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 初日その3

 牧田達「紺野顕子を乳奴隷にする会」のメンバー四人は、せっかくそれぞれの母親が腕によりをかけて作った昼食の弁当もろくに喉を通らなかった。大石はいつもとまったく変わらない態度を通していて、昼食の時間に呼び出されて怒られるのではないかと思っていた牧田達の予想は完全に外れた。だが、逆にそのことが彼らに必要以上の緊張を強いていたのだ。

 昼食を取り終えた子供達を乗せて、バスは再び発進する。牧田達は、大石に何も言われなかったが、顕子の隣に座ることをやめて、当初決められていた自分たちの席に戻って居た。顕子はそんな彼らに気が付くこともなく、ずっと昏睡状態にあった。

 「大石先生、僕らのことに気が付いてないんじゃない?」

 再び走り出したバスの窓の外を流れていく景色を見ながら、北原が独り言のようにして、呟く。

 「うん、僕もそう思う。だって、何も言われなかったじゃないか」

 清治はそれを耳ざとく聞きつけて、幾分緊張のゆるんだ表情で、賛意を得ようとするかのように、牧田の顔を覗き込む。

 それに対する牧田の表情は、先ほどから固まってしまったかのように、眉間にしわを寄せたままだった。

 牧田は悩んでいた。大石が自分たちの行為に気が付かなかったはずはなかった。北原と清治は、あの時顕子の体を弄ぶことに夢中で、大石の表情を見ては居ない。だが、牧田はあの瞬間の大石の表情を見ていた。一瞬いぶかしげに眉をひそめた後で、微かに口元を歪めて、笑いに似た表情を見せたのだ。それが大石のどんな感情を示していたのかは解らなかったが、とにかくこのまま何事もないということは無いだろうと思った。果たして何が起こるのか。牧田には想像もつかなかったが、何かが起きるということだけは、断定してもいいはずだった。

 「大石の出方を待つしか無いな。どうなるにしろ、あいつが俺たちのしたことに気づいていることだけは確かだ」

 寒河江が牧田の心中をそのまま見たかのようにして、清治と北原に向かって口を開く。さらに、牧田も寒河江の言葉に深く頷いて見せたので、清治達は途端に打ちひしがれたような顔になって押し黙ってしまった。

 それから、四人は目的地に近づくまで一言も発しなかった。牧田はずっと考え込んでいたし、清治と北原は落ち着かな気に、窓の外と自分の足下との間を何回も視線を往復させた。寒河江は、目を閉じてずっと背もたれに身を預けて口を真一文字に結んだままだった。

 四人の間に永遠に横たわるかに思えた沈黙は、大石の声でうち消された。

 「ようし、そろそろ着くからな。忘れ物がないか、ゴミを落としてないか、自分の周りをチェックしろ!それと、牧田!先生のところに来なさい」

 ひっと北原が奇妙な音を喉から発する。遂に来るべき時が来たのだ。清治の顔は蒼白で、額にいやな光を帯びた汗をかいていた。寒河江は、それまで閉じていた目を開いて、牧田の方をじっと見つめている。

 「行って来る」

 一瞬奥歯を噛み締めたような表情を見せて、牧田は立ち上がった。そのまま揺れる車内を、比較的しっかりした足取りで歩いていく。

 「牧田、お前、何で呼ばれたのか解ってるな」

 大石の席の傍らに着いた途端に、牧田は肩を大石の両腕に掴まれた。

 「はい……解っているつもりです」

 真正面から自分の顔を覗き込む大石の視線から逃れるようにして、俯いたままで、牧田は答えた。

 「そうか。それなら話は早い。ここでは何だから、今晩風呂に入り終わったら、先生の部屋に来なさい。勿論、お前の班全員だ。いいな」

 牧田が顔を上げて大石の視線に自分の視線をぶつける。なるようになれといった、幾分投げやりな、それでもまだ自分の立場を考えて、必死で恐怖に耐えている視線だった。仲間達の手前、牧田は自ら北原のように騒ぎ立てることも、感情を露わにすることも出来なかった。だが、こうして大石と向き合っていると、自然と心の中の不安や恐怖が飛び出てきそうな気持ちになってくる。改めて、自分たちが杜撰な行き当たりばったりの方法で顕子の体に悪戯したことを悔やんだ。

 「わかりました。もう、いいですか?」

 大石がそれに対して鷹揚に頷いて見せた。大石が教師になって良かったと思える数少ない瞬間である。つまり、自分が王様として振る舞うことが出来る状況である。たとえ、裸の王様であろうとも、無条件で他人の上に立つのはすこぶる気分が良かった。

