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 第三話:虎口への門

 三人を乗せた車は、その重厚な木造の門の前で止まったままである。
その間口は、車二台が横に並んで通れるほど十分な広さがあった。
奥にある屋敷は、その周りを取り囲む高い塀によって完全に外界から遮断されている。
美佐代は、これほど大きな門構えの家を見た事がなかった。
もしあるとすれば、映画かテレビドラマの中でしかない。

 車を運転している教頭の陰山は、特に何かをするわけでもなくじっとハンドルを握ったままであった。
しばらくすると2枚あるうちの左側の門が、音もなく動き始めた。
外界からの来訪者を招き入れるためである。

 教頭の陰山は、車が通れるほどのスペースが確保されるとゆっくり前へ進み始めた。
玄関まで続くその広い道の両側には、数メートル間隔で外灯まで立ててある。
車は、小石が敷き詰めらてている道をジャリジャリとタイヤを鳴らしながらさらに奥へと向かい始めた。

 ゆるやかなカーブを通りぬけると、ようやく今晩の目的地が三人の前にその姿を現した。
その造りは平屋ではあるが、先ほどくぐってきた門の主としての風格を十分すぎるほど備えていた。
もし先にこの屋敷の姿を見ていたならば、重厚な木造の門などただの飾りにしかすぎないと感じるほどである。

 美佐代は、個人の家とは思われないような明るい玄関先に、黒いスーツに身を固めた二人の若い男が深々と頭を下げているのを見つけた。

 頭蓋骨に皮を被せたような教頭の陰山は、その玄関前まで車を寄せた。
三人を乗せた車が止まると、二人の若い男は二手に分かれ後部座席のドアを静かに開けた。

「いらっしゃいませ、奥でご主人様がお待ちしております」

 その言葉を耳にした美佐代は、ここが一体どの様な場所なのか全く見当がつかなくなってしまった。
料亭のようなところなのか、それとも個人の家なのか。

 彼女が、その戸惑いのため少し遅れて車を降りると、教頭の陰山がトランクから手さげ式の紙袋を取り出していた。
すでに校長は大きな旅館のような玄関の前で、残りの二人が自分の横に並ぶのを待っていた。

 三人が揃ったところで校長は、そのブヨブヨの体を一歩前に進めた。
すると、自動的に玄関が開き、奥から低い男の声が聞こえた。

 「ようこそおいでくださりました、腹田様」

 和服の似合う恰幅よさそうな中年男性が、玄関先で正座をしたまま頭を下げていた。
その男の後ろには、同じように頭を下げている一人の和服姿の女性も見える。

 「いやぁ、すまん、すまん、突然無理を言ってしまって」

 校長の腹田は、ズカズカと玄関に上がり込んだ。
和服の似合う中年男性は、その顔を上げた。
一度見たら忘れないような凛々しい眉毛が印象的である。

 「おや、今日は陰山様も御一緒でございますか」

 歩く脂肪のかたまりの腹田に続き、教頭の陰山もいつの間にか玄関に上がっていた。
二人は、和服姿の女性が差し出すスリッパに靴を履き替え、美佐代が上がってくるのを待っている。
彼女は、慌てて二人に続いた。
ロー・ヒールのパンプス脱ぎスリッパへと履き替える。

 「さっ、奥へご案内いたします、今日はごゆっくりとお楽しみ下さい」

 立派な眉毛の中年男は、和服姿の女性に目で合図した。

 「どうぞ、こちらです」

 和服姿の女性は立ち上がると、静かに歩き始めた。
美佐代、肌のツヤや張りからして自分とあまり年の変わらないその女性の後に続く。
ただ自分と違うのは、和服姿がそう感じさせるのか同性の目から見ても異様に艶っぽく見えた。

 案内役の女は、着物が擦れる音を立てながら小さな歩幅で歩いていた。
手入れが奇麗に行き届いている中庭を右手に、その広い廊下は奥へと続いている。
その長い廊下の二つ目の角を折れると、離れへと続く渡り廊下が現われた。
離れと言えども、十分に一家族が生活できるだけの大きさはある。
美佐代は、左右に広がる落ち着いた庭園を目にしながらここにきて初めて口を開いた。

