「…………………………なんだ、ありゃ……」
 朝の春の光の中、学校へと向かう道の途中にある公園の前を通りがかった時のことだった。子供用の遊具の一つから、オレと同じ学校の制服を着た女の胸から下が突き出ているのだ。しかもなにかもがいている様に見受けられた。
 その遊具は半ドーム型をしていて、それが人の顔をモチーフに、側面部に目の部分だけが円形にくりぬかれていた。要はその目の部分から子供が出入りして遊ぶようになっている。
 妙に気になったオレはそれに近づくと、もう一つの目から中を覗きこんだ。同じ学校の制服は着ているが見たことの無い女子が、遊具の奥の方に置かれたカバンを取ろうと必死になっていた。
『なにしてんだこいつ……もぐりゃ簡単だろうに』
 そう思いながらも、オレは覗いていた穴から上半身を潜り込ませ、そのかばんをひょいと取った。その瞬間、女子がオレの方を向き、驚いたような表情をした。どうやら今までオレがいたことに気付いてなかったらしい。じっと見ている目が綺麗だった。
 ほんの少しの時間だったのだろうが、見詰め合ってしまったオレは、何故か妙にきまづくなり、「ほら」とだけ言って女子にカバンを手渡し、穴から抜け出して身体についた埃を叩き落としていた。
 その間に女子も穴から出てきて、オレの正面に立ち、深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。おかげで助かりました」
 改めて立てっている女子を見て、カバンが取れなかった理由がわかった。胸がでかいのだ。それも穴を通らないほど。そして腕の長さだけでは奥に置かれたカバンまでは届かない。だから彼女は一人で取ることが出来なかったのだ。
 一人でなるほどな〜と感心していると、女子が口を開いた。
「あの……そろそろ行かないと、遅刻しちゃいますけど……」
 その言葉に焦って時計を見た。しかしまだ余裕はある。
「まだ間に合うと思うけど?」
「え、でも、ここからだと片道二十分は……」
 オレの怪訝そうな表情が、怒っているようにでも見えたのだろうか。女子はそこで言葉を止めた。
「十分で充分だろ。お前、どんな歩き方してんだよ」
「どんな歩き方って……こんな感じです」
 そう言って軽く歩いてみる。極普通の歩き方……しかし胸の揺れ方は半端では無い。
「別に遅いわけでも無いしなぁ……極端に疲れ易くて、休み休み歩くとか?」
 確かに重量感溢れる胸だ。そう言う事もありかねない。
「そんなこと無いですよ。普通だと思いますけど」
 こっちが何を考えているのか分かるように、彼女は苦笑して言った。だったらなぜ……? そうか……ひょっとして……。
「なぁ、学校までどういう道を通ってる?」
「え? えっと……駅前の郵便局の……」
 意外と単純な理由だった。彼女はオレの倍以上、遠回りしていたのだ。
「それ、かなり遠回りしてるぜ?」
「えぇ!? ホントです? だってそっちが近道だって……」
 彼女はかなり驚いていた。
「まぁ、実際についてこいよ。そろそろ良い時間だしな。近道を案内してやるぜ」
 オレは目で合図した。彼女も時間に気付いたようで、慌ててオレの隣に並んで学校へ向かった。
 …………改めて見ても、やっぱりでかい。生半可では無い。写真や映像でもこれまでに見たことないくらいだ。勿論制服の胸の部分はボタンが留められるはずも無く、その部分だけはだけて、タンクトップに包まれた胸が突き出している。
 おそらくその下にはかなり硬いブラを着けているのだろう。そうでもないと、その胸は重力に負けて垂れ下がるに違いない。ヘソか太もも……いや、もっとだな。さっきの遊具の入り口は入れないだけじゃなくて、きっとあの高さで前かがみ……地面を擦っていたに違いない。まるででっかいビーチボールを抱えて寝転がってるように。そう思いながら改めて見てみると確かに汚れている。
「あの……」
 オレはビクリと慌てて反応した。胸をちらちらと見ているのがばれたと思った。しかし、彼女の言葉は違った。
「まだお名前を聞いてませんが、何年何組のどなたでしょう?」
 あぁ、なるほど。そうだった。
「オレは長谷川 智也。二年三組だよ。よろしくな」
「え〜〜!? ホント!? でも見たこと無いです……よね?」
 自分の記憶力に自信が無いのか、恐る恐るという風に聞いてきた。
「進級する前に骨折して、今日まで入院してたからな。んで、そっちは?」
「私、渚 千夏です。新学期が始まってから二年三組へ引っ越してきたんです」
 なるほど、入れ違いでお互いに面識がなかったってわけだ。
