(5)
「イルマメグミ・・・・・」
再び磔にされてしまったイルマに、窓の外から異星人が話しかけてきた。
「教エル気ニナッタカ?」
「・・・・・・・」
「新兵器ノデータヲオシエロ。」
「・・・・・知らない」
言えるはずがない。地球の未来がかかっているのだ。答えを拒否したGUTSの隊長は、こんな姿にさせられてもなお、凛とした美しさをたたえている。
しかし、異星人はその返事を予想していたように、表情をかえずに言葉をつづけた。
「ソノナメクジ達ト、モット遊ビタイノカ?」
「・・・・・・」
「オマエモ、我々ノペットヲ気ニイッタノカ?」
異星人はイルマの神経を逆なでするように言った。
「ソンナニ、面白カッタカ?」
「・・・・・」
ナメクジとの「遊び」が、どのようなものであるかは容易に想像できた。イルマの心にも怯えのようなものが走る。しかし、口を割ることは絶対に出来ないのだ。彼女は自分に強く言い聞かせた。
異星人が沈黙した。
イルマがふと顔を横に向けると、6匹のナメクジが触角を、クネクネと淫らに動かしながら這い寄ってきていた。
(心を閉じて。)
イルマはそう自分に命じた。全裸にされたうえに、身動きさえ封じられてしまった彼女を、この狡猾で淫虐な化物から守ってくれるものは、彼女自身の強い精神力だけだった。心を堅く閉ざして、官能のすべてをその中に封じ込めようとしていた。
プライドもあった。男性中心の組織で、女に対する偏見をはねのけて重要なポストを任されるまでになったイルマにとって、「女」の部分を責められて屈する事など出来るはずがなかった。
イルマの大きくひらかされた足の先にいるナメクジの触角が動き始めた。左右の足先にとりついたそれは、指の間をなめまわすようにして性感を送り込もうとしている。イルマは目を閉じたまま、呼吸を整えてその攻撃を押し返す。何も感じていない。
(そう、大丈夫よ)
自分を励まし続けるイルマの心に、希望の光が射し込む。
しかし、この化物たちは、あくまでも狡猾だった。2本の触角は一度足指から離れると、その先端を何本にも枝わかれさせていきなり足の裏をくすぐり始めたのだった。
「・・・・・!」
不意をつかれたイルマはかすかに動揺する。くすぐったさをこらえようとして、いつのまにか息を止めていることに気がつかなかった。
「くっ・・・」
だが執拗なくすぐりに、おもわず息がもれ始める。イルマの呼吸が乱れた。
その瞬間を待っていたように、彼女の胸の両側に陣取っていたナメクジが触角を伸ばしていった。
仰向けにされてもなお形がくずれない乳房の頂の、ピンクに色づくその部分に1本がペロペロとなめるようにとりつき、もう1本の触角が丘のふもとから中ほどにかけて、絶妙なタッチでなでまわし始めた。
「うっ・・・」
小さくうめいたイルマの胸に、切なさをともなった妖しい感覚が広がりはじめる。それは足裏のくすぐったさとは違う、けっして受け入れてはいけない禁断の感覚だった。
(だめっ!・・・)
自分を叱りつけるようにして、イルマはその快美感を振り払おうとする。
しかし今度は、足先からも同じ感覚が流れ込んできた。足裏をくすぐっていたはずの触角が、いつのまにか指の間を刺激していて、今度はやすやすと攻略していたのだった。
「ああ・・・」
数ヶ所から同時に快美感を送り込まれて焦るイルマに、さらに追いうちがかけられる。
すでに触角に占領されてしまっている胸から、きれいにくびれたウエストの下、再びピンと張り出した腰の両側に「待機」していた2匹のナメクジが、脚を大きく割られて完全に無防備になっているイルマの「危険地帯」に合計4本の触角をまとわりつかせていった。
脚の付け根のあたりを内側に向かって這っていった触角が床の近くまでたどりつくと、方向をかえて彼女の排泄器官をつつくように刺激した。
「嫌っ!」
思わず声を上げてイルマが腰を浮かせると、悩ましい茂みの数センチ上で待ち構えていた別の触手が、茂みの奥の最も敏感な部分に襲いかかる。
「ああっ!」
再び悲鳴を上げたイルマは反射的に腰をひいたが、それが皮肉にもアヌスをまさぐっていた触角を自分から迎えにいく結果になってしまった。スルリという感覚と共に、その先端がイルマの体内にのみこまれた。
