初日その2
そんな彼らにいきなりチャンスが訪れていた。 学級会で、顕子の座る席のすぐ前を強硬に望んで獲得した彼らは、その席についても、意味もなく後ろを振り返ったりして、顕子の顔や胸をちらちらと盗み見していた。ただ普通にその姿を見ているだけでも、幼い彼らの欲望はかなりの充足感を得ていたのだが、幼い分だけ、歯止めが利かなかった。とにかく、近くに顕子がいるというだけで舞い上がってしまい、その姿を一秒でも多く網膜に焼き付けておこうとでもいうように、頻繁に後ろを振り返った。 顕子はその度毎に、彼らをそれほど厳しくはない口調で注意していたが、やがて、倒れ込むようにして座席に横になると、寝息を立て始めてしまっていた。 顕子の異変に気が付いた彼らは、名前を呼んでみたが、一向に返事が返ってこないので、心配になって大石を牧田が呼びに行ったのだ。 そのことが彼らに降って湧いたようなチャンスを与えることになった。流石というべきか、リーダー格の牧田が、大石に無理なく顕子の側に座ることの出来る方法を提示して、納得させたのだ。 彼らは、憧昏睡状態の顕子を両脇から挟んで腰を下ろした。子供とはいえ、さすがに横になっている顕子の両脇に腰を下ろすと、非常に窮屈だったが、それすらも気にはならなかった。 「やった!さすが、牧田君だよ!」 小声ながら、興奮の度合いが充分に伝わってくるような掠れた音で清治が牧田を賞賛する。牧田と清治は顕子の向かって右側に腰を下ろした。無論、牧田に敬意を表して、清治は顕子側の席を牧田に譲っていた。 「そうそう……まさか、こんなチャンスがくるとはね!ね、どうする?触っていいの?」 小柄な北原斉が、顕子越しに牧田に尋ねる。 「まあ、待てよ。すぐに触ってもみたいだろうけど、顕子が起きたら、元も子もないだろう?まず、テストしてみようぜ」 牧田の提案に、残りの三人が顔を見合わせる。 「そうだ。次にバスが揺れたら、北原が顕子の方に倒れ込んでみる。それでも起きないようだったら、触ろうじゃないか」 北原が真っ先に賛同する。彼にとっては役得であるから、それは理解できた。だが、北原の向こうに腰掛けている寒河江が異を唱えた。 「もっと、はっきりしてみたらどうだ?どうせ、バスの揺れで倒れ込んだことにするんだったら、いっそのこと胸を揉んでみるとかした方が、テストとしてはより正確だと思う」 寒河江は牧田も一目置く四人の参謀格である。子供の世界では、勉強や運動が出来ているだけでも、トップには立てない。どうしても、単純な殴り合いや、口喧嘩に強くなくては、上に立つことは出来ないのだ。その点、五年二組の場合は、牧田というバランスのとれた優等生がボスのようでありながらも、その実、学業成績では牧田に勝る寒河江との二頭支配が取られていたのであった。牧田は、勉強もスポーツもトップクラスで、何より喧嘩がめっぽう強かった。そして、寒河江はそんな牧田の良きアドバイザーであり、同時に口喧嘩の苛烈さから、独自の地位を築いていた。 「そうだな。寒河江の言うとおりだ。これからしようと思っていることを実際にしてみないと、テストの意味がないな。じゃあ、北原、お前顕子の胸を揉むんだ。結構力をいれてな」 牧田の言葉に、北原は満面の笑みで応えた。それを恨めしそうに清治が見つめている。毎晩顕子の胸のことを考えて、オナニーに励んでいるだけに、さっきから直に胸に触りたくてしょうがなくなっているのだ。 そうこうしている内に、バスがカーブで大きく揺れた。牧田が目配せすると、北原はわざとらしく横になっている顕子の上に倒れ込んだ。そしてそのまま、倒れる体を支えるためにやむなく、といった風に顕子のトレーナーの右胸に左手をついた。 ……うわ、すげえ柔らかくて、気持ち良い! 北原は心の中で叫んでいた。そのまま、じっくりと質感を味わうように、掌に力を入れて揉み込んでいく。 