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夜の新宿はきわめて危険だ。とくに女の一人歩きは絶対にすべきでないだろう。
瑞江は18歳、今夜はBFが大事な用事があるとかで、そそくさと帰っていったのが面白くない。このまま帰りたくないので、歌舞伎町をひとりで散歩し、ふと裏道に差し掛かったときだ。
「どうだいカノジョ、おれたちとあそばねーか?」
たちまち下品な声をかけてきた5人連れの男たち。見れば人相の悪そうないかにもチンピラ風のやつらだ。
センスのいい瑞江がこんなやつらと付き合うはずはない。無視してそこを通り抜けようとした。
「オット、まちなよ、おれたちとは付き合えねえというのかよ」
たちまちやつらは瑞江を取り囲む。
「こいつ、なかなかハクイスケじゃん。今夜はついてるかも」
「兄貴、はやいとこ車に押し込んで例の場所につれてってまわしちゃおうぜ、なにしろ今夜は3人くらい女を誘拐する予定だろ。スナッフビデオとかいうのを作るとか言って例のスケベ社長が待ちかまえてるからな」
「ということだ、ネエチャン、どうしても付き合ってもらわにゃね。悪いけど観念しろよ」
兄貴といわれたちょっと年かさの男が目くばせすると、チンピラたちは有無を言わせず瑞江に襲い掛かってきた。
「あっ、イヤア〜〜、だれかあ〜〜助けてえ〜〜〜!!」
だが彼女の必死の叫び声も、背後に回った十七、八の少年ががっしりと口を塞いだためにむなしいものになってしまう。
別の男がきたないハンカチを瑞江の口を強引に開けさせて、ねじ込んでくる。残りのやつらは瑞江の長い形のいいアンヨをつかみ、
「そらよ!」とばかりに肩に担いでしまう。
「うへえ、柔らけえパイオツだなあ。ポヨポヨしてやがるぜ。こりゃ、オ**コのほうも楽しみだな」
捕らわれの美少女を担いで、やつらがまさに走り出そうとしたとき・・・
エンジン音も軽やかに一台のポルシェ・カレラが止まった。
「お待ちなさい、お前たち!」
「・・・!?」
ポルシェから降り立ったのは、スラリと背の高い女である。というよりほとんどスーパーモデルなみの匂うようにセクシーな女である。
歌舞伎町のけばけばしい夜のネオンに照らされたプロフィールは、超絶した美貌ではあるが、同時に女性にしては鋭どすぎる眼光で、片頬に相手を侮辱するような冷笑がある。
グレーのストライプの入った濃紺のスーツを着こなした、いかにも知性のありそうな、いわゆるハイミスである。それにスカートは膝上30センチの超ミニのタイトスカートだ。
長身ではあるが、豊かな胸と蜂の腰のようにくびれたウエスト、それに見事にヒップアップした桃尻が・・・これは完全に鼻血ものである。
「ウッヒョ〜〜、こ、こいつはすげえ!ちょっと熟女だけど、そこがまたそそるよなあ〜〜おい、こ、このお姉さまもいっしょにカッサラッテいこうじゃないか。一度に二匹も上玉が網にかかるとは、今夜はついてるぜ」
「パイオツといい、腰のくびれといい、申し分がない女だな。ちょっとおっかなそうな顔してるけどさ」
「そこがいいじゃねえか、きっと一流会社のキャリアレディーとかいう人種だろう、おれはこういういかにもナマイキそうな女を縛って泣かせるのが趣味だからな・・・ウウウ、もう下のほうがもっこりしてきたぜ・・・」
そんな物騒な会話を聞いていても、彼女は顔色ひとつ変えないどころか、余裕の笑みさえ浮かべているではないか!
