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    第2話:宴の支度

川田は、夜の渋谷を玲子と2人で歩いていた。
チラチラと彼女の横顔を流し見る。
ツンと澄ました整った顔立ちは、「可愛い」というより「綺麗」という表現がぴったりくる。
こいつも見た目はいい女なんだけどなあ。
そう川田はしみじみと思ってしまう。
見事な脚線美を強調するような、タイトなミニスカート。
それでいて、どこかネコを思わせるような、しなやかな身のこなし。
夜の繁華街を濃厚な女の色香をはなつ美女と2人で歩けるとなれば、男にとっては実にうらやましい限りだ。
しかし今夜はそんな色っぽい展開には到底なりそうになかった。

これよりさかのぼること数時間。

「じゃあ、早速準備に取り掛かりましょう。」
「準備って、おい。何をするんだよ。」
「決まってるじゃない。明日はカヲリ嬢にわざわざ私の家に御越しいただくのよ。たっぷりおもてなしして上げなくちゃ、失礼じゃない。」
あなた男なんだからひとつくらいそんな店を知ってるでしょ、ネエとしなだれかかるように艶笑してくる玲子を見て、川田もうなずく。
「ははあ、なるほど。じゃあ、知りあいから教えてもらった店に行ってギッチリ責める道具をそろえるか。普通じゃ手に入らない逸品ぞろいって話だぜ。」
「ふふ、楽しみね。」

というわけで、2人は渋谷にあるという、怪しげな道具屋に向かっているのだ。
果たして道玄坂をのぼっていったところにある汚らしい雑居ビルの中にそれはあった。

「マンサク堂...?」
「ああ、ここだな。間違い無い。」
そう言いながら川田はズカズカとうさんくさい名前の店内に入っていく。
玲子も慌てて後に続いた。
崩れかかったビルの外見とは裏腹に、店内は意外なほどこざっぱりとしていた。
もちろん商品である珍妙な道具は散在している。

「いらっしゃい。」
カウンターに座っていた店主がしわがれた声をあげる。
年も60を過ぎているだろうか。
定年後にしがなくやっているに違いない、こんなふうには落ちぶれたくないなと、川田はふと思うのであった。

「ああ、ここに普通じゃ手に入らないものがあるって聞いたものでね。」
「ふふふ、いろいろ揃えておりますぞ。お客さんの思うがままの道具がね。」
店主は何がおかしいのか、フェフェフェと笑い声を上げる。不気味な親父だ。
それほど自慢するほどのものがあるとも思えないが...ざっと見まわしても店内はその手の店や通販でよく見かける市販品がほとんどだ。

それでもこんな店に初めて来た玲子はもの珍しげにキョロキョロと店内を見まわしている。ふと薬のような瓶を手にとって早速物色を開始する。
「ねえ、何か気持ちよくなるような薬ってないの?」
玲子のような妖艶な美女に声を掛けられ、店主も思わずつばを飲みこむ。
「ほぉ、お客さんがお使いなさるんで?」
「違うわよ。私は不感症なんかじゃないんだから。友達で、やってる最中でも全然感じないって娘がいてね。かわいそうなのよね。話を聞いてると。」
なんかわけのわからん話をでっち上げるが、美女の話というだけで親父はうんうんとうなずいている。
おいおい、信じているのか?
全く大丈夫かよ、このモウロク爺は、と川田は悪態をつく。

「これなど、どうじゃい。塗るとなんとなくむず痒くなって、普段よりも感じてしまうという米国製の逸品じゃぞ。」
「うーん。なんかつまんない。もっと気の狂うほど感じちゃうようなものってないの?」
「ほぉ、難しいことをいうお嬢さんじゃな。」
フェフェフェっとしわくちゃの顔を更にしわくちゃにしている。
玲子も玲子だが、親父も親父だ。
らちのあかない不毛なやり取りに嫌気が差した川田は、

