「……ってなわけで、まず気を付けないといけないのは、その『毒の護り』を外さない事。身に付けてるだけで毒の攻撃は中和されるから。もし、毒にかかった場合、その護りを使えば、一定確率で破壊されるものの、『毒素中和』の魔法がかかるようになってる。絶対に無くさない事」
 少女としか思えないような小柄な女性が、ぬぼっとはしているが立派な青年に向かって、胸を張りつつ説明を繰り返していた。
「さ、本題に入るわよ。今日の目的は『クラリア・ツリー』の種を取ってくる事。あいつらは人を見ると種を植え付けたり、その死体を栄養にしようとするから、気をつけるように。移動速度は遅く、攻撃手段は主に触手による絡め取りや殴り付け。特殊攻撃としてはさまざまな花粉や樹液なんかを飛ばしての、麻痺、睡眠、呼吸困難などに陥らせる毒攻撃が多い……と、ここまでで質問は?」
「はぁ…………別に……」
 青年は頭をかきつつ、気の無い返事を返した。別段聞いていなかったわけでは無いのだが、その注意の意味と危険性を深く聞き取ってはいなかったようだった。
「ホントに分かってる? それじゃ今回の目的は?」
「え? 目的……なんでしたっけ?」
 女性は握り締めた拳を震わせながら、早足で青年に近寄ると、その拳を青年の腹部に叩きこんだ。「ぐふっ」とこもった声をあげて崩れ落ちる。
「こぉんのぉ…………ヌケ弟子!! そんなことすら覚えてられないの?!」
 今回の目的、それはこの迷宮の奥に生えているはずの『クラリア・ツリー』が出てきて、近くの家畜を襲っているらしい。そのためにその駆除をお願いされたのだ。勿論、それ以外の打算もあるのだが……。
「まぁ良いわ。さっさと用意しなさい。潜るわよ」
「え? も、もうですか?」
 慌てたように言う青年に、女性は容赦無い回し蹴りをくらわせる。
「何を聞いてたのよ! ヤツラはその習性から、朝になったら這い出てくるでしょうが!」
「師匠! すぐに暴力に訴えるのは止めてください!」
 師匠と呼ばれた女性は弟子の目の前に仁王立ちになり、両手の指を鳴らしている。場合によってはそれ以上もありえると言わんばかりに。
「そうでもしないと、あんたはわかんないんでしょうが。ほら、荷物持って。ほら! 短剣と袋、忘れてる! しょうがないバカ弟子よね、あんたって」
 一人、先に準備を終えた師匠は迷宮への入り口にもたれかかって待っている。乱暴に扱われながらも、師匠の言葉に慌てて荷物を準備する弟子。
「なんだったらあんた一人、入り口で待ってても良いよ」
「行きますってば! 待ってくださいって!」
 師匠はそのまま振りかえりも、足を止めもせず、ただ背後に向かって手をひらひらと振りながら迷宮に入って行った。弟子はそれを追いかけて行き、暗がりに消えていった。


「しっかし、浅い迷宮ね〜。地下三階なんて、どっかの城より狭いわよ」
 ランタンをかざしながら、湿ってカビ臭い迷宮を潜り込んでいく。師匠が集めた情報ではこの迷宮はこの階で最下層である。そして目の前にそびえている大きな門が、『クラリア・ツリー』を遮っていたものだった。しかしその門も、最近起こった地震で大きく割れて傾き、漆黒の口を開いている。
「さて、ここからが本番だからね。気合い入れて」
「ねぇ、師匠……ホントにここにいるんですか? なんか気配も無いし、それにいつまでも同じ場所にいるとは限らないでしょ?」
 弟子がそう言った直後、しゃがんで覗きこんでいた弟子の頭に師匠のヒジが落ちた。
「いたいっ!! 痛いですって、師匠!」
「あらかじめ生態を調べておくように言っておいたよねェ? 『クラリア・ツリー』はどういうところに自生するんだっけぇ?」
 そう言われて、悩みつつも自分の調べた内容を記憶から引き出そうとする弟子。
「えっと……」
「遅いっ! 必要な知識は詰め込むだけじゃなくて、すぐに引き出せるようにって言ったでしょうが!」
