第1幕「淫らなる者」
セレーン「んっ・・・・うぅん・・・・・」 セレーンはベッドの上で寝返りをうって目を覚ました。 時刻はまだ深夜。 外は漆黒の闇に包まれている。 セレーン「なんか・・・寝苦しいわね・・・」 慣れないフカフカのベッドのせいか、それとも枕が変わったせいか、どうにも眠りが浅い。 それでも無理して寝ようと、フカフカの枕を抱きかかえると、布団にくるまる。 でも、眠れない。 セレーン「なんで・・・こんなに寝苦しいのかしら?」 そう思った瞬間、彼女はベッドの上に起きあがった。 セレーン「・・・・・なにか・・・嫌な感じがする」 漠然とした不安。 迫りくる何かを、セレーンは敏感に感じ取っていた。 セレーン(まだファントムの残りがいたのかしら?私を狙って近づいてきている?) そう思った瞬間、部屋のドアがノックされた。 コンコン!・・・コンコン! セレーン「・・・・・・・・」 セレーンはベッドの脇に置いておいた装備からメイスを手に取る。 さすがに防具を着込んでいる暇はない。 身につけている物は金属製の貞操体だけ。 それでもセレーンはシーツで身体を巻き、メイスを構えた。 ミレーヌ「セレーンさん。もう、お休みですか?」 セレーン「・・・・えっ?ミレーヌさん?!」 セレーンは慌ててメイスを戻し、布団の中に潜り込む。 セレーン(やだ・・・私ったら。そうよね。モンスターがドアをノックするわけ、無いじゃない) ミレーヌ「・・・入ってもよろしいですか?」 ドア越しにかけられる声に、セレーンは慌てて答える。 セレーン「あっ、はい。開いてますから、どうぞ」 ミレーヌ「では、失礼します」 ガチャ・・・・・・ セレーン「・・・・・・・・・・・」 扉を開けて入ってきたミレーヌの姿に、セレーンは思わず息を飲んだ。 それは妖艶と言うにふさわしい姿だ。 しなやかな身体に纏っているのはシースルーのネグリジェ。 透けた中は、生まれたままの姿。 艶めかしい白い肌に、張りのある大きな胸、その先のピンク色の乳首、キュッと締まったウエストライン、ボリュームのあるお尻に、うっすらと見える股間の茂み。 妖しく、そして美しく、そしてなによりも淫靡だった。 この姿を見た男は全員股間を硬くすることは間違いない。 女性に免疫のない男なら、射精にまでいたるであろう。 女性であるセレーンですら、その姿に鼓動が早くなるのを感じていた。 ミレーヌ「夜分・・・申し訳ありません・・・・・」 セレーン「・・・・・・・・・・・」 ミレーヌ「あの・・・どうかなさいましたか?」 セレーン「あっ・・・えっと・・・い、いいえ・・・なんでもありません」 セレーンは思わず顔を赤くしてうつむく。 その姿を見たミレーヌの口元に、一瞬サディスティックな笑みが浮かんだ。 セレーン「あ・・あの・・・なにかご用ですか?ミレーヌさん」 少ししどろもどろになりながら、セレーンが問いかける。 相変わらず視線をミレーヌに向ける事ができずに、セレーンは床を見ながらモジモジしていた。 ミレーヌ(ふふふっ・・・照れちゃって可愛いわ。どうやって料理してあげようかしら?) そんな事を考えているなど、まるで気取られない表情で、ミレーヌはセレーンのいるベッドへと近づく。 ミレーヌ「こんな所にお客さんが来ることなんて、滅多にないの。だから、少しお話をしたいんだけど・・・いいかしら?」 セレーン「あっ・・・は、はい」 セレーンの返事を待って、ミレーヌはベッドの上に腰を下ろした。 セレーンのすぐ隣に。 ミレーヌ「セレーンさんは・・・プリーストなんですよね」 セレーン「あっ・・・はい・・・・・・」 ミレーヌ「じゃあ、まだ、男の人とは?」 セレーン「・・・・・・・・えっ?」 ミレーヌ「男の人とは、愛し合った事がないのですか?」 セレーン「そ、そんな!・・・・・そんな事・・・私・・・・・」 更に顔を赤くしてもじもじするセレーン。 