 ……思わぬところで、計画に幅が広がったな

 去っていく牧田の後ろ姿を見ながら、大石は心の中で笑みを浮かべている。牧田達の行動は、大石の予想外のことであったが、その偶発的な出来事が、大石に更なる手駒を提供することになった。

 ……あいつら、寝込んでる女を触りまくるなんて、見かけはどうあれ、スケベな痴漢オヤジと一緒だぜ。だが、あくまで子供は子供だ。馬鹿と鋏は使いようって言うが、スケベなマセガキも使いようってことだ。せいぜい子供という利点を生かして、顕子を責める片棒を担いでもらうことにするか。

 大石は不敵に笑う。彼の頭の中では、顕子を凌辱する計画を構成するパーツがすべて揃い、その全貌が初めて明らかになっていた。その計画に従い、今晩顕子への凌辱は決行されるのだ。

 ……あいつらが俺の部屋に来たときが、すべての始まりだ!

 大石は笑い顔をそのままにして、窓の外に視線を移す。流れていく車外の景色は、段々と目的地のものに変わっていこうとしている。もう十分もかからないで到着するはずだった。

 窓ガラスに映る自分のにやけた顔を見ながら、大石は呟いた。

 「いい林間学校になるといいな、顕子先生……」

 林間学校の宿泊に使われる教育委員会の施設は、海に面した高台にそびえ立っている五階建ての白壁の建物だ。施設前の広場で、入所式を行い、施設の所長をはじめとする職員に向かって、児童の代表が誓約書を読み上げる。規則に従って、有意義に過ごすとか、友情を深めるなどといった、大石から見れば反吐が出そうになるような、くだらない誓約だ。つくづく小学校という、建前があたかも真理のようにして教えられ、しかもそれが実際に機能している場所の不可思議さを思い知らされる。大石が辞表を提出しようと思ったのも、こうした体制が根幹にあるからだった。だが、それを押しとどめたのは、顕子の存在である。その顕子をなぶることができるので有れば、建前と虚飾に満ちた世界でもいいと、ぼんやり誓約書を読み上げる声を聞きながら思う。

 そうこうしている内に、入所式は終了し、大石は子供達を各自の宿泊室に移動させ、ベッド・メーキングを行わせた。その間にも大石は施設の職員に挨拶し、今後の打ち合わせを行った。その席で、当然寝込んだままの顕子に対して関心が集まり、医者を呼んではどうかと言い出す職員も現れたが、大石は、もともと乗り物酔いがひどい女性で、知り合いの医者の処方箋に従った酔い止めを服用した結果だから、心配はいらないと説明して、何とか誤魔化していた。

 顕子は依然まったく目を覚ます気配無く、懇々と眠り続けていた。その顕子の体を職員の手を借りて、顕子の宿泊する部屋へ運び込む。子供達の宿泊する部屋は、二段ベットが二つ備え付けられた四人用の形になっているが、大石や顕子の宿泊する部屋は、ベットが二つだけ置かれたものになっていた。無論、大石と顕子は、性別が異なるのでそれぞれ別の部屋を用意されている。

 顕子をベットに横たえると、大石は静かに寝息をたてる顕子の顔を酷薄な感じで眺めた。

 ……ドアに鍵はついているし、ベットも思ったよりも大きめだ。いいじゃねえか。顕子を貶めるには、なかなかいい場所だ

 頭の中で顕子を責めなぶる算段をゆったりと転がしながら、大石は顕子を共に運んできた職員達と部屋を出た。これから、子供達に夕食を取らせ、さらに入浴をさせなくてはならない。浮かれはしゃぐ子供が何かしでかさないとも限らないので、大石にとっては頭の痛い時間である。

 ……まあ、風呂入り終わったら、いよいよな訳だから、今夜ぐらいは我慢してやるさ。馬鹿なガキ達のおもりもな

 大石は浮き立つような気持ちを感じながら、夕食までの間に自分の部屋に荷物を入れて整理しておこうと、スポーツバックを玄関から肩に担いで運んだ。

 中には林間学校に関連したものも入っているが、それよりも、顕子を責めるための道具が多く積み込まれていた。自然、バックを運ぶ足取りも軽くなる。大石の口からは、本人が知らぬ間に、鼻歌が零れ落ちた。

 一方、浮かれ気分の大石とは対照的に、牧田達の班は、ベット・メーキングの間中無言だった。大石の部屋に入浴後来るように呼ばれていたのだが、その瞬間こそが、彼らにとって死刑宣告に等しいものであった。