「これからよろしくお願いします。引っ越してきたばっかりで色々教えて欲しいですから」
 何故か妙に嬉しそうな笑顔で彼女は言った。表情がころころ変わる。
「まぁ、教えられる事なら教えてやるけどさ」
 それが一体どれくらいあるのか分からないけどな。内心、そう苦笑していた。相手は女性、遊ぶテリトリーが違うのだ。それに転入してきてしばらく経っている。固定の女友達も出来てるだろうし。
 そんな話をしている時だった。いきなり彼女がつんのめった。どうやら道路の段差に蹴躓いたらしいが……。オレは反射的に半身前に回りこんで、彼女を受け止めるように支えた。
「きゃっ…………あっ……」
 彼女は赤面しながら、オレに抱きついたような格好になっている。
「大丈夫かよ?」
「す、すいません。足元が見えないもんで」
 慌てて体勢を直しつつ、恥ずかしそうに顔をうつむける。
「それじゃ良く転ぶって事か? まぁ、その胸なら仕方ないかもな」
 しれっと言ってしまったが、内心は後悔していた。女性は自分の胸の事を気にするらしいと、何かで聞いたような気がしたから。
「そうなんですよ。小さい頃から胸が大きかったもんで、足元には気をつけるように親からも言われてるんですけど、ついつい忘れちゃうんですよ」
 そう言いながら、にこにこと微笑んでいる。
「そりゃ大変だな。オレには実感しようが無いけどな」
「そりゃそうですよ」
 また面白そうに笑う。彼女が言うにはどうやら、オレのようにズケズケと物を言う人間はいなかったらしく、そういう目新しい反応が楽しいらしかった。まぁ確かに、本人を目の前に、デカ乳の話をするヤツぁそうはいないわな。
「ところで、あの……」
「ん?」
 学校を目の前に、彼女はいきなり立ち止まった。つられてオレも立ち止まる。
「色々ありがとうございました。それでお礼と言ってはなんですが、帰りにお好み焼きでも食べに行きませんか? 部活とか都合が良ければなんですが」
「……別にオレは良いけどよ。部活も入って無いし」
 そう答えると、彼女は本当に嬉しそうな笑顔をオレに向けた。人懐っこいと言うか、なれなれしいと言うか……。
 半ば呆れた状態で、オレは「勿論おごりだよな?」とだけ付け加えた。


「ここのお好み焼き、美味しいんですよ」
 そう言いながら渚がオレを連れてきたのは、駅前の商店街にあるお好み焼き屋だった。がらりとドアを開けると、中から「いらっしぇい」てな具合に威勢の良い声がかかる。
 オレは渚の後を追って、のれんをくぐった。
「らっしぇえ……お? 智坊じゃないか。久しぶり! なんだい、今日は彼女とデートかい?」
「んなんじゃねぇ!」
 いつものおっちゃんが親父ギャグを飛ばす。慌てて言い返すオレに、渚が不思議そうな顔を向けた。
「まぁ地元だからな。ガキの頃は良く来てたってわけだ」
 適当な席に座りつつ、渚に言う。改めて納得したような表情を見せる。ちなみに渚は椅子をかなり引いて座った。そうでないと胸がつっかえるか、鉄板で焼けてしまう事になるだろう。
「智坊、いつものかい?」
 水を持ってきたおばちゃんが言う。
「いや、今日はこいつのおごりだから、豚玉で……」
 そうオレが言い終わるより早く、渚はおばちゃんに声をかけた。
「長谷川くんのいつものってなんですか?」
「智坊はね、メニューにのってないスペシャルミックスって言うのをいっつも頼んでるよ。それにするかい?」
 突如として目が輝き出す渚。どうやら隠れメニューとか限定とかに弱い人種のようだった。コクコクと頷きつつ、指を二本、差し出す。
「それじゃそれを私の分と長谷川くんの分、二つお願いします」
「おいおい、スペシャルミックスは無茶に多いぜ? 食べられるのかよ」
 オレの注意に渚はただでさえ大きな胸を張った。
「大丈夫! 私、大食いだから」
 そうこうしている内にお好み焼きの元が運ばれてきた。……通常、生ビールにでも使うジョッキに入って。それを見て呆気に取られる渚。運んできたおばちゃんはそのまま手際良く鉄板に流しこみ、均等な厚さへとそろえていく。おばちゃんの手にかかれば、鉄板いっぱいに広がった巨大なお好み焼きもひっくり返るのだから、職人芸としか言いようが無い。
「お前、頼んだ事後悔してないか?」
「ううん。とっても美味しそうだし、一枚でお腹いっぱいになりそうだけど、食べられない事も無いと思うし」
 驚きと喜びが入り混じったような表情で、へらを持ったまま焼きあがりを待つ渚。こいつ、食う気満々だ……。
