶなんて失礼でしょう? 私は貴方の上司なのよ」ブレンダが言った。
「Msウェイドと呼びなさい」
「違うわね。以前はそうだったけど今は違うわ。物事は変わるのよ。運勢も財産も変わるし人生も変わるのよ」
 フェリシティは不気味な笑みを浮かべながら言った。
 フェリシティは豪勢な正面玄関ホールを見回し、そしてブレンダとリディアを見詰めて、
「灰の中から不死鳥が甦ったのよ、ブレンダ。その不死鳥とは私の事。そして今度は貴方が灰の中に落ち込む番よ。嘗ての権力と栄光は灰に成り、その中に落ちるのよ」

「一体、何の事を言ってるのよ?」警備員から逃れ様とも逃れられないリディアが言った。
「そうよ」ブレンダが言った。

 ブレンダは怒り狂っていた。使用人達の態度は、“礼を逸する”という段階を遥かに越えている。この広間にいる者は一人残らず即刻クビにしなければならない。
「私、今の状況を知りたいわ、貴方達全員を放り出す前にね」
「ああ人を寒風の中に放り出す、そのやり方、貴方よく知ってたわよね」フェリシティは緑色の眼に険を湛えて言った。
 そしてニヤッと笑うと。
「実は私ずっと貴方に一寸した嘘をついてたのよ、悪どい嘘をね。でもそうする必要が有った。本当の事を知られたら貴方に雇ってもらえないから」
「本当の事って?」
「私の名前はフェリシティ・スィートウォーターじゃなくて・・・」フェリシティが言った。
「フェリシティ・ドレークスよ」

「なんですって!」ブレンダが大声を上げ、更に激しく抵抗した。
「こんな亊してただじゃ済まないわよ、フェリシティ。私誓って言うわ」
「私、解らないわ」リディアが言った。
「フェリシティ・ドレークスって誰?」
「私の父親とブレンダの父親とは最大のライバル同士だった・・・」
 フェリシティは、マニキュアが施された指でブレンダのドレスの上端を撫でながら言った。そしてその指をブレンダの首元へ当て、胸の谷間に向かって一直線に引き下ろした。
「私が未だ小さかった頃、ここにいるMissウェイドが父親の企業を引き継いだ。彼女が最初にした仕事は私の父を潰す事だった。復讐の為に。それで私達は私邸を追い出された。その後直に父は亡くなったわ、敗残者としてね。私の母は父より十歳程若くそして美しかった。母は、借金の返済や私の面倒を見るため、売春に手を染めざるを得なかったのよ」

 ブレンダの全身がカッカと熱く成って来た。ドレークス家に付いては十年以上も前から頭を離れなかった。ドレークス家の事を思い出す度に血が煮えくり返った。彼らは父の不測の死を喜び、そして勝利の喜びを露にして来たのだ。ブレンダは、七歳の時父親が殺害されるのを目撃し、父を傷付けた全ての者に復讐する事を誓ったのだ。
 父の死後、ドレークス家は直にウェイド・エンタープライズの半分を盗み取った。そして経営者を失った多くの会社は倒産に追い込まれた。それでブレンダは十年の間計画を練り、十一年めに信託資産運用権を獲得すると計画を実行に移したのだ。
 二年もしない内に、ウェイド・エンタープライズは嘗ての力、富そして栄光を取り戻し、そしてドレークス家は崩壊した。

「それ以来、ずっと復讐の計画を立ててたのよ」フェリシティが言った。
 ブレンダは、自分が立てたもっと悪辣な計画の数々を思い出した。しかしブレンダには、それを実行に移さない良識があった。だがフェリシティはどうだろうか?
「そして今、私の夢見た以上の成功を修めたのよ」
 黒髪の美女は、広間にある物を一つ一つ手で指し示し、
「今は全て私のものよ。ありとあらゆるもの全部。ウェイド・エンタープライズもウェイド大邸宅も、ブレンダ、貴方の物だったものはぜ?んぶ今は私のものよ」

