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   第一章

どんよりとした曇り空の下に、「花金」でにぎわう街が広がっている。ここ東京郊外のA市の繁華街も、勤め帰りに一杯やっていくサラリーマンや盛り場でたむろする若者たちで騒がしかった。
人が入り乱れる繁華街は、ゆすりやたかりを生活の糧にしている小悪党もまた、磁石のように引き付けるものだ。今もこの街のとある路地裏では、女子高生らしい少女が数人のチンピラに取り囲まれ立ち往生していた。

「こらぁ!人のサングラスを壊しておいて、ただのすみませんはねぇだろうが!」チンピラが少女をどなりつけた。
「す、すみません。うっかりしていたものですから・・・。」髪を三つ編みにした少女が、顔を蒼白にして謝っていた。よく見れば、ほっそりとした体つきの目の大きい美少女である。清楚な感じの少女だけに、怯え方がよけいに痛々しい。
「謝ってすめば警察はいれねぇんだよぉ!」チンピラがかさにかかってどなった。実は、すれ違いざまにわざと壊れたサングラスを落として、ゆすりをかけるという陳腐な手なのだが、純真な女生徒はまんまと罠にはまっていた。

「も、申し訳ありません。ちゃんと弁償しますから・・・。」少女は震えながら、ようやく声を絞り出した。
「ばかやろう!これが、てめぇのこずかいで直せるかよ!まずは、場所をかえてじっくり相談しようぜ。へっ、へっ、へっ・・・。来な!」というなり、チンピラが両側から少女の腕を強引にとって、ひきずるように歩き出した。とっくに別の下心が体の内側で身をもたげ、思わぬ美形の獲物に、早くも興奮で目がギラついている。

「そ、そんな・・・。やめてください!」少女が絶望的な悲鳴を上げそうになったその時、
「待ちなさい!あなた達何をしているの?」突然、鋭い声がとんできた。
「白鳥先生!」少女が今にも泣き出しそうな声で叫んだ。
そこには、均整のとれた体つきの長身の女性が立っていた。超ミニのスカートからは、すらっとした形のよい脚がのびている。贅肉のない体だが、上半身だけは白いブラウスを弾力のありそうな胸の膨らみが押し上げていた。ヒップも形よく張り出して、まるでファッション雑誌のモデルのような雰囲気を身にまとっている。顔立ちは一見大人しげな和風の美人という感じだが、今は悪事を見つけた憤りで、キラキラとした目がチンピラたちをにらみつけていた。

「沙織さん、どうしたの?」
「先生!この人たちに、いきなり腕をつかまれて・・・。」少女が涙ながらに訴えた。
「なんだぁ?てめぇは・・・。」チンピラのひとりが、女教師の体を品定めするように、下から上まで目を這わせた。
「なんなら、てめぇに落とし前をつけてもらってもいいんだぜ。へっ、へっ・・・。」男たちは少女の腕をはなし、今度は女教師のまわりを取り囲んだ。女教師は怯える様子もなく、静かにバックから銀のバトンを取り出すと、腰を少しおとして身構えた。
「おっ、このやろう、やるっていうのかよ。おもしれぇ、おい、このまま犯っちまおうぜ!誰か見張ってろ!」チンピラたちが、じりっ、じりっと輪をせばめてくる。少女は蒼白な顔で少し離れた場所に立ちすくんでいた。

「沙織さん、心配ないわよ。」女教師が少女に声をかけた。
「てやっ!」チンピラのひとりがいきなり女教師の背後から、羽交い締めにしようと飛び掛かった。
「はっ!」まるで後ろに目でもあるかのように、女教師はすっと体を沈めると、正確に男のみぞおちに肘打ちを打ち込んだ。「うげっ!」口から何か吐き出しながら、ひとりがうずくまる。今度は横からチンピラが腕をとりにくるところを、すっと身を入れ替えながら、バトンで男の脳天を痛打する。
「ぎゃぁっ!」と叫びながら、男が昏倒する間に、女教師はあっという間に間合いをつめると、ぱっと長い脚を跳ね上げ、別のチンピラのあごに正確にヒットさせた。チラッとスカートの奥の白いパンティが見えたようだったが、そんなものを見る余裕もなく、さらに男がひとり、地面にぶっ倒れた。
「てめぇ!」残りの二人のチンピラが、明らかに動揺しながら女教師に殴り掛かったが、まるで舞を舞っているような華麗な体さばきにかわされ、次々とバトンで叩き伏せられていく。
あっという間に、5人のチンピラが倒されてうめき声をあげていた。

「今よ!」女教師は少女の腕をとると、美しいストレートヘアをなびかせて、ぱっと走り出した。
チンピラたちも追いかけようとするが、よたよたとうずくまってしまう。
「ち、ちくしょう・・・。このままじゃ、すまさねぇぞ・・・。」
「おい、あの女子高生の制服はどこのだ?」
「はぁ、はぁ、・・・。あ、あれは、神光学園だと思うぜ。」
「何?・・・へっ、そうか・・・。それなら、落とし前をつけられるぜ。あのアマ、今に見てやがれ!」
チンピラのひとりがにやっと笑い、女教師と少女が走り去った方角をにらみつけていた。