 そして焼きあがると、待ちかねたようにそれを切って口へ運ぶ。しかもオレより速いペースで。オレも結構早食い・大食いと言われたが、それとほぼ変わらないスピード……いや、呑気に食べてる時のオレより早いかも……。そうなってくるとついついムキになってしまう。気がつくと、早食い競争のような状態になっていた。
「ねぇ、長谷川くん……ちょっとお願いがあるんだけど……」
 渚は最後の一切れをへらの上に乗せたまま、そう切り出した。
「ん? なんだよ、一体。……最初に言っとくけど、貸せるような金なら無いからな」
「違うわよ、そんなの」
 青ノリやソースが付いた口の端を笑顔で歪めながら言う。
「あのね、出来ればこれから学校への行き帰り、一緒にしてくれないかなって……」
「……別に良いけどよ……、理由を聞いても良いか?」
 おばちゃんが特別に出してくれた熱いお茶を飲んで口を潤す。
「それがね……」
 渚はテーブルから身を乗り出した。お前……気をつけないと鉄板で胸が焼けるぞ……。
「なんか最近、変なヤツにつけられてるみたいなの……。痴漢とかストーカーとか言うヤツラだったら怖いじゃない」
「要するに虫除けってことか……別に良いぜ。誰と行くわけでも、何処によるわけでも無いからな。ただし……」
 最後の一切れを飲みこみながらコクコクと頷く。
「時間はオレに合わせろよな。早起きは苦手なんだ」


 そうこうして始まったオレと渚の登下校が始まったのだが……一ヶ月経っても、二ヶ月経っても、一向に何も起きる気配は無かった。
 まぁ、起こって欲しいとは思って無いし、何より危険がなくて何よりだ。しかし、冷やかしにまわる馬鹿者どもが多いことには、かなり呆れかえっていた。
 やはり渚は目立つ。そのスタイル(主に胸)もそうだが、明るい、声が通る、良く笑う、性格が良い、そして顔もそこそこと来たら、人気が無い方がおかしいとも言える。そしてそういう人気のはけ口がオレに向けられるというわけだ。別に何されたと言うわけでは無いけど、イヤミな一言やネタミな視線にはもう慣れてきた。
 だけど、そんなに敵意の目を向けるくらいなら、なんか行動起こしたらどうだって気はするよな。
「どうしたの?」
 疑問の表情を浮かべた渚がオレの顔を覗き込む。
「いや、なんでもねーけど……今日はどうする? どっか寄ってくか?」
「ん〜〜長谷川くんの家に寄ってみたいな」
「なっ!??」
 思わず動揺して変な声を上げてしまうオレ。みっともないぞ、オレ。
「一体どうしたんだよ。オレんちに来たって面白いモンなんて何もないだろうに」
「え、この前会ったでしょ、長谷川くんのお母さん。お話してて楽しかったし、またお話したいなって」
「あ、あぁ、そういうことか。それなら無駄だぞ。昨日から親父と1週間の海外旅行だ。家にゃオレ一人」
 オレがそう言うと、渚は微妙な表情を浮かべると「ふ〜ん、そうなんだ……」とだけ言った。
 変な沈黙が包み込む。オレはオレで何を話して良いかわからないまま、そして渚は何かを言うべきか迷っているような雰囲気だった。
「あのな……」
「あの……」
 ほぼ同時に言葉を始め、それに気付いて同時に止める。お互いが相手を促すでもなく、留めるでもなく、どちらもが黙り始めた。
 そんな時だった。正面の路肩からガコンガランと大きな音が響き、近づいてきた。顔を上げると路肩に乗り上げたまま、車が迫ってきていた。
「なっ!?」
 オレは考える間もなく、渚にタックルするように、もろとも横に合った用水路に飛びこんだ。跳ねあがる泥と水飛沫。
 渚が「一体何?」といった風な表情で(泥まみれになりながら)用水路の中に座り込んでいる。そしてオレが車道を振りかえるとほぼ同時に、車は少し行き過ぎた位置で止まった。
「てめぇ! 殺す気かよ!」
 オレが叫ぶと、車の中から一人の男が出てきた。フード付きのレインコートを目深にかぶり、マスクにグラサン……、明らかに素顔を隠そうとしている。つまり……相手は計画的にこっちを狙っているって事だ。そしてそれは、男が持っているナイフからも知れる事だった。
「長谷川くん!」
 渚がオレの肩の辺りにしがみつく。それが相手を刺激したのか、いきなり相手はナイフを横に大振りした。ぬかるみに足を取られながらも、なんとかかわそうと身をひねる。頬をかすめたのか焼けたような痛みが走るが気にしていられない。
 相手が踏みこんでる方の足の膝を真横から殴りつける。こっちが位置的に下にいるから、その足には相手の全体重がかかっているはずだった。膝ががくりと落ち、体勢が崩れながらも再びナイフを横に大振りする相手。それは殴った方の二の腕を衣服ごと切り裂いた。しかし傷は浅く、微かに血が流れ落ちる程度だった。
