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 虚構と空想と実像の狭間で・・・  〜赤い天使の物語より〜 書いた人:北神的離

第二章
  演劇『革命王』は、大盛況のうちに幕を閉じた。
 人々の関心は無名の一人の少女に向けられていた。
 セリナ・ファルケウス
 その素性は一切不明。
 『革命王』以前の公演記録無し。
 人々は、彼女の素性について様々な憶測を交わした。

 若くして逝った某有名演劇家の隠し子ではないかという説、
 その運動能力から推察し、軍部内で極秘に開発された人型魔法生物ではないかという説、
 本体は彼女の着けているサークレットの中に封じ込められた霊体で、演劇界の天秤を安定させ続けるために代々宿主を変えて演劇界を暗躍しているいう説・・・
 中には本物のティアルフェルが自分の存在を知らしめる為に、地上に降りてきたのではないか?などと言い出す者まで現れた。
 ティアルフェル本人が聞いたら怒り出しそうな説だが・・・。

 このように様々な説が飛び交っている状況の為、どことなく特級騎士フェリア・D・ラティオに似ているという話も、真実味の薄い、どこにでもあるような噂として処理されていった。

 そのフェリアであるが、予想を遥かに上回る演技力を見込まれ、1週間後の舞台までという条件付でサン・ティールズ劇場の専属役者の契約書にサインを押してしまった。
 次の舞台・・・劇場側は、この類稀なる才能を持った少女に相応しい役を用意した。
 
 パック

 それが次回のフェリアの役である。
 パックとは、遥か古代に存在したと言われる伝説上の妖精で、ダッタン人の放つ矢よりも素早く動く事が出来たと言われている。
 もはや演じることが出来る人間もいなくなったこの役を、是非とも復活させてもらいたいというのである。

「おい・・・もう3時間ぶっ続けだぜ・・・。」
 団員の一人が呟く。
 既に練習時間も終わり、他の団員たちが帰ろうとしている中、フェリアだけが残され、特訓を続けている・・・。
「はぁ・・・はぁっ・・・」
 フェリアの足元には、流れ落ちた汗が水溜りを作っている。
 つるっ
 その水溜りに足を滑らせ、転ぶ。
「なにをやっている!もう一度だ!!」
 先程からフェリアに付きっきりで指導しているのは、かつて東方で伝説になるほどの公演をしたと言われる初老の男である。
 最上級の素材を磨くには最上級の指導師が必要と、既に現役を離れ、隠居生活を送っていた彼をフェリアの育成の為だけに呼び出したそうである。
 指導師の怒声が響き渡り、フェリアの肩口に竹刀が振り下ろされる。
「・・・はい、先生。」
「馬鹿者、『師匠』と呼べ!」
「はい、師匠!」
 フェリアはよろよろと立ち上がり、演技を続ける。
 しかし、長時間に渡る練習の疲れからか、動きは更にぎこちない。
「そうでは無い!これほど痛めつけてもまだ判らんのか、この馬鹿弟子がぁ!!」
「し・・・師匠・・・」
「まあいい、今日はここまでにしておこう。だが、明日もこのようなざまならば、パックの役、無かった事にしてもらう、良いな!!」
「はい・・・」
 フェリアは痛む体を引きずりながら、ふらふらと練習場を出ていった。
 後に残った指導師に、団員の一人が問い掛ける。
「先生、セリナの指導、少し厳し過ぎませんか?彼女、私から見れば、なかなか良い動きしていると思いますけど・・・。」
「うむ。わしもそう思う。」
「では何故あのように厳しく・・・」
「『何も教えることはありません』ではわしの面目が丸つぶれではないか。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・いや、何だ、あの娘は未知の才能を秘めておる。きっと教えれば教える程、砂が水を吸収する如く、色々な事を学習して行くに違いない。わしはあの娘の無限の可能性に賭けたのだ・・・。」
「はいはい。」
 ぜってえ本心は前者だな・・・
 意味も無く遠い目をする指導師を横目に見ながら、団員は思った。