 再び同じ位置にヒジを叩きこむ師匠。
「ぐああぁ……痛い……痛すぎる……」
「冒険において一瞬の戸惑いは死に繋がるのよ! しっかり覚えてなさい!」
 床を転がりまわる弟子に、師匠は再び容赦の無い言葉を投げかけた。
「『クラリア・ツリー』はね、一度苗床を決めると、増えすぎるか、そこが使えなくならない限り、そこに定住するものなの! ちょっと調べてもそれくらいわかるわよ?」
 師匠はそれだけ言うと、軽く指で空中に図形を描き、ぶつぶつと何かを唱えた。するといきなり、身を切るように冷たく、そして人が吹き飛ばされそうなほどの強風が隙間から奥へ向かって吹き込んだ。
「そして温度と湿度によって季節を感知、冬を前にしたら栄養を多く確保するため、外へと頻繁に出始める……。つまり、いま、魔法でやったみたいに冷やしてやれば……ほら、お出まし」
 通路の奥、暗がりからずるりずるりと言う音が近づいてくる。弟子が唾を飲む、ごくりと言う音が響いた。
 『クラリア・ツリー』。それがランタンの明かりの届く範囲に現れた。細い軸のような幹が直立し、その上に子供の腕で一抱えもありそうな丸い部分が乗っかっている。そしてその軸の下や横から、根や枝が進化したであろう触手のようなものがうねっていた。
 とりあえずは足止めしておいて……でないと作業できないしね……。師匠はそう考えて、かなりの広範囲に効く、氷系の魔法を唱えようとし始めた。……その時だった。
「『疾風裂断』!!」
 弟子がいつのまに唱えたのか、風系の攻撃魔法を放った。効果のほどは言葉を読んで字の如く。魔法に精通した人物ならともかく、通常はそういう効果を意味した言葉や、付けられた名前を口にする事で、魔法のイメージを固めやすく、かけやすい。
 と、そういう説明をしている場合ではなく。
「あっ!! あぁぁああ!! アンタなんてことしてんのよ!!」
 弟子の魔法が命中した場所は、『クラリア・ツリー』の球体部分。そこを半分にしてしまっていた。そしてそこは、師匠にとって目当ての場所でもあった。
「え……だって……あそこって弱点じゃ……」
 通常の生物なら、頭らしき部分は弱点と相場は決まっている。しかし、相手は植物、しかもあの部分は実とも言える部分であった。
 斬れ落ちた部分からコロコロと種が転がり落ちる。その幾つかは魔法の効果で切り裂かれている。
「アンタね………………ふぅ……まぁ良いわ。言っとくけど種には毒があるのよ。それを切り裂いたりしたら、毒が空気に乗ってまわるから、そこらへんは気をつけなさい」
 怒りを押し殺し、穏やかな口調で言った。目の前に、雑魚とはいえ、魔物がいるのだ。弟子にかまっている場合では無い。
「でもその辺は、備えあれば憂い無し。護り、持ってて良かったでしょ…………って、アンタ、どうしたのよ? 大丈夫? ちょ、ちょっと!!」
 突如動かなくなった弟子の身体を揺さぶる。口元に手を当ててみたり、目の前で手を揺らして見たり……。
「ね、寝てる? なんで? 護りがあったら……『炎の護り』?! な、なんでよ!? なんでそんなのつけてんの!?」
 襟を掴んでがくがくと揺さぶるが一向に目を覚ます気配が無い。どうやらかなり強い毒のようだ。
「仕方ない……こいつはほっといて……」
 振り向きざま、隙間から出てこようとしていた一体の幹に光の束を叩き付け、貫いた。そして幹が折れ、その場に崩れ落ちた。
「まったく……作戦変更もいいところよね……。でも全部潰しちゃうと赤字だし……」
 一気に間合いを詰め、最初に準備してた魔法と同じ氷系の魔法を床に向かって放った。その前の魔法で空気は冷却され、湿度は水に変わり、そして今の魔法によって水が氷に変わった。『クラリア・ツリー』が動くのに使っている触手も同時に氷漬けられ、その動きを止めた。
