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. 5 くち…ニュチッ…くちッ…ニュチョッ…… クチャア…にゅッ…クチョッ…にゅちゃッ…… 「はふ、はぁふぅ」と、だらしない吐息がこだまする。忙しない呼吸に応じて、生白い肉体が蠢いた。前後に揺れたり、左右に捩れたり、まるでトランスに入りつつある女巫[めかんなぎ]のよう。 しかしながら、その乱れぶりも、 『あらあら……“ほぐし”の段階なんだから、そんなに暴れないでよ』 「まだ発火していない花火」だった。それは来るべき突入の、その前奏曲に過ぎなかったのである。真打ちを迎えるための前座。御大が訪[おとな]う前の、念を入れた露払い。 『うふふふ。よ〜く慣らしといてア・ゲ・ル……後ろの穴ってね、と〜ってもデリケートなのよ。巷に流布しているエロ=メディアだと、いとも簡単に、それこそウンチでもするみたいにヤッて、しかも「うふん、あはん」になってるケド』 エヘン、という咳払い。 『あんなの大ウソ。ただ突っ込んだところで、痛いだけ……ま、なかには「痛いのが好み」という方もいらっしゃるケドね。でも、あんなのはホントのアナル=セックスじゃないわ』 熱弁を振るう摩耶であったが……玲子は当然、一言も聞いていなかった。ほぐされている哀れな女は、それとは別なものを聞いて(聞かされて)いたのである。それも耳ではなく、彼女の身体、特に排泄器官を通して、だ。 『本物を体感させるにはね、地道な準備が必要なの……そうね、最初は舌の抜き差しから始めるのが良いかしら。次に指へ移り、それにも慣れてきたら指の本数を増やす。できれば、アナル=キャップとかの介助用具も使いたいわね』 肘膝伏位のまま固定されている女ストリンガー。先程からずっと、彼女は臀部のたっぷりとした肉丘を〈触手ハンド〉に揉み回されていた。醜怪な擬手たちに尻肉を掴まれ、左右に拡げられ、そしてその割れ目を露出させられていたのだ。 肉丘の狭間。人目にさらされることのない、密かな蕾みの息づく部位。化け物の欲望は、最後の秘境にまで……。 『そうやって時間をかけ、ようやっと、肛門の新たなる意義を目覚めさせられるのよ。無知な“アナリスト”には、もっと勉強して欲しいわ』 自分で言った掛け言葉が痛く気に入ったのか、摩耶は大笑した。ひとしきり笑った後、もう一度咳払いをして、 『……でもね、〈ペド〉がヤるんだったら、話は別。触手動物としての利点が活かせるから、肛門の促成調教ができちゃうの』 どことなく誇らしげに言う。無影灯に照らされた餌場に、女科学者の自慢が反響した。 『〈ペド〉の触手って、粘膜性を兼ね備えているでしょ? だからね、舌による第一段階をすっ飛ばして、いきなり「こね回し」から始められちゃうのよね。しかもコレが、コレがまた、実にいいのよねえ……そうでしょ、玲子さん?』 行動ではなく反応という形で、玲子は摩耶に答えていた。女体へ注がれる刺激に連動して喘ぎ、悶える。 「……ふ、ふひッ…ひ、ふッ…ふぅッく、くひッ……」 ただしそれらは、マッド=サイエンティストが期待していた「牝の反応」ではなかった。悦んでいるというよりもむしろ、どう応じたら良いか分からなくて困っている、といった感じの喘ぎ。 実際、玲子は分からなかったのである――肛門をかき回された体験など、彼女には無かったのだから。与えられた刺激をどう認識し、そしてどう受容すれば良いのか、未だ判別つけかねています……そういう状況だったのである。 『……あら、お応えなしなのね……ま、いいわ。〈ペド〉、頑張ってね』 獲物のそんな困惑をヨソに、忠実なキメラは黙々と、秘穴をほぐし続けていた。萼の先端部分に生えている触手のうち、比較的に長い2本を肛門へ差し伸べて、丹念に蠢かす。 くち…ニュチッ…くちッ…ニュチョッ。 1本はほの暗い沼地の、その表面を愛撫していた。縮こまっている皺の隙間に突端を潜りこませ、まるで汚れをかき出すかのように動かす。穴から周囲に向けてゆっくり、ゆっくりとなぞり続けると、 「……ふ、ふはッ…ふはあッ……」 玲子は、小刻みに腰をゆすらせた。 尾てい骨付近から押し寄せてくる、ゾワゾワとした蟻走感。