「あいたたた・・・」
 全身を襲う筋肉痛と竹刀による痛みに顔をしかめながら、フェリアは建物内を歩いていた。
 『革命王』で受けた絶大なる賞賛・・・
 その味が忘れられず、もう一度舞台に立つことを承諾してしまったフェリアだが、現在任務中の身である。
 もしこんな所で演劇をやっているなどとミゼットの耳に入ろうものなら、どのようなお仕置きが待っているか、考えただけで震えが走る。
 そこで、レヴィンには「潜入捜査」という名目で伝えてあるのだ。
 そんな訳で、帰る前に一応建物内を一通りチェックしておこう、そう思い、歩き回っているわけだが・・・
 歩き回りながらそれぞれの部屋の位置を記憶していく。
 玄関、客席、ステージ、接客室、練習場、更衣室、そしてトイレ・・・
 初陣の大失態以来、とりあえずトイレの位置と、そこに至るまでの最短距離を最優先で記憶する癖をつけているフェリア。
 そのため、あの事件以来「目覚めている時」に失敗した事は一度も無い。

「怪しげな物は何も無し・・・っと、あれ?何だろ、あの階段。」
 部屋の位置関係をあらかた覚え、そろそろ帰ろうかと言う時に、通路の隅、うっかりすると見落としてしまいそうな場所に、その階段はあった。
「なんだあ、この階段はぁ!」
「とにかく入ってみようぜぇ!」
 などと意味も無く意味不明な一人芝居をしながら、その階段を降りていくフェリア。
 階段を降りると、ひんやりとした空気がフェリアを包む。
 一本の通路がそこにはあった。
 辺りは暗く、奥がどこまで通じているのかはここからでは判らない。
 辺りを見回しながらゆっくりと通路を進むフェリア。
 通路の両側には約5m間隔で扉が設置されている。
 扉のいくつかには、『第○倉庫』と書かれた看板が下がっている。
 舞台で使う小道具などを保管しておくのだろう。
 その扉の一つをそっと開け、中身を確認する。
 舞台用の刃の焼いていない剣、豪華に飾り付けられた衣装など、舞台で使う様々な物がある。
「うわ、こんな物まであるわ。さすが本格的ね・・・。」
 フェリアが目を留め、手にしたのは捕虜などを拘束する手首を拘束する輪と、その先に伸びる鎖。
「さ、次行きましょっと。」
 ジャラリという音を立と共に鎖を地面に置くと、フェリアは通路の更に奥へと進んで行く・・・。
「あら、ここで行き止まり?」
 この辺りになると清掃員もめんどくさくなってくるのか、ほとんど掃除もされておらず、辺りは埃にまみれている。
 通路の突き当りには、大きな扉が一つあるだけだ。
 扉は錆びて赤茶けていて、元の色も判らない。
「えーっと、この奥は・・・あれ?開かない。鍵でも掛かってるのかしら・・・」
 フェリアがしばらくがちゃがちゃやっていると、突然後ろから呼びかける声がした。
「セリナさん・・・?」
「うひゃぁっ!!」
 飛び上がるほどびっくりして、後ろを振り返るフェリア。
 呼びかけたのは、あの痩せ型の会計士だった。
「済みません、驚かせてしまって・・・。」
「い、いえ・・・。」
「その扉は、現在永久封鎖されています。『開かずの扉』って奴ですよ。」
「・・・何かあったんですか?」
「ええ・・・もう、5年ほど前になりますか、自分の才能の限界を感じ、人生に絶望した当時のうちの看板娘が、ここで首を吊ったんですよ。それ以来ここを封鎖していまして・・・。」
「そうなんですか・・・。」
「ええ、それ以来この奥から、気味の悪い叫び声がするとか噂が立ったもので・・・。呪われるといけないので、ここにはあまり近づかない方がよろしいかと・・・。」
 そこまで言うと、会計士は踵を返し、元来た通路を引き返していった。
「あの人、私に気配を感じさせずに後ろに立った。何者なの・・・?」
 フェリアを包み込む寒気は、怪談話を聞かされたからでは決して無かった。