「これで時間稼ぎできた、っと。それじゃこいつ治しますかね。見てるだけでも修行になるし。このまま寝てちゃ意味ないもんね」
 師匠は指で何か印を描き、そしてなにかを唱えた。右手の指先におぼろげな光が灯り、それを確認すると、ゆっくり寝ている弟子に近づいていく。この魔法は相手の身体に接触しないとかからない。
「まずは解毒……っと」
 弟子に手を伸ばす。しかしその手は触れる直前で動きを止められた。手首に触手が巻きつき、全力を込めてもビクとも動かない。
「なっ!?? なんで? 敵は全部足止めしたはず…………」
 慌ててその触手の来ている方向を見る。
 それは…………上だった。
 触手を器用に使い、天井に張りついている『クラリア・ツリー』。いや、『クラリア・ツリー亜種』。それが通路を伝って張ってきたのか、それともその場で休眠していたのかはわからないが、そんな亜種の報告など一度も無かった。
 不意を付かれた師匠は、指に溜めていた『毒素中和』の魔法を解放した。手が固定されている状態では、魔法を放つ方向も限られ、ものによっては魔法すら発動しない。そして発動しても、接触の必要な魔法は意味が無い。
 師匠は触手の力に抵抗しつつ、二の腕に付けていた『毒の護り』を口で剥ぎ取った。そしてそれを弟子の身体の上に吐き出す。
「護りよ。汝、その内容せし力を現せ。かの者を束縛せし毒素を消し去れ。解!」
 そう唱えると、護りはさっき、師匠の指先に灯っていたのと同じような光を放つと、光は徐々に弟子の身体に移っていき、突如としてフッと消えた。恐らく無事解毒が終わったのだろう。しかしそれに合わせて護りは音を立てて砕けて消えた。確率的には一度で壊れる可能性は少なかったのだが、どうやら運が悪かったようだ。
「毒は消えたはずだから……ほら! 起きろ! こら!!」
 半ば吊り上げられている師匠は、器用に片方の靴を弟子の頭に蹴るように叩きつけた。
「いたっ!! 痛いですよ、師匠!」
 毎日のことなのだろう。条件反射のようにそう言いながら身体を起こす弟子。
「うっさい! さっさとこの上のをなんとかしなさい!」
「な、なんとかって、どうすれば良いんですか!? …………あ……うわぁ!!」
 師匠を見て慌てていた弟子は、通路から出てこようとして氷漬けられている『クラリア・ツリー』達に気づき、一層の混乱に陥っていた。
「わ、わ……か、『火炎嵐破』!!」
「あ! ば、馬鹿者〜!!」
 弟子を止めようと師匠は叫んだが、時すでに遅く、弟子は火系の魔法を通路めがけて放っていた。触手を足止めしていた氷は、その火系魔法の熱で溶け、逆にその氷に護られるように、炎は『クラリア・ツリー』の表面をあぶっただけにとどまった。
 ゆっくりではあるがワサワサと近づいてくる『クラリア・ツリー』に、再び慌て始める弟子。
「し、師匠! どうしましょう!!」
「どうするもなにも、水は蒸発しちゃってるから同じ手は使えないし…………つつっ!!!」
 考えはじめた直後、鋭い痛みを手首に感じた師匠は、ふと上を見上げた。手首に触手の先から突き出た鋭い針が刺さっており、触手は脈動しながら、そこからなにかを流しこんでいるようだった。徐々にめまいが師匠を襲う。
「と、とりあえず……手を縛ってる触手を切ってよ……」
「あ、はいっ! いきます! 『疾風裂断』!!」
 再び弟子の放った風の刃が、手に絡んだ触手を切り裂く。解放され、床に倒れこんだ師匠は、まだ手に残っている破片を解き捨てると、大きく息をついた。
「次、上の……こいつ……」
 徐々に荒くなっていく息、集中できない思考。魔法を唱える事もできない状態の師匠は、天井に張りついたまま、のたうっている亜種を指差した。
「はい! えっと……『闇弾滅去』!!」
 弟子が放った漆黒の球体は、吸いこまれるように目標へ向かい、そしてぶつかると共に亜種の大半の部分を消し去った。
「つ、次! 通路……通路を封鎖して……」