「そんな事有り得ないわ。ここは法と正義の国なんですからね」ブレンダは馬鹿にした様に言った。
「あからさまに物を盗んでそれを自分の物にするなんて出来っこないわ。非常に価値のある物や一般に公開されてるものは特にね」
「だけど、私、盗んだりなんかしてないわよ」フェリシティが言った。
「貴女が自分でサインして全てを私に譲り渡したのよ」
「馬鹿な!私がそんな事する訳ないじゃない」ブレンダが言った。
 その途端、来る日も来る日もサインした山の様な書類の事を思い出した。

「ああ、どうやら気が付いた様ね」フェリシティが言った。
「そうなのよ、貴女が読まずにサインした書類の中に、私の計画を達成させるよう仕掛けてあったのよ。そして、いいことMissウェイド、昨日したサインで、貴女の所有するもの全てを私に譲り渡したのよ。“全て”とは文字通り全ての事よよ」
 その“全て”の言葉を発すると同時にフェリシティは手を伸ばし数百万ドルもするダイヤのネックレスをブレンダの首から引き千切った。更に、シャンデリア・イアリングも取り除いた。

 ミミがフェリシティの手助けをしようと近付いて来る間、タミ・ジョーはリディアの宝飾品を取り外し始めた。
 二人のメイドの眼が歪んだ喜びに輝いていていた。

「あんた達の宝飾品は、全部私の物よ」フェリシティが言った。そしてブレンダ全身を上から下へと眺め、
「そのヴェルサーチェ・ドレス、それも私のもの」

ジジーーーーーッ!
「ああ、止めて!」ミミにジッパーを外されたブレンダは息を呑んだ。
 フェリシティは直ちに手を伸ばし、ドレスのブレンダの巨乳の間の部分を掴み真下に引き下ろした。
 黒い絹のドレスが、水が流れる落ちる様にすべすべの肌を滑り落ちると、レース付きのブラ、ソング・パンティそれにガーターベルトが晒された。

ジジジジジーッ!
 リディアは息を呑んだ。
 音のした方を振り向いたブレンダは、赤いブラからはみ出そうに成ったリディアの90Dsが眼に入った。続いてリディアのスカートが引き下ろされ足元の床に落ちた。

「ブレンダ!」リディアが大声で言った。
「何とかしてよ」
「私達が冬の寒い通りに放り出された時、持ってたのはその時着ていた服と各自スーツケースが一つだけだったわ。服の殆どは売り払った。それで安いモーテル代を支払ったんだけど直に底をついたわ。父が亡くなったのはその直ぐ後よ」
 フェリシティは、ブレンダの頬を激しく引っ叩いた。
「今のは私の家庭を破壊したお礼よ」
 そしてブレンダの股間に乱暴な膝蹴りを見舞った。
「ウググッ」ブレンダは、苦痛に身体を二つに折って呻いた。
 昨晩、激しい陵辱と虐待うけた彼女の股間は、未だ痛みが残っていた。
「Bitch(訳注:直訳はメス犬、“売女”など女性を罵る時にしばしば使われる言葉)。この仕返しはきっとしてやるわ」
「もう手遅れよ、MsBitch」フェリシティが唸る様に言った。
「既にあんたは、完膚なきまでに私に遣っ付けられているんだから。悔いが残るのは、あんたを追い出すのが真冬の最中じゃないって事だけね」

 タミ・ジョーがリディアの股間に膝蹴りを入れ、リディアが屈み込むと、背後からミミも股間を蹴り付けた。二人のメイドは、リディアがグッタリして警備員の腕にもたれ掛かる迄休み無く蹴り続けた。

「乱暴は止めなさい!」ブレンダが叫んだ。
「そんなことすれば暴行殴打よ。捕まれば刑務所行きよ」
 二人のメイドは、心配そうな表情でフェリシティを見た。フェリシティが首を振るのを見てホッとした様だったが、リディアへの暴行は控えた。そして後ろへ下がり、嘗ての主人の取り扱いをフェリシティに任せた。
「訴えられる事なんか無いわよ」フェリシティが言った。
「さもなきゃ私、百万ドル以上の宝石類の窃盗容疑で告訴しなきゃならないものね。多数の目撃者も居る事だし」
 ウェイド大邸宅の使用人達がフェリシティの回りでニヤニヤ笑っていた。
 ブレンダは呆れ返った。使用人達は常に公正に扱って来た。給金も良く、デルタ・シティの家事を行う人達の中で最も良い条件を出して来た。何故、フェリシティの側に付いのだろうか?