「そう、そんな事があったの。」
 食堂に戻ってくるなり、注文したフルーツパフェをぱくつきながらこれまでのいきさつを語るフェリアの話を興味深げに聞いているのは、有翼人種の生き残り、ルーティナである。
 外見は15歳程のまだ幼さの残る顔立ち、体付きだが、ハピューリアは人間に比べ長命な種族らしく、実はレヴィンより年上らしい。
 しかし、その何も考えていない様な言動と、底抜けの性格の明るさの為、フェリアと同い年と言われても誰も疑う者はいないだろう。
 これまで外界と隔絶された環境で育ってきた彼女には、全ての事が物珍しいらしく、店に新しい客が来る度、容赦の無い質問責めを浴びせかけるのだ。
 話す事が大好きなこの二人、会話はフェリアが店に来てから延々と続いている。
「そうなのよ。絶対あの劇場には何かあるわ。」
「とか言って、ただ劇をやっていたいだけだろ、お前は?」
 葡萄酒をごきゅごきゅ飲みながら、レヴィンが冷やかす。
「いいじゃないのよ、人の稼ぎで飲んでるくせに。」
 『革命王』での報酬と、次回の契約金としてフェリアがもらった金額は、平均的な労働者の5ヶ月分の給料にも相当した。
 その半分を、レヴィンが「マネージャー代」としてちょろまかしたのである。
「でも、大丈夫なの?パックの役。」
「そうなのよねぇ・・・」
 へにゃぁ、と、カウンターにつんのめるフェリア。
「ああ、誰かあたしに特訓をつけてくれる人、いないかしら・・・。」
「ふっ、そういう事なら俺に任せな。」
 ドン、と葡萄酒の空き瓶を置き、立ち上がったのはレヴィンだった。
「あんたに演劇なんて判るの?」
「要は妖精の動きをマスター出来ればいいんだろ?俺に任せておけって・・・。」

「ようし、そこに立ってな。」
 フェリアを食堂の中央に立たせると、レヴィンは食堂の奥へと歩いていく。
「???」
 訳が判らずフェリアは呆然としていると、やがてレヴィンが戻ってきた。
 右手には巨大なボウガンが握られている。
「ちょっと、レヴィン・・・何?それ。」
「ああ、これか?この前買ってきたんだ。連射式ボウガンの最新型だ。かっこいいだろ?」
「・・・あたしが聞いているのは、それでどうしようってのかって事なんだけど・・・。」
「これからこれでお前を撃つ。お前はそれをかわせばいい。古文書にも書かれている由緒ある特訓だ。もっともあちらは四方から投げられたボールをかわすというものだったが、こちらの方が実戦的だ。」
「何が実戦的よ、あたしはそんな危ない事やらないわよ。さっさとしまって!」
「まあ、そう言うな。せっかく用意したんだから。じゃ、いくぞ。」
 ひゅん
「ひゃっ!!」
 問答無用で放たれた矢をぎりぎりのタイミングでかわすフェリア。
 つぅ、と彼女の細い首筋に冷や汗が滴る。
「・・・ちっ、かわしたか・・・もとい、今のじゃだめだな。」
「何よう、かわしたじゃない。」
「距離の問題だ。今のお前には、恐怖心が足りない。ぎりぎりの恐怖心こそが神の領域の動きを可能にする・・・ってな訳で、次はここな。」
 言いながらボウガンの先を、フェリアの胸先数cmの所に構える。 
「やめてぇぇぇぇ!本当に死んじゃうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 数秒後
「はあ、はあ、はあ・・・」
 フェリアはへたり込み、目には大粒の涙を浮かべている。
「ちっ、運が良かったな、フェリア。」
 矢が放たれる寸前、後ろから跳びかかったルーティナに頭を押さえつけられながら、レヴィンが偉そうに言う。
 とっさの所で、彼女が止めに入ったのだ。
「あ、あああ、あんた、あたしを殺す気?」
「お前がいなくなった方が演劇界の、ひいては世界の平和につながると思ぐげっ!!」
 そこまで言った所でフェリアに頭を踏みつけられ、沈黙するレヴィン。
「こいつを信用したあたしが馬鹿だったわ・・・アイルさん、何か良い方法は無いかしら?」
「おいおい、俺に演劇のことなんか聞くなよ。」
「そうよねえ・・・。」
 フェリアは大きなため息をつき、落胆する。
「・・・あの・・・私じゃ、だめかな・・・?」
 言ったのは、ルーティナだった。
「私、村の祭りで『祭舞』を舞った事があって、ひょっとしたら参考になるんじゃないかな・・・って。」
「どうしてそんな大事な事言ってくれないのよ。さ、早速やってちょうだい。」
 フェリアはルーティナの細い腕を掴むと、急いで店から出ていった。