(ああ・・・・・、そんな・・・)
自分の反応をすべて読まれているかのような感覚に陥って混乱するイルマのアヌスに侵入した触角が、その混乱を更にあおるようにクネクネとうごめく。
必死の抵抗もむなしく、あっというまに官能の嵐にのみこまれて行くイルマだった。
それでもイルマは、唯一自由に動かせるその美しい顔を左右に振ってこらえようとしている。が、化物たちはそれさえも長くは許さない。
イルマの頭の後方にいた「6匹目」が触手を彼女の頭に巻きつかせて動きを封じると、2本の触角が目を閉じて苦悶の表情をうかべている端正な顔を、つついたり撫で回したりして、いたぶりはじめる。
ひとしきりイルマの顔をいたぶった2本の触角は、彼女の両耳に攻撃をうつしていった。1本が左の耳を包み込むようにねぶりまわすと、もう1本は先端をコヨリのように細く変形させて、右の耳の奥深くに侵入していった。
イルマが、つんざくような悲鳴を上げた。
(6)
一時間後。
6匹の淫虫は、疲れという言葉を知らないがごとく、イルマの裸身を嬲りつづけていた。今は12本の触角のうちアヌスにもぐりこんだ1本だけが、妖しくうごめいている。悲鳴ともあえぎともつかぬ声を上げ続けるイルマの全身は汗にまみれ、股間からあふれ出る愛液の量がそれまでの責めの凄まじさを物語っていた。
6匹のナメクジは変形する12本の触角を自在にあやつって、イルマの体を翻弄していた。
ある時は、すべての触角が責めのリズムと波長をオーケストラの演奏のように見事に統一させ、犯されているはずのイルマを陶然とした気分にさえさせながら頂上へいざなう。またある時は、不快な不協和音を聴かせるように、それぞれがバラバラな責めを彼女に加え、形容しがたい狂おしさの中に追いこんでから強引に高みに引きずっていった。
そして今は、さながらソロ演奏のようにたった1本の触角がイルマの美麗な肢体をもてあそんでいる。他のナメクジは、何の意味があるのか交互に触角をイルマの股間に運んでは、あふれ出た愛液を吸い上げるようにしてグロテスクな体内に取りこんでいる。
そして、この誇り高いGUTS隊長にとって最も屈辱的であろう排泄器官にもぐりこんだ触角は、イルマが生まれて初めて味わう妖しい快美感を、その体に覚えこませるようにじっくりと責めつづけ、ゆっくりとしかし確実に頂きに向かって追い上げて行く。
しかし・・・。何度同じ行為が繰り返されただろうか。この邪悪な化物はイルマを頂きの一歩手前まで連れて行くと、その手を引いてしまうのである。
女の生理を無視した、いや知りつくしたような卑劣ないたぶりである。燃え上がってしまった体を鎮めるすべのないイルマは、言葉にならないような声を上げ、顔を振って身悶えする。
(ああ・・・、また)
気が狂いそうなほどのもどかしさにのたうちながら、イルマは胸の内でつぶやく。
彼女も気がついてはいた。この異星人とナメクジが、自分に生殺しの苦しさを与えることによって屈服させようとしている事に・・・。
しかし、イルマの強靭な意志と理性も、化物たちの前には無力だった。ナメクジの凄まじいまでの技巧に、肉体が裏切って勝手に燃え上がってしまうのだった。そして絶頂の寸前でつきはなされた時の、想像を絶する苦しさ・・・。
12本の触角が動きを止めるとき、イルマは何度その続きを懇願しそうになっただろうか。しかし、わずかに残された理性のなかで彼女はつぶやいていた。
(これを・・・・・。ここさえ・・・耐えれば)
いつかはその苦しさに体が順応する。その責めに体が慣れてくれる。それだけが彼女のかすかに残された希望だった。
しかし、イルマにとって不幸だったのは、このナメクジが異星人によって造られた人工生物だったことである。この化物は彼女の愛液を取り込むことによって、その細胞を変化させていた。更に、彼女の体の反応からも情報を蓄積させていた。ナメクジはイルマを嬲っている今も、進化を続けているのだった。
イルマは、自分が耐えれば耐えるほどナメクジを成長させ、与えられる快感とその後の苦痛が増していくという、逃れようのない悪循環のなかにいる事を知らない。
