「西へ」 −バーシア アナザーエンド− 場面14
■ フェルナンデス 3月25日 夕方 裏通り いつもの路地裏で、いつもの売人を見つけ、いつもの薬を購入する。 しかし、いつもの薬だとめっきり効き目が悪くなってきた。 それはやはりオレの体の具合が、日に日に悪化していっているからだろう。 あの事故により、オレは体の一部を失うこととなったが、影響がそれだけに留ま ったはずがないのだ。 あの衝撃の大きさを考えれば。 体のダルさなど自律神経系の病でおさまっていたものが、それだけでは飽き足ら ず、身体のアチラコチラを蝕みはじめたようだ。 胃の腑が時折刺すように痛み、咳き込んだときには吐血するまでになった。 オレの内蔵は、腐り始めているのかもしれない。 それをなんとか紛らわせるために、こんな妖しげな売人から詳細不明のドラッグ を買いつづけているが、果たして延命のためなのか、それとも命を縮めていることになるのか定かではない。 苦しみながら長生きするか、それとも楽に死ぬか。 オレならば、間違いなく後者を選ぶだろう。 所詮、今のオレの命など、生きていても死んでいても大して変わらないものだか ら。 いつ死のうが、惜しくもない命だ。 ただ、気がかりなのはバーシアとミサキのことだ。 肉屋を叩き出したと同時に、バーシアの裏の稼業は回転休業状態になっている。 盛大に宣伝できる性格のものではないが、おそらくは恨みに思った肉屋が裏で糸 を引いているのかもしれない。 それでは、さすがに日々の生活にも事欠くようになってきた。 何か考え事をしている風に見えたのか、ドラッグの売人のほうからオレに話かけ てきた。 【[売 人]】「なんだが、悩み事か?」 【[主人公]】「いや、別に…」 【[売 人]】「フン、そんなことを言って。ずばり…金なんだろう?」 図星を言われると、さすがに返す言葉も無い。 【[売 人]】「そうだと思った。実はな…ひとついい稼ぎ口があるんだが、乗るかね?」 【[主人公]】「やばい話ならお断りだ」 【[売 人]】「へっ! こんな所で薬を買っている奴の言う台詞か、それが」 【[主人公]】「フン」 【[売 人]】「あんた、奥さんはいるかい?」 【[主人公]】「?? 同じようなのが居るには居るが…それがどうかしたのか?」 【[売 人]】「ネタの仕入れ元は秘密なんだが…この街一番の金持ちのスターク家は知っているかい?」 【[主人公]】「いや…」 【[売 人]】「そこがな、新しいメイドの募集を始めたんだよ。ごく最近な」 メイド…? それが高額の仕事と、どう結びつくんだ? 【[売 人]】「スタークの現在の当主は、その…アブノーマルな趣味の持ち主でな。そこのメイドといえば、だいたいやる仕事は決まってくるってもんだ」 やはり…また肉体で奉仕して金を貰うって類いの話か! 【[主人公]】「いや…その手の話は、もう…」 【[売 人]】「しかし、金が必要なんだろう?」 【[主人公]】「……」 【[売 人]】「確かにアイツは変態だ。筋金入りのな。しかし、それを考えても破格の条件だぞ、これは」 【[主人公]】「しかし…」 迷っている顔をしていると、ここぞとばかりに叩きかけてくる。 【[売 人]】「フン、しけた顔しやがって。 景気付けにこの取っておきのを打っていきな…フフ、これは効くぜ」 目の前に置かれた純白の粉末… その白さが、またオレを駄目にするのか…… |