フェリア初陣 〜赤い天使の物語より〜 書いた人:北神的離
第四章 |
はぁい、あたしミゼット☆ ・・・こほん、始めまして、ミゼット・ファラクです。 私達は現在、盗賊団と交戦中、思いも寄らぬ苦戦を強いられています。 どうやら、何処ぞの馬鹿が情報を漏らしたものと推測されます。 ・・・どうやら、敵がここまでやってきたようなので、この辺で。 では、命があったら、またお会いしましょう。 第四章 騎士道ブレード 正午・・・。 ミゼットの元に、偵察を終えた斥候達が戻ってくる。 しかし、その中にフェリアの姿は無い。 「・・・あいつ、逃亡したんでしょうか?」 傍らにいる騎士の一人が、ミゼットに同意を求めるように呟く。 違う、彼女は思った。 フェリアの性格上、サボる事はあっても、逃げ出す事はまず無いはずだ。 他の斥候の報告によれば、東、西、南には盗賊は居なかったらしい。 となると、盗賊に遭遇し、捕まったか・・・。 「まずいわね。たぶんあの馬鹿、捕まったわよ。」 ミゼットは言った。 フェリアの身を案じているわけではない。フェリアの事だ、恐らくは、あの二枚舌と演技力を駆使して、自力でなんとかする事だろう。 問題は、フェリアがこちらの情報を漏らしていると思われる事だった。 こちらの数は50人。いかに情報を漏られたとしても、負ける要素は無い。 ただ、勝てないと感じた盗賊は、間違い無く逃げてしまうだろう。 そうなっては、この作戦そのものが水の泡となってしまう。 「みんな、急いで陣形を作って!作り終わったら、速攻で山に入るわよ!」 一同はミゼットの指示の元、すばやく陣形を張る。 日頃の訓練の賜物である。 こうして、ミゼット達49人は山へと入っていった。 それにしても、フェリアの行動をここまで読んだミゼット、さすがは宮廷魔導師といったところか。 しかし、いかに彼女とて、全能では無い。 まさかフェリアと間接的に戦うことになるとは、そしてよもやの大苦戦を強いられる事になろうとは、想像すら出来なかった。 「敵、発見!数は9人です!!」 樹の上から、盗賊の一人が報告する。 「ミゼットもいますぜ。」 と、付け加える。 「・・・あれは囮だ。」 盗賊団のリーダーは、静かに言う。部下が慌てて聞き返す。 「ミゼットがですかい?」 「ああ、お前はあのガキの話聞いていなかったな。ああやって、本隊を異常に目立たせて、俺達が本隊を攻撃したら、周りに潜んでいる別部隊が一斉に迎撃してくる陣形らしい。」 「ではどうするんで?」 「まずは別部隊から叩く。野郎共、棍棒は行き渡ったか?」 「ええ、でもこんなものどうするんで?」 「それはな・・・」 リーダーは、フェリアから言われたとおりに部下に説明する。 「よし!奴らの後ろに回り込むぞ、急げ!!」 リーダーの命令が響き渡り、盗賊達は、行動に移っていった。 「・・・おい・・・。」 「何だ?」 「盗賊共、いないな・・・。」 「ああ、もう逃げ出した後なんじゃねえの。」 「あの特級騎士様が情報を漏らしたんだろうよ。盗賊共はとっくに逃げ出した後さ。まぁ、俺にしてみれば、盗賊と戦わないで済むから、楽でいいんだがな。」 などと会話しながら歩く別働隊の後方に、すでに盗賊達は接近していた。 「しっかし盗賊なんか相手にこんな大げさな行軍なんか必要なうぐぅ!」 「おい、どうしたうぎぃ!!」 兵士達は予期せぬ後後方からの襲撃を受け、あっさりと気絶する。 盗賊の手には棍棒が握られている。 本当は剣で切り殺せば良いのだが、 『ミゼットは、目が少し悪いけど、その分耳と鼻が利くの。特に血の匂いには異常に敏感で、一q先の血の匂いも嗅ぎ分けることが出来るわ。だから、刃物は絶対使っちゃ駄目。棍棒で攻撃する事を薦めるわ。』 と、フェリアが言うので、棍棒で戦う事にしたのだ。 もちろんミゼットがそんな特異体質な訳が無く、無用な血を流させたくないフェリアのとっさについた嘘な訳だが・・・フェリア、ミゼットは鮫か何かか? 盗賊達は、その場に居た兵士5人を瞬く間に倒した。 「よし、ここの兵士共は皆倒したな。次行くぞ、次!!」 盗賊達は、この調子で兵士達を次々と倒していく・・・。 「さあ、残るはお前達だけだ、覚悟するんだな。」 「・・・・・あの馬鹿。」 盗賊達に囲まれ、ミゼットは呟いた。 フェリアが、情報を漏らす事は予測済みではあったが、まさかこちらの陣形を予測して、それを打ち破る最善の方法まで教えるとは想像すら出来なかった。 「へっへっへ、これが宮廷魔導師ミゼット・ファラクか・・・。思った以上にいい身体してやがるぜ。」 盗賊の一人が舌なめずりをする。 ミゼットは不快だった。 こんな奴に自分の身体を弄ばれる想像をされていると思うとそれだけで鳥肌が立つ。 「・・・勝てると思ってるの?この私に。」 不快感を抑えながら、ミゼットは静かに言った。 「へっ、状況を見てから言いな。こちらは20人、そちらは10人足らず。数の上ではこちらが圧倒的に有利。おまけにそっちに残ってるのは戦の『い』の字も知らないような騎士共だけじゃねぇか。」 盗賊の一人が言い放つ。 それを見ている盗賊のリーダーの内心は不安だった。 『ミゼットを護衛している騎士たちは、戦の経験も無いただの数合わせみたいなものよ。いざ戦闘になれば、我先に逃げ出すような腰抜けばかりだから、無視してもいいわよ。』 と、フェリアは言っていたが、リーダーにはどうも信じがたかった。 目の前にいる騎士は、確かに戦闘経験は少ないだろうが、訓練を充分につんでいる様だ。 鎧に包まれていてもそれと判る鍛えぬかれた筋肉がそれを物語っている。 「どうやら、痛い目を見ないと判らないようね・・・。」 言いながらミゼットは、静かに右手を上げる。 「さあ、いきなさい。」 そして薬指と小指を折り曲げ、盗賊達に向け、手を振り下ろす。 次の瞬間、騎士達と盗賊達の激戦が開始された、 と思われたのだが・・・ 「ひぃぃぃぃ!に、に、逃げろぉぉぉぉぉ!!」 「こ、ここ、こ、こ、殺されるぅぅぅぅぅぅぅ!!!」 「助けてくれぇぇぇぇ!!」 騎士達は剣を放り投げ、鎧を脱ぎ捨て、つまづきながら蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げていった。 「・・・・・・・・。」 手を前に伸ばしたままの姿勢でしばらく硬直しているミゼットと、なにが起こったのか判らず、しばし呆然とする盗賊達・・・。 ようやく頭の中を整理し、事態を飲み込めた盗賊の一人が言う。 「へっ、どうやら仲間にも見捨てられたようだな。」 「さあ、お楽しみの始まりだ。」 「覚悟するんだな、宮廷魔導師殿。」 じりじりと寄ってくる盗賊達・・・ ミゼットはうなだれ、静かに目を閉じた。 |