(ん・・・ここは・・・そうだ・・・縁との戦いの最中、邪魔が入って・・・!!) 薫が目を覚ますと、そこはどこかの洋館の一室のようだった。
薫はあわてて飛び起きようとしたが、そこで両手に皮の手錠がかけられているのに気がついた。
そして、口には猿轡がかまされ、大声をあげられないようになっていた。
(何・・・これ・・・)
薫はあわてて身なりを確かめる。
(服は・・・大丈夫みたいね。足袋とぞうりが脱がされているくらい。木刀は・・さすがにみあたらないわね。で、ここはどこかしら?)
と、そのとき、部屋の戸が開いて、一人の男が入ってきた。
「ほお、お嬢ちゃん、気がついたみたいだね」
「んんん!」
「縁」と言ったつもりだが、猿轡のためまともにしゃべることができない。しかし、薫は眼光鋭く縁をにらむ。
「さすが、神谷道場のあととり。なかなかいい面構えをしてるね」
「んんんんーんん?」
「ふっ。何を言ってるんだかわからんね。俺が今日、お嬢ちゃんを招待したのはひとつお願いがあるんだ。それさえ約束してくれればすぐにでも帰してやるよ」
「ん?」
「それはね・・・隙を見て抜刀斎の右手を切り落として欲しいんだ」
「ん!んんんんん、んんんんんんんんんん!!」
(そ、そんなこと、できるわけないじゃない!)
薫を無視して縁は言葉を続ける。
「俺はね。あの場でお嬢ちゃんを殺してもよかったんだよ。でもね、そんなのいっときじゃない。そんなのは人誅じゃないんだ。再び、俺と抜刀斎が対峙して・・・奴の後ろから、もっとも信頼された人に切られる。その衝撃は消えないよ、一生。お嬢さんを守れなかった、なんて衝撃は時が過ぎれば忘れるかもしれない。でも、無くなった右手を見るたびに思い出すんだ、信頼された人に裏切られた、ってネ」
薫は縁の言葉を聞いて呆然となった。剣心への恨みがそこまで深いとは・・・・。薫が知る限り、縁が剣心をうらむのは逆恨みもいいところである。まさか、ここまで思いつめているとは想像もできなかった。
「で、お嬢ちゃん、剣心の右手、切ってくれるかな?」
「んんん」
薫は大きく顔を左右に振り、拒絶の意思を示す。
「絶対やらない、って顔をしてるね。まあ、そう簡単にうんと言ってくれるとは思ってないよ。時間をかけてゆーっくり説得してあげるね。」
縁はそういうと、もがく薫を地下室へと連れ込んだ。
(いつか、絶対剣心が助けてくれる)
そう信じることが薫の心のよりどころとなっていた。
To be continued.
|