【1】忍び寄る魔の手
「えぇ、送られてきた鍵で指定されたコインロッカーから目的の資料を手に入れたわ、これで今度こそあの悪徳代議士の化けの皮を暴いてやれるわ!」
「ん?分かっているわ。このまま真っ直ぐ自宅まで戻るわ。美紗緒ちゃんも今日は上がって明日からの資料の分析を宜しく頼むわね。それじゃぁ!」
霧島 渚(きりしま なぎさ)は携帯を切ると愛車ロータスに乗り込んだ。
渚は数々の企業や権力者の不正を暴く手腕もさることながら、その美貌により今話題の美人検事である。
スーツに身を固め、背中まであるクセのある髪をアップに纏め、眼鏡越しの鋭い眼光で見据え、颯爽と悪を裁いていく姿が雑誌に取り上げられた事もあり、男女問わずファンが急増中で、いつも傍聴席は満席である。
今、渚はクリーンをうたう青年代議士による不正を追いかけていた。その父親は数々の大臣経験がある大物議員であり、息子に悪い噂が立つ度にことごとく秘密裏に揉み消していた。だが、今回は情報提供者と名乗る人物から不正を書き示した資料を手に入れる為に、自ら地方都市へと足を伸ばしていた。
「今から帰れば、深夜には着けるわね」
地方都市とはいえ東京へは高速道路や新幹線などにより1〜2時間で到着できる近さである。それも今回のターゲットの父親の尽力によるものと言われているのだから、この街での影響度の高さが伺えるというものだ。
渚がスターターを回しアクセルを踏み込むと、ロータスは夜の街を疾走しだした。
だが、その後をつけるように黒塗りのベンツがゆっくりと走り出した事に、渚は気付いていなかった。
渚がその車に気が着いたのは、高速道路に乗って交通量が少なくなってからだった。
その車のフロントガラスにはスモークが張られ、外部から運転する者を確認する事は難しかった。
不気味に背後に張り付くその車に気を取られていたためだろう、大型トラックによってが渚の車は左右と前方に囲まれていた。
「なっ!なんなのよ?!」
クラクションを鳴らすも、取り囲む車に変化はなく、一糸乱れぬ動作で渚の車の進行を妨げていた。
「・・・?!」
道路が長い直線にはいった途端、前方のトラックに変化が現れた。
後部コンテナの扉がゆっくりと開き、斜面のガイドが降ろされると、渚の目の前にポッカリと真っ黒な穴が現れた。
ガッ!ガッツ!!
その途端、後方に張り付いていたベンツが速度を上げ、渚の車を押し込み始めた。
「な?なんなの?いやっ!」
ようやく自体を飲み込もうが、隙間無くトラックに囲まれ逃げ出す事も不可能であった。徐々に押し込まれる愛車にパニック状態になる間も、徐々にコンテナへと押し込まれていく。愛車は無常にも後輪がガイドへと押し上げられると一気にコンテナへと飛び込んでいった。
トラックはコンテナの扉を閉じると、次のインターチェンジで一台ずつ高速を降りていった。
【2】美人検事失踪
「貴方たち止めなさい!こんな事をして、ただで済まないわよ!!」
人も訪れない薄暗い廃工場に渚の怒声が響き渡る。
トラックが廃工場の中で停止すると、待ち構えた男たちによって鷲づかみされ車から引きずり降ろされた。そのまま地面に押し付けられると無数の手によって衣服を破り剥ぎ取られた。
男たちは慣れた手つきで渚の両腕を捩じ上げ、その細い手首に黒ずんだ麻縄を巻きつけてきた。その感触に渚は鳥肌を立て、短い悲鳴を放った。
男たちは、その反応に薄笑いを浮かべながら、豊満な乳房の上下にも何重にも縄を巻きつけていく。
「いやっ、この縄を解きなさい!解くのよ!!」
羞恥心で白い肌を朱に染めながら、渚は恫喝する。だがその声に怯えの色が滲み始めていた。
男たちは、両脇に縄を通し胸縄をギッチリ締め付けると、更に首の左右に通した縄を胸縄に繋ぎとめ、左右の乳房を更に搾り出すように締め付け緊縛を完成させた。