「え、あ、で、でもどうやって……」
 戸惑う弟子に、師匠は近くにあった瓦礫を指差した。
「『石守護兵』でも作って、裂け目に立たせておきなさい! 一時しのぎにしかならないかも知れないけど、それでも良いから!! 早く!!」
「は、はい!」
 弟子は師匠の迫力に圧され、慌てて『石守護兵』の魔法を唱え、瓦礫に放つ。石ががちゃがちゃと変形しながら集まり、一体の大きな人型となった。
「あの扉の前に立って、通路から来る敵と戦え!」
 弟子が命令すると、『石守護兵』はゆっくりと動き出し、言われたとおりに行動し始めた。丁度扉に指しかかった『クラリア・ツリー』ともみ合いになる『石守護兵』。力は若干『クラリア・ツリー』の方が強いようだったが、そこを通りぬけるためには、かなりの時間がかかるようだった。
「師匠! 逃げましょう!」
 倒れこんでいる師匠にかけより、抱き起こす弟子。しかし師匠はそれに首を振った。
「『毒素中和』かけて」
「何を言ってるんですか、こんな状況で」
 師匠は弟子をキッと睨みつけた。熱があるのか顔が紅潮している。
「このままじゃヤツラ、この迷宮を抜け出して近くの村とか襲うでしょうが!! そんなこと、放っておけないわよ! しかもヤツラをたたき起こしたのはアタシなんだから!」
 弟子はふぅと息をつき、『毒素中和』の魔法を唱え始めた。
「悪いわね……」
 落ち込み気味にそう言う師匠に、魔法の溜まった指を近づけようとした弟子は、突如ビクリと身体を仰け反らせた。
「な、なに? …………あっ!!」
 『石守護兵』と『クラリア・ツリー』の勝負は、どういう流れか、『石守護兵』が勝ちつつあった。しかし、その敗色濃厚な『クラリア・ツリー』は最後の力を振り絞り、仲間の苗床にすべく、弟子の身体に触手を伸ばし、何らかの毒を流し込んだようだった。
 弟子は身体を仰け反らせたまま、大きく後ろに倒れこむ。師匠は慌てて近寄り息を確かめた。……息はしている。そしてどうやら意識もあるようだった。
「麻痺毒……ね」
 これじゃ……コイツに治してもらう事を期待するのは無理ね……。心の中でそう呟くと、扉の方をちらりと見た。『石守護兵』はまだ持ちそうだ。魔法をかけた本人がいなくても、例え死んだとしても継続される魔法で良かった。
 師匠はすぅと大きく息を吸うと、最後の手段を取る事を決めた。今、自分は毒に犯されている。種類は……催淫毒……欲情をあおるのだ。実際、彼女の身体は興奮状態にあり、波のように襲ってくる衝動に、ものを考える程度ならまだしも、魔法を使うほどの集中は出来ないでいた。
 身体にも異常が現れている。秘部からはどんどんと愛液が溢れ出し、床にまるで失禁でもしたかのように水溜りをつくりつつあった。
 彼女は着ていた貫頭衣の裾に手をかけ、一気に脱ぎ捨てた。喋れないでいるが、弟子の瞳に驚きの色が浮かぶ。
「ほら……じっとしてて………って、動けないか……」
 種族ゆえに人間から見れば幼く見える肢体が、床に転がったランタンの頼りない炎に浮かび上がる。ほとんど膨らみのない胸、くびれの浅い胴に、無毛な下腹部……。それらが弟子の中の背徳感を煽り、彼のペニスは服の上からでも大きくなっているのが分かるほどになっていた。
 それを見つけた師匠は、彼の服をずらしてペニスを引きずり出すと馬乗りになって、自分の秘部へこすりつけ始めた。それまでに溢れ出していた愛液が恥丘や太ももをじっとりとぬらしていた。外見からはスジにしか見えないが、恐らくその中には熱く濡れそぼった膣口が開いているのだろう。
「んっ……んはぁ…………人間の男なんて久しぶりぃ……しかもおっきい……」
 うっとりとした表情でペニスを擦り付け続ける。熱い液がペニスを伝って弟子の股間も流れ落ちる。そのたびにペニスはびくびくと震え、彼女の興奮を一層高めて行った。