「それじゃ警備員の皆さん、ゴミを放り出して頂戴」フェリシティは、ブレンダに背を向けて言った。
「未だ終った訳じゃないわよ、フェリシティ」ブレンダは薄青の眼を輝かせて断言する様に言った。
「今回は負けたけど決して諦めたりはしないわ。この・・・この・・・怒りの報いをきっと受ける事になるわよ」

 四人の警備員は、ブレンダとリディアを引き摺る様にして正面玄関の方へ向かった。ブレンダとリディアは、大声で喚き立て懸命に足掻いたが、警備員は雄牛の様に大きく頑丈で力も強かった。
 建物の外に出ると、警備員達はブレンダとリディアに両腕を抱えたまま、500メートル以上もある車道を正面ゲートに向かって進んで行った。警備員達は、今や生活の基盤を失った二人の腕を決して緩めたりはしなかったが、レースの付いたブラの中で揺れ動くブレンダとリディアの胸に陶酔しそうに成っていた。
 それがMs.アメリカーナの衣装の狙いの一つである事をブレンダは思い出した。

<大変だわ!> ブレンダに戦慄が走った。
<スーパー・ヒロインの衣装とパワー・ベルトの置いてある秘密の部屋に行けなく成った>

 秘密の入り口は塞がれ、厚い防御と鉄の壁で補強されていた。秘密の入り口を通る為にはリモコン装置が必要だった。リモコン装置は常に持ち歩いている訳では無くMs.アメリカーナ・モービルの中に置いてある。衣装とパワー・ベルトがなければMs.アメリカーナとフラッグ・ガールには成れないのだ。どうすれば良いのだろうか?

<何とかして、邸内の秘密の部屋に行かなきゃ>
 どう成るか解らない未来が待ち受ける正面ゲートへ向かいながらブレンダは考えた。

「あそこで何が起こってるのかしら?」リディアが言った。
 悲観的な物思いに耽けっていたブレンダは、リディアの声で我に帰った。
「ああ、あれは報道関係者、売春業者、女主人その他諸々の性風俗関係者さ」警備員の一人が言った。他の警備員達は笑いを噛み殺した。
「フェリシティさんが呼んだんだ。彼女の嘗て知ったる冷酷・残酷な世界に入るのを歓迎する為にね」
「ジミー!これは酷過ぎるわ」
 ブレンダは、右手を抱えている警備員に対して必死に頼み込んだ。
「お願いだからこんな事しないで。私を助けてよ、そうすればタップリお礼させてもらうから。他の皆も同じ様にするわ」
「今頃言っても遅過ぎだね」ジミーが言った。
「既にフェリシティさんからたんまり貰ってる。それにこの仕事が済んだら多額のボーナスが貰える事に成ってるんだ」
「あんた達・・・この不忠義なウジ虫野郎」リディアが叫んだ。
「悪党。狼藉野郎」

 一行は高い鉄のゲートに到着した。その途端、群衆から衝撃的な光景を目の当りにして息を呑む音が湧き上がり、あちこちからフラッシュの光が放たれ始めた。
 沢山のカメラから一斉に放たれた強い閃光に、ブレンダとリディアは瞬きをして顔を背けざるを得なかった。

 群衆の隙間を通して、ブレンダは数人の知っている者の姿を認めた。嫌悪する売春業者のキッド・ロッテン。ポルノ映画制作者、兼監督、兼シナリオライターであるジョニー・ジャームスが居た。
「パパラッチじゃないわ!」ブレンダが叫んだ。
「それがどうした?」ジミーがニヤニヤしながら言った。

 ブレンダとリディアは、突然自分達が殆ど裸である事に気付いた。 ブレンダのスーパー・ヒロインの衣装と実際は同じ様なものだが、衣装と下着姿とでは大違いなのだ。
 これから数週間、彼女達の写真はタブロイド判を賑わすだろう。
 ブレンダは、ありとあらゆる侮辱を受ける事に成るのが解っていた。
<この事に付いてもフェリシティに報復しなきゃ> ブレンダは思った。