こそばゆいと言うには鋭すぎ、快いと言うには鈍すぎる。どう受け取ったらよいか分からないが……ただ、全身の筋肉が弛緩させられた。ことが終わったときみたいに、撓めていたものを緩められてしまうのだ。 クチャア…にゅッ…クチョッ…にゅちゃッ。 そしてもう1本、もっとも長い触手が何をしているかというと―― そいつは、浅いピストン運動を繰り返していた。括約筋の反撥を受け流しながら肉沼へ突入し、人間の指でいったら第二関節ぐらいまで潜り込む。そこでゆるゆると円運動をしてから、腸壁を擦りつつ引き返した。 「……くッ……くひッ……ふッ……」 女体はその度に、面白いくらい収縮する。 排出専門の部位へ、強制的に「挿入」される――常態を無視する異物に対し、彼女の肉体は、本能レベルで拒絶を叫んでいた。その大合唱が、全身の緊張という形で表れていたのである。 内臓の末端から湧き上がってくる、喚きたくなるような違和感。痛いと言うには温すぎ、気持ち良いと言うには酷すぎる。こちらもやはり、どう受け取れば良いのか、その判断ができない淫弄だった。 『うふふふ、だいぶ慣れてきたみたいね』 腐ったトマトを潰しているみたいな、そんな怪音の洪水。それに摩耶の、冷静な観察言が挟まれる。 『まだ……まだ、良さは分からないと思うケド。ま、覚醒するにはキッカケが必要だからねえ』 あと少しで苦痛のそれへと陥ってしまいそうな、そんな微妙なバランスにある吐息――それが摩耶に対する応答だった。熱く湿った呼吸が、無機的な室内に生臭さを与えていく。 暫くの間、その、何とも中途半端な状態が続けられた。「菊の花に似ている」、そう伝えられてきた肉のトンネルは、今や粘液にまみれて照かり、触手をスムーズに呑み込むようになっている。 そして――玲子自身も回復していた。「射乳の快感」・「封乳の苦悶」・それをミックスした「究極の乳放責め」。これらにより、ほとんど自我崩壊にまで追い込まれていた彼女も、時間という万能薬のおかげで、自意識を取り戻しつつあった。 実はそれすらも、摩耶の書いたシナリオだったのだが……。 『さて、そろそろいいかしら、ね』 「……や……やめ、やめて……」 不吉な発言に、悲痛な哀願が重なる。 『やめて?……うふふふ、な〜に遠慮してるのよ。玲子さんみたいなタイプはね、きっと病み付きになっちゃうんだから』 同性だというのに、摩耶はどこまでも無慈悲だった。呻き混じりの願いを鼻であしらって、 『GO!』 唐突に叫ぶ。 触手怪獣もまた、躊躇せず命令に従った。ヴァギナに潜ったのよりは二回りも小さな萼を、肛門の表面に押し当てる。 「……!……い、いや……い……!」 玲子の悲鳴が急にくぐもった。 「……ふあああッ!……あ……あ、はッ…はふぅ……」 後を引き継いだのは、苦痛に染まった呻吟たち。 彼女の肛門は、不躾すぎる侵入者を迎えていた。そこから出すモノよりも一回りは大きな、そんなオーバー=サイズに入られて、菊座の折り目が限界まで引き伸ばされる。充血した皺たちは、その伸び切った段階でピクピクと痙攣していた。 ずぶ・ヌブッ・ずぶぶ……。 続いて、内臓が押し広げられる。ほぐしの時とは比較にならないほどの、圧倒的侵入。玲子は今度こそ、「犬そのもの」といった呼気をしていた。内臓から腰の裏にかけてが、重く痼っているよう……ひょっとして、妊娠したらこんな気分になるのかもしれない。 体内の秩序を乱す異物に、全身が「否」を叫んでいる。下腹の痼は脊髄を溯っていくにつれて、痛みと熱さとに変換されていった。こめかみ付近に血流がたまり、目の奥がズキズキと痛い。 「ふぅく……くうぅッ…うぐッふゥ……」 腸を突き破られるのではないか――劇甚な痛みに、玲子は悲鳴を越えた呻きを漏らしていた。 もちろん実際は、それほど深く潜られていなった。長さにしてせいぜい13センチ、ちょっと大きめのペニスくらい。しかも、萼はその表層が粘質なので、普通のアナル=セックスよりはずっと優しい――こんな行為に優しいも酷いも無いのだが――ものであるのだが、 (……ああッ……は、入ってるぅ……お、お尻が、お尻が苦しいよぅ) 当人にとってはそんな、客観的な情報など分かるハズもない。