 「校長先生、ここは・・・」

彼女には、この屋敷がいったい何なのか見当がつかないのだ。
なぜなら個人の家にしては広すぎるのだ。
庭の規模も含めると、高級料亭や旅館クラスの敷地面積があると考えてもおかしくはない。

 「驚いたじゃろ、森川先生、これでもここはさっき玄関で出迎えてくれた人の自宅なのじゃよ」

 校長の腹田は、ニヤニヤしながら自分の前を歩く和服女性の後ろ姿を見ていた。
淡い藤色の無地の着物の襟首から覗く白いうなじが、後ろを歩く男達へ淫らな妄想を抱かせる。

 「すると、さっきの方が・・・」

 美佐代は、もしやと思い尋ねた。

 「残念じゃが、理事長さんではないんじゃ、ワシの古くからの友人の一人でのぉ・・・」

 腹田は、たまりかねてついに自分の前を歩いている女の左右に揺らめく大きなヒップに、手を当てた。
彼は、歩きながら嘗めるような手つきでその手を動かし、彼女の下着の有無を確認する。
美佐代は、その光景を目の当たりにして絶句した。
本来ならその行為事態が恥ずべき事なのだが、驚いた事にさわられている和服姿の女性は声すら上げないのだ。
まるで何事も起きていない感じで歩き続けている。

 「アイツは趣味で料亭ごっこをしておるんじゃ、なんせ料理を作るのが好きな奴でのぉ、趣味が高じていつも間にかプロ以上の腕前になってしまった奴なんじゃよ」

 腹田は、美佐代の答えながらもせわしなく女の柔らかな尻肉の感触を楽しんでいた。

 ようやく玄関から離れの入り口に辿り着き、その襖を淡い藤色の着物の女が両手をそえて開いた。
部屋の中はごく簡単な作りで十畳ほどの広さであった。
奥に床の間があり、掛け軸と生け花が飾られている。
右手側には、大き目の窓から奇麗な庭が一望できた。
そして左手側は、その奥にもまだ部屋があるのであろうか四枚の襖で間仕切りをされたままである。

 「森川先生は、主賓じゃから上座へどうぞ」
 「は、はい・・・」

 美佐代は、校長の腹田に言われるがまま、上座の席へ腰を降ろした。
彼女が、ふと頭を上げて顔を前に向けると、全く何事も起こっていないような顔で和服美人がその場に立っている。
だが、その女性の体には二人の醜い男が、ヘビのように絡み付いていた。
校長の腹田は、彼女の着物の合わせ目から手を股間に差し入れ、教頭の陰山は着物の上から両胸を揉んでいる。
美佐代は、まるでこれからの自分の姿を見ているようであった。

 「がはははは、チップじゃよ、チップ」

 美佐代の視線に気が着いた腹田が、照れながら自分の席へ着いた。
全員が腰を降ろし一呼吸おいてから、すぐに三人の女性がお茶とお絞りを運んできた。
先ほどの女性の姿はなかったが、同じ淡い藤色の着物を身に纏っている。
失礼しますと声をかけ、それぞれの席にお茶を運ぼうとした時だった。

 「ちょっと待ってくれるかのぉ、・・・まずは、そのお嬢さんに自分の分を選んでもらってくれ」
 「えっ!?」

 まず校長の腹田に運んできたお茶を渡そうとした女性の動きがとまった。
彼女の視線は、どうやら先輩格にあたる女性へ移った。

 「薬でも入っていると思われてたら、かなわんからのぉ〜・・・わっはっはっは!」

 美佐代に対する腹田の読みは、当たっていた。
その言葉を耳にした美佐代の表情が、一瞬固くなっていたからだ。
美佐代は、腹田から顔をそらすと三人の中のリーダー格に向かい平然とした声で話した。

 「あっ、どうぞ、どれでも結構ですから配膳していただけませんか?」
 「かしこまりました」

 彼女が声をかけた女性は、ニコリと微笑むと、自分の目で残りの二人に指示を出す。

 『このままでは、さらに不利になってしまうわ・・・』

美佐代は、受け取った熱いおしぼりでしなやかな指先を丹念に拭きながら逃げ道を模索し始めた。


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