「きゃああ!」
 血を見て渚が悲鳴をあげるが、これならまだ行ける! そう思ったオレは、さっき殴った膝を下から大きくすくいあげた。体重はもう一方の足にかかり直っている。それをすくいあげる事で相手は横転した。
 地面に倒れこんでいる犯人。立ちあがる時間を与えず、オレは相手に馬乗りになって何度か殴り付けた。
 そうしている内に、誰かが通報したのか、近くの派出所から警官がやってきた。放心状態の渚はあてにならず、仕方なくオレは警官に事情説明をはじめた。そして犯人と一緒に派出所に連れて行かれて、取り調べ……じゃなくて、事情聴取された。犯人と被害者、その位置関係がハッキリしていたせいか、比較的簡単にそれは終わり、しかも全くと言って良いほどキツイものではなかった。
 一時間ちょっと過ぎたころ、犯人はパトカーで連れて行かれ、オレ達は帰宅を許された。

「今日はとんでもない目にあったな」
 あまりに突然の出来事だったため、まだ実感が湧かず、思わず笑顔まで出てくる。傷は適当ではあるが消毒してある。服はまだ泥だらけで臭いもするが、カバンはタックルした時に手放していたため、教科書・ノートの類を含めて無事だった。
「……」
 渚はうつむいたまま何も答えない。
「……どうしたんだよ」
「どうしたって……」
 渚が顔を上げた。目じりに光るものがあったようにも見えた。
「どうしたって……長谷川くん、殺されかけたんだよ? しかも私が軽々しく護衛をたのんじゃったばっかりに……」
「……んじゃ、どうすれば良かったんだよ。あいつの狙いは、お前と一緒にいたオレだったんだぜ? それにストーキングされてたんだろ? そんなのほっとけるかよ」
 警官の話によるとそういうことだった。ヤツは渚に対して好意を抱いていたがどうにも出来ず、登下校時に痴漢したりついて歩いたりを繰り返していたらしい。そこに渚に頼まれて一緒に行き帰りするようになったオレが現れ、これまでしていた行動を妨げられた事に加え、親しそうな関係に嫉妬心を抱き、今回の行動にいたったらしい。
「でも……やっぱり私のせいで……」
 オレは、うつむいたままそうやってぐちぐち言っている渚の正面に回りこんだ。
「ごちゃごちゃうるせぇよ。殺されるかもしれなかったって言うんなら、それはお前だって同じだろうが。あのままあいつを放っておいたら、エスカレートしていった可能性だってあったんだからな。そう考えたら、抵抗できるオレが狙われた方が良かっただろうが。それにな……」
「……それに?」
 オレは恥ずかしさと気まずさに、思わず頭をかいた。
「最初はともかく今となったら、頼まれたから一緒にいたわけでも、あいつとやりあったわけでもねぇよ。オレがやりたかったからやっただけだ」
「長谷川くん…………」
 驚きの表情を向ける渚を尻目に、オレは先へすたすたと歩き出した。
 この日はそれ以上渚との会話は無く、そのまま家へと送っていった。


 次の日の朝早く、学校からの電話があった。どうやら昨日の件がマスコミに流れたらしく、学校前で待ち構えているので、とりあえず数日間は休んだ方が良いとの事だった。幸い、入院でヤバかった出席日数についても先生がなんとかしてくれるらしく、いわば公認のサボりみたいなもんだった。
 とりあえず暇を持て余していたが、外出は控えるようにいわれていたので、仕方なくテレビでもと思い居間に降りていた時の事だった。いきなりの電話。学校から電話がかかってきた時点で両親には知らせておいたから、少なくとも親では無い。学校からでもないだろう。…………マスコミ? もしそうだったら知らぬ存ぜぬで押しとおすしか無いな……。
「はい、長谷川」
「あ……あの……長谷川くん?」
 そう、電話の主は渚だった。
「家族は旅行に行ってて、誰もいないっつったろうが。で、なんのようだ?」
「……………………昨日の事、まだ怒ってる?」
 オレは基本的に電話嫌いなのだ。それを知ってるヤツらは、オレの電話の受け答えがどんなに不機嫌そうでも気にはしないのだが……。
「別に。怒るほどのことじゃねぇしな。んで、なんだよ」
「あ、あのね? 今日、そっちにお邪魔しても良いかな? 色々とお話したい事もあるし……」
 話したいことねぇ……ま、良いけど。
「それじゃ迎えに行くから待ってな。昨日の今日だから、出歩くのも一人じゃ怖いだろ? マスコミもうろついてるらしいし」
「うん…………ありがと……」
 渚はそう言うと電話を切った。オレはその辺りにほったらかしにしてた普段着を着て、渚の家に向かった。