「爺さん、この名刺を出せば、なんの心配もないって聞いたんだけどな。」
と、懐から1枚の名刺を差し出した。何気なく受け取った店主の顔つきが、これまでの好々爺したものから一変する。
そこには「帝国特殊諜報部 部長 時田義男」の名が刻まれていた。

「おお、あなたは時田部長のお知り合いじゃったのですか。時田部長にはお世話になっていますぞ。」
「俺の叔父にあたるんだ。あの人も女に目が無いからね。酒を飲んでいる席でなにかそういう道具が必要になったときにここにくればなんでも揃う。わしの名刺を渡せばいい、って預かってきたんだ。」
「そういうことでしたか。確かにここは真日本帝国随一の品揃えを誇っておりますぞ。そんなくだらんオモチャは置いてわしについて来なされ。」
机の裏にあるスイッチを押すと、なにやら地下におりる階段があらわれた。
老人に続いて、2人も降りて行く。

「ちょっと、大丈夫なんでしょうね。」
心配顔で玲子がささやく。このままとって食われたりして...
「うん、たぶん大丈夫だろう...」
川田も先が読めない分、頼りない返事を返す。
豹変した老人の態度も気がかりといえば、気がかりだ。

薄暗い地下室にたどり着く。
天井が低い、一見普通の地下室に見える。
が、老人が明かりをともすと様相が一変した。
先ほどと違い、まるで見たこともないような道具がところ狭しと並んでいる。
しかもどれも新品同然だ。

「フェフェフェ、どうです...」
老人が不気味な顔で川田を覗き込む。

「驚いたな、店の地下がこんな風になっているなんて。」
奇妙な形をした張り形を手にする。
共和国肉体性能研究所MF−8972?
なんだこれは?

「ほほほ、これらは全部とある所から極秘に入手した品々じゃよ。まあ、早い話が共和国からの密輸品じゃな。
これには時田部長のコネが不可欠でな。
あの方は日用品から軍需物資までを大量に密輸しているグループを見逃している代償に、たっぷりと袖の下をとっておるからのお。
わしも時田さんのそのルートを利用して、共和国からこれらの道具を入手しとるんじゃ。
これでイロイロ甘い汁を吸わせてもらっておるよ。
人身売買組織や会員制地下倶楽部などに独占的に売らせてもらっとるからの。」
「へぇ。」
「ただし...」
老人は、いつのまにか相手を射すくめるような眼光に変わって川田をねめつけてくる。思わず背筋がゾクりとする。

「このことは他言無用じゃぞ。もし密輸なんぞにかかわっていることをばらせば幾ら甥だからとて、時田さんもタダでは済まさんじゃろう。」
「は、はい...」
「フェフェフェ、よかろう。それさえ守ってくれるのなら、どんなことだろうと、わしは協力しよう。」
老人はもう温和な顔つきに戻っていた。

「共和国にあるという肉体性能研究所。
わしもまだ見たことはないが、女にとってはずいぶん恐ろしいところらしい。」
玲子は「女」というキーワードに思わず反応してしまう。

「なんでも生身の女を監禁した挙句、女体を限界まで色責めにかけてデータを数値化し、それを元に責め具のプロトタイプを作成、再び実験を繰り返す。
これにより肉体を狂わす道具はどんどん洗練されていくのじゃ。
その道具を使われて耐えきれる女など、この世にいるはずがない。
まさにこの店にある道具というのは女どもの汗と涙と体液の結晶なのじゃよ。
だから帝国内部でも引っ張りダコ。
まあ、女を屈伏させるのにこれ以上の道具はないからのお。」
聞きようによっては恐ろしい話だ。
だが玲子は怪しい興奮が体の奥底から沸き起こるのを感ぜずにはいられなかった。
これをあの憎いカヲリに使えば.....そう考えただけで股間がうずいてくる。
フフフ。

「そういえば、お嬢さん。媚薬をお探しでしたな。」
すっかり元のひなびたスケベ爺にもどった店主は、玲子みたいな若い女性と話せるのがたまらなくうれしいらしく、顔を近づけてくる。生臭い息が顔にかかる。

