スカーフェイス考

スカーについて思いついたままにつらつらと。

名前について

スカーフェイスという名は、アメリカのギャングのアル・カポネのあだ名です。顔に傷があったことから、名付けられました。この名は多くの場合歴戦の強者、そして日の当たらない道を歩く者につけられるものです。顔の傷は戦士の勲章ですが、平和な世界ではハンディキャップです。

イタリア出身ということになっているのは、マフィアのイメージでしょう。

マルスという名は、ローマ神話の軍神の名です。ギリシャ神話のアーレスにあたります。勇敢な戦士であり、闘いを好みます。火星(マーズ)の語源でもあります。マルスを意味する記号は♂です。マルスの持つ槍を表しています。これはオスを意味する生物学的な記号として、採用されました。ちなみに♀は、金星でヴィーナスでアフロディーテで手鏡でメスです。

容姿・衣装について

赤は情熱を意味します。体にぴったりしたタイプの服なのは、肉体の力強さの強調です。

鳥は自由の象徴です。上着?の裾はツバメの尾のようですが、入場時のマント付きの姿を見ると、スカーのイメージは猛禽類ですね。勇猛さを感じさせる、立派な翼と少し尖った頭と、羽毛に似た首のまわり、尖った足の爪、鋭い目つき。そう、カンムリワシのよう。

顔は整っていますが、よく頬や目の下に骨格を強調する線が入ります。それが三白眼とあいまって、表情に緊張感をかもしだします。下唇を強調し、口を大きめに描くのは、色気の表現でしょう。唇というのは「欲望」とか「官能」の象徴なので、欲深いスカーにはお似合いでしょう。彼にも繊細というか、感じやすい面はありますので、その表現でもあるかもしれません。
仮面は、他人に表情を読まれないためにつけるものです。己の欲望や感情を他人にさとられると、心や手の内を読まれますので、それを防ぐための「心の鎧」なのです。サディストが仮面をつけるのは、己の意志や欲望を一方的に押しつける非人間的な存在になりきるためです。

スカーフェイスの目の下の線は、チェックと同じく「傷つけられた存在」であることを象徴するものだと思います。ですが、スカーのは涙の跡というより、傷のかわりでしょう。チェックの傷は悲哀へと発展していきますが、スカーの傷は虚勢へと発展していきます。

スカーが象徴するものは、「怒りで破壊する力」と「偽りと模倣」と「社会からの自由」だと思います。「正しい父に従うことを拒んだ、怒れる孤児」みたいなことが言えるような気がします。

人物造形について

「野性的な孤児のリーダー」というキャラクターは、昔からゆで作品に何度も登場しています。ただ、『キン肉マン』本編には登場していません。アタルは孤児ではなく、貴い血筋です。

この「孤児のリーダー」は、子供の姿をしていることもあり、青年の姿をしていることもあります。具体的には、『闘将!! 拉麺男』の蛮暴狼、『おーい!!マンガだよーん』収録の「勇者ビッグボディ」のメロスなどです。そして、正しい主人公に裏切られたり、悪い大人に騙されたりします。

ある程度健全に育った男の子が、厳しい環境で保護者無しに生きてきたという感じが、彼の魅力だと思います。

スカーの物語の基本は「大人に反発する孤児のリーダー」です。
優等生であることを少年達に要求する委員長が仕組んだ、「入れ替え戦」における悪役にふさわしい人物です。
でも、スカーには自分で勉強するという形でですが、「優等生」的な面もあって、伝説超人の技を真似したりします。
スカーの前の「三人目の敵」はチェックで、これは「教えられたことを学んだ」です。
彼らと対比される万太郎は、「生まれ持った本能とその場の思いつきでなんとかする」です。

スカーがd.M.pを壊滅させたとして、万太郎に復讐しようとするのは、彼が仲間を欲するタイプの少年だからに他なりません。
実際いわゆる「不良」ほど、徒党を組む仲間を求めている少年達もいないような気がするので、リアルなキャラクター造型といえましょう。

そんなスカーは、強くて頼れる男をがんばって演じている少年です。
あのオーバーボディの意味はそういうことだと思います。
実はまだまだ未熟で、強がっていて色々と怖いものもあったり、賢そうにしていて短気だったりするのですが、そういう所は見せたがらないのです。
あるいはそういう落差をわざとギャグにします。

ケビンもスカーにとっては、面倒を見てやった子分でした。ジェイドと組んだのも、そういう話の流れです。

もし、彼の「成長の物語」に何らかの方向性があるとするならば、それは「子分を見捨てず、その面倒をきちんと見てやり、育ててやる」というものでしょう。ゆでまんがだと、「野心の達成」という方向にはいきません。

他人を励ます、が味方としてのスカーの主な役割です。

タッグ編では『ドラゴンボール』のベジータみたいに野心や闘争心から、味方を裏切るような行動をしていました。その後は、ピッコロのように味方をかばって倒れていました。

ケビンとの関係

「辛いが、こいつを悪として倒さねばならん」が、ケビンから見たスカーだと思います。

主人公のニセモノというのは、メルヒェンの典型的な登場人物です。
チェックはニセの王子様ですが、スカーはニセの英雄ですね。

ニセモノの英雄の登場する話の典型は、こんな感じだと思います。

「怪物を倒して姫を救ってくれ」と王様がいい、主人公は怪物を倒し、王女は英雄の指に自分の指輪をはめるます。その後、主人公はその場から立ち去り、お供の兵士か何かが「怪物を倒したのは、おれだ」と言って、王女と結婚しようとするが、指輪を持って主人公が現れ、「わたしを救ってくれた英雄はあの人です」と王女が言ってニセの英雄の正体が暴露され、主人公が英雄として認知され、ニセの英雄は王様に処刑され、主人公は王女と結婚するというパターンです。

