「西へ」 −バーシア アナザーエンド− 場面15
■ フェルナンデス 3月25日 夜 安宿 その夜、浮かない顔をして帰ってみると、バーシアの事だ。 早速何かを感じ取ったらしい。 その重苦しい雰囲気のまま、食事を済ませた後で、「どうしたの?」と聞いてきた。 しかし、売人から持ちかけられた話など、できるはずもない。 大したことじゃない、とお茶を濁すしかなかった。 しばしの沈黙の後、バーシアのほうからおずおずと切り出してきた。 【[バーシア]】「実は…働きに出ようと思っている」 【[主人公]】「働く…? 何故そんな急に…それに仕事って言っても…」 そう簡単に見つかるわけもないはずだが、一体… 【[バーシア]】「いい働き口があるって教えてくれた人が居てね。町外れにあるスタークってお屋敷らしい」 【[主人公]】「スタークだって!? おい、それってまさか…メイドの話か…?」 【[バーシア]】「なんだ、知ってたのか」 それは残念と言葉を続ける。 【[主人公]】「いや、オレもさっき聞いたのだが…しかし…」 その仕事の内容をバーシアは知っているのか? 【[バーシア]】「メイドで高給取りになれるっていうんだから、いいじゃない?」 さばさばと言ってのけるが、殊更”メイド”を強調していることからも、薄々仕事の中身に気付いていることは想像に難くない。 でないと、これだけ高額な報酬を約束されるというもの、かえって不自然だ。 【[主人公]】「いや…しかし…」 【[バーシア]】「大丈夫よ。うまくやるから…ねぇ、ミサキちゃん」 バーシアはミサキをあやしながら、もう一度、大丈夫よ、と繰り返した。 その言葉は、オレに向けられたものか、それとも自分自身に向けたものなのかは 分からなかった。 しかしそんなバーシアに対し、掛ける言葉があろうか? いや、オレに掛ける権利があるのだろうか? この前の肉屋の件がある。今度行く先もろくでもない輩である可能性は十分にあるのだ。 その報奨が高ければ高いほどに。 だが、その点に関してはバーシアも熟慮を重ねて出した結論のはず。 【[バーシア]】「でも元軍人だったワタシをメイドにできるスタークって奴は贅沢だな」 努めて明るく振舞っているバーシアの様子が、何だか痛々しくもあった。 |