「ここらへんですなあ。媚薬関係は。」
「あら、これなんかどうなの?」
なにやら綺麗な光沢の瓶を手にとって店主のほうに見せる。

「ああ、それかな。えらく強力なやつですな。只これは自白用でしてね。
最近も潜入に失敗した帝国のエージェントに用いられて地獄のような悦楽を与えたと聞いておりますよ。
まあ、普通にお使いになるのでしたら、これなどどうじゃろう?」
老人はなにやら怪しげな液体の入ったペットボトルを取り出した。

「これは、少量でも効き目がありますが、繰り返し投与されるたびに加速度的に効果が増す媚薬なんじゃ。陰部に入れられたらひとたまりもなかろう。」
ふぇふぇふぇ、とさも楽しげに話す。
玲子は想像しただけで、それが自分に使われているような錯覚を起こし、腰の辺りがしびれてくるのだった。

「使われたら人格を破壊するかもしれない数十倍の効果を持つエクストラタイプもあるがのぉ。まあ普通の女はこれくらいで充分じゃろう。」

玲子は目にした道具について、次々と店主に尋ねていく。
貞操帯のようだが、違うのは股間にあたる部分から2本のディルドゥが突き出ているのだ。どちらも極めて太い。直径5センチはあるだろうか?

「これは何?」
「まあ、一種の新型貞操帯なんだろうが、どちらかいえば装着された女を責めさいなむための道具じゃよ。
面白い仕掛けもありましてね、ここを..」
店主が操作した途端に液状のものが張り型の先から勢いよく噴射される。

「きゃっ!!」
「ふぇふぇふぇ、この貞操帯は横にちょっとしたタンクがありましてね。
そこにミルクとか入れておくと今みたいな楽しいことが出来るわけで...タイマー起動で一定間隔で発射し続けることもできますし、もちろんミルク以外の物も入れたりできますよ。たっぷりとね。」
玲子の意地悪な考えを見透かしたように老人は語りかける。
「自分では取り外したり出来ないの?」
「ロック式なんで、装着された人間が自分ではずすことは出来ないようになっとるよ。」
「ふふふ、もちろんアソコを触ることも出来ないわけね。」


一方、川田は部屋の片隅で見なれぬものを見つけた。

「このシャツはなんだい?」
確かにそれは一見アンダーシャツに見える。
すべすべしたシルクのような肌触りが実に心地いい。

「ああ、そうみえてもそれは拷問用に使うものじゃ。
その内側には無数の繊毛があってな。
着せられたが最後、身体の隅々まで死ぬほど嘗め尽くされるのじゃよ。
決して獲物を休ませる事の無い動きに、工作員は夜も眠らせてもらえず、最後は発狂するそうだ。」
「ほぉ、それは恐ろしい。」
川田は、あのクソいましましい課長にこれを着せたと気のことを妄想する。
あの怜悧で高慢な理恵も泣いて許しを請うのだろうか?
女の部分から恥ずかしい樹液を撒き散らし、乱れ狂うのか?
でも女である限り、それは避けられないことだと思う。
これほど醜悪な道具を使われたら...

「じゃあ、これだけもらうよ。」
更にいくつかの小道具も物色した川田と玲子は気に入った道具を並べ立てる。
それにはグリセリン溶液や、利尿剤までもが含まれていた。
肉体を限界まで責めるために。

「お金は、いらんよ。そのかわり時田部長によろしくな。」
老人は幾ら払おうとしても頑強に拒否した。
仕方なしに川田たちはそれらの道具をもらって帰る。


これにて陵辱の宴の準備は整った。
まずは最初のターゲットのカヲリを思う存分もてあそび、恥辱の限りを与えるだけである。
あのカヲリのみずみずしい肉体を想像しただけで、川田は興奮するのを禁じえなかった。
こうなれば、とことんやるだけだ。
玲子と顔を合わせて、にやりと笑う。
2人の若き陵辱者は、渋谷の街から消えていった。


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