 町外れ・・・
 日が落ちて既に2時間ほどになる。
 周囲は漆黒が支配し、人通りの無い空き地には、遠くから微かに聞こえてくる虫の音の他に何も聞こえない。
 この場にいるのはルーティナとフェリア、それとなんとなく付いて来たレヴィンとアイルの四人だけである。
 フェリアはふと空を見上げてみる。
 今日は満月の日のはずだが、空を覆っている雲の所為で、何も見えない。
「さ、ここら辺でいいわね。じゃ、はじめるわよ。」
 ルーティナの声を聞き、そちらを見るフェリア。
 やはり暗闇。これでは何も見えない。
「はじめるったって、これじゃ何にも見えないわよ、明かりをつけましょ。」
 そう言いながら明かりをつけようとするのをルーティナが制する。
「大丈夫、もう少し待ってなさいな。」
 空を見上げながら言うルーティナ。
 次の瞬間、空を覆っている雲が晴れはじめ、かすかな月光がルーティナを照らした。
「うわ・・・」
 思わず声を漏らすフェリア。
 そこに映し出されたルーティナの姿を見て、フェリアは初めて月光を眩しく感じた。
 月光を浴びて、銀色に光る双翼。
 体に纏うは、ただ1枚の薄衣。
「うひゃあ・・・」
「すげ・・・」
 レヴィンとアイルも見慣れた筈の少女を惚けたようにただ見つめている。
 まるで美しい風景画でも見ているようだ。
「それじゃ、いくわよ。」
 言い終わらないうちに、翼がばさり、と、音を立てる。
 身体がふわりと、浮き、そのままゆっくりと、舞う。
 緩慢な動作。
 薄衣から伸びるしなやかな手足が空を泳ぐ。
 その動きが次第に速度を増していく。
 3人の観客はその動きの優雅さに言葉すら出ない。
「舞踏は・・・」
 動きを止める事無く、ルーティナが喋る。
「如何にその動作を『魅せる』かが重要、」

 ばさり

 大きく、羽ばたく。
 次の瞬間、舞っていたルーティナは、突如3人の後ろに現れた。
「虚と実の狭間にある物、目には決して見ることの出来ない物、それを如何にして感じさせる事が出来るか、それが重要・・・」

 ヴァ・・・

 頭上を飛び越し、そこで一回転する。
 全く次の行動が読めない。
 フェリアは、この天使のような異種族の少女の動きを一瞬足りとも見逃すまいと目で追う。
 それで自分がどれだけ上達出来るかは判らないが、この舞踏は、感動は、必ず人に伝える事が出来るはず・・・そう直感した。