 マスコミは学校にへばりついているのか、街中には全くと言って良いほど、いなかった。
 渚の家に着くと、渚のかあちゃんが顔を出した。渚に似てて、渚が大人になったらこうなるんだろうなって顔つきをしている。身体つきは……渚に輪をかけている。
「あ、長谷川くん、いつもご苦労様。今来ますから、ちょっと待っててね?」
 そう言われた途端、廊下をぱたぱたと走る音がして、それと一緒に渚が現れた。渚とそのかあちゃんはなにやら意味不明の、変な視線を交わすと、かあちゃんはくすりと笑い、渚は恥ずかしそうに顔を伏せた。
「どうしたんだよ」
「な、なんでもないよ。それじゃお母さん、行ってきます」
 渚は靴をはきながら扉を出てきた。とりあえず、なにか変なものを感じながらも、オレは渚を自宅へと連れて帰った。

「まぁ、くつろいでくれよ」
 オレは渚を居間へと通し、茶と茶菓子をだした。茶菓子と言っても近くで売ってる饅頭なんだが……。
 大きめな湯のみを両手で包み込むように持ち、ちょっとづつ熱いお茶を飲む渚。沈黙が室内を包み込む。
「……テレビでも点けるか……」
 オレが沈黙に耐えきれずテレビのリモコンに手を伸ばしたときだった。
「ごめんね……」
「…………あ?」
 昨日の問題の再勃発かと思い、思わず不機嫌な返事をしてしまうオレ。
「昨日は変な事言っちゃって。もっと先にお礼を言うべきだったよね……ありがとう、私を守ってくれて……」
「お、おう……」
 意外な展開に意表を突かれたオレは間抜けな返事をしてしまった。
「私ね、自分で頼んでおきながら、あの時、本当に長谷川くんの事が心配だった。もし、長谷川くんが刺されでもしたらって考えるだけで苦しくて……それくらいなら自分が刺された方がって、警察で話ししてるときもずっと考えてたの……」
「…………」
 何を言ったら良いのか分からなかった。こういう雰囲気というか、そう言う展開さえオレには初めてで、戸惑うだけだった。
「あのね、長谷川くん……もし良かったら……これからも私と一緒にいてくれる?」
「…………あのよ……それって……」
 渚はぐっと顔を前に出すように、オレを見つめながら白く微笑んでいる。
「勿論、愛の告白だよ。好きなの、長谷川くん」
 オレの中で何かが熱を持つ。放っておけば、それは今にも身体を突き動かしそうだった。
「オ、オレも……って言うか、お前じゃなけりゃ、頼まれたってあんな事してねぇ……」
 渚は湯のみをテーブルに置くと、ゆっくり立ちあがった。
「よかった……私、嬉しい……」
 オレが驚きで立ちすくんでいると、渚はオレの首に手を回し、ぶら下がるように抱き付いてきた。大きな胸がオレに押し付けられて柔らかく歪む。
「渚……オレ……」
 思わず渚の身体を抱きしめる。歪んだ胸が更に大きく歪む。二人の間につっかえるように存在しているが、とても柔らかいようで、邪魔になるほどでは無い。それどころか、押し付けられた部分が、とても気持ち良かった。
「オレ……! その……悪い!」
 思わず間近に見ていた渚の唇にキスをしていた。ほとんど衝動だった。柔らかい唇、そして微かに香る花のような匂い。それらが一層、衝動を昂ぶらせる。
「良いよ……私、そのために来たんだもん……」
 オレの腕の中で、渚の身体から力が抜けて行くのが分かった。その渚の身体を支え、そして畳の上に横たえた。恥らうように頬を赤く染めた顔を横に向ける。
 オレは割れ物でも触るように、ブラウスのボタンを上から順番に、一つ一つ外して行った。そのたびにブラウスの生地が左右に引っ張られ、弾かれるように合わせ目が開いていく。白いブラウスと、恥ずかしさでピンクに染まった肌が目を奪う……。
 えぇっと……次は……ブラジャーを外すのか? それともスカートを脱がすのか? 再度戸惑い始めたオレを見て、渚は軽く体を起こした。そして座ったまま後ろを向き、そっとブラジャーを自分で外し始めた。オレはその光景がとてつもなく綺麗で、それに言いようの無い興奮を感じた。
「もう……私一人、裸にさせておくの? 長谷川くんも脱いでよ……」
 両手でも到底隠しきれない胸を抱え込むようにしながら、ブラウスの上にブラジャーを置いた。白い背中から溢れるように胸が飛び出ている。オレはその肌に、直に触れたかった……いや、肌を重ねたかった。
 オレは上着を脱ぎ捨てると、渚を背後から抱きしめた。しっとりとした肌が触れ合い、暖かさが伝わってくる。
「なぁ……お前、自分の胸を気にしてるみたいだけど、オレは……とっても綺麗だと思う」