 その重苦しい気分は、その後の夕食や入浴の際でも変わることはなかった。むしろ、刻一刻と迫り来る裁きの瞬間を思い、気分は重くなっていく一方だった。

 それでも風呂から上がった牧田達は、重い足取りながらも、大石の部屋を訪ねていた。どんなに教師の命じたことをいやがったとしても、教師と児童の間には、封建領主とその臣下以上の権力差が存在している。その上、今回は牧田達の方が明らかに悪いことをしでかしているので、どんな結果が待っていようとも、彼らに拒否権は無かったのである。

 「先生、牧田です」

 ノックをしてから、ドアの向こうに声をかけると、横柄な感じで大石の声が返ってきた。

 「おお、早く、入れ」
 「失礼します」

 牧田達はそれぞれ部屋に入る瞬間にぺこりと頭を下げる。その仕草と表情は、見るからに怯えていて、大石の嗜好を擽った。

 「さ、そこに正座するんだ」

 大石はさながら罪人を裁く司法官のようにして、子供達を自分の腰掛けるベットの前の床に横並びで正座させた。そしてそのまま何も言わずに子供達の顔を見まわす。大石の視線が自分の顔に向けられるとき、牧田達は一様に視線を下におろして、うなだれる。そうした仕草だけみると、子供らしいと思うのだが、しでかしたことは子供のすることではない。普通の教師ならば、こうした子供らしからぬ行為を犯してしまった教え子にどう対処していいのか苦慮するところだと思うが、大石はまったく悩まなかった。

 「お前ら」

 不意に大石が口を開いたので、子供達は、一瞬電撃に打たれたかのように背筋を伸ばし、大石の顔を仰ぎ見る。

 「お前ら、そんなに女の体に、紺野顕子先生の体に、興味があるのか?」

 大石はそういうと、子供達の顔をじっと見つめた。だが、子供達の顔からは、極度の緊張感と恐怖が感じ取れるだけで、何一つ言葉を発しようとしない。

 「ふん……まあ、いいさ。そうやって黙りを決めこむんなら、そうしてろ。とにかく、今度のことはお前らの両親にもきちんと伝えておくからな」

 大石の目的は、普通の教師のように、彼らに反省を促すことでもなければ、正しい性教育を行うことでもない。ただ彼らを自分の手駒にすることだけが目的だ。そのためには、なだめることも、脅すことも必要だろう。大石はそう考えて、まず子供達を脅して見たのである。

 「……先生!ぼ、僕……」

 大石の脅しに早速、清治が反応した。顔を真っ赤にして、涙を目の端に溜めながら、清治は思い詰めたようにして口を開く。

 「ん?なんだ、高橋」

 大石は途端に表情をゆるめて清治の顔を覗き込む。

 「ぼ、僕、本当はあんなことしたくなかったんです。でも、牧田君達が今度のことに僕を誘わなければ……」
 「高橋!てめえ、仲間を売るのかよ!」

 すっかり鼻声になってしまった清治が今度のことについて語ろうとした瞬間、牧田がつかみかかった。

 「だって、僕だけだったら、あんなことしなかったよ!それを牧田君達が、紺野顕子を乳奴隷にするとかいって僕を誘ったんだ!僕は、あんなことしようなんて、誘われる前は思ったことはなかったんだ!」

 牧田に床に押し倒され、横っ面をはり倒されながらも、清治は叫び続ける。

 ……乳奴隷?

 聞き慣れぬ単語に、大石は一瞬考え込んだ。目の前では牧田が、清治の顔が歪むほどの勢いで拳を叩き付けている。そしてそれを寒河江と北原が割って入って止めようとしている。だが、大石自身は、動こうとはしない。

 ……確かに、あの女は教師にしておくにはもったいない、乳をしてるが……。そうか、こいつら、そんなことまで考えてやがったのか。ますますガキっぽくねえな

 叫び続ける清治がうるさくなってきて、漸く大石は牧田を清治から引き剥がした。教師とは思えない自己中心さを、大石は隠すことを止めていた。どうせ、自分の手駒になる運命の子どもたちである。そんな連中に気を使ういわれはない。

 「高橋、お前は、今度のことに誘ったのは牧田達で、自分は悪くないといいたいんだな?」

 鼻血が垂れだしている清治を見ながら、大石は尋ねる。

 「はい、そうです。六月頃に、僕は牧田君達に、紺野顕子を乳奴隷にする会に誘われたんです。僕は紺野先生が好きだから、仲間になったんです。でも、寝込んでいる先生を触ろうなんて思ってませんでした」
 「ふん。高橋、お前、意味解ってるのか?奴隷だぞ、奴隷。先生を奴隷に、それも乳奴隷?本当のところ、乳奴隷ってなんだ?高橋。それの意味が分かっていて、尚かつ自分は悪くないという気なのか?」