 重い鉄のゲートがゆっくりと開き始めた。
 ブレンダとリディアは、二本の門柱の丁度真中に居た。その為ゲートは二人に触れる事無く左右に開いた。そしてゲートが開くや否や、二人は乱暴にゲートの外に押し出され、群衆の真っただ中に放り込まれた。

「厄介払いは済んだぞ、ザマア見やがれ!」ジミーが声をかけると、直ちにゲートは閉り始めた。

「ウェイドさ?ん! ウェイドさん」報道担当者が呼びかけながら駆けつけて来た。
「ブレンダ、貴女は全財産を失いました。今貴女は一文無しな訳です。これからどうするつもりですか?」
「ディズニー・ワールドへ行くところさ」キッド・ロッテンが大声で言った。
 ブレンダとリディアを除き、全員が大笑いした。
 ブレンダは鋭い目つきでキッド睨み付けた。キッドは笑みを浮かべ軽く会釈をして返すと、人を掻き分けブレンダに歩み寄って来た。
 ブレンダはキッドから眼を背け、群衆の中に誰か友人の顔がないか見回した。二人は町へ行く為の乗り物が必要だった。町へ行けば銀行口座から現金を引き出し、今直ぐ必要な衣服を買う事が出来るからだ。
 明日一番に顧問弁護士を訪ねるつもりだった。そして報復を開始するのだ。

「嫌っ、放してよ」リディアの声がした。
 振り向くと、大きな黒人に抱きつかれたリディアの姿が眼に入った。J?パズと呼ばれる悪名高い売春業者だ。J?パズは、リディアの背後から身体を押し付け右手で彼女の右胸に触り、左手は途中でリディアの両手で阻まれていた。彼は2メートル近くある長身で筋肉も良く発達していた。二人とも、パワー・ベルト無しでは敵う相手ではない。

「彼女からその汚い手を離しなさい!」ブレンダは、J?パズに歩み寄りながら叫んだ。
「このお嬢ちゃんに乗り物を勧めてただけさ」 J?パズはニンマリと笑みを浮かべて言った。彼はリディアの抵抗を楽しんでいた。
「俺があんた達をこの大騒ぎから救い出してやるぜ。俺の車は直ぐそこに駐車してある」
「貴女の助けなぞ要らないし求めもしません」ブレンダが言った。
 ブレンダはJ?パズの右手をリディアの身体から引き剥がし、彼の脚を蹴り付けた。J?パズは退かされたが、顔中に笑みを浮かべていた。
「あっちへ行って。みんな離れて、私達を放っといて!」

「やあブレンダ、僕の事覚えてるかい?」ジョニー・ジャームスが言った。
 その筋では有名なポルノ映画監督はいやらしい下品な笑みをブレンダに向けた。眼は半分露出した両胸に向けられている。
「しばらくぶりだねえ、toots(コカインの隠語)?」

 ジョニーはブレンダの高校と大学のクラスメートだった。元々は非常に裕福な家庭の出だったが、ポルノ映画の制作を始めると、家から勘当されたのだ。尚悪い事に、ジョニーは高校の時、ダンスパーティの後でブレンダの処女を奪った男だった。その夜以来ブレンダは彼を遠ざけて来ていたのだ。

「ジョニーじゃない!貴女ここに何しに来たの?まさか私がやけに成って、貴女がしたい事を何でもかんでも受け入れるとでも思ってんじゃないでしょうね?」ブレンダは吐き捨てる様に言った。
「あっちへ行って、そして二度と私に近付かないで」
 ジョニーは肩をすくめた。
「君次第さ、美味しいおっぱい女ちゃん。だけど、僕が必要な時にはいつでもどうぞ、ドアは常に開けて置くから」
 ジョニーが言った。
「何のかんの言っても、高校の時に君の処女を奪ったのは、この僕なんだよ」
「この女たらし!そんな事を皆の前で言う何て何て無礼なの」ブレンダが言った。
 ブレンダはジョニーに詰め寄ると、綺麗にマニキュアが施してある指でジョニーの高慢な顔を引っ掻こうと手を伸ばした。
 しかしその手はジョニーには届かなかった。
「ウウクッ、手を放しなさい、この悪党」
 ジョニーにつかみ掛かろうとしたブレンダを、既に近くへ来ていたキッド・ロッテンが両手で制止したのだ。キッド・ロッテンは背後から両腕でブレンダを抱き、大きな手で97Gsを弄り、絞り上げる等して楽しんでいた。

