書評の森

相変わらず簡素な体裁でコンテンツを増殖。
「中身で勝負や」といいたいところですが、真相はいかに?


夜光 馳星周 角川書店

評価の分かれる小説だと思う。こういうのを面白いと言う人もいるだろう。ただ私はこの作品に物足りなさを感じた。不夜城を読んだときの充足感とは違う何かを。
不夜城は健一と夏美の二人のキャラメイクが非常に優れており(とにかくカッコイイのだ。それに比べて映画版はなんであんなにカッコ悪かったのか?金城武)、組織に対して個人というものがいかにチッポケで無力な存在かということを書きながら、最後まであきることなく読ませてくれた。ラストもピッタリきまってたしね。よかったよ、本当にあれは。
続く「鎮魂歌」は狙ったような暴力描写が鼻につき、好きになれなかった。登場人物も死のうが生きようがどうでもいい連中だったしね。萬月のほうがそこらへんはよっぽどうまいぞ。

じゃあ、今作はどうかといえば、1作目に近い作りの小説となっている。主人公は元日本のエースだったが、故障から引退し、借金の返済のために台湾に渡った投手。そこへ組織(黒道)が八百長を持ちかけてきて借金返済のためそれを甘受する。
バックグラウンドはこんな感じだが、じゃあこれが劉健一の再来かというと実はとんでもなく卑怯な奴なのである。
「己の欲望に抗えない男は、悪魔の囁きに身を委ね堕ちる」。なんのことかといえば、友人の人妻に惚れてしまってそのためなら何でもするのである。そして自分のしたことを「しらを切れ、ごまかせ、丸め込め」というのだからちょっとねえ。
でもこいつはこれで別にかまわないとも思うんだけど、問題は人妻のほう。麗芬(リーファン)ってのが線が細く、性処理の対象として男に都合よくしかかかれていないことだ。これじゃ主人公とはとても互角には渡り合えない。いいようにされるだけである。夏美が最適かどうかはしれないが、もう少しヒロインも毒のあるキャラじゃないと話としては面白い展開にはならないね。
破滅型の主人公と従順なヒロインってのなら先が見えてしまうぜ。全く。もう少し強い女性にしてケン・フォレットの「針の目」や、佐々木嬢の「エトロフ発緊急伝」くらいにはもっていってもらいたかったね。

結局この二人で気の利かせたラストになるはずもなく、なんだかママゴトしているような終わり方。おいおい、と俺は思わずよろけ掛けた。ただこういうのでも感動する人はいると思うのでそれが評価のわかれるところと言ったまで。キャラメイクに納得できない私には何の意味も無かった。こんな人妻、俺の書く小説の中だけにしてもらいたいね(笑)。


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