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 初日その1

  8月1日。ついに林間学校が始まった。

 初日はほとんど半日を費やしての移動日にあたる。午前10時に学校を出発して、午後4時に目的地である隣県の教育委員会の施設に着く予定だ。大石たちの勤務している学校は、毎年五年生が、海に面したその施設で三泊四日という日程で、林間学校を行ってきていた。無論、今年も例外なく、場所も日程も昨年までとまったく同じものであった。

 午前9時30分に校庭で出発式を行った後で、大石と顕子は子供達をバスに乗り込ませた。子供達は皆一様に大はしゃぎで、これからの苦労を思って大石は暗くなった。だがその反面、今回の林間学校で、紺野顕子を凌辱する計画を完成させるのだという決意を胸に秘めていたため、浮き立つような高揚感も感じていた。

 すでに顕子には例のレイプ・ドラッグを渡してあり、職員室の湯飲みで飲み込む姿も見ていた。おそらく、出発してまもなくして顕子は長い眠りに入ってしまうはずであった。

 「みんな、居るなー?」

 大騒ぎの子供達に対して、バスの最前の席から、大石が後ろを振り返って大声で確認する。一番後ろの長椅子状の席には、顕子が座っていた。一番前と一番後ろに引率の教師が席をとり、あとは各クラスで班毎に別れて座っている。

 「紺野先生、点呼お願いします!」
 「あ、はい」

 心なしか、顕子の反応が鈍いように感じて、大石は心の中で笑みを浮かべる。
 ……もうじき、先生はおねんねだぜ、それも夜まで目の覚めないな……
 各班の班長から点呼を受けた顕子から、全員居る旨の報告を受けて、大石はバスの運転手に、出発してもらうように頼んだ。

 いよいよバスが走り出すということで、学校中の教師が表に出てきて、手を振る。その中には、例の校長の邪気のない顔が見えた。思えば、校長に顕子の優秀さを知らされなければ、こんなにも暗い感情に身を委ねることはなかったかもしれない。

 ……お前のお気に入りの紺野顕子は、しっかりといただくぜ
 神妙な面もちで校長に手を振りながらも、大石の胸の中には、どす黒い感情しかない。

 バスは学校を後にして、目的地目指して走り出した。子供達の笑い声や歓声を聞きながら、大石はぼんやりとした表情で窓の外を見る。バスの中では何もすることはない。顕子はどうせ寝入ってしまうだろうし、本業の林間学校の引率の方も、連日の打ち合わせで、今更することもない。

 バスが走り初めて一時間ほど経ったときに、大石は自分を呼ぶ声で目を覚ました。どうやら、いつの間にか寝入ってしまっていたらしい。口元にたまった涎を手で拭いながら、大石は自分を呼んだ声の方を振り返った。

 「ん?牧田じゃないか、どうした、何かあったか」

 自分を呼んだのは、顕子のクラスの牧田淳であった。困ったような表情で、バスの揺れに耐えるために、大石の後ろの座席の縁を掴んで立っていた。

 「紺野先生の様子がおかしいんです」

 牧田は大石の目をじっと見つめながら、それだけ口にした。

 「どう、おかしいんだ?」

 子供がそろそろ寝入った顕子の異変に気が付いてもいい頃だろうと、幾分ゆとりを持った声で、大石は尋ねた。

 「ずっと、目を閉じたままで、名前を呼んでも目を覚まさないんです」
 「ん?そうなのか……どれ、先生が紺野先生を見てみよう」

 バスの細い通路をよろめきながら、大石と牧田は一番後ろの顕子の居る席に向かう。

 「先生……紺野先生……?」

 顕子は、長椅子状の最後部の座席の上で、身を横たえていた。今日の顕子は、林間学校の引率という役柄を考えたのか、白の薄手の夏もののトレーナーに、Gパン姿だった。そうしたラフな格好も、若くてスタイルのいい顕子にはとてもよく似合っていた。じっくりと視姦しながら、大石は声をかける。だが顕子は身じろぎ一つしなかった。すっかり昏睡状態に入っているのがわかった。

 ……ようし、効いたみたいだな

 大石は内心ほくそ笑みながらも、顕子の肩を掴んで揺すってみた。だが、顕子は静かに寝息をたてているだけだ。

 「紺野先生、どうしたんですか?」

 牧田が心配そうに顕子の顔を覗き込んだ。ふと大石が顕子の方から顔を上げると、顕子の席のすぐ前の席に座っている子供達が心配そうに覗き込んでいた。

 ……確か、寒河江と北原と……ああ、高橋だったな、こいつら

 邪心のない、純粋に顕子の容態を気遣うような彼らの表情を見ながら、いかに顕子がクラスの児童に好かれているのかわかる気がした。そんな彼らの偶像を、今晩にも徹底的に破壊し尽くすのだと思うと、自然に大石の胸に熱いものがこみ上げてくる。

 「そんなに心配しなくても、大丈夫だ。確か、紺野先生は乗り物酔いがひどいって言っていたから、気分が悪くなって寝て居るんだと、先生は思う。すごく気分が悪いときは、ずうっと寝たままじゃないか?お前達も風邪をひいて気分が悪くなると、ずっと寝ていたくなるだろう?」

