ニーベルンゲンの歌

『キン肉マンII世』とドイツの古典叙事詩である『ニーベルンゲンの歌』の類似について、詳しく解説します。

『ニーベルンゲンの歌』とは

ゆでたまご作品には『ニーベルンゲンの歌』に影響を受けたとおぼしき部分が、二カ所あります。
『闘将!! 拉麺男』の「筋肉拳蛮暴狼の弱点の巻」と『キン肉マンII世』の4巻から8巻までの、ヘラクレスファクトリー二期生と万太郎達が対決する辺り(以降「二期生編」と呼ぶ)です。

今回はこの類似点について、論じます。

まずは、あらすじから説明いたします。ちょっと長くなりますが、ご容赦下さい。

『ニーベルンゲンの歌』の前半の主人公である、ジーフリトは不死身の英雄です。
王子である彼は、竜を退治し、宝物を手に入れ、その血を浴びて不死身になりました。

ジーフリトは、グンテルという王の妹のクリエムヒルトに恋をしました。
彼女との結婚を望むジーフリトは、グンテル王の願いの手助けをします。
グンテル王の願いは、処女王プリュンヒルトを手に入れることでした。
この上ない美女であり、女王でありながら武芸に優れた彼女は、求婚する者に対し「1 槍投げ」「2 投石」「3 幅跳び」の三種の競技での勝負を持ちかけていました。勝てば彼女を妻に出来ますが、負ければ命を奪われます。そうして、鎧に身を包んだ彼女は次々に求婚者を葬っていたのです。

「美女との勝負に、勝てば結婚。負ければ死刑」という、メルヒェンの正道パターンを行くこの物語ですが、この物語のひねりは「勝負に勝った男と、女王と結婚した男が違う」というものです。女王は騙されたわけです。
ジーフリトは「隠れ蓑(姿隠しのマントとも訳される。『ドラえもん』の透明マント)」を身につけ、姿を隠してグンテルを手伝いました。
いわば、ジーフリトはグンテルに化けて戦ったのです。

そしてグンテルが勝者として、プリュンヒルトと結婚しました。
しかし、誇り高いプリュンヒルトは一度は敗北を認めて結婚したものの、初夜の際に抵抗して、夫のグンテルに体を許しませんでした。
困ったグンテルはまたも、ジーフリトに頼みました。
ジーフリトは夜の闇の中で、プリュンヒルトを力尽くでベッドに押し倒し、体の代わりにベルトを戦利品として奪い、後はグンテルに任せました。
処女を失うと共に、プリュンヒルトは並の男を凌駕する怪力を失い、ただの女となります。

その後、ジーフリトの妻となったクリエムヒルトは、どっちの夫が偉いかということでプリュンヒルトと口論しました。プリュンヒルトは自分の夫のグンテルはジーフリトの主人なのだから、自分が上だといいます。
これはジーフリトがグンテルのプリュンヒルトへの求婚の際に、臣下の振りをしてつき従っていたからです。
ですが、クリエムヒルトは、あなたの処女を奪ったのはわたしの夫です。だから、ジーフリトの正妻であるわたしの方が偉い。あなたはわたしの夫の妾に過ぎない、と言って、夫に貰ったプリュンヒルトのベルトを見せました。
人前でそう言われた、プリュンヒルトは悔しさで泣きます。

后の訴えを聞いた、国王グンテルはジーフリトを呼び出し、問いつめました。ジーフリトは、プリュンヒルトの体を最初に愛でたのが自分だなどとは、言いふらさなかったと潔白を誓います。
そしてプリュンヒルトの涙の理由を知った騎士ハゲネは、クリエムヒルトの王妃に対するこの辱めは、彼女の夫の死によって償われるべきだと、思いました。
ハゲネはクリエムヒルトから、ジーフリトの弱点を聞き出します。
クリエムヒルトはこう語りました……。

「竜の傷口から熱い血潮が流れ出し、
天晴れな勇士がそれをからだに浴びた際、
両方の肩の骨の間に一枚の広い菩提樹の葉がおちてきました。
この場所こそあの人の急所なのです。これが私の心配の種なのです。」
ニーベルンゲンの歌〈前編〉

そして、ハゲネは恩人を裏切ることに気乗りのしないグンテルを説き伏せて、共謀し、何も知らないジーフリトをだまし討ちにして、殺します。

この叙事詩はまだまだ続きますが、紹介はここまでです。続きが気になる方は『ニーベルンゲンの歌〈後編〉』をどうぞ。

 