他の三人は、北原がゆっくりと力を入れながらトレーナー越しに顕子の右胸を揉みし抱いていく姿を凝視していた。北原はぎこちなく動いていた。時々揉んでいる左手の指が痙攣したように引きつり、北原の興奮を伝えていた。 「よし、もういい!」 牧田が小声だが鋭い口調で、北原にテストの終了を宣言した。 「どうだ?寒河江、大丈夫そうじゃないか」 牧田が寒河江に賛同を求めると、寒河江は笑って頷いてそれを首肯した。 「大丈夫だろうな。北原も大分体重をかけて揉んでたのに、まったく起きる気配もない。それに、もともと、俺たちがここで小声で喋っていることでも、起きるときは起きると思う」 寒河江の言葉に牧田は深く頷いていた。さっきから妖しいとは思っていたが、どうも顕子の眠りは、単なる眠りというものではなさそうであった。大石がそれらしい説明をしていったが、もとより、大石の言うことなど平素から信じてはいない牧田である。いくら気分が悪くても、こうまで深い眠りというのは、明らかに異常であった。だが、その異常事態は牧田等にとっては、降って湧いた様なビッグチャンスであった。 「よし!これから、我々は顕子を触ることにする。これは、予行演習だと思って、それぞれじっくり感触を味わってくれ」 牧田が宣言すると、清治が牧田越しに身を乗り出して顕子を触ろうとした。 「待て、高橋!」 清治の指が、もう少しで顕子に触ろうかという瞬間に、空中で動きを止めた。 「どうした、寒河江?まだ何かあるのか」 幾分肥満気味の清治の体を自分の上からどけながら、牧田が尋ねる。 「ここは、一番後ろの席だ。ひょっとしたら、バックミラーで見られる恐れがある。だから、誰かが後ろの窓から外を見ている振りをして、顕子を見えなくする必要がある。そうじゃないか?」 寒河江の指摘に牧田は従った。正直、バスのバックミラーでそこまで見えるのかどうか知らなかったが、用心に越したことは無いと思ったのだ。 だが、バックミラーだけに注意を払えばいいというわけでもなかった。実際、彼らの座る席のすぐ前の列にも女生徒が座っていたし、その他にもいつ誰が後ろを振り返るかもしれないという恐れがあった。 「ついでに、前の方に対する見張りも決めておこう。触るのは二人で、あとは五分交替で、見張りと隠す役になる。これで、どうだ?」 寒河江が提案すると、牧田はすぐに頷いてそれを首肯する。この四人の間のことは、常にこうして寒河江と牧田の話し合いで決定していた。 「じゃ、じゃんけんだ」 牧田の合図で、四人が拳を出し合う。その結果、顕子に触る栄誉に輝いたのは、牧田と寒河江になった。 「本当に、五分なんだよね?」 バックミラー係になった清治が名残惜しそうな顔で顕子を見ながら、牧田に尋ねる。 「ああ、五分だ。悪いな、なんだか、お前だけ触れ無いみたいで」 牧田が申し訳なさそうな顔をしてみせると、清治は黙って首を横に振ってみせた。 その間にも寒河江が、顕子の体を起こして前の座席によって死角になっている場所に運んでいる。念には念を入れる寒河江の性格そのままの行動だった。 「よし、これから五分だ。いいな」 牧田の囁き声が合図となって、それぞれがそれぞれの役割を果たし始めた。 左右から牧田と寒河江が手を伸ばして、顕子のつんと上を向いたボリュウムたっぷりの胸を揉み始める。先ほどの北原のように、彼らも緊張していた。もし、ここで目を覚まされたら、という恐れもあったが、それ以上に憧れてやまない顕子の胸を揉むことの出来るあまりの幸運に、気が遠くなるような興奮を感じていたのだ。 掌に伝わってくる、柔らかでいながら、充分すぎるほどの重量感。トレーナーとブラジャー越しとはいえ、その感覚は幼い彼らを瞬く間に異境へと導いていた。牧田の鼻息が途端に荒くなり、寒河江の瞳も爛々と血走っていた。