この話がケビンの口から出ると
「スカーの正体は、自分を救ってくれた、悪行超人マルス」という、なんともねじれた話になるわけなんですが。
「ニセ英雄の正体ばらし」なんですが「自分の英雄を発見」でもありますよね。

スカーはケビンを救い、ジェイドを征服したという、なかなかに立派な英雄キャラです。
なので、その後さも当然のようにケビンやジェイドと、タッグを組んでいたりするわけですね。

スカーに欠けている「英雄」の条件があるとしたら、ケビンや万太郎のような「高貴な血筋」だと思います。
そこら辺は、全く謎です。
そういう方向に話をまとめられるようにか、このまんがには凛子やジェイドも含めて、孤児がやたらに多いのですが、なまじ貴い血筋だと、スカーの魅力は減ずるかもしれないので、謎のまま連載終了となるかもしれません。

人格について

スカーフェイスは、傲慢なナルシシストの傾向があると思います。

アメリカ精神医学会は、「傲慢さと冷酷さで周囲と問題を起こす人格の特徴」を以下のようにまとめています。

診断基準(アメリカ精神医学会 DSM-IV)

『自己愛性人格障害』Narcissistic Personality Disorder
誇大性(空想または行動における)、称賛されたいという欲求、共感の欠如の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。
以下の5つ(またはそれ以上)によって示される。

  1. 自己の重要性に関する誇大な感覚(例:業績やオ能を誇張する、十分な業績がないにもかかわらず優れていると認められることを期待する)。
  2. 限りない成功、権力、才気、美しき、あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。
  3. 自分が特別であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人達に(または施設で)しか理解されない、または関係があるべきだ、と信じている。
  4. 過剰な賞賛を求める。
  5. 特権意識つまり、特別有利な取り計らい、または自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待する。
  6. 対人関係で相手を不当に利用する、つまり、自分自身の目的を達成するために他人を利用する。
  7. 共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、またはそれに気づこうとしない。
  8. しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思い込む。
  9. 尊大で傲慢な行動、または態度。

スカーの場合は、2番、6番、7番、9番が当てはまると思います。

傲慢でオレ様最高なキャラクターは、プロレスのヒールとして人気があります。取り巻きをはべらせ、力で成功を手に入れるという「男らしさ」の体現者です。ニ期生編のスカーフェイスはまさにそんな感じです。

前述したように反抗的な孤児のリーダーというキャラクターは、以前からゆでまんがに登場していました。しかし、スカーには他の「孤児のリーダー」キャラクターにはない特徴があります。例えば、正装して賞状を受け取ったりするような、賞賛を歓迎する態度です。もっともこれはキン肉マンに登場するキャラクターの多くが名誉のためにオリンピックで戦うということから考えて、スカーのみの個性とはいえないかもしれません。

「対人関係で相手を不当に利用する、つまり、自分自身の目的を達成するために他人を利用する。」という特徴こそが、「頭脳派」のスカーの個性でしょう。スカーは二期生編で、ジェイドを騙し、周囲を欺き、ケビンに恩を着せました。タッグ編では、スカーは必殺技を忘れたジェイドに、利用価値がなくなったと明言します。わざわざこういうことを言うのは、他人に対して自分の優越を誇りたがっている人です。キン肉マンシリーズや『闘将!! 拉麺男』の悪役としては、こういう私利私欲タイプは少なくないのですが、権力にあぐらをかいた中年男性という感じの人物が多く、スカーのような若者では珍しかったと思います。

こういうタイプの人は「他人を利用するのは当然」と思って裏切る割に、自分が裏切られると「このオレを裏切るなんて、酷いヤツだ」と怒ったりするものです。他人に自分の期待に、すすんで従って欲しいという気持ちが強いのです。他人は華やかなオレサマにひざまずけ、ということですね。

こういう人格が形成される背景には「愛情剥奪体験」というものがあると、専門家は考えています。幼い頃に、自分に愛情を与えてくれる人を失ったという経験です。スカーがいつ保護者を失ったのか、それはわかりません。親がどんな人だったのかもわかりません。ただ幼い頃に保護者を失った、あるいは保護者であるはずの人から冷たい扱いを受けた、それがスカーの「強いか弱いか」「上か下か」というような力頼みと、競争意識に結びついているのでしょう。「自分で自分の欲しいものを手に入れる。騙してもいい、奪ってもいい。そうして勝ち残るのが、自分にとっての当たり前だ。」それは助けを待っていても、誰も助けてくれなかったという経験を持つ者の考えることです。そういうスカーをタッグパートナーとして助けたのが、ジェイドなのでしょう。

自己愛性人格障害の自己診断テストも置いておきますので、興味のある方はお試し下さい。

関連書類

不死身の英雄にも、スカーについての考察があります。ケビンやジェイドとの関係については、ニーベルンゲンの歌で解説しています。


初出2005.9.21 改訂 2007.4.29

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