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 初日その5

 顕子は、どこかで自分の名を呼ぶ声を聞いた。いままで幸せな気分で居たのに、その声を聞いて突然不安な気分になった。なんだろう?どうしてそういう気分になったのだろう。顕子は不安な気持ちのまま、耳を澄ましてみる。自分を呼ぶ声の他に、荒々しい息遣いが聞こえてきて、さらに顕子は不安になる。そして、不意に自分の身体が大きく揺さぶられていることに気づく。変に麻痺したような、霧のようなものが頭の中を覆っている。自分は今どこでどうしているのかわからなくなっている。とにかく、自分は今なぜか揺れている。胸に、引っ張られているような押さえつけられているような圧迫感を感じる。試しに手を動かしてみようとして、何かに手を掴まれていることに気が付く。そして、下腹部に感じる、違和感というには余りにはっきりし過ぎた蠢く何かの感触。

 「……何?え?」

 次の瞬間、顕子は目を開いた。途端に飛び込んできたのは、普通ではない形に歪んだ自分の胸と、その谷間に叩き付けられる少年の下腹部だった。

 一気に顕子の意識が覚醒する。視線をあげると、下腹部の主と視線があった。

 ……牧田くん?どうして?

 さらに、自分の手を掴んでいる相手は誰かと首を回すと、そこには寒河江と北原が居る。

 「あ、あなたたち!」

 顕子は思いきり声をあげた。自分がのっぴきならない状態に陥っていることを顕子は瞬時に理解した。どうしてこうなったのかは知らないが、とにかく、自分は裸の小学生に囲まれ、その性器を身体で慰めているのだ。そして、顕子は畏れた。先ほどから自分の胎内を貫く存在があることは、とうに気が付いていた。だが、その持ち主が誰なのか、顕子は怖ろしくて確かめることを躊躇った。

 ……あの時のヤツかもしれない

 あの晩、自分の部屋に忍び込み、凌辱しようとした覆面姿の男を思い浮かべて、顕子は唾液を呑み込んだ。

 ……林間学校よね?私、林間学校に来ているはずなのに……

 顕子には林間学校に来ているという実感がなかった。学校を出たときまでは覚えているが、それ以降の記憶が全くない。目が覚めたということはいつの間にか眠っていたらしい。それは自分が今どこにいるのかはっきりわからないということを示している。顕子は最悪誘拐でもされたのではないかと怯えた。自分の身体にまとわりついているのが教え子であることはわかった。だが、不思議と彼らに対しては気が回らなかった。とにかく、今自分の最奧を貫いている存在に全神経が集中された。

 「うう!先生!顕子先生っ!出そうだよ!気持ち良いよ!」

 だが、その不安はその叫び声を聞いてあっという間に消えた。牧田の身体で死角になっていた自分の下半身から聞こえてきたのは、誰あらん、牧田達と同じ顕子の担任クラスの高橋清治の声だったからである。

 ……じゃあ、この子達だけで、私を?そんな!

 その認識は顕子を打ちのめした。まさか小学生がこんな行為を働くとも思わなかったし、何より、そんな子供たちだとまったく気が付かなかった自分の教師としての力量に、絶望に近いものを感じたのだ。

 「高橋!俺も出そうだ!一緒に出そうぜ!」

 牧田が小刻みに顕子の胸を揺さぶりながらそう叫ぶ。牧田は、顕子が目を覚まし、自分と目があった瞬間に、言いようのない邪悪な感触を心の中に見出していた。それは、今後この美しい女性を逃すことなく一生なぶってやるという決意のようなものだった。そしてその感情は、牧田を一気に射精へと導いたのである。

 圧倒的な虚無感に近い感情に心を満たされていた顕子は、牧田の声で自分を瞬時に取り戻した。とにかく、この子供達を自分から引き剥がさなければならない。何より、自分は今日あたり排卵日の筈なのだ。

