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 ぐちゅっ…モギュッ…ぎゅちっ……
 グニュッ…ぶちゅううっ…グチュウッ…… 

「ふあッ…ふ、ふひ、ふあひぃぃッ…た、たすけ…助けてよぉッ……」

 玲子は、悩乱しきった顔で喚いていた。淫らに崩れた眉。涙の止まらない目元。哀れを誘うくらいに、荒々しい吐息。

『うふふふ……苦しいでしょう? 辛いでしょう? 女に生まれてきたことを悔いたくなっているんじゃないかしら?』

 獲物に向かって、矢吹摩耶が嘲弄を加える。
 嬲り側であるハズの狂科学者[マッド・サイエンティスト]。彼女の声も、どういうワケか桃色に荒いでいた……あたかも、自分がその痴遇に置かれているかのように。
 ひょっとしたら摩耶も、「女に生まれてきたことを悔いたくなっ」た経験が――つまり、この触手生物に犯された経験が――あるのかもしれない。

 『人間の男相手じゃ、絶対に味わえない刺激だものね』
 『ここまでだったら、そんなに悶えることないと思うんだけど』
 『女の悦びの究極』

 玲子に浴びせてきた「責め台詞」から推すと、それは充分、考えられる過去である。

『そんなにオッパイを膨らませちゃって……うふふふ、ホントに乳牛みたいね。ミルク溜まりになっているのが、よ〜く分かるわ……どう? あたしの言ってたコトが分かったかしら?』

 摩耶の質問に対し、玲子は何も返答できなかった。彼女にしてみれば、それどころではないのだ。
 常より膨張し、真っ赤に染まっている彼女の双乳。母性の貯水池に詰まっている――詰まらされている――「もどかしさ」と「切なさ」とに、狂わされてしまいそうだったのである。

『分からないの? 困った女ね……あたし、あなたにちゃ〜んと言っておいたじゃない。「射乳の快感」と「封乳の苦悶」、この2つをたっぷりと味わわせてあげる、って』

 喉の奥を引きつらせた笑い。

『さっきは前者をご賞味していただいたわ。で、今は後者を試していただいてるワケなんだけど……いかがかしら?』

 後者とは、摩耶言うところの「封乳の苦悶」というヤツであろう。
 それに対する玲子の感想は、 

「……ふああ…だ、出させ…ふ、ふあッ…出させてよぉ…ふ、ふひぃ…む、ムネを…出させてえェェッ!」

 絶叫に近い哀願であった。
 そうなのだ。玲子は今、自分の乳房を封印されていた――正確に言えば乳首を、もっと正確に言えば、「乳腺」を封じられていたのである。萼の繊毛たちにその管中へ潜り込まれ、さらには、痼ったニプルを根元から縛られて、乳汁の放出を抑えこまれていたのだ。
 その一方で、双つの柔塊をずっと揉まれ、叩かれ、吸われてもいる。巧みな愛撫を受けて飛び出そうとする乳蜜――しかし、それは出口付近で足止めを食らい、強制的に逆流させられる。この繰り返しによって、玲子の巨乳は言葉通りの「ミルクタンク」と化していたのである。

『うふふふ、放すハズのものを封じられる……辛いでしょう? 男が射精を封じられたときも、きっと、こんな気持ちになるんじゃないかしらね……。

 自分を破壊したくなるような「もどかしさ」。精神が爆発しそうな「切なさ」。身体が低温燃焼していくみたいな、あの「たまらなさ」……』
 語尾に歓喜の呟きが続いた。

『……どう? あたしの“心づくし”を堪能していただけまして?』

 白々しいまでの上品言葉。そこに、摩耶のサディズムというか底意地悪さというか、悪意に部類されるであろうモノが滲み出ていた。

「……ふ、ふひ、ふひッ…し、した…ふあひッ…し、したからあァァッ!」

 「心づくし」こと「乳獄」へ落とされている玲子にしてみれば――射精を封じられた男がどんな気持ちでいようと、摩耶がどれほど心を尽くしていようと、そんなコト、知ったことでは無かった。
 たまらなさの発信源である両の乳房を、突き出すように反らしている彼女。その格好は、このふくらみを宥めてくれという、無言の嘆願であった。秩序のないブレイク=ダンスのように、彼女は一人、痴れ踊る……。

(ふあああッ…む、胸が張って…く、苦しいのぉ……だ、出したい…出したいよぉ……)

 抑え込まれる、制限されるという、いわばマイナス方向の嬲り。このような洗礼を受けたのは、もちろん、始めてのコトである。それに対処する術など、当然持ち合わせているハズもなく、玲子はひたすら、ただ堕とされていく。

『うふふ……「したから?」。したから何だと言うの、玲子さん?』

 ぐちゅうッ。

「うあああンッ!…し、したから…うあああ…だ、出させ…出させてよおォッ!」

 必死の叫びに応じたのは、わざとらしいため息。

『分かってないわね、玲子さん。あたしは「心づくし」と言ったのよ? あたしのもてなしは、まだ済んでないわ……うふふふ、もう少し待って欲しいわね。女の悦びの究極を教えて上げるから……魂まで失せてしまうくらいの、ね』

