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 二日目 その6

 大石は、自分の下腹部に押し付けられている柔らかく重い感触に気づいた。

 一つ感覚が目覚めると、他のあらゆる部位で覚醒が起こる。鼻が蠢き、心地よいシャンプーの匂いが染み込んでくるように鼻腔を擽る。耳朶には、肌と肌とが擦れ合う乾いた音と共に、清楚なのか卑猥なのか俄には判別のつかないような、短い声が届く。不安と困惑とから指先が動き、自分の下腹部を覆っているものを掴む。その柔らかさは、確かに知っている柔らかさだった。いや、こんな柔らかく、かつ弾力に満ち満ちたものを、大石は他には知らなかった。

 「お、お前……?」

 瞼を開くと、ぼんやりとした常夜灯の灯りを浴びた紺野顕子の顔が自分の下方に見えた。その切羽詰まったような表情に、溶岩のような嗜虐欲の奔流を思い起こすと、大石は完全に意識を覚醒させていた。

 「な、何をやってる?」

 意識は覚醒したが、周囲の状況に関する情報がほとんどないことに変わりはなかった。ついつい、自分の性器をその二つとない最高の乳房で挟んで愛撫する顕子に、とぼけた声をぶつけてしまう。

 「お目覚めですか?」

 腋を締めて左右から乳房を押しつけ、ゆさゆさと重量感たっぷりにゆすぶりながら、顕子は大石を見上げる。大石は自分が仰向けに寝ころび、しかもその腰の下には枕か布団らしきものが敷かれていて、下半身を膝を折って前のめりになっている顕子の丁度胸の辺りに突き出す姿勢をとらされていることに気づく。

 「ど、どういうことだよ。なんで、こんなことになってんだよ?」
 「ああ、す、すいません……。私、大石先生を、蹴り倒してしまいました……。それをあの子たちに見つかってしまって、先生が目を覚ますまで、こうして奉仕するようにと命令を受けたんです……。も、勿論、目を覚ました後は、先生にご満足頂けるまで、しっかり奉仕するようにとも言いつけられました」

 顕子の説明を聞きながら、大石の瞳がつっと狭められ、油断無くその表情を伺う。

 「お前、俺を蹴り倒したって言ったな。そう言えば、なんか頭がガンガンしやがる。クソ!……ったく、あれだけ無茶苦茶よがって失神しまくるほど可愛がってもらった俺に対して、よくそんな真似が出来たもんだ。まぁ、そんなお前だからこそ、飼い甲斐もあるってもんだがよ。だがこの落とし前は高くつくぜ」
 「ああお許し下さい。頑張って、ご奉仕いたしますから、どうか、お慈悲を……」
 「フン、そう言いながらもお前、随分と乳でチ×ポ挟みながらも気持ちよさそうだな。すっかり乳でイケる体になったってわけか?それとも、また俺の寝てる間に、あのガキどもにこってりと可愛がってもらったってことか?まあ、いいさ。あんなガキども何人集まろうと、所詮はガキさ。お前にとってはいいウォーミングアップだろう?」

 大石は、顕子が乳房を揺さぶり立てて自分に奉仕しながらも、その動きによって敏感な乳肌を擦り、同じく淫らな感覚に支配された乳肉を揉み込み、自ら快美感を貪っていることにめざとく気づいていた。

 左右から大石の下腹部を中心に押し付けられて、ただでさえ豊かな乳肉は、押し寄せる雪崩の如く押し合いへし合いし、いびつに変形してしまっている。しかも顕子自身が大石へ刺激を送ろうとしつつも自ら快美感を得ようとして揉み込むため、粘土を掌で握りつぶしたときのように、白い乳肉が自らの豊かさによってまろび出て、先端などは大石の臍の辺りにまで達していた。

 その蠱惑的な情景は、大石の獣欲を凄まじく刺激し、だらりと垂れた睾丸が、その快感の深さを示すように、慌ただしく蠢く。無論、乳肉にすっぽり包み込まれている棹の部分も、筋肉など無い部分であるはずなのに、攣りそうなほどの硬直と膨張を示している。その先端の、エラの張った赤黒い淫水焼けした部分からはひっきりなしにぬめついた先走りの粘液が溢れ出し、大石自身と顕子の乳肌との間で、ヌチャヌチャと卑猥な音を立てている。