 「止めなさい!牧田君!高橋君も!やめて!」 

 きっと顕子は牧田の顔をにらみつけてそう怒鳴った。だが、その声がまるで合図だったかのように、牧田の勃起は、顕子の胸の谷間で激しく膨張すると、一気に白濁した幼い欲望の証を吐き出した。

 「ううっ!」

 顕子は自分の顔目掛けて飛んできた牧田の飛沫を、よけることが出来なかった。首から顎、そして頬から鼻にまで青臭い液体がこびりつく。だが、それを顕子は拭いている暇もなく、清治から逃れようと身をよじった。

 「先生、もう、だめ……うっ」

 身をよじったことが逆に清治を追いつめたのを知ったときには遅かった。顕子が身体を動かしたことによる新たな刺激は、幼い清治の性器には強すぎたのだ。清治のものは、ぴくぴくと脈打つと、次の瞬間に子宮を突き破らんばかりの勢いで爆ぜた。

 「ひいいい!」

 絹を裂くような悲鳴をあげつつ、顕子は自分を汚す液体から逃げようとするようになおも身体をよじった。だが、牧田が上半身を押さえつけ、清治も、自分の液体を悉く注ごうとでもいうように顕子の太股をがっしりと掴んで離さなかった。

 その様子を見たことが引き金となったのか、寒河江と北原はほぼ二人同時で、顕子の掌を汚しながら濁った液体を宙にまき散らしていた。

 漸く、子供達は顕子の身体から離れた。牧田の放った液体を顔に滴らせたままで顕子は、満足げに微笑みあう子供達をにらみつけた。

 「いったい、どういうことなの?こんなことが、許されるとあなた達は、思ってるの!」

 いつもなら顕子が怒鳴った途端に萎縮する彼らだったが、その表情は何一つ変わらなかった。むしろ、誇りを湛えたような満足げな顔のまま、顕子の裸身に視線を這わせてきた。

 「あ、あなたたち!なんなの?その顔は!どういうつもりなの!」

 顕子がそう怒鳴りつけた瞬間だった。部屋のドアが突然開いた。

 「どういうつもりっていうのは、こっちの台詞ですよ、紺野先生」

 開いたドアから部屋に入ってきたのは、大石だった。その表情は幾分驚きを交えつつ、薄く笑っている。

 「お、大石先生……あの、これは」

 顕子は、途端に自分が裸で居ることを恥ずかしく思ったのか、シーツを自分の身体に巻き付けた。
 そんな顕子を見下ろしながら、大石はさもがっかりしたという風に肩をすぼめて見せた。

 「これは問題ですね、紺野先生。具合はどうかと心配してきてみれば、クラスの男子を集めて、性教育ですか?がっかりですよ、真面目で教育熱心な今時珍しい素晴らしい先生だと思っていましたから」
 「大石先生?……誤解です!私からこの子達を誘惑したとでも言うんですか?そんな、あんまりだわ……」

 訴える顕子の顔をじっと見て、一瞬大石は口の端を酷薄そうに歪めた。その表情は顕子が今まで見たこともないようなものであり、生理的に嫌悪感を感じさせる表情だった。

 「顔に子供の精液をつけたままでは、説得力がないですよ」

 大石のその言葉に、顕子は慌てて自分の顔にこびりついている液体を手で拭った。

 「どういいわけなさっても、小学生の子供に性交渉の充分な知識があるはずがない。失礼ですが、紺野先生が子供達を誘惑したとしか考えられませんよ」

 シーツ一つ裸身に巻き付かせた顕子を見下ろしながら、大石は哀しそうな顔をして見せた。無論、心の中では、盛大に快哉を叫んでいる。

 ……ざまあみろ!漸く、弱みを握ってやった!いや、弱みを作ってやったかな?

