第2幕「激しい戦いの果てに」
セレーンはメイスを構え、ミレーヌと対峙する。 二人とも動かない。 攻め込むチャンスを伺っているのだ。 セレーン(サキュバス相手に、迂闊に踏み込めないわね・・・) ゆっくりと距離を保ちながら、セレーンが窓際へと動く。 それでもミレーヌは動かない。 セレーン(窓を背にすれば、いざと言うときに逃げられる・・・) セレーンとしては、まずはベストのポジションをキープしてから戦いに挑もうという考えなのだ。 ミレーヌは、そんなセレーンの動きを目で追うだけで、やはり動こうとしない。 セレーン(どういう気なの?) あまりにも動きを見せないミレーヌに、セレーンは違和感を感じた。 セレーン(何かを企んでいるのか・・・それとも私の力量を計ろうとしているのか・・・) 動きを見せない相手を攻めるのは難しい。 先に動けばカウンターを食らう可能性もある。 そう考えるとセレーンは迂闊に動けない。 セレーン(来るまで待つ・・・にしても、ただ待っているだけじゃ・・・) セレーンは、メイスを構えたまま、呪文を唱え始めた。 セレーン「神よ・・悪しき敵を打ち倒す為、私のその偉大なお力をお貸し下さい・・」 呪文の詠唱が終わると同時に、セレーンの裸体が光を放ち始める。 ミレーヌ「防御魔法・・・神の衣か」 セレーンが唱えた呪文は、自分の身体を守る為の呪文だった。 まずは自分の身を守る事。それがプリーストが戦う時の典型的なパターンである。 特に今のセレーンは裸。身を守る物を何も付けていないのだ。 この呪文を唱えるのは、当然の事である。 セレーン「さあ、かかっていらしゃい!」 セレーンは挑発するような言葉をミレーヌに投げかけた。 その言葉に答えるかのように、ミレーヌは唇の端を釣り上げて笑う。 その笑みは、見る者全てを凍てつかせる程、冷たい笑いだった。 思わずセレーンの背筋に冷たい物が走り抜ける。 ミレーヌ「それじゃあ・・・そろそろ楽しませて貰おうかしら」 ミレーヌはそう言うと、セレーンとの距離を一気に詰めた。 いや、一瞬にしてセレーンの目の前に現れたと言った方が正しい。 セレーン「なっ?!」 瞬間的に自分の目の前に現れたミレーヌに、セレーンの顔が驚愕に歪んだ。 それが一瞬の隙に繋がる。 ミレーヌはセレーンのメイスを握る手をつかむと、万力のような物凄い力で締め上げる。 セレーン「うあぁぁぁっ!!」 あまりの激痛に、セレーンはメイスを手放して悲鳴を上げた。 ミレーヌ「あらあら、ちょっと力を入れすぎたかしら?」 セレーンは苦痛に顔をしかめながらも、ミレーヌの手を振り解き、咄嗟に身体を転がして逃げる。 窓際から壁際へ逃れたセレーンは、掴まれていた手首を確認すると、そこにはミレーヌの手形がクッキリと付いていた。 セレーン「な・・なんて力なの・・・・・神の衣で守られている私の身体を・・・」 この時、セレーンは自分が遊ばれている事を確信した。 セレーン(力の差がありすぎる・・・逃げる事を優先に考えないと・・・) そうは言っても、今のセレーンは壁際に追い込まれている。 窓もドアも、ミレーヌの方が近い。 ミレーヌ「あら?もう逃げるつもりなのかしら?」 セレーン「わ、私の心を・・・読んだ?!」 ミレーヌ「心なんて読まなくても、あなたの視線を見ていればわかるわ」 セレーン「私の・・視線?」 