おばけ屋敷でGO!! 書いた人:北神的離
第6話 − 勇気〜ファナ〜 − |
「ひっく…ひっく…」 暗がりの中、小さな泣き声がかすかに響く。 小さな部屋に、ツンとした刺激臭が漂っている。 その匂いの元である水溜りは、まだほかほかと温かく、ほんのりと湯気を立てている。 「ううっ…しちゃった…しちゃったよう…」 水溜りの上に座り込んだままのまだ幼い少女、 きらきらと光る金色の髪を短く切り揃えた可愛らしい少女…ファナは、 物心ついてから数えるほどしか体験していない羞恥に身を震わせていた。 おばけ屋敷でGO!! 6話 − 勇気〜ファナ〜 − 冷たい… 温かかった水溜りは外気に冷やされ、急速に熱を奪われていく。 太腿に感じる不快感に、ファナは立ちあがる。 「うう…」 ぴちゃっ、ぴちゃっ、と股間から水滴が滴り、水溜りに波紋を立てる。 太腿を伝う水流は、まだ少し温かい。 「あ、あっ、あ、あぁ、はわあぁぁ〜〜〜〜」 水流の勢いが明らかに激しくなる。 もうしてしまった、その一種の安心感が、尿道を完全に緩めてしまったのだ。 しょろろろろろろろ……ぴちゃっ、ぴちゃっ… 室内での放尿、排泄をする場所以外での放尿に、背徳感からファナの顔は恍惚の笑みに緩み切っている。 紅潮した表情には、明らかに羞恥以外のものが浮かんでいる。 ……ぴちゃっ 最後の一滴まで出し切り、ぷるぷると身を震わせるファナ。 放尿を終えると、まだ水溜りの侵食していない部屋の隅へと移る。 1歩足を進める毎にぴちゃっ、ぴちゃっ、と、音が立つ。 よくもまぁこんなに溜めていたものだ… 自分でも少し驚きながら、濡れて肌にぴったりとくっついているスパッツを脱ぐ。 お尻の部分は自らの作り出した水溜りに濡れ、円形に濡れている。 そこから幾筋も延びる水流の跡… 自分の失態を改めて確認した気分で、ファナはまた顔を赤らめる。 続けてパンツを脱ぐ。 子供らしい健康的な真っ白なパンツは吸水性に優れ、乾いている部分が無いほどにぐっしょりだった。 肌寒い外気に子供特有の健康的な弾力感溢れたお尻を晒すファナ。 リュックに手を伸ばすとちいさなお尻が軽くプルプルと震え、妙に可愛らしい。 リュックの中からタオルと替えの下着を取り出し、濡れた下半身を綺麗にしてから着替えを行う。 こんな所を誰かに見られたら…そう思うとファナは気が気で無い。 新しいパンツを穿く際に拭ききれなかった尿が一筋垂れ、真新しい生地を少々濡らすが、構わずパンツを引き上げる。 「ふぅ…替えの下着、持ってきて良かった……」 濡れたスパッツを良く搾ってから穿き、ファナは呟く。 シワシワになったスパッツはまだ乾いてなく、ほんの少し不快感もあるが、穿いていればいずれ乾くだろう。 びしょびしょになったパンツを丸めて部屋の隅に投げると、屍がいない事を確認しつつ、ファナは先へと進んだ。 「ここは……」 大きな扉の前で立ち止まるファナ。 明らかに他の扉とは違う豪華な装飾、この向こうに『鍵』があるのだろうか? しかし、ファナは一瞬入るのを躊躇する。 扉の1枚の貼り紙が彼女を躊躇させていた。 『この扉の向こうでは貴方の勇気が試される』 どういう事なのだろうか? しばらく腕を組み、首を捻っていたファナだったが、 このままここにいても何も進展しない、 ごきゅりと唾を飲みこむと、やや緊張した面持ちで扉を開いた。 「こ…これは……」 その部屋は異様に広い空間だった。 ファナが初めに受けた印象は、『水の張られていないプール』であった。 やや小さめの体育館くらいの広さだろうか? 部屋全体が自分の入ってきた扉に対し、3m程窪んでいる。 向こうに同じような扉が見え、扉と扉を1本の橋が結んでいる。 いや、橋と言うにはあまりにも心許無い。 10cm程の太さの角材であるからだ。 壁に突起のような物は無く、下に落ちたら恐らく這い上がる事は不可能だろう。 「と…とにかく行かないと……」 これだけ手の込んだ作りの部屋だ、この先に鍵が置いてあると考えてまず間違いは無いだろう。 ファナは「よし」と、自分自身に活を入れると、ゆっくりと橋に足をかけた。 カサッ… 1歩… カサカサッ… また1歩と足を運んでいくファナ。 