その素振りから、セレーンが処女である事を知ったミレーヌは、心の中でほくそ笑む。 ミレーヌ(プリーストの処女・・・しかも、こんな可愛い子なんて・・・ついているわね。ファントムは勿体なかったけど、こんな獲物がかかるなら、安い代償だわ。) セレーン「あの・・・ミレーヌさん。ミレーヌさんは、こんな所に一人でお住まいで・・・寂しくはないのですか?」 ミレーヌ「・・・えっ?・・・え、ええ。確かに寂しいときもありますけど、私は好きでこの場所に住んでますから」 セレーン「・・・そうですか」 ミレーヌ「でも・・・こうしてセレーンさん・・・あなたと出会えたのですもの。ここに住んでいて正解だったかもしれません」 そう言うとミレーヌは、モジモジしているセレーンの手を握る。 セレーン「・・・・・・・・えぇっ?!」 動揺して顔を上げたセレーンの目の前には、もうミレーヌの顔があった。 唇と唇が触れ合う。 すぐにミレーヌはセレーンの口の中へと舌を差し入れた。 セレーン「んっ?!・・・んんんっ!!」 驚愕するセレーン。 彼女にとってキスは初めての経験だった。 その相手が女性、しかもディープキスとなれば、同様の度合いも計り知れない。 目を大きく見開いたまま、どうすることも出来ずに、ミレーヌのなすがままになってしまうセレーン。 ペチャペチャと唾液が絡み合う音が、静かな室内に淫靡に響いた。 セレーン「ん・・・・・うぅん・・・・・・んっ!・・んんっ!!」 しばらくの間、甘美なキスに身を任せていたセレーンだが、我に返って暴れ出す。 意外にもミレーヌは、簡単にセレーンの身体を逃がした。 セレーン「な?!・・・なにをするんですか!?」 ミレーヌ「あら・・・なにをするんですかなんて、野暮な事は聞かないでほしいわ。いいでしょ?セレーンさん。あながち、嫌でもなかったみたいですし・・・・・」 そう言うとミレーヌは、ネグリジェを脱いだ。 薄い布が床に落ち、魅惑的な身体が露わになる。 だが、セレーンの目にとまったのは、身体ではなかった。 彼女の身体から発せられる妖気。 それに、ニヤリと笑った口の隙間からのぞく牙。 セレーン「あっ、あなた?!・・・人間じゃない!?」 セレーンの言葉に、ミレーヌは牙を剥き出してサディスティックな笑みを浮かべた。 ミレーヌ「・・・・・・くっくっくっ・・・さすがにプリーストだけの事はあるわね。そう、私は人間じゃないわ。あなた達人間が『淫らなる者』として蔑む存在・・・」 セレーン「サ・・・サキュバス?!」 セレーンの表情に驚きが浮かぶ。 ミレーヌ「さすがに驚いているようね。サキュバスに会うのは初めて?」 セレーン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 セレーンは、何も言わなかった。 いや、何も言えなかったと言った方が正確だろう。 何故なら、サキュバスに会った者は存在しない。 会った者は全て、精気を吸い取られて死んでいるのだ。 サキュバスは『淫らなる者』と蔑まれる反面、『死をもたらす者』として恐れられ、『美の極み』として崇められる存在。 その、存在が今、セレーンの目の前にいる。 声を失っても仕方のない事だった。 ミレーヌ「・・・さあ、あなたを今まで味わった事のない快楽の世界へ誘ってあげるわ」 そう言ってミレーヌはセレーンへと白く細い腕を伸ばす。 だがセレーンは、その手を払って後ろへと跳んだ。 セレーン「じょ、冗談じゃないわ!神に仕える私が、あなたなんかに!」 そう叫ぶとセレーンは、ベッド脇のメイスを手にして構える。 鎧は着ている暇などない。 露わになった胸と、股間を守る貞操体が、妙にエロチシズムをかもちだしている。 その姿を見て、ミレーヌは舌なめずりをした。 ミレーヌ「ふっふっふっ・・・活きもいいし、身体も美味しそう。ますます、あなたが欲しくなってきたわ」 そう呟いたミレーヌの瞳が、紅く妖しい光を放ち始める。 TO BE CONTINUE |