さらに一時間ほどが経過しただろうか。
ついにイルマの唇がうごいた。
「やめないで・・・・・。もう・・・・・、許して・・・」
信じられないほどその力を増大させたナメクジが、触角を引き上げたとき、彼女の理性の最後のひとしずくが奪い去られてしまったのだった。
うわごとのように、言葉を繰りかえすイルマに異星人が問いかけてきた。
「デハ、新兵器ノデータヲ教エルノカ?」
息もたえだえになったイルマが、かすかにうなずくのを認めると、異星人は言葉をつづけた。
「ソレデハ、最初ノ質問ダ。」
(7)
「・・・・・・これで全部よ。」
あれからさらに30分程経過しただろうか。イルマは彼女が知りうるすべてを話し終わった。
彼女も、途中で何度も言葉をためらった。しかし、そのたびに触角の動きを中断させられてしまい、そのもどかしさにのたうちながら、とぎれとぎれに最高機密をしゃべらされてしまったのだった。
全てを話し終えたイルマは、またうわごとのような言葉を繰り返すだけだった。
「お願い・・・・・。続けて・・・・・、最後まで・・・」
そんなイルマに応えるように、再び触角が動き出した。それまでより一段と技巧を尽くして彼女の全身を愛撫する。イルマも今は触角の動きに積極的に応じ、優美な裸身をくねらせるのだった。
そして彼女が官能のすべてを解放しようとした時・・・・・。
またもやナメクジは、その手を一斉に引いてしまったのである。
「どうして・・・、やめないでっ!」
自分から頂きを極めようとしていただけに、イルマのショックは大きかった。
「お願い!・・・続けて!」
しかし、激しく悶えるイルマをしり目にナメクジたちはゾロゾロと部屋を出ていってしまう。
「ああ・・・・・、そんな」
今までとは比べ物にならない苦しさに半狂乱になってもだえるイルマを、窓の外から無表情に見ていた異星人がボタンの一つに手をかけた。
ふいにイルマを拘束していたベルトがはずされた。
「あ・・・・」
一瞬、ぼうぜんと自由になった両手を宙に泳がせていたイルマだったが、今の彼女にとるべき行為は一つしかなかった。ためらうことなく左右の手を胸と股間にあてがうと、燃え上がってしまった体をなぐさめはじめるのだった。
イルマが初めは遠慮がちに、次第に大胆に指を使ってその行為に没入していくさまを窓の外から見ていた異星人は、もう一つのスイッチに手を伸ばした。
それまでずっと無表情だった異星人の顔が初めてくずれた。なんともいえぬ
含み笑いをうかべた異星人はそのスイッチを押した。
(8)
同時刻。 東京
その主婦はパニックに陥っていた。子供と見ていたテレビの画面が砂嵐に変わったと思っていたら、数秒後にいきなり全裸の女が映し出された。呆気にとられていたその主婦は、胸と股間に手をあてた画面の女が何をしているのかを知ると、あわてて子供の前に立った。リモコンを手にしてチャンネルを変えようとする。
しかし、いくらボタンを押しても画面が変わることはなかった。主婦は呆然としてつぶやいた。
「テレビ・・・・・。壊れちゃった。」
彼女は知らなかった。目の前の画像が日本中、いや世界中のテレビモニターに流れていることを。
友人同士で酒を飲みながらテレビを見ていた男達は、画面の女に卑猥な言葉で野次をとばしながら身をのりだしていった。
一人暮しの若者は、ズボンのファスナーを下ろすのももどかしく股間のモノを取り出すと、画面を見ながらしごき始めた。
家族とテレビを見ていた家の主人は、あわててリモコンを操作するふりをしながら、妻や子供に気づかれないようにそっと録画のスイッチを押すのだった。
宇宙船内。
たった一人の部屋の中央で、イルマはその行為にふけっていた。切なげな喘ぎ声をあげ、理知的な顔にうっとりとした表情をうかべながら彼女は昇りつめて行く。
卑劣な異星人が仕掛けた電波ジャックによって、その姿が世界中に中継されている事など知るはずもない美貌のGUTS隊長は、今、絶頂に達しようとしていた。
(完)
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