姉ほどではないにしても…つうかあれと比べてはいけない気がする…運動神経や平衡感覚が長けているファナは、平地を歩くかのように悠然と歩を進めていく…… カサカサカサ… 「……??」 橋の半ば程まできた辺りで自分の足音とは異質な音に気づき、ふと足を止めて辺りを見回してみるファナ。 直後、「見なけりゃ良かった」と、ファナは後悔した。 黒光りする光沢の、嫌になるくらいに長い胴体と、数えるのも億劫になる程の無数の足を持つ節足動物……ムカデであった。 しかも突然変異か、この辺りは食料が豊富なのか、やたらと大きい。 胴回り30cm、長さはファナの身長よりも遥かに長い。 ファナの首筋にぷつ、ぷつ、と鳥肌が立つ。 顔がみるみる蒼ざめる。 ファナは虫が苦手である。 長いモノや足が大量に生えているモノは特に。 そして、このムカデはその両方を兼ね揃えている。 ファナの足音を察知したのか、周りの暗がりから次々に同じくらいの大きさのムカデが現れる。 終いにはその数は両手の指で数えられないくらいになってしまった。 泣きたくなった。 何とか先に進もうとするファナだったが、下にいるグロテスクな節足動物に対する恐怖心から足が震え、思う様に歩けない。 思わず引き返そうかと、少し気弱になっているファナだったが、既に部屋の中心付近まで足を運んできてしまっている。 こうなれば前に進んだ方がまだマシだ。 「ああっ!!」 2、3歩進んだ辺りで足を滑らせてしまう。 慌てて足を橋に絡ませるが、身体の上下が逆になり、宙ぶらりんの体勢になってしまった。 そして、彼女の鼻先には上体を持ち上げた1匹のムカデの顔が…… 「う…うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 感情を持たない巨大な複眼がファナをじっと見ている、しかも至近距離で。 彼女の顔面は蒼白になり、大きな蒼い瞳からは大粒の涙がぼろぼろとこぼれ出す。 じゅあ〜〜 乾きかけたスパッツが再び湿り気を帯びる。 恐怖のあまり、チビってしまった。 蒼ざめた顔がほんのり桜色になる。 先程膀胱の中身を全て出し尽くしてしまった後なので大した量ではないが、それでもかなり恥ずかしい。 (ううっ……) まだ宙ぶらりんだ。 これほどの恐怖に晒されながらも足の力だけは緩めない辺りは大した根性である。 (ね…姉様…助けてぇ……) ファナは泣きながら心の中で姉に救いを求めた。 もしこの場に口と性格と頭は悪いが運動神経だけは異常にある姉が来てくれたら… 虫を恐がるという女の子ならば当然の感情すら欠如している姉ならば、きっとファナを小脇に抱えてこんな橋などひょひょいと渡ってくれるのに……… とか、ちょっと失礼な事を考えていたファナの頭の中に声が響く。 『あ〜〜らファナ、こんな所で何やってるの?こんな橋ひとつ渡れないようじゃあたしに追いつくのはまだまだね。つうかあんたスパッツ濡らしちゃってそれっておもらし?あーあ、やだやだ、恥ずかしい。普段あたしを馬鹿にしてる割には自分だってしてるじゃないの、これ、みんなに言っちゃおっかなぁ?』 「ち…違っ!!」 叫ぶファナ、 周囲を見渡すが、誰もいない。 幻聴だ。 (…あいつに助けられたらこれくらいは言われるわよね…) ファナは、ぶん、ぶん、と頭を振ると、姉の言葉と自分の弱気を頭から追い出す。 そして身体をよじり、反動を利用して橋の上にすたっ、と立つ。 姉に助けられるくらいなら死んだ方がマシだ。 その思いがファナに力を与えた。 カサカサカサ…… 相変わらず下からは硬い物が擦れる音が聞こえては来るが、心の中で耳を塞ぎ、遮断する。 真っ直ぐ顔を上げ、扉に続く一本の細い道のみを凝視する、他の物は見えない事にしておく。 身体の震えはもうおさまった。 1歩、また1歩と、ゆっくりではあったが確実に細い橋を渡っていく。 そして、遂に渡り切った。 「ふぅ…」 大きな息を吐く。 (全く…幻聴とは言えあんなのに助けられるなんて……) 思いっきり不本意そうな顔をしつつも心の中で姉にほ〜〜んの少し感謝しつつ、ファナは奥の扉を開いた。 続く |