「んぅ……い、いれるからね…………んうぅぅうっ!!」
 ペニスをスリットの中心にあてがい、一気に腰を落した。恥丘や膣のヒダといった熱い肉がペニスの進入を拒むように纏わりつく。が、同時に中からほとばしる液が弟子の腹あたりまで飛び散って濡らし、潤滑の役目を果たした。結果細い穴をニュルニュルと這いずり込んでいくような感触がペニスに走った。
「ふああっ!! すご……きもちい……あふあああっ!!」
 彼女は髪を振り乱し、少しでも感じようと貪欲に腰を振っている。それは催淫毒の効果なのか、それともその毒の効果を一時的にでも緩めようとしているのか。おそらくは師匠本人もわかっていないだろう。
「んっはぁ…………早く……早くしないと…………ヤツラが来ちゃう……」
 幼女のような身体ががくがくと上下に激しく揺れる。その陰部はめいっぱいに広がって、今にも張り裂けそうになりながらペニスを飲みこんでいた。本来なら動くのさえ妨げられそうな具合なのだが、それは刺激に変換され、激しい動きに更なる快感を生み出していた。
 背後でゴバッ!と音がした。視界の端でそれを見てみると、『クラリア・ツリー』が『石守護兵』を破壊し、瓦礫に戻ったその身体の上を越えて出てくるところだった。動きが遅い事が一層の不安感を煽る。
「もっと……もっと早く……んっんっ……んふぅ………………ん、ん? あっ!!」
 より強い快感を求め、どんどんと速度を上げていく。貪ると比喩できるほどの激しさも、あと少しで頂点を突き詰めようとしていたときだった。突然お腹の中に熱さを感じると、みるみる内に膣内を消失感が支配した。
「え、あ、こ、このバカ弟子……ひょ、ひょっとして……イッちゃったのぉ!?」
 ゆっくりと腰をあげると、弟子のペニスはぐったりと萎え、精液を先から滴らせながらへたっていた。そしてその上に、師匠の膣から溢れた精液が落ちる。
「ど、どうすんのよ……もう……」
 そう言いながら師匠は自分の手を股間へと滑らせ、身体の芯はおろか、頭の奥まで焼くような熱い衝動を一旦冷まそうとした。既に溢れ出している精液と愛液が入り混じり、ぐじゅぐじゅと音を立てながら指に絡む。
 奥をいじってもそれほどの快感は得られない。指は膣口や陰核、そして菊座との間を往復するようにこすり始めた。どれだけの経験を積もうが、その部分の神経は鋭敏なまま残る。
「ん……ふぅ…………あくっ…………」
 痺れるような快感が断続的に背筋を登る。しかしさっきまでのペニスの感覚と比べられるはずもなく、そのもどかしさに身を震わせた。
 ちらりと弟子のペニスへ視線を向ける。こんな光景を目の前で見せているのだからと、若干の期待はあったのだが、依然として萎えきって、元へ戻ろうとはしていない。
「ああん……もう…………え……? ひっ!!!」
 師匠は短く息を飲んだ。突然、自分の背筋から尻にかけて、何かが滑ったのだ。振りかえるまでも無い。反射的に逃げようと足を踏み出しては見たものの、時既に遅く、その触手が腰に絡みつき、その先端は太ももの間に入りこんで来た。
「んああぁ…………んっ……」
 表面の樹皮がささくれ立ち、肌をどんどんと傷つけていく。少量の血が太股から膝へと伝い落ちるが、痛みや締め付けられる苦しみすら、毒はすべてを快感へと変換し、脳の奥を焦がしていく。
 そして徐々に本数を増していく触手。思わず擦り合わせる足を邪魔するように、両足首に巻きついて左右に広げようとするものまでいる。
「いっ……いぎっ!!」
 力で抵抗しようものなら、骨が折れるか関節が外れるかするほどの力が加わることが目に見えていた。仕方なくふっと力を抜くとほとんど真一文字に引き開かれた。柔軟な身体だから助かったが、もうちょっとで股関節が抜けそうだった。
 どんどんと触手の数が増えて行く。湿度から感知したのか、的確に膣口や菊座、そして口をめがけて。
 ずぐううう!!!
