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 第二話:閉ざされた退路

 美佐代は、真っ青な顔のまま椅子に腰を降ろした。
壁に掛けれている針は、ちょうど4時をさしている。
気の早い職員は、ぼちぼちと帰る身支度を始めている。

 美佐代は、授業用のノートを再び開き、中断した来週の授業の準備に取りかかった。
教科書を開き本文に目を通す。
だが彼女は、目で教科書に書かれている文字を機械的に追うだけで、頭の中では全く別の事を考えていた。
妹の美加のことである。

 受験先の理事長が、一体何を言ってきたのか?

 真面目でやさしい妹が、何か問題でも起こしていたのか?
美佐代は、一体どうすれば美加を守ってあげられるかそれだけを考え続けていた。

 他の職員が全て帰宅し職員室が静まり返った頃に、美佐代は慌てて時計を見た。
6時10分前である。
彼女は急いで、帰る支度を始めた。
あの校長との約束を破りたくはなかった。
いや、それよりも約束の時間に遅れて、より不利な立場になりたくなかったのだ。

 自分の荷物をロッカーから取り出すと、走って職員用の玄関へと向かう。
靴を履き替え玄関の外に出ると、すでに校長の車が止まっていた。
後部座席の窓を黒いスモーク・フィルムで覆い隠している黒い高級外車である。
美佐代は、軽く息を切らせながらその車に近づいて行く。
すると後部座席の窓が静かに下がった。

 「さっ、森川先生、早く乗った、乗った!」

開いた窓の奥から、声が聞こえた。
美佐代が、一番聞きたくない声すなわち校長の声である。
彼女は、いつもと同じ毅然とした態度で車に近づきドアを空けた。

 校長は、ご機嫌な顔をして奥に座っている。

 「失礼します」

 美佐代は、なるべく校長と顔を合わさないようにして車へと乗り込んだ。
車の中の独特な匂いと、厚い脂肪に包まれている校長の体臭が入り交じった複雑な匂いが彼女の鼻腔内を刺激する。

美佐代は、思わず息を止めた。

 『気持ち悪い・・・でも、仕方が・・・』

美佐代の目の前にある唯一新鮮な空気を取りれてくれる窓が、校長の手によって閉じられていく。

美佐代は、閉じていく窓を諦め前を向いた。

 「出してくれるか?」
 「かしこまりました」

 車のルーム・ミラーには、本来の運転手の代わりに教頭先生の顔が映っている。
この二人の組み合わせでは、必ず何かある。
そう直感的に感じた美佐代は、いつもの厳しい顔つきで校長の方を見た。
ニヤニヤと薄汚い笑顔を浮かべている。
彼女は、校長の笑いを気にせず話しを切り出した。

 「で、妹のことですが」
 「その話は、食事をしながらじゃとさっき約束したじゃろが」

 ニンマリと笑う校長の顔に、油のような汗が滲み出す。
美佐代は、それぐらいの事で怯まなかった。
そう答えてくると言うのは、初めからわかっていたからだ。

 彼女の視線は、もう話す必要が無くなった校長の顔から車の進行方向へ向けられる。
度の強い眼鏡の奥で光る教頭の細い目が、ルーム・ミラー越しにこちらを見ている。

 「はい、そうでしたね」
 「ワシ、いい店を知っておるんじゃ、今日はそこでパァーッと行こうかの、森川先生!」

 校長の声は、嬉しさに満ち溢れていた。
ようやく美佐代を自分モノにできるかもしれないチャンスに、めぐり合えたからだ。
だが機転の利く彼女の事である。
手順を間違えれば、もう二度とこのチャンスにはありつけない。
校長は、美佐代の美しい横顔を見続けながら考えていた。

 「ところで、森川先生の御両親は海外で生活をしとるそうじゃの?」
 「な、何故それを・・・?」

 美佐代は、驚いて校長の方を向いた。
確かに、彼女の両親は仕事の関係で海外に赴任し日本にはいない。
しかしその事は、学校関係者に対して一切話しをしていない。
すでに成人している美佐代は、報告する必要性がないと判断したからである。