 ばさり・・・
 やがて、地面に降り立つとルーティナは羽をたたみ、向き直った。
「要はいかに観客の虚を突き、それを感動に結びつけるかって事なんだけど・・・フェリアなら出来るって。人騙すの得意そうだし。」
「余計なお世話よ!」
 フェリアは悪態をつくと一呼吸置き、
「ありがと。いろいろと参考になったわ。」
 と、礼を言う。
「でもルーティナ、よくこんなに踊れるわよね。感心しちゃうわ。」
「昔、長老にみっちりしごかれたから・・・さっきの科白も実は長老の受け売り。」
「そっか・・・見たかったなあ、ルーティナが自分の村の祭りで舞うところ。」
 こんな何の変哲も無い町外れの空き地で舞っただけでこれほどなのだ。
 ルーティナの村が現存していたら・・・
 うっそうと生い茂る木々、僅かに焚かれた松明の光にゆらぎながら舞う翼を持つ少女。
 そこで繰り広げられる舞踏の素晴らしさはいかばかりだろうか、その情景を夢想し、うっとりするフェリア。
「まあ、無くなっちゃったものは仕方ないし。」
 滅ぼされた故郷を語る割にはやたらあっさりしているルーティナ。
 この何も考えていないような明るい性格が彼女の美点である。
「それに、本当の『祭舞』は、何も身に付けちゃいけない事になってるから・・・見られるの恥ずかしいし・・・」
「何!!」
 男二人が同時に声を上げる。
 そしていやらしい笑みを浮かべながら、
「それは是非とも見せてもらわなければな、な、レヴィン。」
「ああ。本当の『祭舞』を見なければ、きっとフェリアも何かを掴む事なんか出来ないだろうし、な?」
「いや・・・あたしはもういいけど・・・。」
「何を言うか!お前のために言ってるんだぞ・・・って事でルーティナ、こいつの為に文字通り一肌脱いでくれないか?」
「ああ、その状態でまた頭上を飛び越えて欲しいな。」
「こいつらは・・・」
 フェリアはため息をつく。
 こんあ二人に対するルーティナの返事は、
「絶対に嫌!!」
 ・・・まあ、当然である。
 しかし二人は諦めず、なおもルーティナに食い下がる。
「なあ、少しぐらいいいだろ?別に減るもんじゃないし。」
「俺達も別にスケベ心で言ってるわけじゃない。フェリアの為だ。大体お前の貧乳見たって別に何にも思わないし・・・」
 そこまで言って二人は口をそのままの形で硬直させる。
 ルーティナは、ぷうっと頬を可愛らしく膨らませて怒っている。
 無論、その程度で口を止める程二人の精神は軟弱では無い。
 二人の視線はルーティナの右手に集中している。
 彼女の手には・・・

「わ、やめろ、ルーティナ!さすがにトゥールハンマーは危ないって!」

 トゥールハンマーには、いわゆる擬似精神が込められていて、契約を結んだ者の心に反応し、有事の際には瞬間転移する機能がある。
 契約を結んだ者・・・それがこのルーティナだったりするのだ。
「ま、待て・・・落ち着けってば!」
「そ、そうだ、話せば判る!」
 地面に腰をついたまま後ずさりする二人。
「おい、フェリア、お前も何か言って・・・あれ?」
 レヴィンはフェリアに話を振ろうとしたが既に彼女は居ない。
 繰り広げられる惨劇からいち早く離脱したのだ。
 ルーティナは頬を膨らせたまま言う。
「もう許さないんだから、二人まとめて折檻なんだからぁ!!」

 閃光煌き、爆音響く空き地を背にしながら、
「全くこれだから男って奴は・・・」
 と、呟くフェリアだった。



「今日のセリナの動き、見違えるほどだな。」
「ああ、昨日までも結構いい線行ってたが、比べ物にならんぞ、これは。」
「見ろよ、指導師の奴、さっきからぼうっと見入ったままだぜ。」
「今度の舞台、本当に凄い物になりそうだな・・・さ、うちらも稽古だ稽古。」
 などと口々に噂する男優たち・・・
 しかし、それを喜ぶ者だけがいるわけではない。
 この稀代の演劇役者を、影から憎々しげに睨む者がいることに、まだフェリアは気づいてはいなかった。
 

 
つづく

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