 高橋清治という児童に関して、大石が持っていた知識は、「引っ込み思案」という紺野顕子からの情報だけだった。だが、今の状況からすれば、引っ込み思案ではあるが、極端に自分勝手である。それも、単純なものだ。自分が不利になれば、仲間を悪者に仕立て上げるし、無理があっても自分を被害者にしようとする。小学生にはこうした手合いが多いが、同時に大石が最も嫌いなタイプだった。

 「……牧田君が言うには、紺野先生のおっぱいが大きいから、愛嬌をこめて、乳奴隷って……」
 「牧田が言うには?お前の意見を訊いてるんだ!奴隷という意味がわかってるのかと訊いてるんだよ!」

 大石は清治のあまりに独りよがりな態度に、声を荒げた。教師の仮面がずり落ちそうになっている。その雰囲気がわかるのか、子供達は一様に顔を強張らせた。

 「牧田、高橋の馬鹿の言ってるとおり、お前が首謀者だろう?だったら、お前が説明してみろ、なんだ?乳奴隷ってのは、ん?」

 牧田は清治を殴り続けたので、頬を上気させて汗を額に光らせている。そうしていると、目鼻立ちの整ったまつげの長い少年の顔には、匂い立つような中性的な色気がにじみ出てきて、大石は魅入られたかのように覗き込んでしまう。

 「……僕たちは、紺野先生が好きです。それは、高橋だって一緒です。そして、ただ好きなだけじゃないんです……。セックスしたいと思っています。それも、一回だけじゃなくて、何回もしたいんです。これから何回も好きなときにセックスをするようになれたら……それも、大好きな紺野先生とです。僕たちは、紺野先生の大きな胸が好きです。好きなときに好きなだけ、あの胸を自由にしたい……だから、乳奴隷なんです」

 喉の奥の方から絞り出すようにして牧田は大石の問いかけに答えた。それに対して、お大石は皮肉っぽく口の端を歪めて見せた。

 「ったく、このマセガキが……。セックスしたい?お前ら、小学生だろうが!だが、いい見立てだ。女を見る目は誉めてやる。それと、乳奴隷ってのは面白い呼び名だな。奴隷の意味もある程度は解ってるみたいだが、お前ら、あの乳で何がしたいんだよ?」

 牧田のせっぱ詰まった表情とは対照的に、大石のそれは不真面目そうに歪んでいる。

 「外国のエッチな本に載っていたんです……。大きなおっぱいでちんちん挟んだり、男の顔をすっぽりつつんだり……」

 途端に大石が大きな声をあげて笑い出した。身を折って、自分の腰掛けているベットの表面を叩きながら、大石は笑い続けた。子供達のあまりに短絡的で視覚的な知識の偏りに、大石は心の底から笑った。

 「で?どうやってそうする気だったんだよ?」

 漸く笑いの発作を無理矢理鎮めてから、大石は牧田に尋ねた。その顔は急激に笑ったことで、ひくひくと名残の痙攣にちかい筋肉の動きを見せている。

 「……手錠を用意しました。紺野先生が寝た頃を見計らって、部屋に入ってから手錠で動きを抑えてから……」
 「馬鹿か、お前ら?あの女が空手の有段者で、しかも足技が大の得意ってことしらねえのか?手を手錠で繋がれたくれえじゃ、あの女はどうってことねえよ。お前ら順に蹴り倒して、終わりだ……。うん、でも面白いな。そこまでやる気だったんなら……」

 大石が紺野顕子に「先生」という言葉をつけないばかりか、ただ「女」と言うことに、牧田は気づいた。いつの間にか、大石の顔はすっかり変わってしまっている。どんなに日頃怒鳴ったりしていても、学校ではついぞ見ることの無かった冷酷な感じを受ける表情だ。極端に酷薄そうに歪められた口元に、完全に他人を見下した視線。整った顔だけに、その異様さが際だっているように牧田は思う。

 「……牧田、お前今でも、やる気はあるか?」

 突然自分の思考の中に入ってしまった大石が次に何を言い出すのかと、待っていた牧田は、その不躾な質問に、一瞬呆気にとられた。

 「……やる気ですか?」
 「そうだ。まだ、あの女をお前らの好きなときに自由に奉仕させる奴隷にする気があるかと訊いてるんだ」
 「でも……」

 牧田は口ごもった。顕子を乳奴隷にするということまで知られてしまったのだから、必ず怒鳴りつけられ、両親にも知らされるものだと、今の今まで覚悟していたのに、大石の態度は牧田を完全に裏切っていた。