 その言葉通り、容赦のない、力まかせの乳搾りが施されてくる。セックスフラッシュだらけの肉果は、人外の凌辱を受けてますます赤らみ、膨らみ、噴火寸前の状態にまで昂ぶらされていた。

「ふあひ…ふひ…ふあひ…ふひ、ひ、ふあひ……」

 玲子も、今や狂乱寸前といった体にあった。半分白目をむきかけた目。まるで顎関節が外れてしまったかのように、開け放たれた口。断末魔みたいに蠕動している指先。
 「もどかしさ」・「切なさ」・「たまらなさ」――強制された渇望。悪魔のようなそれが、女体のみならず精神までをも貫き通してくる。タフさを誇っていたハズの女ストリンガーも、自我が崩壊しかねない領域にまで追い詰められていた。

『うふふふ……そろそろ、かしら』

 スピーカーが小さく震えた瞬間、
 粘液まみれの触手が、秘壷を貫いてきた。

「……ひンッ」

 股間からの刺激。本能に訴える一撃により、玲子もさすがに正気を取り戻す。背筋が反り、悲鳴が漏れた。女の空洞からせり上がってくる、濁流のような快感。それに震えていたうちは、まだ極楽だった。彼女の淫獄――魂を失ってしまうような悦楽は、そこから始まったのだ。

 ずぶッ。

 まず、秘唇への闖入者が、蜜に濡れた肉襞をかきわけて潜り進む。〈彼〉はそして、胎児の波止場と衝突した。

「くあンッ!」

 腰の裏を蕩けさせ、脳の奥を痺れさせる悦びのシェイク。それに玲子が喉をのけ反らせた、まさにその瞬間、
 “封印”が解かれた。

(……………………!)

 ブシャアァァッ。

 クジラの潮吹きのような、乳蜜の爆発。大音量と共に、溜め込まれていた「もどかしさ」の具現物が噴き上がる。それは、まるでホースから放出された水流みたいに、キレイな放物線を描いていた。
 だが……玲子は、自分の女体に起きていた変化に、全く気づいていなかった。いや、気づいていられなかった。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
 
 天をつんざく絶叫。彼女の体外に現れた反応は、まずその、極まりの独唱であった。それに続いて、二発目の乳蜜の奔流。ビクつくニプルの尖端から、ぬめる液体が噴き出る。降り始めの雨音のようなBGMと一緒に、床の上に白い水たまりが形作られた。そして、股間での爆発――玲子は、なんと、潮を吹いていた。粘つく、酸い液体が、その秘裂からあふれ出してくる。

「ああッ…あッあッあッ…あああッ…あ、あッ、あああッ!」

 その間、彼女の体内――心のなか――に湧き上がっていたのは、

(……わ、私、私ぃ…き、消えるぅぅ……)

 恐怖、「自分が消えてしまう」という恐怖であった。玲子は自我を見失いかねないほどの、まさしく圧倒的な「解放感」を味わされていたのである。

『撓められていたものが元に戻る。そうすると、そこにエネルギーが生まれるわ……うふふふ、行き場のないエネルギーは……』

 スピーカーの向こうから、摩耶の舌なめずりが聞こえてくる。

『……あなたの内側で暴れ出す。そこに、肉の悦びが被さってくる……うふふふ。お互いがお互いを増幅しあう……』

 摩耶もやはり、その悦びを体験しているのだろう。でなければ、このように絵解きして見せることなど、できないだろうから。

『……うふふふ。人には自己保存と自己破壊、これら両極の衝動があるわ……フロイトの説を待たなくても、エロスとタナトスとが紙一重にあることは自明の理。エクスタシーを死のメタファーで彩るのは、古今東西、いつでもどこでも同じコトだわ……』

 自分の経験を思い起こしているのだろうか? 摩耶の言葉に陶酔の響きが生まれ始めていた。

『……究極のセックス――究極の自己保存は、だから、自己破壊へと連結される……解放感、という形でね。進化の最終形態が死、自滅であるように』

 妙に哲学じみた摩耶の説明。それが正しいのかどうかなど、今の玲子に判定できるハズもなかった。彼女は自分のコトで、手一杯だったのである。

(……わ、わた、わたし…わ、わた、わた……)

 解放感――玲子が今撃たれているのは、まさに「胸のすくような」快感だ。全身の血が一挙に逆流していくかのよう。女肉の内側で突風がふき荒れているみたいな感じ。
 女体が透き通っていく。目の奥が真っ白に染め上げられていく。意識が、自我がぼやけていく……。

「あああッ…あッあッあッ……」

 それと同時に、双乳からはマグマのような悦楽も押し寄せてくる。摩耶曰くの「射乳の悦楽」というヤツだ。乳管を流動物が駆け抜けていくときの、染み込んでくるような悦び。
 さらに、女壷からの悦楽も、乳首からの悦びに後押しされ、破砕流のような凄まじさとなって雪崩れこんでくる。女の芯を揺るがしてくる、淫らの地鳴り。

