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 三日目

 結局、顕子の人生を変えた林間学校は、3日目の朝に、急遽取りやめとなった。

 もう一人の引率者である、大石肇が、全裸の死体で発見されたのだ。

 それも、同僚の紺野顕子の部屋の中という異常な状態であったため、児童はおろか、施設の職員達にも与えた影響は大きかった。

 皆一様に、溌剌とした若い有能な女教師に疑惑の視線を投げかけたが、結果的に彼女自身に罪が及ぶことはなかった。

 大石の死亡推定時刻に当たる午前3時前後の時間帯、眠れないと言う理由で顕子を部屋まで呼びに来た子どもたちに付き添って、彼らの部屋で、朝まで談笑していたという事実が、眠れなかった子ども達である牧田等によって証言されたのである。また、子どもの証言だけでは曖昧な部分を強く保証したのが、見回りを行った施設の職員による大石の目撃談であった。

 大石は午前3時少し前に、常夜灯に照らされながらふらふらと廊下を全裸で徘徊しており、あまりの異様な雰囲気に、その職員は声をかけることを躊躇って、そのまま監視していたところ、灯りの消えている顕子の部屋に吸い込まれるように消えてしまったのである。同じ頃、見回りの職員は、牧田たちの証言通り、少年達の部屋に灯りが灯っていることを発見し、不審に思ってその部屋に入り、そこで顕子本人と直に会話したことを断言した。

 大石の死因は、頭部に強い打撲の痕はあったが、それとは別の縊死であった。

 だが、死人に抵抗の跡がないことや、死後、手錠、麻縄、をはじめとした数々のいかがわしい道具、そして催淫剤入りのものと調査によって判明したスプレーなどが大石の持ち物の中から発見されるに及んで、顕子に対して邪な恋心を抱いていた大石が、恋に破れ果てて、見せしめに恋人の部屋で死んだのではないかという仮説がたてられた。

 さらにその仮説を裏付けたのは、顕子の部屋の床に撒き散らされていた大石のものと判明した精液と、性的な絶頂感の最中に死亡したことを明らかにした死体解剖結果だった。

 最終的に、そのような状況下で自ら首をくくるなど、まともな精神状態の人間には考えられない、いや、自ら死を選ぶ人間の精神状態がすでにまともでないことは確かだが、その死に方にそんな方法を選ぶのは、死を決意した後の精神錯乱と言うよりはむしろ、長い間の病的な心理が原因であろうという調査結果は、多くの人間から顕子への疑いを晴らし、彼女の潔白を証明することとなったのである。

 無論、牧田たち四人が、その夜当直だった施設の職員を、顕子を利用して籠絡し、はてはその状況を撮影するなどして脅迫したことは言うまでもない。

 少年達はこうして、紺野顕子を林間学校中に乳奴隷にするという当初の目的を果たし、最大の障害であった大石を葬り去り、そのことすらも顕子をより強く屈伏させることの道具に用いたのであった。

 以上、言わずもがなの蛇足を述べて、終章に代えさせていただきたい。

                                                           了      


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