 「そんな!そ、それならこの子達を問いただしてみて下さい!」

 顕子はそう懇願すると、促すように牧田達の顔をにらみつけた。大石は、そんな顕子の様子が愉快でたまらない。実際、こんなに取り乱した顕子を見たのは初めてのことだった。

 「紺野先生は、自分が君たちを誘惑したのではないと言っているんだが、本当かい?」

 大石は顕子の剣幕に押されたという風に慌てたふりをしながら、牧田達に声をかける。

 「いいえ、紺野先生が気持ちいいこと教えてあげるって……」

 大石の顔を見ながら、牧田はそう答えた。満足そうに大石の目が笑っている。それに対して牧田も微かに微笑んで見せた。

 「嘘よ!この子達は、嘘をついているんです!」

 顕子が金切り声をあげる。信じていた子供達に裏切られたという先ほど感じた悲しみと、その子供達をあくまで信じていたいという最後の望みすら絶たれてしまった絶望感が、顕子を叫ばせたのだ。

 大石は顕子の方に振り向くと、もう一度哀しげな表情を作った。

 「もう、何を言ってもごまかせませんよ。これで、紺野先生がこの子達を誘惑したことははっきりしました。淫行ですよ、立派な。先生があくまであの子達の言うことを嘘だと言い立てるならそれでもいい。ただし、どう考えても、こうしたことに疎い子供が率先して行ったこととは誰も考えませんよ!」

 きっぱりと、歯切れよく言い切った大石の顔は、今までに見たことがないほど威厳に満ちていた。その表情からは、いい加減な気持ちで教師をやっているものの雰囲気は微塵も感じられない。まさに、教育者中の教育者といった趣である。おだてられたり、自分が圧倒的に有利な立場にあるときは、いくらでも増長できるのが大石の性格であった。

 「……そ、そんな」

 顕子は大石の迫力に気圧されるようにして、うなだれた。望んで就いた小学校教師だった。そのために努力もしたし、教師になってからも生徒のことを考えない日はなかった。生徒達のためにもふざけた教育者にはなりたくなかった。そのために自分を常に律してきた。それが、まさかこんな形で子供達に裏切られ、ほころびを見せてしまうとは……。

 意気消沈した顕子を見下ろしながら、その精神にさらに食い込もうとでもいうように、大石は畳みかける。

 「誰しも、出来心というのはあります。それは教育者であっても例外ではない。私だって、魅力的な女性を見ればむらむらっときます。ですが、出来心をそのまま実行に移してしまっては、もはや教育者では居られなくなります。そうした自制心はある方だとずっと思ってましたが、そうではないようですね。私が思うには、紺野先生あなたは、性的にかなり貪欲な女性なのでしょう?いや、それとも子供にしか感じない変態なんですか?」

 顕子にとってはまったく謂われのない弾劾が続く。屈辱的な言葉を次々大石にぶつけられても、言葉を返せない自分が哀しい。いつの間にか、眠ってしまっていた。それもかなり長い間だろう。教え子も大石も居るということは、紛れもなく林間学校に自分は来ている。その間ずっと、眠っていたことになる。しかも、子供達に裸にされたり、男性器を挿入されたりしていたにも関わらず、目が覚めなかったのだ。

 ……おかしい。この間の時も気が付けば自分の部屋にいた。そして、あの男に裸にされていた。今度も同じ。気づけば意識を失ったり、眠り込んでしまっている……しかも、この間は学校にいたときまでの記憶から先が無い。今回は学校の前でバスに乗るまでは起きていた。ということは、学校に何かある!

 目の前では大石が自分の言葉に酔ったようにして、顕子の性癖について推測を述べている。聞くに耐えない言葉がぽんぽん大石から発せられているが、顕子は自分の中の疑問の答えが見つけようと、自分の考えに没頭している。

 ……学校か、もしくはそこから出た時に私は意識を失っている。前回は確か更衣室のロッカーを開けたところまでは覚えている。その後の凄い衝撃も。おそらくスタンガンみたいなものだと思う。今朝は、いきなりものすごく眠くなった。浮くような、気持ち良いような幸せな眠りだった。でも、前回と違っている。明らかに薬かなにかを飲まされたような……薬!