 「よし、次は、その長い乳首の先端で、俺の裏筋の辺りを擦るんだ。……そうだ、上手いぞ……」

 重く柔らかな白い肉の奔流に呑み込まれて、自らの絶頂が近いことを、腰骨の辺りから脊髄の方へとひっきりなしに駆け上がる電流に似た快美感によって悟った大石は、自失することを長引かせようと、新たな奉仕を顕子に命じた。

 顕子は一旦乳肉から大石を解放すると、命じられた通りに、自らの小指ほどもある長さに変形してしまった乳首を、隆々とそびえ立つ先端の裏側に擦り付ける。変形したばかりでなく、本来の性器以上に敏感になってしまった乳首を、堅く灼熱の部分に擦り付けることで、顕子の口から淫らがましい声が漏れ出始める。

 顕子は、乳首の先を叩きつけるように擦り付けたかと思えば、擽るように小刻みに擦り付ける。その度に、巨大な房の部分が、細波のように細かくブルブルと震え、官能の脂汗が、乳肌の上を滑り落ちていく。

 「ふぅう、いいぞ、いいぞぉ」

 大石の口から快感を誇るような吐息が漏れ出ると、顕子の動きは一層速く複雑になり、乳首で裏筋を責めたてていたかと思えば、一転して乳肉の奔流を押し付けて全体を圧迫し、さらには巨大な房を左右に勢い良く振って、大石自身に重々しく叩きつけることなどを繰り返した。

 「ああっ、ど、どうですか?気持ち、よろしいですか?」

 空気を切り裂く鈍い音を立てながら、顕子の乳房が大石を打擲する。舌足らずな声で大石に確認しつつ、自らもその荒々しい所作によって強い刺激を受けて、顕子は快楽の極まで自分を追いこんでいく。

 「おおっ、いいぞ、い、イキそうだっ」
 「ああっ、私もですッ。む、胸で、おっぱいだけで、イって、イってしま……あぁっ、イクぅっ」

 ひときわ大きく身を捩り、顕子は渾身の力を込めて左右の乳肉を一気に大石の堅く張りつめたものに叩きつける。その瞬間、顕子の脳裏で、極彩色の稲光が何度と無く煌めくと、体中の毛穴という毛穴が開いてどっと脂汗をしぶかせ、引き締まった全身の筋肉が痙攣し、自ら乳肉を揉みし抱くように身を捩りながら、顕子は官能の頂へと到達していたのであった。

 そしてそれは大石も同様であった。が、大石の意識はそこで急に途絶えた。いきなり背後へと体が引っ張られ、声を発する間もなく、仰向けに寝転がっていた体が持ち上がり、宙につるされていた。微かに残る意識の中で、大石は自分の首に鋭い痛みと、強烈な嘔吐感が渦巻くのを感じた。

 快楽の絶頂に達するか達しないかという極度に周囲への注意力を欠く状況下で、大石は自らの背後にうずくまってことの成り行きをじっと観察していた四つの影が存在していることに、ついぞ気が付くことはなかったのである。

 「やった……」

 顕子の部屋のドアの辺りに、盛り上がるようにして四つの影が浮かび上がった。無論それは牧田たち四人の少年たちだった。彼らは渾身の力を込めて引っ張っていた、大石が持ってきていたいかがわしい道具類の中から取りだしたロープから手を離すと、宙づりになった大石をぼんやりと見上げている裸形のままの顕子の傍らへと集まった。

 彼らが手を離しても大石の体を吊り上げているロープは、幾分古い施設らしく、剥き出しで天井に張り出している頑丈そうなボイラーの管を跨いで、かつては顕子自身が手錠で固定されたベットの脚にまきつけられていた。彼ら四人は、意識を失ったままの大石の首にロープで作った輪をかけると、ただ大石が顕子の奉仕に気を取られてそれに気がつかないことを祈りながら、大石自身の注意力が最も落ちる瞬間を待って、四人全員でロープを引っ張ったのである。

 「これで、先生は完全に僕らから逃げられないし、乳奴隷を辞められなくなったね」

 絶頂を極めたからなのか、目の前で起きた惨劇の片棒を担いだことに漸く気が付いたからなのか、顕子は呆然とした顔のままで自分の剥き出しの肩に置かれた手を見遣る。

 視線をあげれば、牧田が笑っていた。清治が、寒河江が、そして北原が、笑っていた。
 顕子も、霧の中に迷い込んでしまったかのようなぼんやりした意識のままで、静かに笑いだした。
 やがて五人の男女の、微かな笑い声が、深夜の施設の中に静かに染み込んでいく。
 ただ、その笑い声が、大石に届くことは、永久になかった。
  


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