二人とも力の加減など考えもせずに、揉むというよりは掴むようにして顕子の胸を弄んだ。掴んだままぶるぶると揺すって量感を確かめたり、そのまま自分の方に引っ張ってみたりと、二人は完全に顕子に引き込まれてしまっていた。 「五分だよ」 北原が知らせたときも、二人は興奮のために上気した顔で、一瞬なんのことかわからないという風な表情を見せた。だが、北原に腕時計を目の前に突きつけられて、流石に二人とも冷静さを取り戻した。 「やっと、僕たちか」 清治が待ちきれないという様に小鼻をひくつかせながら、牧田と席を交換した。北原もにやにやしながら、寒河江と席を交換した。 「じゃ、これから五分だぞ」 見張り役になった牧田がそういうやいなや、清治と北原は顕子に挑みかかっていった。 清治は、夢にまでみた顕子の胸に触るということで、興奮しきっていた。すでに股間は痛いほどに張りつめている。ズボンの上からそれを扱いてやりながら、清治は別の手で顕子の胸におもむろに触った。 ……ああ!夢みたいだ! 途端に清治の頭の中は極彩色の光に満たされる。初めて顕子を見た一年と四ヶ月前の新学期、担任に顕子が決まったときの喜び、初めて顕子を想ってオナニーしたときの言い知れぬ罪悪感と背徳的な歓喜、そしていつも授業中に見せる厳しいがけして陰湿ではない、顕子の怒った顔、朗らかな笑った顔、体育の時の胸の揺れ……。それらが、一気に清治の頭の中でフラッシュバックする。 牧田達が、途中で自失してしまい、力任せに顕子の胸を掴んでいたことに比べると、清治は自分をしっかりと保っていた。思いに思い詰めていた割には、逆にそれが、いつも妄想でこうした場面をシュミレートしていたことになり、自分が何をしてみたいのか、どの様に顕子を触ってみたいのか、しっかりと把握することに繋がったのである。 ……顕子先生、綺麗だ! 清治はただトレーナー越しに胸を揉んでいることに耐えられなくなっていた。いつもの妄想ならば、この後、服の下から手を入れて、直に揉んでいるのだ。そうっと、胸を揉んでいた手を顕子の腰の辺りまで下ろして、そこからトレーナーの中に手を忍ばせていく。なめらからな顕子の生の肌の感触に酔いながら、清治の掌はじわじわとトレーナーの中を上へ上へと進む。 ぴくっと清治のこみかめが引きつるように震える。指の先に、ナイロン地の少しざわっとした感触が伝わる。ついに、念願の場所にたどり着いたのだ。清治は顕子の横顔を見ながら、全神経を指先に向ける。少しずつ少しずつナイロン地の感触の上を滑らせながら、指を這わせていくが、すでに、その道程は急激な傾斜をたどり始めている。 直に見えないもどかしさと、直接顕子の下着越しに胸を触っているのだという興奮とで、清治の息は段々上がっていく。 清治の掌は顕子の胸の頂上に到達していた。その途端、裾の方からではわからなかった、圧倒的な胸の豊満さを理解させられる。清治の子供にしては大きい掌でさえすべて包み込むことは叶わず、そして、少しでも力を入れると、まるでベットか何かのスプリングを押しているような重量感が返ってくる。 ……先生!ステキだ!先生は、とてもステキだ! 清治はブラジャー越しに顕子の胸を押し込みながら、心の中で叫ぶ。目の前には顕子の滑らかな肌に彩られた魅惑的な細くて長い首筋がある。思わず引き込まれるように、清治は顕子の首筋に口を近づける。そのまま顕子から漂ってくる馥郁たる大人の女性の香りを胸一杯に吸い込んで、舌を這わせる。 清治は音を立てて顕子の肌を直に味わった。舌をできるだけ横に広げ、唾液をたっぷりと溜めて、鎖骨の辺りから、耳の後ろの辺りまで、ずるずると這い上がらせる。 ……先生!先生! 清治の頭の中がスパークする。何度と無く閃光が走り、その度に清治の舌が顕子の首筋を縦横無尽に這い回る。