『虐囚 〜魔窟に囚われし心〜』 (3) 久遠 真人作
【3】足を踏み入れし先は、淫獣たちの棲みか・・・・・・ 「ここで間違いないのか?」 そう言って、目の前の古びたビルを見上げていた巴 静香は、振り向いて俺に確認してきた。 「映像でチラリとですが、このビルの一部が映ってたんです」 そう言った俺は、彼女の切れ長の目の下に少し隈が出来ているのに気がついた。 「もしかして・・・・・・先生、徹夜で映像を見続けてました?」 「えっ・・・・・・あぁ、少しでも早く解決したかったからな・・・・・・」 少し疲れた様子を、誤魔化すように彼女は微笑んだ。 映像に少しだけ映ったビルを、倉庫街で見つけたと彼女に報告メールを送ったのは、朝の6時だった。すぐに返信メールが来たところから推測すると、彼女は一睡もせずに、あのサイトを調べていたらしい・・・・・・そう、あの映像を見続けていたのだ。 ジーンズにスニーカー。上はTシャツ、水色のパーカーという動きやすい服装で彼女はやって来た。 髪もポニーテールにまとめ、眼鏡からコンタクトに替えている。 その状態が彼女の本気の時であるのを俺は知っている。 先に入ると言った俺をさげ、彼女が先頭にたってビルへと足を踏み入れた。 入口の案内板を見ると、元々は1つの会社がビルを借りきっていたようだった。だが、今は借り手もなくガランとしていた。倉庫街という事もあり、周りにあるのは倉庫ばかりで、この時間帯は人通りもなく、一帯は無人状態であった。 映像では、このビルの地下駐車場に黒塗りバンが入り、地下に連れ込まれるシーンが残されていた。 「・・・・・・こっちだ」 一度、建物の外に出ると、俺たちは外部から地下駐車場に車が出入りする入口を探すことにした。 そして入口の格子状のシャッターが上がっているのを発見すると、躊躇する様子もなく彼女はドンドンと中に入っていく。そんな彼女に慌てて、俺も後を追い地下駐車場へと入った。 中は照明が落とされ、非常灯の僅かな明かりのみの薄暗い空間だった。 目が慣れるのを待つと、視界の先で、駐車場の中央で仁王立ちになっている彼女が見えた。 その眼前には、映像で見た黒塗りのバンが止まっているではないか。 「いるのは気配でわかってる!、コソコソ隠れてないで、出てこい!!」 そう彼女が恫喝すると、バンのサイドドアが荒々しく開き、覆面を被った男たちがワラワラと出てきた。 「・・・・・・4、5、6人と、ゴキブリでもあるまいし、こんな薄暗いビルの地下で、なにやってるのかねぇ」 得体の知れない男たちに囲まれても、不敵に笑う彼女。 そんな彼女も、車内に裸体を拘束具で戒められた少女が転がされているのを見ると、途端に表情が険しくなった。 遠目でも、少女の健康的に日焼けした肌に黒革の拘束具がこれでもかと裸体に巻き付き、締め上げているのがわかった。 両腕を背後に回され、大きな袋状の拘束具に押し込まれ、ベルトで何重にも締め付けられている為に、胸を反らし突き出すポーズをとらされており、その乳房に肉厚の首輪から伸びたベルトが巻き付き、根元からプックリ絞り出されていた。 腰にはコルセットが巻きつかれ、ウェストは酷く締め付けられている為、恐ろしいほど細くなっており、ベルトで絞り出された少女の乳房をより強調していた。ツンと尖った乳首には銀色のリングピアスが付けられ、少女の身体が揺れるたびに、車内灯の光を浴びでキラキラと輝く。 コルセットから伸びたベルトは太ももまで覆う黒いエナメルのブーツに繋がっており、その足首には足枷が嵌められており、お互いを短い鎖で繋がれていた。 顔にはアイマスクと口枷が一体になったヘッドギアが被せされており、表情をみることは叶わなかったが、その少女が真琴だと、俺にはすぐにわかった。 スタンガンやら警棒を取り出し取り囲む男たちを尻眼に、彼女は大して気にした様子もなく、腕組みしていた両手をほどき、戦闘態勢に入る。 どの男も、いい体格をしており、165センチの彼女よりも皆、背が高い。普通に見れば、圧倒的不利な状況である。 それは、男たちもわかっているのだろう。顔を見合わせ、野卑た笑みを浮かべると、彼女を包囲する輪を徐々に詰めていく。 だが、先に動いたのは彼女だった。 滑るような擦り足で、いっきに一番体格の良い男の懐に潜り込みむと、軽々と大男を宙に舞わす。近くの男たちを巻き込むようにして、その大男が硬いコンクリートの床に叩きつけられる頃には、次の獲物の懐へと移動していた。 不意打ちで浮足立った男たちが、面白いように次々と宙を舞い、床に這いつくばらされていくのが離れた俺にはよく見えた。 「この阿女ァァ!!」 雄たけびをあげ、突き出されるスタンガンをヒラリと避け、その手首を掴み受け流す。そして態勢の崩れた足元をサッと祓うと、彼女よりふたまわりは体格の良い男が、簡単に床に叩きつけられた。その男の背後から首に腕を回すと、彼女の絞め技で男はあっさりと気絶した。 そうして、取り囲んでいた全ての男たちが床に這いつくばるのに、さして時間を要さなかった。 「まっ、こんなもんかな」 汗ひとつかかず、床で呻く男たちを見下ろすと、彼女はフゥと息を吐き出し緊張を緩める。 そして、バンの方へ歩いて行くと、開けっ放しのサイドドアから車内に上半身を突っ込み、少女の拘束を解こうとするのであった。 その間、俺は床でのびる男たちに苦笑いを浮かべつつ、あっちこっちに転がる武器を拾い上げていく。 そうして、拘束具に悪戦苦闘しているのだろう、必死に作業している彼女の方へ向かう。 「・・・・・・ッ、ダメだ。南京錠で外せない・・・・・・おい、どいつか鍵を持って・・・・・・」 どうやら拘束具を外せなかったらしい。振り向き、俺に助けを求めてくる。 そんな彼女の腹部に、手に持っていたスタンガンの電極を押しつけた。 ・・・・・・バチッツ!!・・・・・・ 想像してたよりも大きが音が手元からして、放たれた強い光で室内が一瞬だけ白く染まった。 「・・・・・・・・・・・・えっ?・・・・・・な・・・・・・なぜ・・・・・・・・・・・・」 電流で身体が弛緩し、足元に崩れ落ちる彼女・・・・・・ 「あッ・・・・・・あッ・・・・・・あッ・・・・・・」 何が起こっているのかわからず、涙と涎が垂れ流した顔で、必死に俺の顔を見上げようとする。 俺は、その首にもう一度、電極を押しつけるとスイッチを入れた。 閃光と共に、ビクッと大きく身体を震わせ、彼女の意識は闇へと沈んでいった・・・・・・ |