翌日の夕方・・・。

「ふーっ。」土曜日の夜、誰もいない職員室の自分の机で、白鳥美樹は大きく背伸びをした。白いブラウスが乳房の形にぴんと張る。同僚の女教師の間では83と言っているのだが、実は90を超えるバストだった。つまらないところで、ひがみを買いたくないという気遣いだったが、脚だけは遠慮無く露出させてもらっている。美樹はもともと体毛が薄く、脚についてもほとんどムダ毛の手入れが必要なかった。だからストッキングはめったにはかない。超ミニのスカートにナマ足の組み合わせについては、学校内でも陰で批判があるようだが、美樹にしてみれば、きれいなものを見せて何が悪い!という気持ちだった。

外は朝から降り出した雨が本降りとなり、風も強まっている。しかし、美樹の担当する英語の試験の採点は、まだまだ終わりそうになかった。「もう少し勉強してくれないかなぁ・・・。」思わずため息が出る。と、その時、ガラガラっと職員室の扉が開いて、男性教師がふたり入ってきた。「あっ!」(あ〜あ、こんな時にイヤな人たちが来た・・・。)美樹が気付かぬフリをして、机に向かっていると、
「やあ、白鳥君。試験の採点かね?遅くまでご苦労さんだねぇ。」教頭の権田が声をかけながら、近づいてくる。その後ろは体育教師の黒川だった。

権田は、ハゲ、デブ、チビの三拍子揃った典型的な中年オヤジ教師だが、これにドスケベが加わる。女生徒の体をやたらに触る、若い女教師なら誰でも酒に誘いたがる、とにかく女性を見る目つきがいやらしい。とにかく、どうしてこういう男が、私立神光学園の教頭でいられるのか首をかしげたくなる品の無さだった。黒川はマッチョマンタイプの大男だが、無口で何を考えているのかわからない。時折、女生徒のブルマー姿を奇妙な笑みを浮かべてながめている様は、権田より陰湿で不気味だと噂されていた。そして、この二人はいつも仲良くつるんでおり、教師仲間でも最も近づきたくないコンビだった。

「白鳥君、ちょっと一息入れて、そこのソファーで一杯やらんか?」案の定、権田がねちねちと誘いをかけてきた。
「せっかくですが、まだまだ仕事が残っておりますので、遠慮させていただきます。」美樹が固い声で言った。
「きゃっ!」権田がずうずうしくも、美樹の肩に手をのせて、かがみ込むように肩ごしに顔を寄せてきた。権田の手のひらの、ねとっとした脂が美樹のブラウスに浸透してくるような不快感がたまらない。
「君はいつもつれないなぁ。いくら教師になって2年目といったって、そろそろ大人の付き合いを覚えてもいいだろう。ふっ、ふっ・・・。」
思わず、むっとして美樹が振り向くと、権田の視線はまっすぐ美樹のブラウスの襟元から胸の谷間に注がれている。さきほど背伸びをした時にボタンがひとつはずれたらしく、白のブラジャーが丸見えだった。黒川は黒川で、美樹の美脚をしげしげとながめているところだ。
(な、何なのこれは・・・。明確なセクハラじゃない!これでも教師なの?)
美樹は憤然と立ち上がると、「今、時間がないんです!邪魔しないで下さい!」と叫んだ。

「美樹、それじゃあ、失礼だぞ。」黒川が薄笑いを浮かべながら、ぼそっとたしなめる。
「まあいい。ふっ、ふっ・・・。」権田も奇妙な笑みを浮かべながら、黒川と意味ありげな目くばせをした。
(何なのこの人たちは・・・。)美樹がさらに抗議しようとした時、ガラガラッとまた職員室の扉があいて、今度は男子生徒が入ってきた。
男子生徒は美樹たちの方へ向かって、おずおずと歩いてくる。
「高橋君、こんな時間にどうしたの?」美樹が尋ねると、少年は手紙を美樹に押し付けて、逃げるように出ていってしまった。
「ほほう、男子生徒からのラブレターですか?うらやましいなあ。僕も学生時代はよくもらったものだが・・・。」権田が相変わらず、ねちねちと話しかけてきた。
「バカなこと言わないでください!」美樹は手紙を開くと読み始めた。

<西田沙織は預かった。警察に言えば、この娘の裸の写真をばらまく。きのうの続きだ。お前が勝てば、娘は返してやる。旧校舎にすぐ来い。>美樹の顔が青くなった。
(きのうのチンピラたちだわ。こんなことまでするなんて・・・。どうしよう。)
「どうした?」権田が珍しく心配顔で声をかける。手紙を権田と黒川に見せると、「どこの誰だか知らんが、けしからん奴だ。なに、我々3人で行けばなんということもないさ。それに、白鳥君には、得意の中国拳法があるからのう。はっ、はっ、はっ・・・。」普段は臆病な権田が強気なことを言い出した。黒川は相変わらず薄笑いを浮かべている。

美樹は中国拳法をすでに3年ほど習っていた。自分ではかなりの腕になってきたと思うが、相手が一人前の男ではまだ勝負はおぼつかない。それを補うために、中国拳法の棒術を活かして、バトンを併用した技によって不良生徒を懲らしめてきたのだが・・・。
(確かに、3人でいけばなんとかなるかもしれない。それに、早くいかないと、沙織が何をされるか・・・。)
「わかりました。行きましょう。よろしくお願いします。」美樹は愛用のバトンを握り締めた。


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