 ブレンダは、スーパー・ヒロインMs.アメリカーナとして何度もキッド・ロッテンと関わって来た。それは楽しい関わりではなかった。実際、彼女は少なくとも十回以上は彼を倒し、八回刑務所へ送り込んだ。キッド・ロッテンは女性を食い物にするおぞましい売春業者で、ブレンダは彼を毛嫌いしていた。

「イイイイヤーーーー」リディアの悲鳴が聞こえた。
 急いで声の方に目を遣ると、J?パズがリディアのブラのホックを外したのが眼に入った。リディアの白く丸い90Dsが大衆と沢山のカメラの前に晒された。
 売春業者は、大きな片方の手で胸を掴み、もう一方の手でリディアのソングを押し下げ様としていた。
「止めなさい」
 ブレンダは大声で言った。その時、自分のブラの胸の間の部分がキッドに掴まれたのを感じた。
「駄目よ!」
 しかし遅かった。ブラが真直ぐ下に引き下ろされるとブレンダの97Gsが飛び出した。ブラは取られた訳では無く、豊満な腰に、Ms.アメリカーナのパワー・ベルトの様に、乗っかった。
 続いてキッドは長い黒髪を掴み真後ろに引っ張った。そしてブレンダが仰け反った間に素早く顔を胸の谷間に埋め込んだ。
 そこにモラルの欠片もない男達が加わった。ある者はブレンダの顔を両手で挟む様に持ち、無理矢理口付けをした。
 その間キッドは乳首に吸い付き、両手で弄り、撫で付け、摘み、あらゆる方法で体中もてあそんだ。
 大胆にもソング・パンティの中に手を滑り込ませ股間を撫で始めた者も居た。

 ブレンダは身体の変化を感じた。全身が、特に股間と胸が疼き始めた。性行為をしている様な気がした。身体が強く求めているが、普段は理性が抑圧している感覚だった。その理性をひっくり返し自分自身の快楽を求め様とする感覚。それが昨晩白人奴隷業者によって単なる性の道具に変えられた要因であり、今直に止めなければ自分自身を銀のお盆に乗せて売春業者に差し出す事になりかねない感覚だった。

「ウウウムムムグググ・・・」ブレンダはキスされている口で大声を上げ、その男から離れた。
「私に近付かないで!良いわね、はっきり言っとくわ」

 ブレンダは身を捩り向きを変え、身を屈め手を伸ばして群がる色に狂った群衆の外へ逃れた。
 そしてリディアの方へ眼を向けた。
 金髪の美女は断固とした態度で抵抗していたが、明らかに劣勢に立たされていた。
 J?パズはリディアの秘所に指を刺し入れ、他の二人の男が両側から賞品を堪能する様に胸に吸い付いていた。

「リディアから離れなさい、好色男ども!」
 ブレンダは叫び声を上げてリディアの胸に吸い付いている男達の膝の後ろ側を蹴り付けた。
 男達は驚き悲鳴をあげて後ろに倒れた。二人が居なく成り道が開けたところでブレンダはJ?パズのこめかみに強烈なパンチを打ち込んだ。
「ウギャ」
 J?パズは悲鳴をあげてリディアを放して後ろへ倒れ、痛むコブを撫でた。

 その隙にブレンダはリディアの左手を掴み、捨てられた彼女のブラを拾い上げると、リディアを群衆の外へ引っ張って行った。
 さも楽しげな群衆の笑い声や投げかけられた下品で残酷なヤジにブレンダは顔を紅潮させた。
 パワー・ベルト無しでは、高いヒールの靴で土の上を走るのは骨の折れる事だったが、有り難い事に誰も追いかけては来なかった。
 二人はウェイド大邸宅の正面フェンスに向かって走りった。そしてフェンスを走り抜け、真直ぐに大邸宅を取り囲む森の中へ走り込み、そのまま疲れ果てるまで走り続けた。