 まずは一本が膣を貫いた。それまでしていた行為のこともあり、膣内の抵抗はほとんど無いに等しかった。それどころか彼女の身体は、新しく激しい刺激に喜び打ち震えていた。
「あっ…………ひあ……だ、だめ…………ひっ!!!!」
 他の触手と同じくささくれ立った表面が、膣の内部に突き刺さり、引っかく。毒が回り、イキそびれた後のぼやけた感覚を壊すように、鋭い痛みが走りぬける。しかしそれは今の彼女にとっては、激しいほどの快感にしか感じられていなかった。
 だらしなく舌を出しながら喘ぐ。つい数十分前まで、気丈に振るまい、弟子を殴ったり蹴ったりしていた姿はそこにはない。一言で言うなら、すでに『牝』と化していた。足を固定されているので身動きこそ取れないが、その手は乳首と陰核にあてがわれ、その小さな突起を摘み、擦りあげ、少しでも多くの快感を得ようとしているようだった。
「うあ…………んふぅ……とっても……んっ……」
 太い触手が入りこみ、いっぱいいっぱいに張り詰めている膣口だが、時折、中に溜まりきった液がほんの少しの隙間から吹き出す。だがそれに誘われてか、二本の触手が更に膣を、別の二本が菊座を目指す。
「うああああっ!!! いだいいだいっ!!」
 めりめりと、膣口と菊座の皮膚が音を立てながら裂ける。ぽたぽたと鮮血がお尻をつたい、床へと落ちた。通常の男性のペニスにして膣に6本分、菊座に4本近くはあるだろうか? 彼女の胴の大半を占めるくらいの太さを包み込み、なおかつそれだけの傷で済んでいるだけでもすごいとも言える。
「んぎいいいっ!! 裂けるっ、裂けちゃうッ!!」
 ゾブゾブと奥へ奥へと入っていく。彼女のお腹がぽっこりとふくらみ、内側から圧され動いているのが分かるほどだった。
「ひあああっ…………あ……あぁっ……んふぅ………………すご……すごい……こんなに感じてるの、久しぶりぃ……」
 自らの脂汗と愛液と血液、それと樹液にまみれながら、気持ち良さそうに腰を振っている。腹部はすでに、ちょっと刃物で突いたら音を立てて爆ぜそうなほど、膨らみきっている。
「ひ、ひぃ…………とっても良いよぉ…………ぐっ…………げ……がはっ!!」
 気づかない内に……いや、彼女には気づくほどの余裕もなかったが、触手は更に数を増し、既に彼女の身体自体が『クラリア・ツリー』に取りこまれてしまったようにみえるほどだった。数本は手を縛り、数本は身体を這いつつ締め付け、そして…………とうとう、彼女の首に巻きついた。
 苦しそうにのたうつが、どの触手も彼女の身体を離そうとはしない。体重が軽いため、首の骨が折れずにはいられるが、それがより一層の苦しさを長引かせているのかもしれない。
 そうしているうちに、突然、膣と腸に押し込まれた触手がぶわっと膨らんだ。そしてその触手の内部を通して、なにかが彼女の体内に流し込まれて行く。膀胱が押し潰され、苦しさもあり、脱力しながら失禁してしまっていた。
 コカカカカカカカカカッ