そして両足首に黒革の足枷を嵌めると、天井より垂れ下がった2本の鎖に繋ぎとめ、ゆっくりと巻き上げ始めた。
「い、いや!やめって!!見ないで!!」
鎖が徐々に巻き上げられるに従い、必死に抵抗する渚の足を左右に大きく広げ、腰、背中、頭と次々と宙に浮かせ、渚を空中に『Y』の字に固定すると停止した。
抗う間に解れた背中まである髪が、地面に向かって垂れ下がっている。
「こ、こんな事をして・・・」
「ヘヘヘッ・・・どうなるって言うんだい?」
男の一人が好色そうな笑みを浮かべ尋ねてくる。渚を取り囲む男たちはどれもまっとうな商売についてないのは一目瞭然な風貌であった。
「一人残らず刑務所に送り込んでやる!」
「おぉ、怖ぇ、怖ぇぇ!」
「ここまでされて、まだそんな事が言えるたぁ、流石は切れ者と噂される検事さんだ!」
キッと睨み付ける渚に驚きながらも、おどけてみせた。
「私が今夜中に帰らなければ不審に思って捜索が始まるわよ!そうなれば、貴方たちは逃げられないわ!!」
「この辺りの海沿いの道は曲がりくねっていてねぇ、高速道路が出来るまでは東京への抜け道として昔はよく使われていたんだよ」
「・・・何を急に?」
突然の話の切り替わりに不審そうな顔をする渚をニヤニヤ笑いながら、男は話を続けた。
「だが時々誤って転落する馬鹿が今でもいてねぇ。崖下の海は流れが急だから、放り出された運転手は見つからない事が多いんだ」
「・・・なっ?!まさか!」
「申し訳ないけど、今頃、検事さんの愛車は崖下に転落。早朝には捜索が始まるんじゃないかな?」
事態の飲み込み徐々に顔を青ざめていく渚。その様子に取り囲んだ男たちは下卑た笑いを浮かべると、その美しい美囚へと手を伸ばしその輪を縮めていった。
【3】暗き扉
上司であった霧島 渚が行方不明になってから半年が経過した。
渚の愛車が発見された場所に花束を置くと、藤堂 美紗緒(とうどう みさお)は崖上を見上げた。遠目から見てもガードレールの一部だけ色がまだ新しいのが見て取れた。
「渚先輩・・・まだ、先輩が死んだと、私には信じられません」
半年前、崖下で炎上されている車と通報を受け、地元の警察が搭乗者の捜索を行なったが発見する事が出来なかった。車のナンバープレートから渚の車と判明し、事故が起こったのが深夜だという事で、早々に運転ミスによる転落と結論付けられた。
遺体も付近の捜索で発見されず、海に投げ出されそのまま流されたのだろうと、捜索も早々に打ち切られた。
だが、美紗緒はどうして高速道路でなく、わざわざ危険な海岸線を走ったのか腑に落ちなかった。
燃え残った遺留品の中には、渚が手に入れたはずの証拠資料は発見されず、代議士の不正に対する捜査もうやむやのうちに打ち切りとなった。
渚を中心にした捜査チームは解体されメンバーも散り散りとなり、失意の打ちひしがれた美紗緒は、検察官を辞職しこの地方都市へと引っ越してきた。今では暇を見ては、こうして渚の事故現場に顔をだしては花を添えていた。
日が暮れてアパートに戻ると美紗緒はポストに封筒が届いているのに気がついた。
差出人はあの夜の渚に関して捜査依頼をしていた友人の探偵事務所からであった。
封筒の中味を傷つけないように慎重に開封すると、中からは1枚のメモとカードが出てきた。
メモには、今回の依頼をキャンセルしたい為、いままでの依頼料+違約金を美紗緒の講座に振り込んだ旨と、出来るならこれ以上首を突っ込まない方が良いという警告としか取れない文章であった。それでも尚、真実が知れたければカードのHPを覗いてみればわかる・・・と記されていた。
美紗緒は同封されていた真っ黒いカード・・・BAR マルキドと書かれたカードを手に取った。
カードを見つめ意を決すると、美紗緒は愛用のノートパソコンを開くと電源を入れた。
(・・・真実・・・真実って?)
