リレー小説
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俺は不意にクスクスッ、という笑い声を聞いたような気がして振りかえった。 無論、そこにその笑い声の持ち主がいるわけではない。 俺の記憶の中の女が笑い声を発したのだ。 生っ白い顔の企業のシステム担当者の背後でファイルを手にした女が俺を笑ったのだ。 そして、俺は何故自分がこうまで腹をたてているかを理解した。 そう、俺よりも若いその女が俺を嘲笑ったのが癇にさわったのだ。 俺は俺の仕事にはプライドを持っている。 それをあの生っ白い顔の企業のシステム担当者に理解してもらおうとは思わないが、かといってあの女ごときに笑われる筋合いでない。 俺が濁った目を剥くとその女はサッ、とあのいけ好かない野郎の背後に隠れやがった。 気がつけば家路に向かっていたはずの足は駅へと戻っていた。 しかし、俺もいちいち仕事の憂さを家に持ち帰るほどバカではないし、そこまであのユーザーに義理を感じているわけではない。 俺の中でそれぞれ相反する思いが交錯し駅の改札の前まで来ていつまでもそこに踏みとどまらせていた。 「な…っ!!」 俺は目を疑った。 私の視線の向こうに改札を抜けてくる一人の女の姿が目に入ってきた。 咄嗟に柱の陰に身を隠した。そしてその女を観察した。間違いない。彼女だ。 俺を笑ったあの女だった。 「この駅を利用していたのか…」 俺はある意思を持って彼女の跡を追って歩き出していた。後ろから彼女を観察する。 ショートカットに濃紺のスーツがよく似合っていた。 ミニスカートからすらりと伸びた長い脚を俺はずっと視姦し続けていた。
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