「お前たちが私を・・・?フフフ、笑わせるんじゃないわよ、さあ、早くその若いお嬢さんを放しなさい」
「ホウ・・・お姉さまよ、カッコいいせりふをはくじゃねえか。あとでほえ面かいてもしらねえぞ。おい、野郎ども!」
5人の内ひとりだけが瑞江をしっかりと捕らえて、後の残りは全員が目をギラギラさせて、謎の美女に向かってきた。
彼女の名は西園寺静香、32歳、身長174cm。上から96cm、60cm、98cmという、まさにダイナマイト・セクシー・バディーだ。
K大学在学中に優秀な成績で司法試験合格、上級公務員試験合格。
その後、犯罪捜査において護身術の必要を感じ、香港にてカンフーを、バンコクにてタイ式ボクシングを修行。
一転してパリ大学で刑事法を、ケンブリッジ大学で犯罪心理学を習得。その後再び、FBI長官の知己を得て、同研修センターにて犯罪心理学を実地に学んだ。
IQ170。
少林寺拳法二段だが、これも大学レベルの選手では、男子といえども彼女と互角に戦える選手はいないらしい。
しかも職業は歴とした現職の東京地検の検事なのである。
静香がとほうもないスーパーヒロインであることを知らない男たちは、油断なく西園寺静香を取り囲むのだが・・・
「み、みごとな女だな。おい、油断するな、この女、かなりやりそうだぜ。しかし、黒い網目のストッキング、いいねえ、ぐっとくるぜ。若い女もいいが、正統派グラマー熟女の魅力はすざまじいな」
年かさのひょろっとやせた背の高い男が静香の実力を認識しつつも、その魅力に抗しがたく、惹きこまれたように、フラフラしながら近づき、抱きつこうとした。
静香の美しい長い右手が電光石火の早業で走り、男のふやけた顔にバシッ!と強烈な音がして、力いっぱいの静香の張手がうなる。
その時、男の嗅覚にゲランの香りが悩ましく残る。
一見優雅な静香の、どこにこんなパワーが隠されているのだろう。
「あっ、・・・」
張手は、よほど強烈だったらしく、やつは顔をおさえて、崩れ込むように、だらしなくうずくまる。軽い脳震盪をおこしたのだろう。
「私に抱きつこうなんて、不届きな考えをもったら、今度は股間に蹴りを入れてあげるわ。大事なところが使い物にならなくなっても知らないからね。お前たちの手に負えるような相手じゃないのよ、分かったかしら?」
「兄貴、大丈夫か?このアマ、ふざけたまねしやがる!」
叫びながら3人の男がいっせいに静香めがけて襲いかかる。
先頭を切って突進してきたやつの股間に、静香は狙いを定めたように、余裕を持ってクルリと回転し、後ろ回し蹴りを決める。
金的をもろにつぶされたチンピラ風のそいつは、「うぎゃあああ〜〜〜」と大げさな叫び声をあげて、倒れこみ、股間を抱えながら足をじたばたさせて悶絶する。
しかし、その時、静香のミニスカートがもろにまくれ上がり、黒いパンティーに隠された「肥沃なる三角地帯」までが、剥き出しになる。
男どもの目がその部分に釘付けになる。
「どこを見ているのよ、さあ、WHO IS THE NEXT!?そこのドスケベそうなお前かい」
この時点で静香の実力が恐ろしいものだとやっと気づいた残りの三人はぎょっとして身構える。
パチン、パチンという金属音がする。やつらはふところから、折りたたみナイフを取り出し、ほほを残忍にゆがめる。
「おや、おや、坊やたち、そんなもの出して、危ないわよ。逆におまえたちが怪我しなきゃいいけどね」
「女相手に、ちょっとみっともないが、知られてしまったからにゃ、ドーシテモ、いっしょに来てもらうからな、オネーサンよ!」
「こいつが目にはいらねえかよ、痛い目をみねえうちにおとなしくしな」
「ふふふ、笑わせないでよ、おまえ、年はいくつなの?ばかに古典的なセリフをはくじゃない?」
やつらはよほどケンカなれしているらしく、三人で静香を取り囲みお互いに目配せする。
だが、静香の態度はまるで余裕である。
そのはずだ、FBI留学中に出場した、女子護身術大会でみごと優勝するほどの腕である。
東京のチンピラなどはたしかに目じゃない。
しかし、これを見て、若い瑞江を捕らえていた男は、この時あわてて携帯電話を取り出して、どこかへ小声で連絡する。
「もしもし、HEN-OJI兄貴ですか!コージです、いま歌舞伎町の例の路地なんですけど、なんだかしらねえけど、ちょっとヤバイことに・・・えっ?いや、飛び切りのいいナオンなんですけどね、そいつがメチャ強いんですよ。ジョージ兄貴が張り手一発でのされちゃって、マサのやつは股間蹴りで悶絶・・・お願いします、すぐきてください!」
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