(あああッ…だ、だめ、だめえェェッ…わ、私…私ィィッ……)

 箍が外れた――そんな感じだった。抑えが効かない。止められない。制御できない。ニプルから、まるで私自身が流れ出していくよう。私の魂が、白い液体となって零れていくよう……。
 蕩かされる。
 蕩かされていく……。


   *


 びく…ピクン…びく……
 ピク…びくん…ビクビクン……

 乳蜜と恥涎と粘液とでぐしょ濡れになっている裸女――玲子は、小刻みな痙攣を繰り返していた。筋肉の硬直と爆発、その間をつなぐ、あえやかな吐息。
 もちろん、それらは皆、意志に即した“行動”ではなかった。不随意筋による“反応”であった。今の彼女に、随意などという状態は無かったのである。ただ、そこに在るだけ。女体が寝ているだけ……。

『……いかがだったかしら? お娯しみいただけまして?』

 冷嘲を隠した問いが届けられる。「ちゃんと分かっているわよ」という、言外のメッセージが聞こえてきそうな口調だ。

『ま、その様子を見れば一目瞭然かしらね……うふふふ、凄かったでしょう? 自分だとか女だとか、そういった殻を被っていることなんて、もう、どうでも良くなったんじゃないかしら……』

 ほうッ、という深い吐息。

『……どう? 玲子さんも〈ペド〉のために協力してくれるでしょ? な〜に、別に難しいコトなんてしなくていいの。ただ、ココにいてくれればいいのよ。そうしたら……』

 一拍の間。そのポーズに合わせて、化け物の触手が伸ばされていった。人外の肉具が、うつ伏せになっている女の、その震える臀部を撫で回す。
 体液にヌメ光る肉の丘が、淫靡な形に歪められた。

「……ふ、ふあンぁ……」

 すすり泣きめいた恥声が漏れる。
 自我[じりつせい]はないが、感覚[たりつせい]は残っていた。具体的に言えば、悦楽を感じるコトはできる、いや、
できてしまえる……哀しいほどに。

『……この悦びを与えてあげる。MRIの画像から推すと……どうやら、〈ペド〉もあなたのコト気に入ってるみたいだし。いかがかしら、玲子さん?』

 5分ほど経ったのちに、玲子はようやく、人心地を取り戻した……四肢をうまく動かせないくらいの「絶頂後遺症」を、まだ引きずってはいたが。

『改めて伺うわ……いかがかしら、玲子さん?』

 交渉相手の回復を見取ったらしく、摩耶が再度、尋ねてくる。
 この質問、実はかなり歪んだ構造を持っていた。
 というのも――この狂った女科学者は、既にもう、玲子を虜囚にしているのだから……早い話、相手が承認しようしまいと、〈ペド〉をけしかければそれで済む。

『うふふふ……あたしだって女ですもの。こういうコトは、合意の上で行いたいと、そう思っているのよ』

 玲子に施してきた「今まで」を、小気味よいくらい棚上げした発言だった。

『どうかしらね?』

 誘うその声には、特殊な響きがまとわりついている。強制を「自発」に変えさせようとする意図。相手の屈服を求める、真性サディストのそれだ。

(……そ、そん…そんな…の………)

 このまま嬲られる。犯され続ける。あの刺激を受ける――それはつまり、あの、あの悦びを……!
 玲子は弱々しく首を振った。

『あら、それは残念』

 スピーカーがそう言うや否や、不動の姿勢を保っていた〈ペド〉が、のそりと動き出した。余韻に痺れ、まだ女体をヒクつかせている獲物に向かって、ゆっくり、ゆっくり近づいていく。

「…………い……い……いや……いやぁ……」

 逃げようとする玲子。しかし、彼女の手足は動いてくれない。意志の指令を肯んじない四肢は、触手たちにあっさりと捕縛された。

『うふふふ……もうちょっと、こちらの誠意を見せる必要があるみたいね』

 魔の責め巧者が、さんざん貪った女体へ再度、接近していく。うつ伏せのままで腰だけを突き上げた格好――いわゆる、アニマル=ポジション――を取らせると、〈ペド〉はその、眼前に献上されたかのような女尻に触手を伸ばした。
 乳果より固く筋肉より柔らかい、「まさぐる」というよりは「こねる」のに適した肉のまるみを、萼がスッポリと飲み込む。

「ふあああン!」

 ビクン、と玲子の背筋が反り返った。双つの尻丘をそれぞれ揉みこまれていくにつれ、玲子は静かに、しかし確実に痴れ蕩けていく。
 萼の内側――それはネットリとしていながらもザラつく、不思議な肉材だった。譬えるとしたら「猫の舌」というのが一番近似しているが、しかしそれとて、本当のところからはズレていた。獣舌よりもっとしつこく、鋭く、そして辛辣なハイブリット感……。

『……もう少ししてから、また尋ねるわ。うふふふ、そのときの答えは……いったい、どっちかしらねえ?』

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