 事実、肩口から覗き込んだ渚の胸は、とても大きいが、形はしっかりしており、加えて腕に抱かれてあっさり形を変えてしまうほどの柔らかさを兼ね備えていた。
「……この胸って、もう大きいとかじゃなくて、奇形に近いよね……小さい頃からずっと嫌だったの。人にじろじろ見られるし。それでわざと明るく振舞うようにしたの。そうじゃないと、私って存在が胸ってだけになっちゃいそうだったから。でも、初めて役に立っちゃった。胸のおかげで長谷川くんに会えて、胸に寄って来た人がいたから長谷川くんを改めて意識しちゃって……今回の事件だって、元はと言えば胸が目立ったから……」
「もうその話は止めろって」
 オレは渚のわきの下から手を伸ばし、指と指の間に乳首を挟みこむように胸を持った。噂に聞くように、胸というのは重いものだとハッキリ分かった。
「ふあっ…………」
 手を伸ばしきらないと届かないほどの大きさ……恐らく立ちあがったらヒザを越えるだろう。以前のオレの予想は甘かったってことか。思わずもにもにと揉む。弾力があり、しかも肌に張りがある。オレはこの胸を正面から見たくなった。
 渚の両手首を掴み、胸を隠せ無いようにして正面に回りこむ。渚は肌を更に赤く染めて、胸を隠したいのか、恥ずかしそうに身じろぎしている。その度に胸がブルブルンと震える。
 恥らう渚の表情と仕草にとうとう見ているだけでは我慢できなくなり、その乳房へ顔を埋めた。良い香りと心地よい温かみ。まるで全身を包み込まれているような感覚があった。そしてふと見上げると、赤面しながらも微笑んでいる渚が見えた。
 ゆっくりと体重をかけ、渚を寝転がらせる。乳房はその大きさを誇示するように、重力に抵抗していた。オレは再びそっと乳首に触れ、そして大きくしこりつつあるそれを口に含んだ。ゆっくりと舌の上で転がす。その度に渚は「んっ……」と軽い声をあげながら、身を震わせていた。
 舌の感覚から、乳首が張り詰めきっているのが分かった。オレはそれに痛みの無いように軽く歯を立てた。
「んあっ! んっ……ふああっ……」
 一層激しく身体を震わせたと思うと、少し荒い息のまま身体から力が抜けた。
「わるい……大丈夫か?」
 心配そうに言うオレに対し、渚はうっすら潤んだ瞳でなおも微笑んでいる。
「あの……あのね……よ、汚れちゃうから……その……脱いじゃうから……あんまり見ないでね……」
 そう言うと渚は下半身の辺りでもぞもぞとし始めた。そっと見てみるとスカートのボタンを外し、パンツと一緒にずらし脱いでいた。
「もう! 見ないでって言ったのに……」
 言われてもオレは見るのを止めなかった。って言うか止められなかった。胸の大きさに比べ、渚の身体は弱々しく感じてしまうほど細く、そして輪をかけて白かった。肌の白さに浮きあがるように、うっすらと生えた陰毛がどうしても目に付く……。さらっと流れるように生えているそれは、前にツレに誘われて見た裏ビデオの女優とは全然丸っきり違っていた。
 ふと、顔を上げると渚の不安そうな表情が目に付いた。オレはそれの意味を考え、加えて股間が苦しくなった事もあって、ヒザ立ちしながらズボンとトランクスを脱いだ。渚の視線が一箇所に集まる。
 それに耐えきれなくなったオレは無言のまま、再び渚に抱きついた。オレのペニスが渚の太ももに当たる。「あっ…………」それに気付いたのか、渚は太ももをもぞもぞと恥ずかしそうに動かし始めた。その刺激が思わぬ興奮を呼び、オレのペニスは太ももをへこませる位までの固さを持ち始めた。
 復讐というわけでは無いが、オレはさっき目に付いた渚の陰毛に触れたかった。そっと手を伸ばし、手のひらで触って見る。いきなりの刺激に、渚は驚いたような表情を見せるが、抵抗するでもなく、ただ深呼吸のような荒い息につれて、胸が上下しているだけだった。
 軽くウェーブがかかっているが想像通りさらっとした陰毛。そしてその先には……。
 オレは恥丘ごと軽く陰部を摘んだ。奥から熱い液がじゅるっと溢れ出てくる。とても柔らかい。ここにオレのが包まれるかと思うと、とても我慢ができそうになかった。
「渚…………」
 一旦身体を起こし、渚の身体全体を見つめる。目の前にいるのが夢のような感じがした。それを確認するためにも、この気持ちをどうにかするためにも、オレは渚を一つになりたかった。
「長谷川くん…………」
 渚は軽く身体を起こし、オレの首にしがみついた。身体の大半を、乳房が包み込む。
 渚の重さの導きに任せ、渚と一緒に床に寝転がる。胸が柔らかくてとても気持ちが良い。しかしオレの体重に胸の重さ……下になってる渚は重く無いのだろうか……?