コンピュータの立ち上がりがいつも増してもどかしい。
(私は知りたい、渚先輩がどうなったのかを!)
コンピュータが立ち上がると、カードに記されたアドレスを震える手で打ち込んでいく。
『IMPENETRABLE TERRITORY』
画面に現れた真っ黒な扉の上には真っ赤な文字でそう書かれていた。
「・・・インペネトラブル・・・テリトリー・・・・不可侵領域?」
そこは、決して足を踏み入れてはならない領域・・・
力なきものは、決して踏み入れてはならない・・・
心弱きものは、決して覗いてはならない・・・
そうタイトルの下には警告文とも取れる文面と共にIDとパスワードを打ち込む所があった。
美紗緒は慌ててカードを裏返すと、そこにそれらしき英数字が殴り書きされているのに気が付いた。間違えぬよう慎重に入力し、震える指でエンターキーを押す。画面の扉が不気味な音を立てながらゆっくりと開き、新たな画面に切り替わった。
「なんなの?SMかなにか?悪趣味・・・だわ」
画面には、まるで地価牢や拷問室をイメージさせるような禍々しい空間に女性の名前が刻み込まれた無数の扉の絵が並べられていた。
「・・・草薙 結衣・・・神崎 瞳・・・室井 冴子・・・あれ、なんだろう?」
名前を読み上げて、なにか記憶の縁に何か引っかかるものを感じつつ、それがなにか思い出せぬままスクロールを続ける。そして美紗緒は、もっとも奥まった扉にそれを見つけた。
「・・・・・・・霧島 渚・・・・・・えっ、うそっ!?」
それは大好きだった美紗緒の先輩の名前であった。
【4】真相は闇から闇へ
「そんな?!・・・渚先輩は死んだんじゃ・・・」
震えだした手で一生懸命、扉にカーソルを合わせるとクリックした。
『美人検事捕獲』『輪姦リンチ』『水責め拷問』『電気拷問』『浣腸地獄』『三角木馬責め』・・・
画面が切り替わると多数のメニューがあった。美紗緒は一つ一つクリックしていく。
その度に、無残に責められる渚の映像が再生され続けた。
縛られ抵抗を封じられ、何時間も無数の男どもに穴という穴を犯され続ける姿・・・
逆さ吊りで吊るされ、上半身を水面に浸けられながら、両穴を責め立てられ快楽と苦痛に悶える姿・・・
乳首とクリトリスに電極を繋げられ、流される電流に体を痙攣させのたうちまわる姿・・・
大量の浣腸を注入されては、肥大した腹部をスパンキングされる姿・・・
三角木馬に乗せ上げられ、足首に吊るされた重りによって悶絶し、更に前後からも鞭打ちされ全身を真っ赤な鞭の痕で染め上げられていく姿・・・
美紗緒は画面を機械的に再生し続けながら、いつの間にか自分の頬を涙が濡らしているのに気がついた。
(数々の責めに、のたうち、悶絶する渚先輩・・・)
(・・・でも、どの渚先輩の瞳には反抗の炎はまだ消えていない・・・助けなきゃ!!)
画面を見つめ渚救出の決意を固めた美紗緒・・・
・・・だが、その背後で部屋の扉が音の無く開いていくのに彼女は気が付いていなかった・・・
『不可侵領域』
そこは、決して足を踏み入れてはならない領域・・・
力なきものは、決して踏み入れてはならない・・・
心弱きものは、決して覗いてはならない・・・
今日もまた、自らの正義を信じ、その力を過信した者が足を踏み入れる・・・
そこは、踏み入れたモノを絶望に追い落とし、淫獄へと誘う場所とも知らずに・・・
巨大なる負の力によってねじ伏せられるとも知らずに・・・
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