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  『タナトスの囁き』 (4)                                  久遠 真人作         

【4】戸惑い……そして決心……

ザーッ

(……なんで、あんな夢を……どうして、私はあんなに感じて……)

真帆は浴室の壁に寄り掛かるように立ち、熱いシャワーを頭から浴び続けていた。


あれからタオルをもって心配して世話を焼いてくれようとする薫に、秘部から溢れ出した愛液の香りに気が付かれないかと慌てたが、幸い薫が焚いていてくれていたアロマの香りに掻き消されたのだろうか、薫が気付いた様子は無かった。
真帆は、薫が朝食を用意をするからと台所に戻った隙を見計らって、少し気だるい体を引きずりながら脱衣所へと逃げ込んだ。脱衣所で恐る恐る下着を脱ぐと、ヌチャッとした汗とは異なる粘つくような感触と共に、強い牝臭が脱衣所内に立ち込めた。その香りと夢での出来事を改めて思い出し、それを打ち消すかのように慌てて浴室で下着を洗った。だが、洗いながら正面の鏡に映し出された自分の姿を見て愕然とした。
真っ白な柔肌はまるで熱病にかかったかのように赤く染まり、グッショリと濡れた裸体は窓から差し込める陽の光を浴び、ヌラヌラと艶かしく光っている。表情もトロントした目をし、いつもはサイドに流している髪が汗で濡れ頬に張り付き、いつもの知的なとは異なる煽情的な雰囲気を醸し出していた……そう、まるで夢の中で強烈な被虐の快楽によってアクメに達した時ような牝の顔をしていたのだった。

(どんなに知的に清楚に振舞っても、貴女の中にはマゾの本性が潜んでいるのよ)

夢での言葉が脳裏で何度も何度も真帆の頭の中で木霊する。

「……ちがう………ちがうわ……」

その声を掻き消すかのように全開で出したシャワーを頭にかぶるり、目を瞑り必死に首を振り否定し続けた。だが、真帆の心に中に打ち込まれた楔は消える事は無かった。




「あら、長かったね。浴室で倒れでもしたのかと心配になっちゃった」

裸体に白いバスローブを着込んだ真帆が浴室から出てくると、薫は心配そうな顔で出迎えてくれた。
リビングには薫が用意してくれたのだろう。ダイニングテーブルに置かれた拘束具はテレビの前のソファ横に移され、代わりに簡単な朝食…ソーセージ、スクランブルエッグ、サラダ…が2人分並べられていた。

「簡単なモノしか出来なかったけど……どう? 食べれそう?」
「え、えぇ……ありがとう、頂くわ」

彼女なりに気遣ってくれているようであった。昨夜のビデオの事はおろか、片帆の事を口に出さないようにしてくれている。その心遣いが嬉しくて、真帆も無理してでも笑顔を浮かべ元気に振舞うと、薫と共に椅子に座った。

「あら、この香り……」

その時になって、リビングにも寝室と同じアロマの香りが漂っているのに気がついた。

「あぁ、これね? 私は心療医療とかセラピーとかも研究していてね。以前、片帆にも試してもらっていたアロマが残っていたので焚いてみたの。イイ匂いでしょう? 精神をリラックスさせてくれる効果があるのよ」

彼女の説明を、真帆は聞き改めて室内に漂うアロマの香りを嗅いでみた。確かに独特のほんのり甘い香りを嗅いでいると、全身の力が抜け、体の芯からポカポカと暖かくなってくるような不思議な感じがした。

「片帆も、このアロマが凄く気に入っててね。寝る前には必ず焚いていた……て、ゴメンなさい」
「ううん、気にしないで……」

無意識のうちに片帆の事を話してしまっていたのに気が付いたのだろう。ハッとした彼女は直ぐに頭を下げ謝った。そんな率直な彼女の反応に真帆は好感は持った。
それから、薫が煎れてくれたハーブティを飲みながら、2人はモクモクと朝食を食べた。そして、食器の片づけを2人でした。そしてソファに移りお替りのハーブティを煎れると、薫が恐る恐るといった様子で尋ねてきた。

「ねぇ、真帆………真帆はこれからどうしたい?」

正面に座った薫は、少し言いよどんだが真剣な表情を真帆に向けると切り出した。

「正直、私には片帆がその……マゾ……だなんて信じられない。でも、あの画像を見てそれが本当なのか嘘なのか分からないの」
「それは……」
「だから、真帆がここでもう片帆を探すのを止めるっていうのなら、私のこれ以上は首を突っ込まないし、真帆がまだ探すっていうのなら、協力させて!!」

身を乗り出し真帆を両手をガッシリと掴み真摯に訴える彼女の姿に、自身の迷いと同じものを感じ、真帆は心のうちを打ち明けた。

「正直……まだ私にも片帆の気持ちは理解ができてないの。でも、どちらにしても片帆の口から直接聞きい。だから……だから……薫……私に力を貸してくれる?」

不安で震えそうになるのに必死に耐えながら言葉を搾り出した真帆に、薫はギュッと優しくそれでいて力強く抱きしめると耳元で囁いた。

「もちろんだよ。私がちゃんと真帆を片帆に会わせてあげるからね」

その言葉を聞きくと真帆は肩を震わせ、薫の体を抱きしめ返した。
何かスポーツで鍛えているのだろう、薫の体は引き締まり、まるで男性に抱きしめられているような錯覚を真帆は受けた。
薫の今の表情は見ることは出来なかったが、触れ合う肌の温もりと、力強く抱きしめられるその感触が、不安に揺れる今の真帆には何よりも心地よかった。
だから、いつのまにか顎を指を添えられ顔を上げさせられ、薫に濡れた瞳でジッと見つめられても、違和感を感じなかったし、ゆっくりと唇を重ねられても不思議と嫌悪感を感じる事は無かった。

「ンッ……ンフッ………フッ、フッ………アァァァァン」

ネットリとした薫の舌が真帆の唇を割って、真っ白なエナメル質な歯をなぞり、熱い吐息を吐き開いた歯をこじ開けながら口内に侵入しても、真帆は拒否する事など考え付かず、いつの間にか自らも舌を絡めていた。その自分の行為に、まだまずかに残る冷静な真帆の一部は驚いていた。だが、その部分もバスローブの隙間から差し込まれた薫のヒンヤリした手によって乳房を優しく、だが的確に揉みしごかれるごとに徐々に霧散していった。

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