「重くないか?」
「ううん……大丈夫……それより……」
 オレは促されるように自分のペニスを手でずらしていき、渚の膣の入り口へとあてがった。これから起こる事を想像し、思わずごくりと唾を飲んでしまう。
 ゆっくりと腰を突き出し、渚の膣に自分のペニスを押し込んで行く……。とても熱い液がひたされたスポンジに入れているような……いや、それ以上に渚と一つになっていくと言う実感がとてもオレを興奮させ、同時に感動させた。
「んぅ……いっ……痛っ…………」
「大丈夫か? なんなら……」
 そこまでオレが言うと、渚はオレの腕をぎゅっとにぎりしめた。
「大丈夫……だからやめないで。どのみち、いつかは経験しなきゃいけないんだもん」
 目じりに涙を溜めて言う。オレは一度ため息をつくと、なるべくゆっくりと、でも途中で止めたりせず、再びペニスを渚の身体へ埋めていった。
「んっ! んふぅ!!」
 渚の身体が大きく揺れた。膣の奥までペニスが達したのだった。隠れるようにして見てみると、やはりペニスには破瓜の血がついていた。
「動くぞ……」
 オレがそういうと、渚の爪が刺さるかと思うほど腕を握り締めると、こくりと一度頷いた。
 ずずっとカリの部分が膣の入り口に引っかかるまで引きずり出すと、再び埋めこむ。中のヒダが絡みついてくるようだったが、それをかきわけて突き入れるように力を込めないと到底入りこまない。
「ひっ……ぐっ……うぅ…………」
 渚は歯を噛み締め、ともすれば上がりそうな痛みの声を耐えているようだった。
 血や愛液のぬめりが徐々に多くなってくる。そうなってくると、今度はペニスに与えられる刺激が増えて行き、徐々にオレは登り詰め始めた。
「んっ……く、渚……」
 オレは思わず乱暴に乳房を掴み、そしてペニスを膣から引きぬいた。
「あ…………あふっ…………」
 抜かれたショックで渚の身体がびくりと跳ねる。その上に抜いたペニスから吐き出された精液が降りかかる。赤く染まった肌に白い液がいやらしい雰囲気をかもし出した。
 渚は精液がかかるに任せ、くったりと身を倒したままだった。


「おい、風呂に湯を張ったから、はいれよ」
「うん、ありがと」
 あれから小一時間、オレと渚は色んな体液にまみれたまま、寝転んで手をつないで色んな話をした。勿論、初体験の感想も。
 そしてそれからオレはトランクスだけを履き、湯を張りに浴場へ立った。渚はそのまま服を着るわけにもいかないので、オレのワイシャツを着て待っていた。胸のところはボタンがかかるはずも無く、その上下のボタンを合わせ、合わない部分からはそのままモロ胸が飛び出していた。
「それじゃお風呂借りるね」
 そっと立ちあがり、浴場へ向かう渚。オレはバスタオルや服を用意していなかったことに気づき、脱衣所へ行って中へ声をかけた。
「ここにバスタオルと服、置いておくからな」
 その声に気づいたのか、渚は「ちょっと待って」と返事をして、浴場のドアを半分明けた。顔と足と胸がはっきりと見えていた。
「ね、一緒に入らない? その……さっきは痛いだけだったから……」
 頬を赤く染めて言う渚。オレは何を言うでもなく、そのままトランクスを脱ぎ、浴場へと入っていった。浴場は……なんていうか……髪を洗ったらしい渚のシャンプーの香りと、渚の身体からしていた良い香りが混ざり合って充満していた。
 渚はオレの正面に立っていた。片手で股間を隠し、もう片方の手で胸を隠そうとしていたが股間自体は胸で隠れているので無意味、そして胸は片手で隠せるような生易しいものではなかったのでそれも無意味だった。
 オレは正面からそのまま、渚を抱きしめ、ちょっと長めのキスをした。興奮からか、お互いに舌を貪欲に絡め合う。そうしながら、オレの片手はそっと乳房に触れた。さっきより張りが増し、若干大きくなっているような気がした。そういえば女性の胸も興奮で大きくなるとか聞いたような気がする。そして乳首へと手を伸ばす。乳首も固く張り詰めていた。
 しかし……かなりたわわな乳房は肩にも負担がかかるほど重いものだろう。だからと言って浴場では横になれない。このままして乳房が揺れると渚への負担も大きくなる。実際に渚の鎖骨あたりには青痣がうっすらと出来ている。
「なぁ……ちょっとあそこの壁に手をついてみてくれないか?」
 オレは湯船の向こう側の壁を指差した。
「えっと……こ、こう? ……あっ……」
 思ったとおり、その場所に手をつこうとすると、渚の乳房は湯船に浸かるようになる。これで重さはかなり軽減されるはずだ。しかし……噂通り胸って水に浮くんだな……。
「そうやった方が楽か?」
「ら、楽だけど……恥ずかしい……」
 湯船の向こう側に手を届かせるためには、身長のそれほど高くない渚は前かがみになる必要がある。ちょうどお尻を突き出す形になっている。
 それを隠そうと片手を壁から離し、股の下から回しこむようにおおう渚。オレはしゃがみ込み、その部分に顔を近づけた。そして手の隙間から舌を挿し込んだ。
 こうやって見ると、渚の陰部は左右の部分がぷっくりとしていて合わさり、スジの様になっていて膣の入り口も見えない。
「ひあっ……」
 舌が合わせ目を這うと渚は力が抜けたのか、手は壁を滑り、湯船のふちにつかまるので精一杯と言った具合になっている。勿論片手を離している余裕も無く、隠すのを止めて両手を使って。