 流し込まれて行く何かがぶつかり合い、膣内・腸内で硬い音を立てる。
「が………………はっ…………」
 彼女は目を見開き、なすがままになっている。
 次第に流しこまれる勢いが弱まって行き、触手は床へ崩れ落ちるように、膣や腸から抜けて行った。その先から何かが落ち、コトンコトンと音を立てる。それは弟子が頭のような部分を切り落とした時に落ちた、種だった。見た目、クルミのようにも見える。それが今、彼女の体内に数十・数百と押しこまれ、まるで妊婦のように腹部が膨張していた。
「ひ………………ぎ…………」
 彼女の身体から力が抜けた。触手が抜け出た反動で、イッてしまったらしい。時々びくりと身体が震えている。
 首に巻きついているもの以外の触手がざわりと動きはじめ、彼女の身体から離れていく。途端、空中に放り出される彼女の身体。丁度、首をつったような格好で吊るされ、一気に息が詰まった。こうやって獲物を苗床にするのが、『クラリア・ツリー』の常套手段だった。
 辺りを静寂が包んだ。彼女の身体は身動きすらしない。既に死亡したのだろうか……誰か子の場にいたのならそう思ってもおかしくないほどの時間が過ぎた。その時、突然、彼女の腕が動き、首にまとわりついている触手を掴み、懸垂の要領で登って行ったのだ。
「ぐ…………はぁ!! ぜぇっぜぇっ……まったく、死ぬかと思ったわよ!」
 強引に首から触手を取り去り、首の辺りをさすりながら元のノリで毒づいた。
「さて…………ここまでやられて黙ってたら名がすたるわ。全滅……させてあげるわよ!」
 師匠は『クラリア・ツリー』の幹を蹴り、離れたところの床に降り立った。次の瞬間には、意識を集中させて『毒素中和』を自分にかける。どうやら一度気をやった事で、集中が出来るほどには、性の衝動が薄れたようだった。
「これで片付ける! 『ライト・ブレード』!! ダブル!!」
 そう叫ぶと、目の前の『クラリア・ツリー』の脇を走りぬけた。幾筋かの光りが閃く。すると、『クラリア・ツリー』だったものはぼとぼとと部品を撒き散らしながら崩れ落ちた。師匠の手の中に現れた魔法剣で切り刻んだらしい。
 その勢いのまま、師匠は通路の入り口まで駆け寄った。何体もの『クラリア・ツリー』が出てこようとしている。
「くらえ!! 『フォトン・キャノン』!!」
 師匠の目の前から、直径1mはありそうな光の束が通路を走りぬけた。その間にあったものは全て光に打ち抜かれている。そして……
「『イーフリート・ナパーム』!!」
 迷宮自体が揺れ響くほどの爆発と高熱の炎が、通路の奥の、おそらくは苗床のあるであろう部屋で炸裂した。
「これで終わりッ!! 『タイターン・フィート』ぉお!!!」
 絶叫に答えるように、次の瞬間、通路から向こうの場所の一角が、地の底まで崩れ落ちた。それこそ、巨大ななにかが、迷宮そのものを踏み潰そうとしているように。
 ドグアアアアアアン!! ボグウウウウン!! ズズゥウウウウン!!