自らの身に処されているコト・己が感じているコトが全て、である。そしてそれらによれば「とても苦しい」。 「ふう…ふ、ふう…ふッ、ふッ……」 無理に拡張させられた内壁が、悲鳴を上げ始める。それは熱の形を取って、喉と鼻とから迸った。異物感と痛みと熱さ。女の呻きが化合して、吐き気になり始めたその瞬間、 (…………!) 萼が引き抜かれた。 瞬間的に、下腹の痼が消える。まるで憑き物が落ちたみたい――内側から彼女を縛っていた異物が、キレイに祓われたよう。解放感。溜まっていたモノを吐き出したときの感じ。それは、思いっきり四捨五入して言えば、 排便の感覚に似ていた。 大腸を擦られ、肛門を引っ掻かれ、菊座を開閉させられたのである。それをして「疑似的な廃棄行為」と言っても、おかしくはないハズ……そう気づいた瞬間、玲子のなかで悪魔的な変化が起きた――刺激の「判別」が行われた、いや、 行われてしまったのである。 彼女は今まで、肛門への愛撫をどのように受け取れば良いのか、それに迷っていた。経験していなかった不可思議な刺激に、ただ戸惑っていたのである。しかし今、「刺激=疑似排便」という図式ができてしまった。 ――排便? それはいつもしているコトだ……私の場合は、平均したら一・五日に1回くらい、かしら。出したときって、いつもホッとするのよね。肉体の老廃物が消えて、リフレッシュしたみたいな気分になる。あれって面倒くさいけど、でも、でも…… (……で、でも?) 逆接の捉え直しが、彼女を淫らの奈落へ突き堕とす。「でも」――それは快感と言えなくもないのでは?……いや、便秘したときのコトを考えたら、とても気持ち良いことなのではないか? 「……あ……あ…あ、あ、ああ……」 ホッとする・リフレッシュ・快感・気持ちよい…… 「あ、あ、あッあッあ……」 もう一度、秘沼が犯された。再び訪れた充填。しかしながら、今度の突入は速攻で引き抜かれた。あの受容が、魔の固定化が繰り返されたのである。 引き抜き――排便に似ている――快感―― 快感! 「……あああああッ」 そこに至って、玲子は遂に、官能の叫びを口にした。中途半端だった刺激は、今や「悦楽」と認識され、それまで味わったことのない新たな肉嬲りとして理解されたのである。 大腸を擦られたときの疼き・肛門を引っ掻かれたときの痺れ・菊座を開閉させられたときの擽ったさ。それら全てが、子宮を揺さぶる甘い波となったのだ。 「ふああッ、あああッ、あふぁ、あふあああッ!」 玲子はハッキリと、悦びに翻弄された。無秩序だった喘ぎと悶えは、肉欲という傲慢な支配者を戴いて、更にいっそう、見境のないカオスへと堕ちていく。 『うふふふ……目覚めちゃったみたいね』 悪意そのものの嗤い。獲物に新たなエロスを埋め込んだ摩耶は、満足の吐息を漏らしつつ追い打ちをかける。 『ホントの所を言うとね……アヌスは快楽の発信地として、本能レベルから了解されているの。でも、その快楽ってのは、「生理的快楽」なのよね。ま、ご飯食べてるときの快感と一緒なワケ』 ズヌ・ぐぶッ・ズヌブッ。 玲子は、吐き出し口から食べさせられている……。 『食事とセックス――この2つは類縁関係にあるケド、しかしながら一致はしていないわ。「生理的快楽」と「性的快楽」、これらの間にはズレがあるんだから。 けれどもね、ヒトは学習によって、これらを混同してしまうことがあるの。しかも、そうやっていったん取り違えてしまうと……もう抜けられない』 唇を嘗めたのだろう、濡れた音が響いた。 『何故って、それは生理的なモノ――換言すれば、生物の根幹から溢れてくる悦びなんだもの。精神とか意識とか、そんな洒落臭いモノで抑えられやしないわ。 うふふふ……だから、上手なアナル=セックスは麻薬と一緒ね。普通のセックスとは比べ物にならないくらいの、殆ど破壊的な依存性があるのよ』 摩耶が冷徹な解説を下している頃、玲子は何と、 昇り詰めかけていた。 喉の奥を鳴らすような呼気。自分の女体を持て余しているような、そんな乱れ方。白い女肌の上に黒髪が散り、その黒線が汗で張り付いて、女体の水墨画を描き出す。艶腰がときおり、爆発間近の火山よろしく震えた。 「ふひ、ひいッ…ひ、あひッ、ひぃッ…あ、あひ、あひぃぃぃッ」 涙が溢れ、鼻水が垂れる。