ミレーヌ「あなたは逃げ場を求めて、窓とドアをしきりに見ていたからね」 ミレーヌ「でも、どちらから逃げるにしても、私と何とかしないとダメね」 セレーン「くっ・・・・・」 ミレーヌの言う通り、どちらに向かうにせよ、ミレーヌが立ちはだかるのは必至。 そうなると、呪文で攪乱するしか手は残っていなかった。 セレーン「神よ・・・」 セレーンが再び呪文を唱え始める。 ミレーヌは動かずに、ただセレーンを見ていた。 セレーン「神の光よ!」 セレーンが呪文を唱え終わり叫ぶ。 それと同時に室内が光で満たされた。 ミレーヌ「くっ・・・目くらましか」 セレーン「・・・今だ!」 ミレーヌの目がくらんでいるうちに、脇を抜けて窓から飛び出す。 それがセレーンの作戦だった。 だが、セレーンは戦いの前からミレーヌの罠にかかっていたのだ。 一歩、二歩、三歩と、窓に向かって走っていくセレーンだが、丁度ミレーヌの脇に達した時、身体に変調が訪れる。 セレーン「な・・なに?!」 足から力が抜けていく感覚。 突然膝が笑い出し、走るどころか歩く事さえ、ままならなくなっていく。 セレーン「ど・・どうして・・・・・」 腰が砕けたように、セレーンはミレーヌの側で崩れ落ちるようにしゃがみ込んでしまった。 いつの間にか目くらましの光も消え、呆然としているセレーンの前に、冷たい笑みを浮かべたミレーヌが立つ。 ミレーヌ「残念だったわね。セレーン」 セレーン「なんで・・・か、身体が・・・」 ミレーヌ「私の口づけを受けた時から、あなたの負けは決まっていたのよ」 セレーン「な・・なんですって?!」 ミレーヌ「私達淫魔は、獲物を捕らえる為に、色々な力を持っているの。その一つが唾液」 セレーンの脳裏に、先ほどのディープキスが思い出された。 確かに舌まで絡める程の激しいキスで、セレーンはミレーヌの唾液を口にしている。 ミレーヌ「唾液の中に、身体を麻痺させる効果を持たせる事ができるのよ」 セレーン「そ・・そんな・・・・・」 ミレーヌ「これで、あなたの負けは決まりね」 ミレーヌはそう言うと、足を振り上げてセレーンの鳩尾を蹴り上げた。 セレーン「ぐっ!」 一瞬息が止まり、その後に来る激しい痛みに、セレーンは腹を抱えてのたうつ。 その姿を冷たい目で見つめるミレーヌは、追い打ちをかけるように下腹部に蹴りを入れた。 セレーン「うあぁぁっ!!」 セレーンは腹を抱え背中を丸めて倒れる。 激痛に気が遠くなりそうだが、それでも必至に逃げ場を求めて視線を動かした。 その視界は、モヤがかかったようにぼやけている。 ミレーヌ「往生際が悪いわね」 ミレーヌの手が、セレーンの首に延びた。 セレーン「あっ・・・あうぅ・・・・・」 ミレーヌはセレーンの首を片手で絞めながら、その身体を持ち上げた。 大の男でも難しいと思える事を、美しき魔物は意図も容易くやってのけたのだ。 ミレーヌ「さあ・・・落ちてしまいなさい」 グッと締められた首は、脳に血液を送らなくなり、セレーンの意識を遠ざけていく。 セレーン「あっ・・・・・・・・」 セレーンの身体から力が抜け、グッタリとしたところで、ミレーヌは手を離した。 ドサッと音を立てて、セレーンの身体が床に転がる。 ミレーヌ「ふふふっ・・・ここで死なれたら困るから、加減してあげたわよ」 ピクピクと全身を痙攣させるセレーンを見ながら、ミレーヌはサディスティックな笑みを浮かべた。 ミレーヌ「これから、たっぷりと楽しませて貰うからね」 気を失ったセレーンの身体を軽々と担ぎ上げると、ミレーヌは地下室へと歩を進める。 TO BE CONTINUE |