 顕子はそこで目を見張って、大石の顔を凝視した。その視線に大石はなおも悦に入ったまま言葉を返す。

 「何ですか?私の言っていることに間違いがありますか?そりゃああるでしょうね。あると言わねば、貴女は教職から離れなければならない。文武両道の優秀な、教育委員会も赴任校の校長も期待する貴女が」

 だが、顕子の視線は変わらなかった。つい先ほどまで、恥ずかしさと悔しさをにじませて俯いていた顔は、今やうっすらと赤みを差して、きりきりと柳眉も上へと向かっている。

 ……なんだ?逆切れか、この女?暴れられると面倒だな

 大石はそう考えて表情を強張らせた。もし顕子が、あくまでも自分の言っていることが信じてもらえないのならばと、得意の空手で大石達をうち倒し、力で今回のことをうやむやにしてしまったらと、大石は畏れたのだ。

 だが、大石の予想は完全にあてが外れていた。

 「大石先生。私、一つ気が付いたことがあるんです」
 「気が付いたこと?」

 まったく予想を外れた顕子の言葉に、大石は思わず身を乗り出した。

 「そうです。……私、今朝からずっと眠り続けていたのでしょう?」
 「ええ、その通りです。だから、先ほども言ったでしょう?具合はどうかと心配してきてみれば……」

 大石の言葉を遮るように、顕子は大きくかぶりを振って、口を開く。

 「それはわかりました。……ですが、わざわざ心配してもらって来ていただかなくても、大石先生には、こうなっていることはもうわかっていたんじゃないですか?」
 「……何を?言ってるんですか」

 喉の奥から掠れた声が出てくる。今の今まで蕩々と顕子に向かってよどみなく言葉を紡いでいただけに、自分のそんな状態が腹ただしい。だが、それだけ、顕子の発した言葉は大石にとって衝撃だった。

 ……この女、気が付いたな!俺が今回のことを仕組んだのを

 大石が慌てて自分を取り戻そうとしているのがわかるのか、顕子は小さく笑って見せた。形成はたった今逆転した。顕子の表情はそれを雄弁に物語る。

 「私が今朝飲んだ酔い止め薬は、睡眠薬のようなものですね?それを使って私を眠らせ、この子達に私を襲わせる。頃合いを見計らって、この部屋に入ってきて、私の弱みを握る……そうでしょう?それがあなたのシナリオなのでしょう?」

 顕子はそこまで言うと、きっと大石を睨み付けた。

 「……な、何を言って……?か、仮に私が紺野先生に酔い止めと偽って、睡眠薬を飲ませ、さらに紺野先生の言うようにこの子達を使って貴女を襲わせ、それで弱みを握ったからといって、私にどんな利点があるんです?利益がなければ、貴女の弱みを握ってもしょうがないでしょう?違いますか?」

 自分を落ち着かせるかのようにして大石は次々言葉を口に出した。そのうち、何となく、顕子の追撃を逃れられるのではないかと思うようになってくる。

 ……そうだ、一服もって、なおかつガキどもをつかってこの女の弱みを握ったって、俺には何の利益もない。そうだ、そういうことにしてしまえばいい。この女も俺が自分をものにしたくてこんなことをしたなんて、流石に思いつかないだろう

 潔癖とも言える程、世の中のどす黒い欲望に疎いと思われる顕子だからこそ、そうした考えも浮かぶはずは無いだろうと、大石は思いこんだ。今度のことと、自分の秘められた顕子への黒い欲望を結びつけられる材料を顕子は持っていないはずだった。

 だが、その希望的観測も、次の顕子の一言であえなく崩れ去った。

 「利点ですか?……大石先生なんでしょう?私を気絶させ、犯そうとしたあの夜の覆面の男は?」


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