 その間にオレは股間の部分を左右に手を置き、合わせ目を押し開いた。割れ目の内側ではピンク色のヒダと真珠のような突起がヒクヒクと蠢いていた。
「やっ……だ、だめ……そんなところ……」
 振り向いてそう言うが、抵抗しようとはしない。そしてそのシチュエーションに一層興奮してきたのか、トプトプと愛液が溢れ出てくる。オレはそれを舌で舐め上げると膣へと舌を挿し込んだ。舌先に狭さと熱さを感じる。こんな狭い場所にオレのペニスが入っていたかと思うと驚きでしか無いが、とりあえずその舌をぐりぐりと上下左右に動かした。涌き出る愛液の量が増す。加えて、湯船に落ちまいとふんばっている渚の手足が震え出している。
 そろそろかな……。
 オレは立ちあがると渚の腰に手を添えて再び割れ目にペニスをあてがった。
「んっ!」
 今度は早めのペースで渚の中へ入りこんで行く。だが今回はそれほどの抵抗も無く受け入れてくる。
「ああっ!! んああああっ!!!」
 今回は渚の感じ方も違うのだろう、浴室内に渚の声が響き渡る。
「ちょっと……早くしていくけど……大丈夫か?」
「う……ん…………だい…じょ……ぶ…………」
 速度を速めていくと、渚の尻とオレの腰が当たる音、それに渚の乳房が湯船をかき回す音、それに渚とオレの声が混ざり合って響いていく。
「んっ……渚…………なぎさぁ……」
 渚の背中をオレの胸をぴったりと合わせて抱きつく。そして湯船の中の乳房を揉みしだく。
「くぅ……んっ…………すご……いぃ……」
 渚の身体からじっとりと汗が出てくる。それはオレも同様で、触れ合わせた身体がにゅるにゅると滑る。そしてそう言う刺激が加わるごとに、渚の膣にこもる力が増していく。今や手で握られているのではないだろうかと思うほどだった。
「オレ……もう…………」
 限界が近かった。歯を食いしばってもそろそろ溢れ出してしまいそうだった。
「わ、わたしも…………い、いっしょに…………」
 渚の足が小刻みに震えていた。そして膣内も同じように小刻みに振動しているようだった。
「んっ!!! くぅ………………」
「ひあっ!! あ……あぁ………………ん……」
 最後に思いきりペニスを膣内に突き入れてしまった。パァンと腰と尻が当たる音がした。同時に渚の身体が大きく跳ねあがり、そして再び崩れ、ジャボンと大きな水音を立てた。
 オレはその身体を支え抱かかえながら、渚の中へ精液を吐き出していった。ペニスがどくどくと脈打つと膣がそれを同じように脈打ちながら受け入れているのが分かった。
 お互いに大きく荒い息をしながら、見詰め合う。そして自然に唇が近づいて行った。
 これまでのように慎重な、お互いの気持ちを伺うようなキスではなく、昂ぶりきった気持ちを再確認する激しいキス。それがオレ達が一つになってることを、今更ながらに実感させた。
「んぁ……………………」
 渚がぶるっと身体を震わせる。ペニスが射精を終え、萎えてきた事で自然に膣から抜け出したのだった。その後の膣からはごぼごぼと精液が溢れ出してくる。
 今、オレは改めて、自分の腕の中でぐったりと身体を預けてきている女を愛し守ってやりたいと思った。
「渚…………」
「ん……? なに?」
 けだるげにオレの方を見る。
「身体、洗ってやろうか?」
 近くにあった手桶を取り、渚の下腹部へお湯をかけた。
「うん……それなら洗いっこね?」
 渚はオレの手から手桶をとると、今度はオレの下腹部へお湯をかけた。


「ねぇ、泊まって行っても良いよね?」
 フォークにサラダのレタスを突き刺したまま、渚が言った。お互い、テーブルの向かいの席に座って夕食を食べている。
 結局風呂が長くなってしまい、夕方を迎え、夕飯を作ると言い出した渚に促されて、オレは買い物へと出かけた。帰ってくるなり、渚は手際良く食事を用意し、そして今にいたっている。
 ちなみに渚は元々着ていた服を着ておらず、風呂に入る前と同じくオレのワイシャツを着たままになっている。
「こっちはかまわねぇけどよ。おまえのかあちゃんやとうちゃんはどうなんだ?」
「それなら大丈夫。さっき電話したら、オッケーだって」
 にこやかに渚は言った。どうやら渚のかあちゃんは、ここ最近の渚の言動や昨日の事件から、今日どういうことになりそうかをおおよそ想像していたらしい。…………なかなかツワモノなかあちゃんだぜ…………。
「でもよ、泊まって行くとなると、オレ、我慢できなくなるかもよ?」
 わざとにやっと笑って言うと、渚は更に笑って言った。
「あれ? 『かも』なの? 私なんてもう我慢できなくなる自信あるよ」
 微妙に照れながら言う渚。オレもそういう答えが返ってくるとは思っていなかったので、不意を食らう形で赤面してしまっていた。
「そう言えば、長谷川くん、私の……あそこ、見た上に舐めたよね? 今度は私に仕返しさせてよね?」
 追い討ちをかけてくる渚の言葉に、オレは思わず夕飯をかきこむ。それを見ながらいつも通りに微笑んでいる渚。
 これまでにも増して、これから長く楽しい付き合いになりそうだった。
「…………まぁなんにせよ、改めてよろしくな」
「いえいえ、こちらこそ」
 オレと渚はジュースの入ったコップで乾杯した。
 数ヶ月前までは全く知らない仲だったというのに、今ではそんな仲。まぁ、そう言うのもありかな?と思った。
 唯一の懸念は……今日、何時に寝られるかという事だけだった。