「ご免なさい」リディアが言った。
 ブレンダは立ち止まりリディアの方を振り返った。リディアは泣きそうだった。
 邸宅に戻り、少しでも前の生活を取り戻そうとしているブレンダは、リディアに構っていなかった。
 ブレンダはウェイド大邸宅の警備員がパトロールしている様子を一時間程の間観察していたのだ。
 大邸宅を取り囲むフェンスは広大な範囲を囲っているので、複雑なセキュリティシステムが必要だった。

「何に謝ってるの?」
「私は役に立たない女よ」リディアが言った。
「私の失敗に貴方まで巻き込んじゃって」

 ブレンダは真夜中の森の影に戻り、リディアの前に立った。依然として二人は殆ど何も着ていなかった。
 ブレンダは直にリディアを元気づける必要があると思った。

「貴方の言うこと理解出来ないわ」
 ブレンダは元気のないリディアを気遣って言った。
「彼らの言った事が正しいわ。私は恥知らずの淫らでふしだらな女よ」
 リディアは、青い眼を森の地面に落として言った。
 ブレンダはリディアを腕に抱き締めた。リディアの頭が心地良さげにブレンダの肩に乗った。
「何を言うの、何故あんな悪党の言う事を真に受けるのよ」ブレンダが言った。
「だって本当なんだもの。私、そうじゃないって自分に言い聞かせて来たけどあの嫌らしい男に捕まったら」リディアが言った。
「私、胸を触られた途端全身がゾクゾクして喘いじゃった。その後はオーガスムの事しか考えなく成った。男が欲しくて、誰でも良かったけど、兎に角何度も、何度もイカせてくれるまで犯されたかったの。その前の晩と同じ様に」リディアは少し下がってブレンダの目を見た。
「ブレンダ、昨日の晩、私を犯している男と一緒に動く様に成るまで長くはかからなかったし、しかも男が止めた時、もっと犯してくれって泣いて頼んじゃったのよ」
 ブレンダはリディアの顔を両手で抱える様に持つと優しく口付けをした。
「良く聞いて」ブレンダは微笑みながら言った。
「そんな事、恥ずかしがる必要は無いのよ。奴等は人間じゃない。奴等は女を貶める為にセックスを利用するのよ。若い女の性を刺激する邪悪なプロなんだから。私が輪姦されるところを見たでしょう。私も同じ様に成ったわよ」
「でも、もっとしてくれとは頼まなかった」リディアが泣き声で言った。
「それは私が疲れ果ててたからよ」ブレンダが言った。
「私、犯されて何も解らなく成っていた。だけど直に止められたら私も間違いなく続ける様頼んだでしょうね。完全に性に狂ってたから」
「私もそうだったわ!」リディアが声を張り上げた。
「私、彼らが誰で何者かも完全に解らなく成ってたみたい。私が楽しんでいた様に奴等にも楽しんでもらいたいと願っていた様だわ」
「正にその通りよ」ブレンダが訳知り顔で言った。
「私達は優越した女性なのよ。一種の呪いの様なものだけど、優越した女性はより性的欲動が強く肉体の要求も強いのよ。
 だけど残念な事に、私達はセックスに耽る事は出来ないの。私達のスーパー・パワーが封印されてしまうからよ」
「それは解るわ」リディアが言った。再び眼を伏せて、
「解らないのは、何故ウェイド大邸宅に忍び込もうとするかよ。もし私達の衣装が手に入っても役に立たないじゃない。今の状態と同じ位弱い立場でしかないじゃない」
「これからずっじゃないわ」ブレンダが言った。
「それに、私のハンドバッグを取り戻す必要が有るのよ。今、現金と少なくとも一枚のクレジットカードは必要よ」
 ブレンダは、自分自身の身体を見て、手で裸の腹部を撫でた。
「それから服も手に入るかも知れないし」
「それ、もの凄く重要な事じゃない」言ったリディアの顔は急に明るく成った。
 二人は互いに頬に口付けをした。

 リディアに元気が出て来た所で二人は、昨日迄は自分達が住んでいた大邸宅に潜入すべく再び警備の様子を窺い始めた。


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