【5】捕獲された獲物
私が自宅に帰りついた頃には、月も高く夜もすっかり深けていた。
真っ暗な家に帰宅すると、私は電気もつけずに自室のベットに倒れこんだ。
(綾乃さんが、連れ攫われた・・・)
先ほどまでの現実離れした光景が頭の中でフラッシュバックとして浮かび上がって次々と消えていく。
彼女の柔らかな白い肌に次々と黒革の拘束具が纏わりつき体を縛めていく、それらは理知的な彼女を、ただの牝奴隷・・・男どもの性欲を処理する道具・・・へと貶めていく。
(私さえ捕まっていなければ・・・綾乃さんなら、あんな男どもになんか負けなかったのに・・・)
悔しそうに彼らに従う彼女の表情が次々と脳裏に浮かんでは消えていく。
(理知的で強い綾乃さんが、あんな男どもに・・・)
私にとっては綾乃さんは、ずっと憧れの存在であった。勉強は常に学校ではトップだったし、その美しさはも際立っていた。
その彼女が、品もなくその気になれば地べたに這わす事ができたであろう男どもの言いなりにならなければならず、キリリとした顔立ちを悔しそうに歪め、羞恥で涙を流す姿を見て、ショックのあまり私の頭の中を稲妻が何度も走った。心臓の鼓動はどんどん激しく鐘打ち、息をするのも苦しく、そのうち破裂するのではないかと思われた。今でもその光景がフラッシュバックするたびに、動悸が激しくなり息を吸っても足らず、段々と眩暈がしてくる。
だが、それとは別に背筋から脳天へとゾクゾクとするどす黒い快感が走り抜け、頭は霞がかかったようにボーっとしてくる。私は初めて感じるその感覚に戸惑った。
その後も断続的に繰り返し繰り返し起こるフラッシュバックに体を震わせていた。
どれくらいそうしていたのだろうか、カーテンの隙間から差し込む日の光が頬を照らし、その暖かさにハッと気がついた。
一瞬、全ては夢を見ていただけなのでは・・・と思い立ったが、視界の隅に入った床に転がっている鞄を見て現実に引きずり戻された。そこには、昨夜私を拘束していた黒革のベルトと口枷が見えていた。
(じゃぁ・・・やっぱり綾乃さんは・・・)
私は、ベットからノロノロと立ち上がると、部屋の隅においてある姿見の前まで行くと、鏡を覗き込んだ。頬の傷は、血は既に止まっておりカサブタになっていた。私は引き出しからバンソウコウ探し出すと、そっとその傷を隠すように貼り付ける。
ブブブブブーッ・・・
突然、静寂していた部屋に低いモーター音が響き渡る。私は驚きビクッと体を震わせた。慌てて携帯を手にすると、それは綾乃さんの携帯からのメールの着信であった。
http://www.heavensdoor・・・
メール内容は例のHPのアドレスが書かれただけの簡潔なものだった。それを見て私の心臓が再び早鐘のように激しく鼓動を繰り返し始める。慌てて目を瞑り深呼吸をすることで、少しでも動揺する心を落ち着かせると、私は震える手でPCの電源を入れた。
ポケットから投げ渡されたカードを取り出した。例のホームページへカードに書かれたパスワードを入力すると、画面には会員専用ページが表示された。
『今回のターゲット:広瀬 綾乃』と大きく書かれ、彼女を隠し撮りした写真だろう。颯爽と街中をあるく姿、誰かに向かってちょっと照れた表情の姿、袴姿で男を投げ飛ばしている姿・・・普段の彼女の写真が何枚も貼り付けられている。
そして後には『捕獲完了』の文字と共に、昨夜の連れ去られた下着姿で拘束された彼女が、まるで釣り上げた魚の記念撮影のように、ニヤけた大男が首輪の鎖を高々とに吊り上げ、
ロン毛男に艶のある綺麗な長髪を鷲掴みされ顎をガッシリと掴まれ、カメラへと顔を向けさせられ彼女を晒している画像がプロフィールと共に貼り付けられていた。アイマスクと口枷で表情は隠されているが、歪められた凛々しい眉毛が彼女の心情を全てを表していた。
ターゲットNo.069
広瀬 綾乃、19歳
国立大学法学部1年
身長168センチ
体重46キログラム
バスト90センチ
ウエスト52センチ
ヒップ85センチ
ルックス特Aの大物
(・・・グッ・・・)
まるで狩りを楽しんでいるような男どもに対し、やり場の無い激しい怒りがふつふつと体の奥より燃え上がってくる。そして怒りが頂点に達した時、頭が真っ白になっていた。
どれくらい、そうしていたのだろう・・・無意識に拳を強く握り締めていたのだろう。気が付くとマウスを握り締めた手が真っ白になっていた。力を入れすぎて麻痺した指を、左手で一本一本引き剥がすと、私は目を瞑り何度も何度も深呼吸を繰り返し自分の落ち着かせ、再び画面へと目を向けた。
焦る気持ち押し止めながら画面をスクロールさせると『調教開始』と点滅する文字が画面に現れた。
私は震える手で、なんとかカーソルを移動させると、そのボタンをクリックした。
|