 「どうなんだ?お前らにやる気があるのなら、あの女にこれから夜這いを仕掛けてみろ。大丈夫だ。俺はお前らを、小うるさい親や馬鹿な他の教師には売らねえよ。何せ……」

 大事な手駒だからな、という言葉は腹の中にしまい込んで、大石は子供達の視線に自分の視線を合わせていく。

 「先生……どうしてですか?どうして、そんなこと……」

 寒河江が、まったく理解しかねるという風に、大石の視線に応えて口を開く。

 「俺も、お前らといっしょってことだ。……俺も、あの女には我慢できねえんだよ。日頃はさも立派な教師でございますって澄ましやがってても、あの身体はどうみても教師って柄じゃねえ。そのくせ、身持ちが堅いってんだから、男を馬鹿にしてる。ああいう手合いは、身体を使って男に奉仕してなんぼのもんだ。お前らがあの女に興奮したのは、当たり前だ。たとえ、ガキだって言ったって、あんな女がすぐ側に居たんじゃ、おかしくもなるのに、俺は、大人の男だぞ!しかも気に入った女は確実に犯ってきたんだ!だからこそ、あの女にこの一年半も焦らされてきたのが、許せねえんだよ!」

 蛇のように、てらてらと光った大石の舌が、口を開く度に出入りし、瞳の奧では、大型の肉食獣に似た、鈍いがどこか狂った感じの光が揺らめいている。子供達はそんな大石の異様な雰囲気にすっかり気圧されてしまっていた。その表情や話し方から、自分たちが紺野顕子に抱くのと同じように、いやそれ以上の妄執に近い感情を大石が持っていたことを、子供達は理解した。

 「お前らがその気なら、俺は手を組みたいんだ。どうだ?今なら、あの女も寝入っているから、お前らの作戦もやりやすいんじゃないのか?手錠はする必要もない。もし、暴れ出すようだったら、俺が間に入ってやる」

 そこまで言って、大石は表情を一変させて、柔和な笑顔を子供達に見せた。

 だが、子供達は互いに視線をあわせているだけで、反応は無い。

 ……もっとも、お前らがいやだと言っても、無理にでもやらせるぜ。なにせ、お前らがしたことをばらすもばらさないも、俺の気持ち次第なんだからな

 大石は焦らずに子供達の出方を待った。やがて子供達はひそひそと小声で話し合い始めたが、すぐに答えは出たようだった。

 「先生。わかりました。僕ら、先生と手を組みます」

 牧田が代表して告げる。子供達も、自分たちに選択権がないことは気が付いていた。もしここで大石の申し出を断れば、自分たちに待っているのは、小学生らしからぬ行動をとった問題児というレッテルだけである。そしてなにより重要だったのは、大人の協力者を得た上で、顕子に対する作戦を行うことが出来るという点だった。たとえその大人が大石であっても、子供だけよりは全然いい、というのがバスの事件で得た彼らの教訓だった。

 「ようし、話は決まった!お前らにはこれからあの女のベットに裸で潜り込んでもらう。もちろん、あの女も裸に剥くんだ。好きにしていいぞ。お前ら、母ちゃんや姉妹以外に生で女の裸見たことねえんだろ?まあ、あったとしてもあの女の裸は特別だから、じっくりやればいいさ。なあに、あと一時間は目を覚まさないはずだ。心配すんな」

 大石は笑いかけながら、正座している子供達を一人一人抱え上げて、立ち上がらせた。子供達は脚が痺れて、ふらついていたが、大石はそんなことお構いなしで、すぐにでも彼らを顕子の部屋に送り込もうとする。

 「俺はあの女が目を覚ました頃に行くが、それまでしっかりやるんだぞ」

 大石はそう言って、牧田の背中を力一杯叩いて子供達を自分の部屋から送り出した。

 顕子の部屋は大石の部屋の向にある。大石は自分の部屋のドアを開けて、子供達が顕子の部屋に入っていくのを見送る。

 ……頼むぜ、ガキ共。お前らの活躍次第で、あの女をおとすのも楽になるんだからな

 大石は心の中で舌なめずりを繰り返す。ここまで面白いように自分の思惑通りにことが進んできている。だが、まだまだ満足はしていない。今は目標を照準にとらえた段階に過ぎないのだ。これから、目標を撃ち落とす作業が待っている。そしてそれを失敗してしまっては、いままでの苦労はまったく無駄になってしまうのだ。


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