今、自分がバスに乗っていることも、この悪戯の為の制限時間が五分しかないことも清治は忘れた。ブラジャー越しに顕子の胸をもみくちゃにし、荒い息を首筋から耳元にかけて何回も吹きかけていく。 一方、バスの一番前にある自分の席で、すっかり心地よく居眠りしていた大石は、バスの運転手の声で目を覚ました。 「先生、そろそろ、昼飯の時間じゃないのかい?もうすぐ昼食をとる予定地につくよ」 運転手の濁声に、大石は渋々目を開けた。さっきまで夢の中で、顕子の愛らしい澄んだ声を聞きながら、それを責めなぶっていた大石は、運転手に噛みつかんばかりの凄まじい視線を送ってから、腕時計を覗き込んだ。 ……11時30分か。そろそろ昼飯を食うときの注意でもしておくか さっき顕子の席から帰ってきて寝入ってしまってから、三十分も経っては居なかった。正直、もっと寝ていたいという気もするが、仕事があった。昼食は、目的地に向かう途中にある自然公園でとることになっている。子供達はおそらく、今まで狭い車中に居たことから、自然公園に降りた途端に開放的になって、暴れ回るだろう。目的地に着くまでにそんなことが起きては、予定も大きく狂ってしまう。それを事前に注意しておかねばならない。大石は席から立ち上がると何気に児童達の座っている後ろを振り返った。 「あ?」 一瞬大石は自分の目の中に飛び込んできたものが何なのか理解できなかった。彼の視線の先には、一番後ろの座席で呆けたように眠る顕子が居る。そこまでは、何も問題がなかった。だが、その脇に侍る様にして座る子供達が異様な行動をとっていた。二人が両脇から顕子を挟んで、胸を揉んだり、首筋に口を這わせていたのだ。小学生の林間学校には有りえない状況がそこには展開している。 ……あいつら!何が顕子先生が心配、だ! 大石は大声を出して注意しようとした。だが、その大石の視線に気が付いたらしい牧田が、顕子の両脇に座る二人の行動を止めさせていた。 大石とその牧田の視線がかち合う。 大石は、その視線から、牧田達が計画的に顕子の傍らに座りたいと言い出したことを理解した。非常に大石を畏れた視線だった。いたずらに失敗したときの子供が見せる、幾分ふてくされたような視線とは違った、恐怖心の溢れた視線だった。 ……悪戯よりも質が悪いことだと解ってやがるな。何をしたか解ってるんなら、面白いじゃねえか 大石はそう思うと、敢えて何も言わずに、そのまま昼食の際の注意点を児童達に話し始めた。 「どうする?見つかっちゃったよ!」 大石の注意を聞くふりをしながら、北原が視線は大石に向けたまま牧田に尋ねる。 「……最悪だ。どうするも何もねえよ。まあ、俺たちには林間学校はないと思った方がいい。強制送還だ」 牧田の震えた声が周りの三人には重くこたえた。大石や両親の怒鳴り声が聞こえるような気がしてくる。そして、何より怖ろしかったのは、目が覚めた後に自分に対して為された行為を知ったときの顕子の反応だった。 「顕子先生、怒るかな」 北原がすっかり意気消沈した様な声を出した。 「怒るどころじゃないだろうな。軽蔑されて、もう口もきいてもらえないだろう」 寒河江が比較的冷静な声でそれに応えた。 「そんな!いやだよ、そんなの!」 清治が顔を真っ赤にして、寒河江に詰め寄ろうとする。 「止めろ!落ち着けよ、高橋!」 牧田が清治を手で制した。牧田は大石の態度に奇妙なものを先ほどから感じていた。どうして、すぐにでも怒鳴りつけなかったのだろう。先生ならばそうすべき状況であったはずだ。これが顕子だったなら、顔を真っ赤にして怒鳴りつけてくるだろう。しかも、大石は常日頃ちょっとしたことでも子供を怒鳴りつける存在だった。その大石が、よりによってこの状況で怒鳴りつけるどころか何一つ口に出さなかったのだ。 牧田は、先ほどから昼食の際の注意点をまくし立てる大石の顔を、複雑な想いで見遣るのだった。 |