 その大石の説明に、牧田が納得したように、深く頷いた。小学校の教師でありながら大石には、純真な子供を騙すということに対して、一欠片も良心の呵責はない。むしろ、一番ごまかすのに面倒な相手だと思っていた子供達がころりと騙されたことで、ほっとしていた。

 「さ、お前達もそんな格好で後ろを見ていると、バス酔いするぞ。きちんと前を向いて座っていなさい」

 大石が、顕子の座席の方に身を乗り出している三人の男子に声をかける。だが、彼らは互いの顔を見合って、何事か目で確認を取っている。

 「大石先生。僕ら、やっぱり紺野先生が心配だから、こうして見ていていいですか」

 思い詰めたような表情で、三人を代表して寒河江健介が口を開く。

 「いいや、だめだ。お前たちまでおかしな格好でバスに乗っていて、酔ってしまったらどうするんだ。逆に紺野先生も困るだろう?」
 「でも……」

 大石に諭されても、彼らはよっぽど顕子が心配なのか、そのままの姿勢を保ち続けている。

 ……おいおい、変な仕事を増やすんじゃねえよ。もし、お前らの誰か一人でもゲロって見ろ……途端に周りで、もらいゲロだ。いやだぜ、ガキ共のゲロの掃除だけは

 「大石先生、僕たちの班、紺野先生の隣に席を移してもいいですか。それなら、紺野先生を見ていられるし、僕たちもバスに酔わないと思うんです……駄目ですか?」

 それまで、自分が班長を勤めている班の仲間達と大石とのやりとりを黙って見ていた牧田が、大人びた表情で大石に提案した。

 「ああ、そうだな。それなら、いいだろう。だけど、席替えは基本的には認められないんだ。そこを忘れて、騒いだりしては駄目だぞ。いいな」

 大石は、牧田の小憎らしいほど落ち着いている、将来どれだけ女を泣かせるかわからないような二枚目顔を見ながら、その提案を認めた。

 途端に、寒河江をはじめとする顕子の方を向いていた三人組が嬉しそうに声をあげる。

 「こら!そういうのが、駄目だって言ってんだ。静かにしてるんだ。他の奴らの手前もあるだろう!」

 しょうがないという風に苦笑いしながらも、大石は彼らの顕子への思慕の深さを強く印象づけられていた。はじめから、まともに教師など勤める気など無く、いい加減に教師という職務を淡々とこなしてきていた大石だったが、顕子の児童に与えている影響の深さに、嫉妬のような敗北感のようなものを感じてしまっていた。

 ……だが、まあ、いい。こいつらも、可哀相なガキどもだ。何せ、大好きな紺野顕子先生が、今晩にも俺に責めなぶられるなんて、思いも寄らないだろうからな

 無理に自分の中の敗北感をうち消そうと、大石は牧田達を哀れんでみた。だが、胸の中に一旦生じた感情はなかなか消えてはくれなかった。牧田達が、我先にと、顕子の隣に座ろうとしているのを、幾分冷めた目で見ながら、大石はバスの一番前にある自分の席に帰った。

 大石が自分の席に着いたのを確認してから、牧田は小さく舌を出して、仲間達に見せた。皆、一様に嬉しそうな、変に興奮したような表情で、忍び笑いを漏らした。牧田をはじめとする四人組は、彼らが自称するところの「紺野顕子を乳奴隷にする会」のメンバーであった。二ヶ月前に高橋清治を新たに仲間に入れた彼らは、この林間学校の来る日を今か今かと待ち望んでいたのである。

 彼らは子供ではあるが、日夜寒河江の父親が買い求めてくる海外物の無修正本を教科書に、顕子をどのようにして犯すかを、熱く語り合っていた。その欲望は幼い分だけ遠慮会釈無く直接的であり、そして単純であった。ただひたすら、顕子の豊満な胸を自由に弄びたい、顕子に筆卸してもらいたいと思っていた。そして、その機会を林間学校にあると見て、彼らなりの計画と準備をしてきていた。

 相手が大人だけに、面と向かって襲いかかることは、こわかった。そこで、寝込みを襲うことにした。不意を突いて、顕子を押さえつけ、一気に北原斉が持ってきた玩具の手錠で両手の自由を奪う。だが、彼らの計画はそこまでだった。どんなにませているとはいえ、所詮子供の悲しさで、その後どうすればいいのか、具体的には何もわからなかったのである。ただ、無修正本のおかげで、どこに自分の性器を挿入するべきかは知っていた。また、顕子程度の豊満な乳房をもった女性が、男性器を胸に挟み込んで扱く方法があることも知っていた。

 そのどれもが、極端に断片的で、刺激的ではあるが何一つ具体的な真実を知らしめるものではなかった。だが、そうした断片的な知識によってすべて理解したと錯覚できるほど、彼らは幼く、視界が狭かったのだった。

 正直、リーダー格の牧田などは、自分たちの計画が杜撰すぎるものなのではないかと、疑い始めていた。しかし、それ以外にどうしたらいいのか知識も無かったし、よい知恵も浮かばなかった。結果的に、林間学校はやって来てしまっていた。もう、此処まで来たら、結果はどうなろうとも、実行あるのみであった。        

  


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