それぞれの類似点

この肩甲骨の間に張り付いた葉っぱは、『闘将!! 拉麺男』の「筋肉拳蛮暴狼の弱点の巻」に登場します。

少年の日々において、孤児である蛮暴狼とラーメンマンは友人でした。
ですが、修行中の身であるラーメンマンが蛮暴狼に拳法を教えたりすることを快く思わない老師が、ラーメンマンに蛮暴狼と別れろといいます。
ラーメンマンは老師を選び、蛮暴狼と別れます。
蛮暴狼はラーメンマンへの復讐を誓い、一人で修行に励みます。
蛮暴狼の弱点は、少年時代に背中に張り付いた葉っぱでした。
彼はその後厳しい修行をして、どんな攻撃でも傷つけられない不死身の肉体を手に入れます。
しかし、背中の枯葉に気が付いた、ラーメンマンに、その部分は鍛えられていないことを見抜かれ、倒されます。

蛮暴狼の物語について詳しくは、ブログの「筋肉拳蛮暴狼の弱点の巻」で。
この「不死身の男の弱点」というモチーフに関しては、不死身の英雄で。

蛮暴狼とスカーの物語の共通点は、「友人だけが知る不死身の男の弱点」ということと、「師匠的存在に従い、友人を裏切る」という点です。

この時点ではスカーは蛮暴狼のように4人の孤児のリーダーだったりはしませんが、悪魔の種子編で再登場した時は、4人のアイドル超人を従えたリーダーでした。
やはり蛮暴狼と重ねられる人物のようです。

「社会秩序の象徴たる主人公」対「暴力の象徴たる敵」、というのがこの「筋肉拳蛮暴狼の弱点の巻」のテーマでしょう。

この「社会秩序の象徴たる」という役割は、「二期生編」においては、ジェイドとケビンが果たしています。

「筋肉拳蛮暴狼の弱点の巻」は、物語の構造は『ニーベルンゲンの歌』と「親しい者だけが知る不死身の男の弱点」以外、似ていません。弱点はそっくりですが。

しかし「二期生編」は、『ニーベルンゲンの歌』と人物関係も似ていると思います。

『ニーベルンゲンの歌』の人物関係を「二期生編」に当てはめるなら、
「スカーフェイス」は不死身の英雄の「ジーフリト」、
「ジェイド」は騙されて恨みを持つ「プリュンヒルト」、
「ケビンマスク」はジーフリトと親しく弱点を知る「クリエムヒルト」、
「ブロッケンJr」はプリュンヒルトのために秘密を聞き出す「ハゲネ」、
「キン肉万太郎」はプリュンヒルトの仇を討つべき立場にいる「グンテル」、
ということになりますね。

別の言い方をするならば、ケビンはスカーの正妻、ジェイドはスカーの妾、ブロッケンJrはジェイドの騎士で、万太郎はジェイドの夫、と言うことです。

男同士がコンビになるのを、結婚に例えるのは悪趣味と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ご了承下さい。

叙事詩とはいくつか出来事の順番が前後しますが、「二期生編」の後半の物語は「正体を偽ったスカーがジェイドに勝つ」「ジェイドが騙されたことを悔しがる」「ジェイドの復讐を志すブロッケンJrが、ケビンから秘密を聞き出す」「ケビンと万太郎が協力して、ジェイドの仇を討つ」という感じにすすみます。
『ニーベルンゲンの歌』と違う所は、秘密を聞き出した人物であるブロッケンJrが、その手で仇を討ったわけではないというのと、英雄に恩義を感じている人物と、秘密を知っている人物が同じケビンであるということですね。
ですが、登場人物の行為や動機に関して、かなり元の話に見られる要素をなぞっています。

ちなみに、この『ニーベルンゲンの歌』の続きは、「夫のジーフリトを殺されたクリエムヒルトが、他の王と再婚し、新たな夫の軍で仇を討つ」です。「パートナーのスカーを殺されたケビンが、万太郎とタッグを組み、万太郎と力を合わせて仇を討つ」というのも、もしかしたら、元の話に忠実な展開なのかもしれません。

おそらくゆでたまご先生は、ブロッケンJrとジェイドがドイツの超人なので、この『ニーベルンゲンの歌』を思い出したのでしょう。

 

パターン考察

ゆでたまご世界では、女はもちろん男相手でも、敗者の所有権は勝者にあるのでしょう。こんなルールはもちろん明示されていませんが、最初の征服者と征服された者に特別な関係があるというのは、物語のパターンから見てとれます。

表にしてみましょう。これはII世のみで、勝敗が決定している間柄で、その後に援助する・援助されるという出来事があった人物のリストです。

勝者(主人) 敗者(援助者)
万太郎 チェック
万太郎 スカー
万太郎 バリアフリーマン
万太郎 ハンゾウ
スカー ジェイド
ケビン 万太郎

『キン肉マン』では、『キン肉マン』が、ギャグ漫画から格闘路線に転向した後に、初めて負けた相手がカメハメで、その後キン肉マンとカメハメがタッグを組んでいました。

ちなみに、獲得した後の主人の義務は「仇を討つ」や「身体や名誉を守る」ということです。詳しくは万太郎考で。


初出2006.10.16 改訂 2007.4.5

Back Index