ビビンバ考

ビビンバについて、思いついたままにつらつらと。

名前について

キン肉星の人物らしく、お肉にちなんだ名前です。ビビンバは朝鮮語です。料理としては野菜入り牛丼みたいな感じでしょうか。レシピへ

容姿について

最初に登場したときは、アメコミ風です。ワンダーウーマンの髪に、ヴァンピレラの衣装といった感じでしょうか。

ビビンバの物語

あちこちで、すでに論じたことが多いのですが、最初から順番に考えてみましょう。

出会い

キン肉マンが傷の手当をしたビビンバは、キン肉マンに負けたあと、キン肉マンの家にご飯を作りに来ます。家事とセックスが妻のお役目なので、裸エプロンなのでしょう。

これは、助けた誰かが嫁に来る「動物花嫁」と、女に勝つと本人がもらえる「死か結婚」の組み合わせです。

例えば、主人公がケガをした動物を助けると、後日その動物が人間の美女に化けて、独身男である主人公の家においしいご飯を作りに来ます。これが、日本昔話の「動物女房」のパターンです。クロエ考でもこの話はしています。

『キン肉マン』では、ビビンバよりもナチグロンが先にこの「動物花嫁+死か結婚」パターンを演じています。ナチグロンがキン肉マンにかばわれたことがきっかけで、キン肉マンの家にご飯を作りに来ます。これは「よくあるパターン」を踏まえたギャグですね。

キン肉マンとシシカバブーとの対決

娘の父親が娘の恋人に難題を出す「花嫁の父」のパターンですが、父親が結婚を許可しない理由として、「妻を殺された」というのは、西洋のメルヒェンでは聞かないパターンです。もし単に「両家の仲が悪い」というのだったら、ロミオとジュリエットパターンです。最後に駆け落ちしているから、そうなのかもしれませんが。

娘の父親が娘の恋人に難題を出す話は、「父親が最後には二人を認める」か「父親は認めないが、二人は駆け落ち」か「二人は別れる」という展開になります。この場合は「父親は認めないが、二人は駆け落ち」で、父親の代わりにシシカバブーが、二人を認めてくれています。「戦った敵との間に友情が芽生える」という少年まんがのパターンではないでしょう。シシカバブーは、キン肉マン本人ではなく、ビビンバのキン肉マンに対する愛情を認めているのですから。

ゴンタに囚われる話

どう考えても、映画の『キングコング』を元ネタにしているこの「ビビンバの旅立ち」の話。魔物にさらわれた女性を救うという、ペルセウスとアンドロメダ、スサノオとクシナダヒメのパターンです。ゴリラということを重視して考えるのなら、猿の化け物から生け贄の娘を救う、日本昔話の「猿神退治」が、似た話でしょうか。

さらわれた乙女はよくある話ですが、この場合はキン肉マンがあえて助けようとしないのが、「ひねり」でしょう。

もっとも、メルヒェンではなく、ハリウッド映画ならば、主人公以外の男に、さらわれたり襲われたりしたヒロインが、相手の暴力に屈しないとか、自ら暴力で抵抗するといった話は典型です。女性の誇りの高さと主人公への愛情、まあ、つまり「貞操」が試される展開ですね。日本の娯楽作品でも「好きではない男に襲われた場合、女性は必死の抵抗をすべし」みたいな物語展開はありますが、アメリカほど女性に「暴力に暴力で抵抗する」ことを求めてない気はします。むしろ日本なら、襲われた女性は自害です。

この話は「ビビンバがキン肉マンに、誇り高い女性として認められる」のが、主題でしょう。そしてビビンバは自立した女性にふさわしく、キン肉マンの家から出ていきます。でも、キン肉マンのことを忘れた訳ではないというのが、その次の週のキン肉マンがテレビにでる話でしょう。

オリンピック編

以前書いたウォーズマン考と重複しますが、ここでも簡単に述べましょう。

これは悪しき者のロボットである敵が、主人公側の女性に心を動かすという話です。『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」の回の物語です。

『巨人の星』では、逆パターンです。「敵が主人公側の女性に心を動かす」をひねって、「ロボットのような敵に出会った主人公が、父に反抗を試みる」です。主人公である星飛雄馬本人が女性に恋することで、「父親のロボット」を脱しようとします。そして星飛雄馬のライバルである花形やも飛雄馬の姉である明子や、星に恋する京子に恋する左門など、「敵が主人公側の女性に恋する」話は、『巨人の星』にも多いです。

ただし、このパターンは口承のメルヒェンですと似た話を探すのが難しいと思います。メルヒェンではゆで漫画以上に、敵役は敵役です。「敵の苦悩」なんていうのは、まんがが素朴な物語ではないことの証のようなものです。おそらく「二回以上似た話を読んだら、それは黄金パターン」と判断するゆでたまご先生が「手塚と梶原なら、古典だろう」と判断したのでしょう。意識的かどうかはわかりません。若い作家は、自分が読んだほんのここ十数年の「流行の物語」を「普遍的な物語」と思いがちです。