 何度も繰り返し、激しい音と地響きが起こり、そのたびに部分部分が崩れ落ちて行く。そして数分もしない内に、通路からあちらの空間はすっかりとなくなり、クレーターのようになった地底に瓦礫が転がっているだけになってしまっていた。
 それを見届けて、ようやく師匠は自分の格好に改めて気づいた。


「大丈夫? 毒、消えたはずだけど?」
 師匠は迷宮の入り口近くにあった小川に入りこんで、身体を洗いながら弟子に言った。
 弟子はと言えば、仏頂面をしたままその川岸で何かを洗っている。
「はい、身体はもう大丈夫です。でもなんで、こんなの洗わなきゃなんないんですか?」
 弟子が手に持っていたものを袋に入れ、今度は別の袋から取り出し、また洗い始めた。
「馬鹿ね〜。血とか汁とかに塗れた状態で売れるわけないでしょうが」
「売るんですか!?」
 弟子がさっきから洗っていたものは、床に転がっていたり、師匠の中に詰め込まれていた『クラリア・ツリー』の種だった。それが袋一杯あるのだ。
「売るわよ。良い値で売れるのよ、これが」
「ふ〜ん……でもなんでこんなの、買う人がいるもんですね〜」
 身体を洗い終わり、川から上がった師匠は、弟子の頭を足で踏み付けながら身体を拭き始めた。
「勉強不足! あんたも実体験したでしょうが。この種を加工したら、色んな薬が出来るのよ! 媚薬とか麻痺毒なんかは勿論だけど、逆に薬なんかにもなるから、あら不思議」
「毒って!! そんなの売って良いんですか!?」
 いきなり振りかえる弟子の顔面に蹴りを入れる師匠。
「だから………………まだ服着て無いんだから、こっち見るんじゃ無いって……」
「す、すびばぜん………………」
 再び弟子が反対の方向へ向くのを確認して、服を着始める師匠。
「……いつもそういうのを売るのは、魔法ギルドや盗賊ギルドだから。組織立ってるところは安全よ。そんなのが蔓延したら、あっちだって困るんだろうし。そもそもあんたね、どっから生活費出てると思ってんの? こういう物を取ってきて売ってるから、生活が成り立ってるんでしょうが。服、着たから向いても良いわよ」
「え、あ、こ、これで生活してたんですか?!」
 そういう弟子に、師匠は軽くため息をついた。
「そうよ。どっかの馬鹿弟子は食い扶持もって無いし。蓄えだって多かったわけじゃないし」
「そ、そりゃそうですよね…………。あ、それからもう一つ聞きたい事があったんです。師匠が使ってた魔法! あれ、なんですか? 聞いた事も見た事もない魔法なんですけど……」
 弟子の質問に、頭をかきながら躊躇した様子を見せる師匠。
「聞きたい?」
「え? あ、そりゃあまぁ……」
「それじゃ教えてあげるわ。あれはね、魔界にのみ残る上位魔法……つまり、魔導よ。昔、魔神から代償に教えさせたのを、自分で使えるようにカスタムしたの」
 弟子は顔色を変えた。そんな魔法があるなんて知らなかったのは勿論だが、魔神に関わるなど禁忌とされていたからだった。
「ま、魔神って……そんな……」
「アンタは知らないだろうけどさ、昔は結構魔界と楽に行き来できたもんよ? もっとも、その間に結界が張られる前の話だけどさ」
 弟子は更に顔色を変えた。結界が張られたのは今から百数十年以上前の話だったからだ。既に弟子の頭は混乱でいっぱいになり、師匠の話も掴みかねていた。
「さ、最後に一つ良いですか? だ、代償ってなんのですか?」
 詰め寄ってくる弟子の額を軽く押しつつ、師匠は荷物を持って、帰り道の方を向いた。勿論、種の入った袋を奪うことも忘れていない。
「それは……ヒミツ」
 それだけ言うと、弟子はほったらかしですたすたと歩き始めた。さすがの師匠も、弟子を目の前に『Hの代償で教えてもらったのよ』とは言えなかったようだった。
「ヒミツって……ちょ、ちょっと待ってくださいってば」
 弟子は慌てて自分の荷物を拾い上げて、師匠の後を追って走り出した。
「ほらほら、追いつかないと飯抜きね!」
「そんな殺生な!」

 既に知る人は無い。
 この師匠が、歴史書にたびたび姿を現す『魔女』の二つ名で呼ばれる人物だと言う事を。
 数々の戦乱や異変を潜り抜け、時にはそれを解決して、世界を救った事すらある人物だと言う事を。
 まだ知る人は無い。
 この弟子が、いずれ大きな事件に関わり、一国の運命を左右する事を。
 それが元で世界を守る賢者の列に名を連ねる事を。
 時間は全てを包み込み、ただ流れて行く。

「さて、今晩は何にしようかな…………」
「木の実の和え物が良いですね」
「馬鹿弟子! こんな目にあって、木の実なんて見たくも無いわよっ!!(げしっ!)」

                               終