 「ほれ、妹さんが受験する高校の理事長から聞いたんじゃよ」

 彼女は、言葉に詰まってしまった。
美佐代に関する最新の情報など、彼女の妹の入学願書さえあれば十分に調査できる。
美佐江は、考えた。
どうすれば、妹の将来を守れるか。
そして、自分の体をどうやって守り通すかを。
この歩く脂肪の男の考えは、すでに分かっている。
美佐代は、キッと校長の目を睨み付けた。

 しかし、彼女は一つ気になる事があった。
もし、この男の狙いが本当に私の体だとすれば、二人っきりになるように事を運ぶはずである。

それなのに何故いつもの運転手の代わりに教頭を使うのか?
美佐代は、次にルーム・ミラー越しに教頭の顔を見た。
ガリガリにやせ細っている彼の顔は、皮膚の下はすぐに頭蓋骨と言う感じてある。
度の強い眼鏡の奥にある細い目は、誰にでも冷たい視線を浴びせ掛ける。
またこの校長の性格からすれば、教頭と二人で自分を襲うと言う事は考えにくい。
 そう考え出すと美佐代は、校長の狙いが分からなくなってきた。

ただ一つ分かっている事といえば、自分の立場が少しづつ追いつめられている事だけである。

 「それにしても大変じゃのぉ〜、その年で妹さんの面倒も見ておるのじゃから」
 「いえ、当たり前のことですから・・・ところで、どこまで行くのですか?」

 美佐代は、別の所から考え直してみる事にした。
すでに車が走り出してから30分ほど経過している。
しかし、進行方向から考えると食事のとれそうな店があるようには思えなかった。

 校長は、隣に座る美佐代の全身を舐めまわすように見続けた。
それも今まで彼女を盗み見るような目つきとは違い、いやらしい目つきで堂々と見ている。

 「な〜に、もうすぐじゃよ、まぁ、少し変わった店じゃがの・・・」

 しゃべり続ける脂肪のかたまりは、美佐代の白い首筋を思う存分舐めまわしたいと思った。
視線を少し落とすと、二つのふくらみが存在している。
両手で揉みしだくには、手ごろな大きさである。

 運転をしている教頭も、前を見据える美佐代の視線を気にもせずに彼女を見続けた。
ミラー越しの美貌も悪くはない。
彼女の甘い吐息すら感じ取れそうである。

 「完全会員制でな、一般の人間は入れないんじゃ」

 校長の視線は、一気に彼女の足首へと飛ぶ。
そのキュッとしまった細い足首は、両手で掴み大きく脚を広げさせるにはもってこいである。
また、ごく普通のパンティ・ストッキングに包まれている脹脛は、学生時代の運動によってしっかりと引き締まっていた。
校長は、彼女のパンティ・ストッキングに自分の爪を立て、引き裂いて行く姿を妄想した。

 そしてミラー越しの冷たい視線は、美佐代の胸へと移動する。
車を運転する骸骨の標本模型のような男は、彼女の胸の柔肉を思いっきり掴み揉みほぐす事を思い描いた。

 自分の指先で柔肉の先端の突起物を、指先でコリコリとつまみあげるのも悪くはないとも考える。

 「その前に、店の存在すら分からないと思うがの!」

 校長の笑い声が、ヤニくさい息とともに車の中に充満する。
その男の妄想に満ち溢れた車内に閉じ込められている美佐代の視線は、先ほどから慌ただしく動いていた。
先ほどからこの車は、高級住宅街の一角を走っているのだ。
右を見ても左を見ても、門構えのしっかりとした豪邸が建ち並んでいる。
そして車は、しばらくゆっくりと走り続けた後、ある一見の豪邸の門の前で静かに止まった。

 「おっ、着いたか・・・ここじゃよ、森川先生」
 「ここが・・・?」

 美佐代の目には、車の進路を塞いでいる古い和風建築の立派な門が映っていた。


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