王位編

英雄が自分の父親か、異国の王に無理難題をふっかけられる。こういうパターンの話は神話や童話によくあります。そして、競技の優勝者が姫と結婚できるという話は、よくあります。西洋のメルヒェンの場合は、「馬上試合」というのが、よくあるパターンです。

そして、おとぎ話で主人公が「3つの試練」をくぐる場合、3つめの試練が「姫」や「婚姻」に関するものであることがよくあります。あるいは三人の敵を倒して、三人の姫を助けた場合、主人公が結婚するのは三人目の姫です。『キン肉マン』やその続編の場合、「主人公がお友達になるのは、三人目の敵」だったりしますね。まさに古典的です。

スグルがフェニックスを抱えている『キン肉マン』の最後のコマを見ると、実は王位争奪編のテーマは「フェニックスの救済」だったのかという気がしなくもありません。そこは結婚相手の姫と並ぶところだろうと。まあ、「友情」がこのまんがのメインテーマですから、「男による男の救済と獲得」の方が、「男による女の救済と獲得」よりも重視されるのでしょう。

例えばグリム童話に『三枚の鳥のはね』<KHM 63>という話があります。
これはいわば王位争奪戦の話です。プロレスで王位継承者を決めるわけではなく、「獲得したもの」で決めるのですが。

王様には3人の王子があり、末息子はバカという扱いを受けていました。
王様はある時、旅に出て一番よい絨毯を持ってきた者が王位を継ぐのだ、という試練を息子達に与えます。兄さん達は面倒くさがって適当な絨毯を持ってきますが、隠し階段を見つけ、地下世界に降りていった弟は、そこでひきがえるに美しい絨毯をもらいます。
そして、王様は末息子が王位継承者だといいます。
だが納得しない兄さん達のために、再び勝負が行われます。
今度の試練は指輪を手に入れることで、末息子はまたしても地下で美しい指輪を手に入れます。
最後の試練は、美しいお嫁さんを連れてくることです。末息子が、ひきがえるに言われて、そのお供の小さなひきがえるを選ぶと、それは美しく身軽な姫に変わりました。そしてバカと呼ばれた末息子が王位を継ぐのです。

これは「悪魔の娘」で書いた、「英雄が地下世界に潜って化け物と闘い、宝物や花嫁や超能力を得て帰ってくる」パターンの「敵と戦わない」バージョンで、「無能といわれた息子が、地下世界に潜って化け物に出会い、宝物や花嫁を得て帰ってくる」です。

そして「異世界から連れられてきた姫」が「主人公が試練を乗り越えるのを手伝う」というのが、次なる展開です。

『キン肉マン』の王位争奪編で、キン肉スグルは「マリポーサ」「ゼブラ」「フェニックス」の3つの敵を倒しました。そして、お后候補のビビンバが、キン肉マンを助けます。最後には、勝者であるキン肉マンが、フェニックスとの争いの末に彼女を獲得しました。

スグルとフェニックスとの戦いの際にビビンバが現れるのは、やはり最後の試練で姫を獲得というおとぎ話のパターンに沿っているのではないかと思います。
マリポーサとビビンバを争っても、山場が先に来てしまう気がしたから、ビビンバが登場するのは第三戦なのか、描いているうちに
「こういう場合、敵と姫を奪い合ったり、結婚したりするもんじゃなかろうか」と、ゆで先生のメルヒェン回路が働いたのかは、わかりません。後者のような気がします。

「化け物に囚われた姫」のパターンと「偽の英雄に囚われた姫」のパターンの組みあわさった話をひとつお話ししましょう。

ロシア民話集に収録されている、「兵士の子、双子のイワン」です。

兵士の子イワンは、十二の頭を持った三体の蛇から、王様の三人の娘を救いました。三人目の蛇を倒す際に、末娘が主人公の手助けをします。しかし悪い召使いが彼女らを脅して、蛇を倒したのは自分だと王様にいわせます。そして末娘と召使いの男の結婚式の宴に、主人公は現れます。末娘は喜んで、わたしを助けてくれたのは、この方です、といいます。王は召使いを処刑して、兵士の子イワンを末娘の婿に迎えます。

こういう「三つの試練と手助けする姫」や「偽の英雄に奪われかかる姫」の物語の延長線上に、王位編のビビンバの物語はあるんじゃないでしょうか。

まとめ

ビビンバは、動物花嫁で、男に難題を出す姫で、婿に難題を出す父親の娘で、魔物にさらわれる姫で、実父に難題を出される王子の援助者で、偽の王位継承者に奪われる姫です。役柄を次々に変えて、一人の女性を使い倒す勢いの怒涛のストーリー展開です。


初出2007.5.14 改訂 2007.5.14

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