彼女の肉体は、もはや完全に玲子の意志を離れていた。せっかく戻りかけていた意識も、あっと言う間に霞められていく。 今になってみれば――摩耶が与えた長すぎる「ほぐし期間」の、その狙いが良く分かった。長々とした執行猶予。それはおそらく、玲子に残っていた最後の意志力をかき集め、一網打尽にしてから粉砕するための、陰湿極まる策だったのだ! だが……それに気づいたところでどうなると言うのだろう? 彼女はもう、覚醒してしまった。ほの暗い沼地の、その意義を知ってしまった。そして今や、不可逆的な高まりに追い詰められつつある。 (……う、ウソ……ウソよぉッ! だ、だって……だって、お、おしり……お尻なんかで……) ガクンガクンと、ギリギリの痙攣が背筋を走った。あと一歩、ほんの一押し。それで……それで果ててしまう。「アヌスでエクスタシーを迎える」というアブノーマルな肉悦のメカニズムを、その身に刻印されてしまう……。 「ひ、ひいッ…ひいいッ…は、ひッ…はひッ……」 い、いやッ。それはいやだ……玲子は内心で絶叫した。そうなればまた……また、箍が外れてしまう! 守っていったものが、また一つ壊されてしまう! こんな破壊が続けば、いずれは……。 「いずれ」――彼女が恐れていたのは、その仮定であった。化け物の愛撫に“感じてしまった”・乳房への淫嬲に“悦んでしまった”・胸のすくような“快感を覚えてしまった”・そして今……肛門性交で昇天する? これらは、いわば彼女の「牝獣化具合い」を示す道標だった。道の先に待っているのは、あの化け物の―― 肉奴隷化。このまま流されていけば、いずれその、あまりにもおぞましい痴遇にも染められてしまうかもしれない……。 だから、玲子は踏ん張った。自らの尊厳を守るために、必死で堪えようとしたのである。 しかし……彼女は既に、追い詰められていたのだ。女諜報員の我慢は、あまりにも涙ぐましい抗いだった。 スブヌブッ。 〈ペド〉が突然、それまでよりも深いところにまで潜りこんできた。予期せざる責め。 おそらくは1センチも進んでいなかっただろう。しかしその増加は、もう手一杯になっていた玲子の忍耐、それを毀つのに充分過ぎた。あまりにも呆気ない幕切れが訪れて、 「ひあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ」 語尾が透き通り、そのまま夢幻の世界へと消える。新規開発されてしまったその穴で、彼女は新しい官能に撃たれた。 背筋を反らし、両手をキツく握り締める。両足のつま先までもがピンと伸びた。至頂のポーズで数秒停止。やがて、彼女は嗚咽を漏らし始めた。もはや自制も遠慮もなく、肉の命ずるままにただ、ただヨガり泣く。 「うああッ…あああッ…はぁンッ、はン、ふあ、ふああンッ……」 『やっぱりね。すっかり気に入ってくれたみたいじゃない。うふふふ、玲子さんみたいに自律心が強い人ほど、アナルにハマっちゃうのよね……もう抜け出せなくなるまで、徹底的に仕込んであげる』 スピーカーの伝令通り、〈ペド〉は玲子の肛門を犯し抜いた。緩急・強弱・方向、あらゆる変化を織り混ぜ、本来の機能以外に使われる悦びをそこへ埋める。 (……ひいッ、ひーッ…あ、あひぃッ…こ、壊され…ひいいいッ…壊されるぅッ) そして哀しいことに――排泄器の方もまた、それを受け入れていた。 抵抗が潰えてしまえば、その独特な悦楽は何とも、何とも魔的だった。胎内で感じるけたたましい快美と違い、骨の髄に染みこんでくるような痺楽。あくまでも控えめな、それゆえに濃密な悦び。 「うあああっ、うあーっ、あーっ、あーーー……あああーーーっ!」 元々、自我崩壊にまで追い込まれていた彼女である。最後のより所となっていた意識も、アナル=エクスタシーに吹き飛ばされた。 寄る辺無きところにまで突き堕とされた、哀れな女諜報員――玲子にはもう、抗う力も、また耐える術も無かった。タフさを誇っていた女ストリンガーも、女肉の残酷さに咽ぶだけの、ただそれだけの「性玩具」と化していく……。 『うふふふ。さあて、もう一度尋ねてみようかしらね……ねえ玲子さん、〈ペド〉の飼育に献身して下さらない?』 |